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古田 琢哉; 前山 拓哉*; 石川 顕一*; 福西 暢尚*; 深作 和明*; 高木 周*; 野田 茂穂*; 姫野 龍太郎*; 林 慎一郎*
Physics in Medicine & Biology, 60(16), p.6531 - 6546, 2015/08
被引用回数:16 パーセンタイル:60.95(Engineering, Biomedical)現在の粒子線がん治療の治療計画に用いられている簡易的な線量解析では、軟組織と骨の境界等の不均質な領域で線量分布の再現性が低いことが知られており、より高精度なモンテカルロ計算による治療計画の実現が求められている。そこで、現状のモンテカルロ計算による線量解析で、治療に即した状況での精度を検証することを目的として、生体物質中での線量分布を実験により比較検証した。具体的には、生体物質として骨付き鶏肉を用意し、これを挿入した容器の背後にPAGATゲル線量計を配置し、炭素線ビームを前方から照射することで、不均質な生体物質を通り抜けた炭素線によってゲル線量計内に形成される複雑な線量分布の比較を行った。シミュレーションではCTイメージから再構成された生体物質を含む実験環境を模擬し、粒子・重イオン輸送計算コードPHITSを用いて炭素線の輸送を計算することで、ゲル線量計内の線量分布を導出した。その結果、実験での炭素線の飛程端が作る複雑な線量分布の構造について、シミュレーションにより2mm程度の違いの範囲でよく再現できることを示した。
古田 琢哉; 佐藤 達彦; 小川 達彦; 仁井田 浩二*; 石川 顕一*; 野田 茂穂*; 高木 周*; 前山 拓哉*; 福西 暢尚*; 深作 和明*; et al.
Proceedings of Joint International Conference on Mathematics and Computation, Supercomputing in Nuclear Applications and the Monte Carlo Method (M&C + SNA + MC 2015) (CD-ROM), 9 Pages, 2015/04
粒子・重イオン輸送計算コードPHITSには計算時間短縮のために、二種類の並列計算機能が組み込まれている。一つはメッセージパッシングインターフェイス(MPI)を利用した分散メモリ型並列計算機能であり、もう一つはOpenMP指示文を利用した共有メモリ型並列計算機能である。それぞれの機能には利点と欠点があり、PHITSでは両方の機能を組み込むことで、利用者のニーズに合わせた並列計算が可能である。また、最大並列数が8から16程度のノードを一つの単位として、数千から数万というノード数で構成されるスーパーコンピュータでは、同一ノード内ではOpenMP、ノード間ではMPIの並列機能を使用するハイブリッド型での並列計算も可能である。それぞれの並列機能の動作について解説するとともにワークステーションや京コンピュータを使用した適用例について示す。
前山 拓哉*; 福西 暢尚*; 石川 顕一*; 古田 琢哉; 深作 和明*; 高木 周*; 野田 茂穂*; 姫野 龍太郎*; 福田 茂一*
Radiation Physics and Chemistry, 107, p.7 - 11, 2015/02
被引用回数:10 パーセンタイル:67.6(Chemistry, Physical)粒子線治療で正常組織への不要な照射を避けるため、照射による三次元線量分布の正確な測定の重要性が増している。そこで、代表的なゲル線量計であるVIPポリマーゲル線量計について、炭素線照射による三次元線量分布の測定への適用性を調べた。ゲル線量計は放射線照射後のMRI分析で線量分布を読み出すことができるが、線量とMRIシグナルの比例関係は線量に寄与する放射線の線エネルギー付与(LET)により変化する。本研究でも、炭素線のLETのエネルギー依存性から、ブラッグピークのようにエネルギーが大きく変化する場合、MRI分析の結果から線量分布へ単純に変換できないことを確認した。さらに、入射エネルギーが違う場合、同じ線量平均LETを持つブラッグピークの深さでも、線量とMRIシグナルとの関係が異なることが分かった。これは核反応で生じる二次粒子の寄与によるものであり、本研究により、線量とMRIシグナルの関係付けにおいて、先行研究で示された線量平均LETを指標とするのではなく、線量に寄与する各粒子のLETに着目する必要があることを解明した。また、この関係を用いることで、実測で得られるMRIシグナル分布をPHITSコードにより、再現できることを示した。
