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山口 瑛子; 栗原 雄一*; 永田 光知郎*; 田中 万也; 桧垣 正吾*; 小林 徹; 谷田 肇; 小原 義之*; 横山 啓一; 矢板 毅; et al.
Journal of Colloid and Interface Science, 661, p.317 - 332, 2024/05
ラジウム(Ra)は放射性元素であり、放射性廃棄物処理やウラン鉱山周辺の環境問題で重要なため、環境中Ra挙動の解明は急務である。しかし、Raは安定同位体が存在しないため分子レベルの実験が難しく、環境中で重要と考えられる粘土鉱物への吸着反応についても詳細なデータは得られていない。本研究では、広域X線吸収微細構造(EXAFS)法によりRaの分子レベルの情報を得る手法を確立し、さらに第一原理計算を利用することでRaの粘土鉱物への吸着構造を明らかにした。また、同族元素との比較を行い、粘土鉱物への吸着反応の系統的な理解に資する結果を得た。
鈴土 知明; 海老原 健一; 都留 智仁; 森 英喜*
Journal of Applied Physics, 135(7), p.075102_1 - 075102_7, 2024/02
体心立方(bcc)金属および合金では延性脆性遷移温度以下において脆性的破壊が起きる。この事象は、脆性破壊を起こすき裂先端の臨界応力拡大係数が塑性変形を起こす臨界応力拡大係数よりも小さく塑性変形よりも脆性破壊が優先的に選択されるという考え方によって理論的に説明されている。この考え方は巨視的には正しいが、このような脆性破壊は常にき裂先端近傍での小規模な塑性変形、すなわちき裂先端塑性変形を伴う。この論文では、最近開発された-Feの機械学習原子間ポテンシャルを用いて原子論的モデリングを行い、この塑性の発現メカニズムを解析した。その結果、高速なき裂進展によってき裂先端位置の原子群が動的に活性化され、それがき裂先端塑性の前駆体になっていることが判明した。
河村 拓馬; 長谷川 雄太; 井戸村 泰宏
Journal of Visualization, 27(1), p.89 - 107, 2024/02
対話的なIn-Situステアリングは、大規模で高速なCFDシミュレーションにおけるデバッグ、最適解の探索、逆問題の解析に有効なツールである。我々は、GPUスーパーコンピュータ上での大規模CFDシミュレーションのための対話的なIn-Situステアリングフレームワークを提案する。このフレームワークは、In-Situ Particle-based Volume Rendering (PBVR)、In-Situデータサンプリング、ファイルベース制御を採用し、スーパーコンピュータとユーザーPC間でステアリングパラメータ、圧縮された粒子データ、サンプリングしたモニタリングデータを対話的に通信できる。そして並列化されたPBVRは、GPU上のCFDシミュレーションとの干渉を避けるため、ホストCPUで処理される。提案フレームワークを、GPUスーパーコンピュータ上の実時間プルーム拡散解析コードCityLBMに適用した。数値実験では、モニタリング地点の観測データから汚染物質の発生源を見つける逆問題に取り組み、in-situステアリングフレームワークによるヒューマンインザループの有効性を実証した。
志賀 基之; Thomsen, B.; 君塚 肇*
Physical Review B, 109(5), p.054303_1 - 054303_12, 2024/02
パラジウム中の水素の中性子非弾性散乱スペクトルを有限温度での核量子効果を考慮して計算した。経路積分に基づく半古典分子動力学と機械学習ポテンシャルを組合せた計算手法を用いた。計算されたスペクトルは、水素原子の振動励起の基本波と第一高調波に対応するピークの位置と強度に関して、実験スペクトルとよく一致した。古典分子動力学法との比較から、中性子非弾性散乱スペクトルにおいて核量子効果が本質的な役割を果たしていることが示された。
鈴土 知明; 海老原 健一; 都留 智仁; 森 英喜*
材料, 73(2), p.129 - 135, 2024/02
