2000年度

日本原子力学会誌


290243
海外の核燃料施設における臨界事故の原因分析; JCOウラン加工工場臨界事故との類似性渡
邉憲夫
日本原子力学会誌 42(11), p.1204-1214(2000) ; (JAERI-J 17931)

 平成11年9月30日に発生したJCO臨界事故は,我が国で初めての原子力事故による犠牲者を生むとともに,周辺住民に対しても避難や屋内待避を強いる結果となった.一方,海外の核燃料施設においても臨界事故は発生しており,21件の事例が報告されている.本報告では,これら21件の臨界事故について,その全体的な傾向を調べるとともに,事故に至ったプロセスや原因を分析しJCO事故との類似性の観点から整理した.その結果,ほとんどの臨界事故は,ウランあるいはプルトニウム溶液の取り扱い時に非安全形状の容器において発生しており,また,いくつかの事例では,作業効率を上げるために手順や規定に違反したり,規制当局に申請せず作業手順を変更したり,臨界事故の可能性に関する理解が不十分であったり,臨界は起こらないという安心感があったことなど,JCO事故と類似した問題が明らかとなった.


290242
ビルの熱供給に適した超小型原子炉の概念設計
楠剛 ; 小田野直光 ; 中島伸也 ; 福原彬文* ; 落合政昭
日本原子力学会誌 42(11), p.1195-1203(2000) ; (JAERI-J 17930)

 地球環境保全のために,二酸化炭素を放出しないエネルギー源の活用が求められている.このための一案として,オフィスビルでの冷暖房及び給湯に原子炉を利用し,燃料交換時に,原子炉ごと交換できる「カセット式熱供給システム構想」が提唱されている.著者らは,オフィスビルの地下での利用に適した原子炉の要件を整理するとともに,要件を満足する原子炉プラントの概念を構築した.ビルの地下に設置する原子炉の要件は次の4項目に整理した.(1)工場で完全に組み立て,トレーラー等でビルの地下に搬入できる可能性,(2)原子炉事故時に原子炉の安全確保を運転操作及び外部電源に頼らない受動安全性,(3)設置するビルの耐震設計及び防火設計に特段の要求を必要としない独立した耐震性と耐火性及び(4)無人での長期連続運転性である.これらの要件を満たす原子炉MR-1Gの概念を構築し,基本的な特性を明らかにした.


290061
相対論密度汎関数法による6価硝酸プルトニル錯体の電子状態解析と構造最適化
平田勝 ; Bastug, T.* ; 館盛勝一
日本原子力学会誌 42(10), p.1104-1108(2000) ; (JAERI-J 17791)

 相対論密度汎関数(RDFT)法を用いて硝酸プルトニル・2水和物のPu=O(プルトニウム酸素)結合及びPu-OH2結合におけるプルトニウム原子と配位子酸素原子間距離の構造最適化を行った.計算によって求められた原子間距離は実験的に報告されている原子間距離と良好な一致を示した.得られたポテンシャル曲線からは,Pu-OH2結合と比較してPu=O結合が非常に強いことを示した.また,安定構造における硝酸プルトニル・2水和物の電子状態を解析した結果,Pu=O結合の強さの原因は,プルトニウムの6d軌道と酸素の2p軌道との強い共有結合性に伴うものであることを明らかにした.また,これらの共有結合成分はPu-OH2結合ではそれほど顕著ではなかった.


290060
高温ガス炉ガスタービンシステムの技術課題とその解決法
武藤康 ; 石山新太郎
日本原子力学会誌 42(10), p.1020-1027(2000) ; (JAERI-J 17790)

 熱効率が高く核燃料資源の節約や放射性廃棄物量低減に有効な高温ガス炉ガスタービン発電プラントの基本的特徴及び技術課題について,特会受託研究「高温発電システムフィージビリティスタディ」の成果に基づいて記述した.すなわち,最適な原子炉入り口ガス温度が圧力容器材料温度には厳しすぎる問題については2種類の解決策を考えていること,ヘリウムガスタービンは段数が多くなる傾向があり,一方ガスタービン機器はまとめて圧力容器内に配置する必要があることから,軸振動と保守が最重要課題となること,これについては横置きでタービン容器と熱交換容器を分離する方法によりほぼ解決されること,経済性の観点から重要な再生熱交換機効率95%のプレートフィン型熱効率器について試作及び流動解析により見通しが得られつつあることにつき述べた.


