2002年度

Physical Review B


310270
Continuous-wave and pulsed EPR study of the negatively charged silicon vacancy with S=3/2 and C symmetry in n-type 4H-SiC
水落憲和* ; 山崎聡* ; 瀧澤春喜 ; 森下憲雄 ; 大島武 ; 伊藤久義 ; 磯谷順一*
Physical Review B 66(23), p.235202_1-235202_12(2002) ; (JAERI-J 19900)

 SiC中の固有欠陥の構造を明らかにするために電子線照射したn型4H-SiCの空孔型欠陥をEPR(electron paramagnetic resonance)により調べた.本研究では,S=1と報告されているTV2aセンターについて詳細に調べた.パルスEPRのニューテーション法を用いて測定を行ったところS=1ではなくS=3/2であることが明らかになった.13Cの超微細相互作用の解析より,このセンターがシリコン単一空孔に由来することが決定された.また,このセンターは負に帯電し,C対称(C軸方向の炭素と他の3個の炭素とが等価でない歪みを有する)であることも見出された.


310269
Magnetic field effects and magnetic anisotropy in lightly doped La2-xSrxCuO4
松田雅昌 ; 藤田全基* ; 山田和芳* ; Birgeneau, R. J.* ; 遠藤康夫* ; 白根元*
Physical Review B 66(17), p.174508_1-174508_6(2002) ; (JAERI-J 19899)

 これまでの中性子散乱実験の結果から,La2-xSrxCuO4低ホール濃度領域(0<x<0.055)のスピングラス相においては斜めストライプ構造を反映していると思われる静的秩序が存在することがわかっている.われわれはこの相でどのような磁場効果が見られるかを調べるために中性子散乱実験を行った.x=0.014, 0.024の試料における磁場効果(H//CuO2面)を調べたところ,磁場の増加とともに磁気反射強度が徐々に減少することがわかった.系統的な実験を行った結果,これはLa2-xCuO4で見られるような非対称(Dzyaloshinski-Moriya)相互作用に起因している可能性が強いことがわかった.つまり,磁場中でスピンの回転が起こりスピン構造が変わるために,(1, 0, 0)付近の強度が減少していると考えられる.この結果はスピングラス相においても一軸性の磁気異方性が存在することを示している.また,磁場中で非整合磁気ピークの非整合度やピーク幅がほとんど変化していないことから,この非整合性は磁気相互作用に起因するのではなく,電荷秩序によって引き起こされている可能性が強いことがわかった.上述の磁気相互作用はスピンの方向を決定したり静的秩序を安定化するために働いていると考えられる.


310268
Absence of a magnetic field effect on static magnetic order in the electron-doped superconductor Nd1.86Ce0.14CuO4
松田雅昌 ; 片野進 ; 上藤哲嗣* ; 藤田全基* ; 山田和芳*
Physical Review B 66(17), p.172509_1-172509_4(2002) ; (JAERI-J 19898)

 ここ2,3年の間に,高温超伝導体における磁性と超伝導の相関を明らかにするために磁場中での中性子散乱実験が幾つか行われている.これまでに,ホールドープ型超伝導体La2-xSrxCuO4とその関連物質において実験が行われており,静的磁気秩序が磁場中安定化し,磁気散乱強度が増加することが報告されている.これは,磁束により超伝導が破壊されている領域を核として静的磁気秩序が発達すると考えられている.これは,磁束格子とスピン揺動の相互作用を意味する.一方,電子ドープ型超伝導体においては,大型で良質な単結晶が得られなかったために,未だ磁場効果の実験がなされていなかった.われわれは大型で良質なNd1.86Ce0.14CuO4単結晶を育成し,磁場中での中性子散乱実験を行った.しかし,磁場中で静的磁気秩序に対する効果は観測されなかった.バルクの超伝導が破壊される臨界磁場を越えても磁場効果が見られないという事実は,ホールドープ型と電子ドープ型で磁性と超伝導の相互作用が異なっていることを示唆している.これは,La2-xSrxCuO4におけるスピン揺動の研究に対して重要な情報を与えるのみでなく,超伝導発現機構を解明するうえでも重要である.


310142
Superconductivity and antiferromagnetism in the three-dimensional Hubbard model
瀧本哲也* ; 守谷亨*
Physical Review B 66(13), p.134516_1-134516_7(2002) ; (JAERI-J 19786)

 異方的なホッピング行列tzとtを持つ3次元ハバード模型に対して,ハーフフィリング近傍における反強磁性と超伝導の間の関係を研究した.一種のスピンゆらぎ理論であるゆらぎ交換近似を使って,さまざまなrz=tz/tの値に対して相図を計算した.rzの増大に伴って,ハーフフィリング電子密度の周りの反強磁性相は広がるが,一方で,それに隣接した異方的なdx2-y2-波超伝導相は縮まる.適度なrzの値に対して,われわれは低温でdx2-y2-波超伝導相から非整合スピン密度波とdx2-y2-波超伝導の共存相への二次転移を見つけた.この共存相に近づくと,非整合スピン密度波の波数を持つスピンゆらぎのソフト化された成分が発達する.