FeやWのようなBCC遷移金属は{100}面に沿ってへき開する。このメカニズムを明らかにするために、人工ニューラルネットワーク(ANN)技術によって作成された原子間ポテンシャルを用いて0KにおけるBCC鉄の曲線き裂先端の原子論的シミュレーションを行った。その結果、{110}クラック面に沿ったき裂先端では転位が放出されへき開が抑制されることを発見し、{100}面に沿ってのみへき開が観察される理由を説明できることがわかった。さらに、有限温度での{100}へき開シミュレーションでは、塑性変形を伴いより現実的な破壊が再現された。
森山 潤一郎*; 高桑 脩*; 山口 正剛; 小川 祐平*; 津崎 兼彰*
Computational Materials Science, 232, p.112650_1 - 112650_11, 2024/01
本研究ではいくつかの実用Fe-Cr-Ni基オーステナイト合金において、強度-延性バランスを改善する水素の影響に着目している。面心立方構造を持つFe-Cr-Niモデル合金の水素吸収エネルギーを第一原理計算で調べ、合金中の水素溶解度に対するFeからのCrおよびNi置換の寄与を検証した。Cr置換はNi置換に比べて水素吸収エネルギーを大幅に減少させ、Cr/Ni比の増加により高い水素溶解性を発揮することがわかった。計算で得られた傾向は、様々なCr/Ni比を持つ実用合金で以前に得られた実験結果と一致した。
Tang, J.*; Wang, Y.*; 藤原 比呂*; 清水 一行*; 平山 恭介*; 海老原 健一; 竹内 晃久*; 上椙 真之*; 戸田 裕之*
Scripta Materialia, 239, p.115804_1 - 115804_5, 2024/01
Al-Zn-Mg-Cu合金の外部および内部水素(H)の組合せによって誘起される応力腐食割れ(SCC)の挙動をその場3次元評価技術を使い系統的に調べた。Al-Zn-Mg-Cu合金のSCCは水素濃度が臨界値を超える潜在的なクラック発生領域で発生・進展し、Hがナノスケール-MgZn析出物界面での原子結合を弱め巨視的な割れを引き起こしていることが分かった。さらに、水環境からき裂へ浸透した外部Hが、き裂先端近傍に勾配を持つH影響ゾーンを作ることでSCCにおいて重要な役割を果たすことや、あらかじめ存在する内部Hが、塑性変形に伴いき裂先端に向かうことでSCCにおけるき裂の発生と進展の両方に関与することも分かった。
高性能計算技術利用推進室
JAEA-Review 2023-018, 159 Pages, 2023/12
日本原子力研究開発機構では、原子力の総合的研究開発機関として原子力に係わるさまざまな分野の研究開発を行っており、これらの研究開発の多くにおいて計算科学技術が活用されている。日本原子力研究開発機構における計算科学技術を活用した研究開発の論文発表は、過去十数年にわたり、毎年度、全体の約2割を占めている。大型計算機システムはこの計算科学技術を支える重要なインフラとなっている。大型計算機システムは、優先課題として位置付けられたカーボンニュートラルに貢献する軽水炉、高温ガス炉、高速炉の研究開発や、原子力科学技術に関する多様な研究開発、東京電力福島第一原子力発電所事故対応に関する研究開発、高レベル放射性廃棄物の処理・処分技術の開発、原子力安全規制・原子力防災支援、そのための安全研究等といった主要事業に利用された。本報告は、令和4年度における大型計算機システムを利用した研究開発の成果を中心に、それを支える利用支援、利用実績、システムの概要等をまとめたものである。
長谷川 雄太; 小野寺 直幸; 朝比 祐一; 伊奈 拓也; 今村 俊幸*; 井戸村 泰宏
Fluid Dynamics Research, 55(6), p.065501_1 - 065501_25, 2023/11
格子ボルツマン法(LBM)に基づくラージエディーシミュレーション(LES)に対するデータ同化の適用性を調査した。2次元等方乱流の観測システムシミュレーション実験を行い、空間的に疎かつノイズを含む観測を用いてナッジング法及び局所アンサンブル変換カルマンフィルタによるデータ同化の精度を検証した。LETKFの利点として、ナッジングで必要となる空間補間及び巨視的量(流体密度及び流速)からLBMの速度分布関数への変換を必要としないことが挙げられる。計算条件として格子及び10%の流速観測ノイズを設定した実験では、64アンサンブルのLETKFはの観測点(計算格子点数に対して0.1%程度)でも観測ノイズよりも小さい誤差を示した。これは、ナッジングで同様の精度を示すのに1桁程度多くの観測点数を要する精度である。さらに、LETKFでは観測点数の不足はエネルギースペクトルの振幅には影響せず、スペクトルの位相誤差のみに影響することが確認された。以上の結果により、LETKFは、空間的に疎かつノイズを含む観測を用いた2次元のLBM計算のデータ同化に対してロバストかつ高精度であることが示された。