山下 真一; Baldacchino, G.*; 前山 拓哉*; 田口 光正; 室屋 裕佐*; Lin, M.*; 木村 敦; 村上 健*; 勝村 庸介
Free Radical Research, 46(7), p.861 - 871, 2012/07
被引用回数:22 パーセンタイル:52.26(Biochemistry & Molecular Biology)クマリンの水溶性誘導体であるクマリン-3-カルボン酸(C3CA)の水溶液中における放射線誘起化学反応について電子線パルスラジオリシス、Co 線照射後の最終生成物分析,決定論的モデルシミュレーションによって調べた。C3CAは水和電子だけでなくOHラジカルとも拡散律速相当の速度定数(それぞれ2.110, 6.810 Ms)で反応することがわかった。Oに対する反応性は確認されなかった。蛍光物質7-ヒドロキシ-クマリン-3-カルボン酸(7OH-C3CA)は高速液体クロマトグラフィに接続した蛍光光度計により検出した。この7OH-C3CAの生成収率は、照射条件により差はあるものの、0.025から0.18(100eV)であった。C3CA濃度, 飽和気体, 添加剤に対する7OH-C3CA収率の変化から、C3CAによるOHラジカル捕捉から7OH-C3CAが形成されるまでには少なくとも二つの経路(過酸化後のHOラジカル放出及び不均化反応)があることが示された。これらの経路を含む反応機構を提案し、シミュレーションを実施した。OHラジカル捕捉後の7OH-C3CAへの変換効率を4.7%とすることで測定結果をよく説明できた。
前山 拓哉*; 山下 真一; 田口 光正; Baldacchino, G.*; Sihver, L.*; 村上 健*; 勝村 庸介
Radiation Physics and Chemistry, 80(12), p.1352 - 1357, 2011/12
被引用回数:13 パーセンタイル:72.14(Chemistry, Physical)クマリン-3-カルボン酸(CCA)水溶液の放射線分解では水分解生成物であるOHラジカルによりCCAが酸化されて一定の比率で蛍光プローブになる。このことを利用し、HIMAC施設において135, 290, 400MeV/uの炭素イオンを水に照射した際のOHラジカル収率をブラッグピーク付近で測定した。ブラッグピークで停止するまでの間に入射イオンはエネルギーを失い、LETが増加するため、トラック構造が密となることを反映してOHラジカル収率が減少する一方、ブラッグピークよりさらに深い下流の領域では核破砕で生成した軽くてLETの低いHやHeなどの二次イオンの照射により、OHラジカル収率は急激に高くなることを明らかにした。核破砕を考慮して上記のようなOHラジカル収率の変化を定量的に説明するために粒子・重イオン汎用3次元モンテカルロコードPHITSを用いて粒子輸送計算を実施したところ、ブラッグピークより上流の領域では測定結果を精度よく説明できた。しかしブラッグピークより下流の領域では測定値に対して、シミュレーションに基づく推定値は15-45%過小評価となり、この差異は線量測定で用いた電離箱と試料セルとのジオメトリの違いが主因となって生じている可能性が高いことが示された。
前山 拓哉*; 山下 真一; Baldacchino, G.*; 田口 光正; 木村 敦; 村上 健*; 勝村 庸介
Radiation Physics and Chemistry, 80(4), p.535 - 539, 2011/04