310141
Bulk-sensitive photoemission spectroscopy of A2FeMoO6 double perovskites (A=Sr, Ba)
Kang, J.-S.* ; Kim, J. H.* ; 関山明* ; 笠井修一* ; 菅滋正* ; Han, S. W.* ; Kim, K. H.* ; 室隆桂之* ; 斎藤祐児 ; Hwang, C.* ; Olson, C. G.* ; Park, B. J.* ; Lee, B. W.* ; Shim, J. H.* ; Park, J.* ; Min, B.*
Physical Review B 66(11), p.113105_1-113105_4(2002) ; (JAERI-J 19785)

 ダブルペロブスカイト構造をとるSr2FeMoO6及びBa2FeMoO6の電子状態をFeの2p-3d共鳴光電子分光及びMo 4d光イオン化断面積のクーパーミニマムを利用して調べた.フェルミレベル近傍はMoとFeのt2gが強く混ざった状態であり,Feは純粋な+3価のイオンでは無いことがわかった.Feの2p3/2のX線吸収スペクトルはFe2+とFe3+混合原子価であることを示し,Sr2FeMoO6の方がBa2FeMoO6よりもFe2+成分が多く,二重交換相互作用が有効に働いていることを示唆する.価電子帯の光電子スペクトルは局所スピン密度近似+Uの計算結果とよく一致する.


310140
Low-temperature structural change and magnetic anomaly in superconducting Cd2Re2O7
酒井宏典* ; 加藤治一* ; 神戸振作 ; Walstedt, R. E.* ; 大野浩之* ; 加藤将樹* ; 吉村一良* ; 松畑洋文*
Physical Review B 66(10), p.100509_1-100509_4(2002) ; (JAERI-J 19784)

 パイロクロア型酸化物超伝導体Cd2Re2O7のT〜200Kにおける構造相転移についてX線・電子線回折,111Cd核NMR測定を用いて研究を行った.高温領域(T≫T)の帯磁率は大きな負のWeiss温度をもつCurie-Weiss則に従う.このことは,この系が反強磁性的相互作用をもつ局在モーメント的に振る舞うことを示しており,幾何学的なフラストレーションを導く.X線・電子線回折測定からT以下の温度領域において,ナノサイズのストライプ構造を誘起するReの4量体化が示唆された.111Cd核NMR測定のいわゆるK-χプロットから大きな軌道帯磁率が示唆され,また,スピン帯磁率と核磁気緩和率を温度で割った(T1T)-1がT以下で鋭く減少することから,フェルミ面における状態密度の減少,部分的なエネルギーギャップの形成が示唆された.


301245
Symmetry breaking in the metal-insulator transition of BaVS3
稲見俊哉 ; 大和田謙二* ; 木村宏之* ; 渡辺真史* ; 野田幸男* ; 中村裕之* ; 山崎朋秋* ; 志賀正幸* ; 池田直* ; 村上洋一*
Physical Review B 66(7), p.073108_1-073108_4(2002) ; (JAERI-J 19659)

 BaVS3の金属非金属転移はスピンや格子の長距離秩序を伴わないと長い間信じられて来た.われわれはX線回折実験をBaVS3単結晶に対して行い,c軸を2倍にする超格子反射が転移点以下で存在することを見出した.最も確からしい空間群は2つのVサイトを含み,したがって電荷不均化がこの金属非金属転移の原因であると考えられる.


301163
Periodic hole structure in a spin-chain ladder material Sr14Cu24O41
福田竜生 ; 水木純一郎 ; 松田雅昌
Physical Review B 66(1), p.012104_1-012104_4(2002) ; (JAERI-J 19587)

 Cuスピンのつくるchain及びladder構造を共に持つSr14Cu24O41は,そのchain構造の中にはホールがドープされ,Zhang-Rice singletとなって周期構造をつくっていることが知られている.その周期構造には主に2種類の構造モデルが考えられるが,シンクロトロンX線回折による結晶歪みの測定ではchain構造の4倍周期,中性子非弾性散乱によるスピン波の測定ではchain構造の5倍周期と,測定手法によって結果が異なっていた.われわれは,この実験手法によるホールの周期の違いは,それぞれの実験プローブによる試料の測定領域の違いからきているのではないかと考え,より試料全体を測定できる高エネルギーX線によるシンクロトロンX線回折実験を行った.その結果は,中性子散乱によるものと同じくchain構造の5倍周期になっていることがわかり,さらに,構造モデルを仮定したX線回折強度計算によって,実験結果をほぼ再現できることも確認できた.