280724
案内羽根を用いたクロスフロー方式水銀ターゲットモデルの水流動実験及び解析
羽賀勝洋・寺田敦彦*・神永雅紀・日野竜太郎
日本原子力学会誌 42(8), p.821-824(2000) ; (JAERI-J 17673)

 大強度陽子加速器を用いた次世代の中性子源として設計検討を進めている水銀ターゲットについて,陽子ビームの入射方向に対し水銀の流れが直交するクロスフロー方式ターゲット構造の有効性を確認するため,アクリル製の実規模水銀ターゲットモデルを製作して非加熱の水流動実験を行い,PIV(Particle Image Velocimetry)法で流速分布を測定した.並行して,水流動条件下での流速分布解析を行い,実験結果と比較検証した.その結果,ターゲット内の発熱密度分布に応じたクロスフロー方式の流量配分を達成できる目処を得た.また,標準K-εモデルを用いた解析で,全体的な流動パターンの特徴を再現することができた.


290244
周辺環境及び住民の線量評価
遠藤章 ; 山口恭弘 ; 藤元憲三*
日本原子力学会誌 42(8), p.64-68(2000) ; (JAERI-J 17932)

 JCO臨界事故における事故現場周辺の主たる放射線被ばくは,ウラン溶液が注がれた沈殿槽内の核分裂反応で発生した中性子及びγ線によってもたらされた.本稿では,(1)エリアモニタの記録及び現場周辺で行われたモニタリングデータの解析に基づく線量率の推移,中性子及びγ線量率の分布,(2)周辺環境の線量,家屋の遮へい能力の評価及び行動調査に基づく個人の線量の推定についてまとめた.また,放射線モニタリング及び線量評価について,技術的観点からの課題を示した.


280726
核融合実験炉アーマタイルのIn-situろう接補修技術に関する基礎的研究
石山新太郎・馬場信一・深谷清・衛藤基邦・秋場真人・佐藤真人*・荒木俊光*・山口正治*・山崎誠一郎*
日本原子力学会誌 42(7), p.669-677(2000) ; (JAERI-J 17675)

 ロボットによる新しいその場補修技術の確立を目的に,核融合炉実験の運転中に生じたダイバータ機器のアーマタイル/銅合金接合部の損傷部位を想定したC/Cコンポジット製アーマタイル/銅材料の繰返しろう接合試験並びに再結合材の強度試験を実施した.その結果,繰返しろう接合試験の最適条件並びに再ろう接材の強度材料を把握するとともに,再ろう接強度等の機械的特性やその信頼性が高まることを実証した.また,さらにロボット技術を前提にしたアーマタイル/銅合金接合部の損傷部位の繰返しその場補修技術に関する知見を得た.


280541
高温工学試験研究炉(HTTR)の臨界試験,2; 環状型燃料装荷による初臨界達成とその予測法
藤本望・中野正明*・竹内光男・藤崎伸吾・山下清信
日本原子力学会誌 42(5), p.458-464(2000) ; (JAERI-J 17511)

 HTTRは1998年11月10日の初臨界を達成した.臨界試験においては,環状炉心の核特性を取得するため,炉心外周部から燃料を装荷した.燃料装荷に先立ち,モンテカルロ計算により16±1カラムで臨界と予測していたが19カラムで臨界となった.これは炉心外周から燃料を装荷したため臨界付近で実効増倍率の増加が緩やかでありわずかな評価誤差で臨界量が変わることによるものであった.そこで,解析により不純物等のパラメータを調整して臨界量を変化させた炉心の1/M曲線を複数求め,測定値として比較して最小臨界カラム数を求める1/Mはさみうち法を考案した.この方法により初臨界カラム数を精度良く求めることができた.また,モンテカルロ計算についても見直しを行い,全燃料も装荷した炉心で1%δk/k以下の誤差で評価できることを確認した.


280540
水冷却型試験・研究炉の炉心冠水維持装置サイフォンブレーク弁の性能評価法
桜井文雄・熊田博明・神永文人*
日本原子力学会誌 42(4), p.325-333(2000) ; (JAERI-J 17510)

 本研究においては,サイフォンブレーク弁の炉心冠水維持装置としての性能を評価するためのプログラムを開発し,その試験・研究炉への適用性を実験的に検討した.本プログラムにおいては,サイフォンブレーク弁から吸入された空気と1次冷却水が配管内において完全に分離するとした気液完全分離モデルを採用した.本モデルにより,サイフォンブレーク弁の炉心冠水維持性能は確実に評価できることを検証した.また,非常に流出流量が大きい1次冷却系配管破損事故における冷却水流出事象を精度良く解析するためには,空気の巻き込みを伴う渦(air-entraining vortex)の発生を考慮する必要があることが明らかとなった.