被引用回数:32 パーセンタイル:91.01(Chemistry, Physical)水の放射線分解で生成するOHラジカルをクマリン-3-カルボン酸(3CCA)により捕捉させると、一部が蛍光体である7OH-3CCAになる。この7OH-3CCAの放射線化学収率(値)を8種のイオンビーム照射に対して測定した。この際、3CCA濃度を0.1から26mMの間で変化させることで、捕捉反応が起こる時間スケールを5.6ナノ秒から1.5マイクロ秒の間で変化させた。報告のあるOHラジカル収率と比べたところ、時間スケールが数十ナノ秒よりも遅い場合には7OH-3CCA収率がOHラジカル収率の約(4.70.6)%で一定となることがわかり、ビームの種類に依存しないことも明らかとなった。数cGyという低線量でも検出可能なことから、3CCA水溶液中で生成する蛍光体7OH-3CCAはOHラジカルの高感度なプローブとしてさまざまな放射線に対して利用できることが示された。
Baldacchino, G.*; 前山 拓哉*; 山下 真一; 田口 光正; 木村 敦; 勝村 庸介; 村上 健*
Chemical Physics Letters, 468(4-6), p.275 - 279, 2009/01
被引用回数:38 パーセンタイル:79.23(Chemistry, Physical)高エネルギー重粒子線による水の放射線分解で生成されるOHをHPLC-ケイ光測定により検出した。OHのプローブとしてクマリン-3-カルボキシル酸(3CCA)を用いた。このCCAはOHとの反応の後、ケイ光物質7-hydroxy-coumarin-3-carboxylic-acid (7OH-3CCA)を生成する。7OH-CCAの検出下限は1nMよりも低いため、放射線分解収量が210mol/Jという高い感度で測定できた。4.8-GeV-C及び20-GeV-Ar照射時のOH収量をnsからsの間で測定し、OH収量はそれぞれ2.810から1.310mol/J(LET 11eV/nmのC)と1.510から0.910mol/J(LET 90eV/nmのAr)と推移した。これらの結果は文献値とよく一致した。
山下 真一; 勝村 庸介; Lin, M.; 室屋 裕佐*; 前山 拓哉*; 村上 健*
Radiation Physics and Chemistry, 77(10-12), p.1224 - 1229, 2008/10
被引用回数:18 パーセンタイル:74.66(Chemistry, Physical)重粒子線照射から100ns後の収量であるプライマリ値をこれまで主要な生成物である水和電子,OHラジカル,過酸化水素について中性条件下で測定してきた。この際放射線医学総合研究所の重粒子線加速器HIMACからのHe, C, Ne, Si, Ar, Feといったビームを150-500MeV/uという高いエネルギーを用いてきたが、本研究ではよりブラッグピークに近い領域で照射を実施することにより、LET(線エネルギー付与)をおよそ700eV/nmまで増加させ、従来よりも高いLETビームを用いての測定を実施した。この際、PMMA製のエネルギー吸収材を厚さを制御しながら用いてビームエネルギーを下げたため、飛程末端の確認や、線量較正も注意深く行った。この結果広い範囲のビーム条件で測定結果が得られ、さらにこれをLET依存性だけでなく(/)依存性としてプロットしたところLETよりも統一的に異なるイオンを用いた場合の測定結果を表すことがわかった。
前山 拓哉*; 勝村 庸介; 山下 真一*; Lin, M.; 室屋 裕佐*; 宮崎 豊明*; 村上 健*; Baldacchino, G.*
no journal, ,
より高いLET領域におけるe-(aq)、HOの収量測定を行い、イオン種によるトラック構造の違いを見ることができた。また、OH収量の時間変化の類推に3CACの系が適用できる目処がたったが、反応経路の追及や励起波長の選定及び吸収エネルギー補正など、さらに検討を進める必要がある。
山下 真一; 勝村 庸介; Lin, M.; 前山 拓哉*; 室屋 裕佐*; 村上 健*
no journal, ,
重粒子線はほかの一般的な放射線と比べ、特異な照射効果を与える。この特異性は重粒子線が形成する飛跡(トラック)構造すなわち放射線分解生成物の分布の高密度さに起因すると説明されているがトラック構造やそのダイナミクスに対する知見は十分ではない。実用上重要な中性水溶液にガン治療で用いられているほど高エネルギーの重粒子線を照射する場合に関しては、なおさらである。そこで、これまで放射線医学総合研究所の重粒子線加速器HIMACからのガン治療用GeV級重粒子線を用い、水分解生成物の0.1sにおける収量(一次収量)を測定してきた。この0.1sという時間は局所的に生成する初期生成物の拡散がほぼ落ち着く時間あるいはトラック内反応がほぼ終了した時点と言え、一次収量はトラック構造を強く反映する。本研究はこれまでの一次収量測定結果を適切に記述するパラメータすなわちトラック構造をより適切に記述するパラメータの検討と拡散モデルシミュレーションによって従来から提案されているトラック構造モデルの有効性評価を目指した。