比嘉 良太*; 藤原 比呂*; 戸田 裕之*; 小林 正和*; 海老原 健一; 竹内 晃久*
軽金属, 73(11), p.530 - 536, 2023/11
Al-Zn-Mg合金において、その強度向上には水素脆化の抑制が必要である。本研究では、X線CTから得られた3次元多結晶微細構造データに基づくモデルによる結晶塑性有限要素法及び水素拡散解析を用いて、実際の破断領域における応力、ひずみ及び水素濃度の分布を調べた。さらに、引張試験のX線CTによるその場観察とシミュレーションを組み合わせて、応力、ひずみ、水素濃度の分布と実際のき裂発生挙動を比較した。その結果、結晶塑性に起因する粒界に垂直な応力負荷が主に粒界き裂発生を支配することが明らかになった。また、結晶塑性に起因する内部水素の蓄積は、き裂発生にほとんど影響しないことがわかった。
山口 正剛; 海老原 健一; 都留 智仁; 板倉 充洋
Materials Transactions, 64(11), p.2553 - 2559, 2023/11
アルミニウム合金中のMgZn析出物とMgSi晶出物の非整合界面における水素トラップエネルギーを第一原理計算から計算することを試みた。非整合界面を含む単位胞は周期境界条件を満たさず、結晶ブロックが不連続になるため、不連続領域(真空領域)から離れた領域で水素トラップエネルギーを計算した。その結果、この原子論的配置を仮定した非整合界面では、水素原子のトラップエネルギーがかなり大きいことがわかった。また、アルミニウム母相中のMgSiの非整合界面における水素トラップによる凝集エネルギーの減少についても予備的計算を行った。
町田 昌彦; 岩田 亜矢子; 山田 進; 乙坂 重嘉*; 小林 卓也; 船坂 英之*; 森田 貴己*
日本原子力学会和文論文誌(インターネット), 22(4), p.119 - 139, 2023/11
本論文では、2013年6月から2022年3月までの福島第一原子力発電所(1F)港湾からのSrの月間流出量を、港湾内のSrのモニタリング結果からボロノイ分割法を使用して推定した。その結果、2015年の海側遮水壁閉合が、流出量の削減に最も効果的であったことがわかった。また、福島沿岸および沖合のバックグラウンドレベルから放射能濃度の上昇を観察するために必要な月間流出量を推定し、事故後の流出量の変遷と沿岸および沖合での放射能濃度の変化について議論した。これらの結果は、1Fに蓄積された処理水の今後の放流計画に対する環境影響を考慮する上で重要と考えられる。
Kim, M.; Malins, A.*; 町田 昌彦; 吉村 和也; 斎藤 公明; 吉田 浩子*
日本原子力学会和文論文誌(インターネット), 22(4), p.156 - 169, 2023/11
福島県木造家屋内外の空間線量率分布の特徴を明らかにすることを目的に、空間線量率の連続測定が可能なプロッター等を用いて実測調査を行った。その結果、舗装面と非舗装面で空間線量率が明確に異なりまた、家屋近辺は家屋から離れた場所に対して低い空間線量率を示すことが分かった。また、家屋内の空間線量率は屋外に比べて空間線量率のバラツキが小さいことが分かった。
小林 恵太; 奥村 雅彦; 中村 博樹; 板倉 充洋; 町田 昌彦; 浦田 新吾*; 鈴谷 賢太郎
Scientific Reports (Internet), 13, p.18721_1 - 18721_12, 2023/11
非晶質物質の構造因子に現れる鋭い第一ピークはFSDPと呼ばれ、非晶質物質中の中距離秩序構造を反映したものであると考えられているが、その構造的起源に関しては現在まで議論が続いている。今回、第一原理計算と同等の精度を持つ機械学習分子動力学を用いることにより、高密度シリカガラスにおけるFSDPの構造起源を解析した。まず、機械学習分子動力学を用いることにより、高密度シリカガラスの様々な実験データの再現に成功した。また、高密度シリカガラスにおけるFSDPの発達(減少)は、ガラス構造の圧縮に伴う、Si-O共有結合ネットワーク中のリング構造の変形挙動によって特徴付けられることを明らかにした。
杉原 健太; 小野寺 直幸; 井戸村 泰宏; 山下 晋
JAEA-Research 2023-006, 47 Pages, 2023/10