280268
HTTR水素製造システムにおけるハステロイXRの水素同位体透過係数
武田哲明・岩月仁*・稲垣嘉之・小川益郎
日本原子力学会誌 42(3), p.204-211(2000) ; (JAERI-J 17275)

 高温工学試験研究炉(HTTR)に接続する水素製造システムでは,中間熱交換器や水蒸気改質器に使用される高温耐熱合金の水素同位体透過が重要な問題となる.本研究は水素同位体透過現象の律速過程や透過量を低減する効果的な方法を調べることが目的である.本論文ではHTTR水素製造システムにおける透過現象の律速過程と透過試験の概略及びハステロイXRの水素・重水素透過係数について述べた.HTTR水素製造システムにおいては金属内の水素拡散が律速過程であり,ハステロイXRの水素透過に対する活性化エネルギーはハステロイXの値とおおむね一致した.重水素透過係数は水素透過係数の約1/1.42倍の値であった.またヘリウムガス雰囲気で約140時間加熱中に形成された金属表面の酸化膜でも水素同位体透過量の低減効果を有することがわかった.


280267
高温ガス炉ガスタービン用コンパクト熱交換器の概念検討
石山新太郎・武藤康・笠羽道博*・金田隆良*
日本原子力学会誌 42(3), p.196-203(2000) ; (JAERI-J 17274)

 高温ガス炉ガスタービン直接発電システム(HTGR-GT)の高効率化を図るとともに経済性を高めるためにはコンパクトで熱効率が95%以上の再生熱交換器を設計する必要がある.本報告では,このコンパクト熱交換器について超細密オフセットフィン構造(フィン高さ/ピッチ=1.0/1.0〜1.5/1.5mm,フィン厚さ=0.1〜0.15mm),多段積層型及び並流型/U型流量配置を採用することにより,伝熱及び構造強度の観点からその設計成立性の検証を行うとともに最適基本設計を実施した.その結果,熱効率95%で低圧損(<2%),しかも同程度の高伝熱面積密度を有する宇宙航空用コンパクト熱交換器の4倍以上に相当する20MW/m3級の伝熱密度を有し,かつオープンサイクル用のものと比較して約3倍以上の耐圧構造の再生熱交換器を設計できた.本報告では,この再生熱交換器について,その基本的な形式や形状及び性能に関する検討の結果,並びにその基本設計仕様を明らかにしつつ,高性能熱交換器に関する今後の課題について整理した.


280539
Fe-Mn-Cr系低放射化高強度非磁性鋼の開発,1; 最適組成選定のためのスクリーニング試験と基本的特性評価
石山新太郎・深谷清・衛藤基邦・菊池満・佐藤育男*・楠橋幹雄*・畠山剛*・高橋平七郎*
日本原子力学会誌 42(2), p.116-123(2000) ; (JAERI-J 17509)

 本研究では,JT-60SUの使用条件に基づき,将来の核融合炉大型構造材料として,低放射化,高比強度,非磁性であり,核発熱の少ない低コスト材料の開発を目標にMn及びCrを主成分とし,CとNを低減化した鋼種の製造並びに評価を行った.その結果,下記の結論が得られた.(1)Mn-Cr鋼種の新しい組織状態図を得るとともに,これをもとに安定したオーステナイト単相が得られる15.5Mn-16Cr-0.2C-0.2N組織を見いだし,その最適製造条件を把握した.(2)JT-60SU計画運転停止から約20年後において放射化レベルは,SUS316L等既存材料に比較して,1桁以上低い.(3)比強度は,SUS316Lに比して約2倍以上である.(4)熱伝導率は従来材より高く,運転中並びに運転停止後の核発熱による実験装置の異常温度上昇の危険性は少ない.


280725
ポジトロン放出核種を用いた植物の生体機能解明
茅野充男*・久米民和
日本原子力学会誌 41(10), p.35-36(1999) ; (JAERI-J 17674)

 原研−大学プロジェクト共同研究に関する特集記事として,植物用ポジトロンイメージング装置(PETIS)を用いた研究の現状を紹介した.ポジトロン放出核種は消滅時に透過力の高い一対のγ線を反対方向に放出するため,生体外から非破壊で計測可能である.本プロジェクト共同研究では,植物の計測に適した装置として開発したPETISを用いて,11C化合物や13N化合物の植物体内における移行や代謝に関する計測を行い,植物の栄養特性や環境応答など複雑な機能解明への応用を世界に先駆けて進めている.本研究には5つの大学グループが参加しており,13NO3-などを用いた窒素動態の研究,18F−水を用いた耐乾性植物の貯水組織の研究,11C−メチオニンを用いたアミノ酸の動態に関する研究などが進められている.とくに,11C−メチオニンを用いた計測では,世界で初めてアミノ酸転流のリアルタイムでの可視化に成功するなどの成果が得られている.


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