前山 拓哉*; 山下 真一; Baldacchino, G.*; 室屋 裕佐*; 田口 光正; 木村 敦; 勝村 庸介
no journal, ,
近年さまざまな分野に拡大している放射線利用の一つにガン治療がある。水が生体細胞の主成分であることからその放射線分解生成物の挙動は間接効果のメカニズム解明において重要である。特にOHラジカル(OH)が最も重要であるためその検出や収量測定は重要である。実際の治療で用いられる線量(24Gy)で生成するOHはMに未満であり感度よく検出することが必要なため、本研究ではOHの収量評価に吸光測定よりも感度の高い発光測定を適用することを目的とした。この際OH捕捉剤としてCoumarin-3-carboxylic acid(CCA)を用いた。CCAはOHを捕捉した後その一部がケイ光体7OH-CCAに安定化することが知られているが捕捉反応から安定化までの詳細な反応経路は不明なため、主要な水分解ラジカルである水和電子(e)やOHとの反応性の調査や反応機構の同定も目的とした。
前山 拓哉*; 山下 真一; Baldacchino, G.*; 田口 光正; 木村 敦; 勝村 庸介; 村上 健*
no journal, ,
放射線医学総合研究所HIMACでガン治療用重粒子線をCoumarin-3-carboxylic acid(CCA)水溶液に照射し、ケイ光プローブ7OH-CCA生成収量からOH収量の時間挙動を評価した。イオン種を変化させ、OHの時間挙動やそこから推察されるトラック構造についても検討した。従来の吸光分析による測定と比べ、線量は二割程度で十分であり結果もよく対応していた。
山下 真一; 勝村 庸介; Lin, M.; 室屋 裕佐*; 前山 拓哉*; 村上 健*
no journal, ,
放射線医学総合研究所のHIMACにおいてヘリウムイオンから鉄イオンまでの重粒子線(エネルギーは500MeV/uまでで、これは光速の75.8%)を用い、水の放射線分解について研究を行った。収量測定とトラック内反応を通し、重粒子線トラック構造について検討を行った。具体的にはサブマイクロ秒の時点における生成物収量を広いLETの範囲で測定したほか、ナノ秒からマイクロ秒にかけてのトラック内ダイナミクスについて検討した。さらにトラック内反応でこれらの測定結果を再現し、より微視的なスケールでの検討も行っている。
前山 拓哉*; 山下 真一; Baldacchino, G.*; 勝村 庸介; 田口 光正; 木村 敦; 室屋 裕佐*; 村上 健*
no journal, ,
高エネルギー重粒子線を使用したがん治療は既に実用化されている。これは基礎研究や臨床研究を通し、その有効性が現象論的に確立されているためである。しかし、そのような有効性が生じる詳細なメカニズムについては依然不明な点も多く、特に生体主成分が水であることから高エネルギー重粒子線による水の放射線分解についての理解が重要と言える。水の放射線分解生成物のうち、OHラジカルが最も間接効果に寄与することが知られているため、これまで幾つかの研究でOH収量が報告されてきた。これらの報告では吸光分析が用いられており、LET増加に伴うOH収量の減少に対して十分な感度があるとは言い難い。そこで本研究ではCCA(Coumarin-3-carboxylic acid)をケイ光プローブとして用い、従来よりも高感度な収量測定を目指した。さらに、報告の少ない高エネルギー重粒子線のブラッグピーク付近におけるOH収量を評価した。
前山 拓哉*; 山下 真一; Baldacchino, G.*; 勝村 庸介; 室屋 裕佐*; 田口 光正; 木村 敦; 村上 健*
no journal, ,