本報告書では、気液二相流シミュレーションのためのフェーズフィールドモデルに基づく新しい界面捕獲法を提案する。従来のフェーズフィールドモデルでは、界面補正強度パラメータは計算領域内の最大流速から決定されていたが、界面補正は空間全体に一様に適用されているため、補正を必要としない位置にも適用されていた。新手法では、フェーズフィールド変数あるいはフェーズフィールドモデルの強度に空間分布を持つように拡張し、局所的な流速場に応じた最適なパラメータを設定できるようにした。また、界面移流試験や気泡上昇計算の誤差解析を用いた系統的なパラメータスキャンに基づき、最適なフェーズフィールドパラメータを導出する手法を提案する。気液二相流のベンチマークテストを通じて、提案モデルを検証し、提案モデルが従来のフェーズフィールドモデルよりも高精度であることを示す。
志賀 基之; Thomsen, B.; 永井 佑紀
アンサンブル, 25(4), p.303 - 310, 2023/10
並列分子シミュレーションソフトウェア「PIMD」を紹介する。第一原理経路積分分子動力学による水の構造、リングポリマー分子動力学による金属中水素の量子拡散、超伝導体の機械学習ポテンシャル作成とフォノン物性、メタダイナミクスによる多価アルコール脱水反応などの具体例を通じて、その使用法を解説する。
山口 瑛子; 奥村 雅彦; 高橋 嘉夫*
Isotope News, (789), p.20 - 23, 2023/10
ラジウムはウランやトリウムから生成する放射性元素であり、ウラン鉱山周辺の環境汚染問題や地層処分で重要な元素である。さらにラジウムは放射年代測定やがん治療にも利用されるため、環境化学だけでなく、地球化学や核医学を含む多くの分野で重要となっている。しかし、ラジウムは安定同位体のない放射性元素であるため、分光法の測定が難しく、分子レベルの情報はこれまでほとんど得られていなかった。本研究では広域X線吸収微細構造法による測定と第一原理分子動力学シミュレーションを併用することで水和ラジウムの分子レベルの情報を世界で初めて明らかにした。
山口 正剛
まてりあ, 62(10), p.646 - 651, 2023/10
液体金属に触れている固体金属が脆性破壊を起こしやすいことを液体金属脆化と言う。液体-固体金属の組み合わせによって脆化の程度が異なり、それは液体金属脆化の元素選択性(特異性)と呼ばれている。第一原理計算によるエネルギー論的考察から、脆化を起こしやすい組み合わせのエネルギー論的特徴とそこから考えられる脆化メカニズムについて考察した出版済み論文について、さらなる解説を加えた。
宇野 功一郎*; 中尾 淳*; 奥村 雅彦; 山口 瑛子; 小暮 敏博*; 矢内 純太*
日本土壌肥料学雑誌, 94(5), p.376 - 384, 2023/10
土壌のセシウム(Cs)吸着能の定量指標としてRadiocesium interception potential (RIP)が広く用いられてきたが、このRIPが実環境でのCsの分配係数()と必ずしも相関しないことがわかってきた。この原因を明らかにするため、より実環境に則した溶液を用いた測定やRIPとの比較、鉱物の構造評価を行った。その結果、カリウムイオンやアンモニウムイオンなどの競合陽イオンの濃度が重要であることや、鉱物自体の構造変化が重要であることがわかった。
海老原 健一; 関根 大貴*; 崎山 裕嗣*; 高橋 淳*; 高井 健一*; 大村 朋彦*
International Journal of Hydrogen Energy, 48(79), p.30949 - 30962, 2023/09
鉄鋼材料の応力腐食割れの1つである水素脆化を理解するには、鋼材中の水素分布を知る必要があり、それには昇温脱離スペクトルの数値シミュレーションによる解釈が有効である。溶接金属やTRIP鋼において残留オーステナイト(RA)は昇温脱離スペクトルに顕著な影響を与えるが、明確な水素分布についてはこれまでよく知られていない。本研究では、高炭素フェライト-オーステナイト二相鋼の既報の水素昇温脱離スペクトルを、独自にコード化した二次元モデルによって数値シミュレーションし、水素は、その鋼材に含まれる量が少ないときは炭化物表面に、その量が多くなると二相界面に、主にトラップされることを明らかとした。また、界面トラップの水素の脱離ピークの試料厚さ依存性が、従来とは異なる理由で発現することも明らかとなった。