ケイ光プローブである7-ヒドロキシ-クマリン-3-カルボキシ酸はクマリン-3-カルボキシ酸(CCA)とOHとの反応で生成する。これを重粒子線による水の放射線分解で生成するOH収量の測定に利用した。重粒子線は放射線医学総合研究所の重粒子加速器HIMACで使用し、ヘリウムから鉄までのイオンを照射した。CCAの濃度を0.126mMと変化させることで4nsから1sの間のOH収量の時間変化を評価した。事前に線を用いた測定も行い、LETは0.2350eV/nmと広く変化させ、トラック構造の影響などを検討した。
山下 真一; 勝村 庸介; 前山 拓哉*; Lin, M.; 室屋 裕佐*; 村上 健*; Meesungnoen, J.*; Jay-Gerin, J.-P.*
no journal, ,
高エネルギー(最大で28GeV,核子あたり500MeV/u)のヘリウムイオンから鉄イオンまでの重粒子線による水の放射線分解について、決定論的シミュレーションである拡散モデルを用い、初期のトラック構造と生成物収量との相関を検討した。この際、従来の平均的なトラック構造モデルを用いることで古典的なトラック構造の描像の妥当性についても検討した。
山下 真一; 勝村 庸介; 前山 拓哉*; 村上 健*; Meesungnoen, J.*; Jay-Gerin, J.-P.*
no journal, ,
これまで放射線医学総合研究所(NIRS)の重粒子線がん治療装置(HIMAC)においてがん治療用GeV級重粒子線を用い、広いビーム条件で水の放射線分解における主要生成物のプライマリ収量を測定してきた。測定結果をモンテカルロ法,拡散モデルといったシミュレーションの結果と比べ、トラック構造について検討した。
前山 拓哉*; 山下 真一; 勝村 庸介; Baldacchino, G.*; 田口 光正; 木村 敦; 村上 健*
no journal, ,
Coumarin-3-carboxylic acid(CCA)は水の放射線分解で生成するOHラジカル(OH)を捕捉し、その一部は数nMの高い感度で定量可能なケイ光物質となる。実際のがん治療で患部に照射されるブラッグピーク近傍をCCA水溶液に照射し、その際のOH収量評価を試みた。高エネルギー重粒子線の特にブラッグピーク付近では核破砕(フラグメンテーション)が無視できなくなる点も検討した。
前山 拓哉*; 山下 真一*; Baldacchino, G.*; 勝村 庸介*; 田口 光正; 木村 敦; 室屋 裕佐*; 村上 健*
no journal, ,
高エネルギーの重イオンは、線やX線照射と比較して細胞への照射効果が大きいことや、酸素増感効果が小さいことからがん治療などに用いられている。細胞中の主成分である水の放射線分解によって生じるラジカル種のうち、OHラジカルは収率が高いことと反応性が高いことから最も重要と考えられている。われわれは、クマリン誘導体を蛍光プローブとしたOHラジカルの収率測定に成功した。実際のがん治療で使われているブラッグピーク近傍で生成するOHラジカル収率は、入射イオンのフラグメンテーションや生成物の拡散などの影響により、複雑な照射深度依存性を示すことがわかった。
山下 真一; 勝村 庸介; 前山 拓哉*; Lin, M.; 室屋 裕佐*; 村上 健*; Jay-Gerin, J.-P.*; Meesungnoen, J.*
no journal, ,
水は生体細胞主成分であり、その放射線との相互作用は重要と言えるものの、これまで生体に近い中性の条件下でがん治療に用いられるほど高エネルギーの重粒子線を用いた研究はほとんど報告されていない。そこで本研究ではこれまで放射線医学総合研究所のHIMACからのガン治療用GeV級重粒子線(He-Fe, 最大エネルギー500MeV/nucleon, LET 2700keV/m)を用い、水の放射線分解主要生成物である水和電子(e), OHラジカル(OH), 過酸化水素(HO)のプライマリ収量を測定してきた。ここでプライマリ収量とは照射後約100ns後における収量である。照射後ps程度の間にトラックが形成され、トラックの中心部に水分解ラジカルは密集して生成されるが、その後水分解ラジカルは周囲へ拡散しつつも相互に反応する。このトラック内反応と拡散がほぼ落ち着く時間が約100nsと言えるため、プライマリ収量はトラック初期構造やトラック内における水分解ラジカルのダイナミクスを強く反映する量と言える。本研究ではこのプライマリ収量の測定だけでなく、測定値を元にシミュレーションを補完的に用い、より微視的な検討も実施している。