310139
High-resolution resonance photoemission study of CeMX (M=Pt, Pd; X=P, As, Sb)
岩崎剛之* ; 関山明* ; 山崎篤志* ; 岡崎誠* ; 角野宏治* ; 宇都宮裕* ; 今田真* ; 斎藤祐児 ; 室隆桂之* ; 松下智裕* ; 播磨尚朝* ; 吉居俊輔* ; 笠谷光男* ; 落合明* ; 小口多美夫* ; 加藤健一* ; 新出譲* ; 竹ヶ原克彦* ; 菅滋正*
Physical Review B 65(19), p.195109_1-195109_9(2002) ; (JAERI-J 19783)

 低い近藤温度を持つCeMX (M=Pt, Pd; X=P, As, Sb)の Ce 3d-4f共鳴光電子分光を高いエネルギー分解能にて行い,Ce 4d-4f共鳴光電子分光の結果と比較を行った.実験結果は,低い近藤温度の物質においても表面とバルク電子状態が大きく異なることを示した.Ce 4f成分の寄与のない価電子帯スペクトルは,同じ構造をもつLaMXのバンド計算を用いて説明できた.実験で得られたCe 4f成分は,不純物アンダーソンに基づいたNCA(noncrossing approximation)計算によってよく再現でき,表面とバルクのCe 4f電子状態の違いを説明するのにもっと重要な要因がCe 4f準位シフトであることがわかった.さらに,CeMXのCe 4f状は,p-d反結合状態と優先的に混成することがわかった.


300819
Electronic phase separation in lightly doped La2-xSrxCuO4
松田雅昌 ; 藤田全基* ; 山田和芳* ; Birgeneau, R. J.* ; 遠藤康夫* ; 白根元*
Physical Review B 65(13), p.134515_1-134515_6(2002) ; (JAERI-J 19297)

 La2-xSrxCuO4低ホール濃度領域(0.02<x<0.055)における磁性を調べるために詳細な中性子散乱実験が行われてきた.その結果,この絶縁スピングラス領域において非整合磁気ピークの現れる位置が超伝導相(水平ストライプ構造)で観測される位置と比べて(π,π)を中心に45度回転しており,斜めストライプ構造を反映していることが明らかになった.次のステップとして,われわれは,さらに低ホール濃度領域(0<x<0.02)における磁気相関を調べるために中性子散乱実験を行った.このホール濃度領域では,室温から温度を下げていくとまず反強磁性磁気秩序が起こる.さらに温度を下げていくと30K付近で磁気秩序領域の一部が斜めストライプ相関を持つクラスタースピングラス相に置き換わることが明らかになった.非整合度εの値からスピングラス領域のホール濃度を見積もると0<x<0.02の領域でほぼ2%であった.また,散乱強度からスピングラス領域の大きさ(体積分率)を見積もるとxが0から0.02に増加する際に体積分率が0から1にほぼ比例して変化することがわかった.これらの結果を総合して考えると,La2-xSrxCuO4(0<x<0.02)では30K以下でホール濃度が〜0%の領域と〜2%の領域に相分離し,ホール濃度の増加とともに2%の領域が増大すると考えられる.


300818
Ferromagnetism and giant magnetoresistance in the rare-earth fullerides Eu6-xSrxC60
石井賢司 ; 藤原明比古* ; 壽榮松宏仁* ; 久保園芳博*
Physical Review B 65(13), p.134431_1-134431_6(2002) ; (JAERI-J 19296)

 Euとフラーレンの化合物であるEu6C60及びEuをSrで置換したEu6-xSrxC60について,結晶構造,磁性,電気伝導についての研究を行った.これらの結晶構造は他のM6C60(Mはアルカリ金属,または,アルカリ土類金属)と同じbcc構造である.磁気測定では,磁気モーメントは+2価のEu原子(S=7/2)が担っていることがわかり,TC=10-14Kにおいて強磁性転移が観測された.Eu6C60では比熱の測定からも強磁性転移が確認できた.Eu6-xSrxC60の物性でもっとも特徴的な点は,低温で非常に大きな負の磁気抵抗が観測される点である.Eu6C60の抵抗率の比ρ(H=9T)/ρ(H=0T)は,1Kで約10-3にも及ぶ.このような巨大磁気抵抗はC60上の伝導電子とEu上の4f電子の間に非常に強いπ-f相互作用が働いていることを示している.


300987
Photoemission study of Yb2Co3X9(X=Ga, Al); Variation of the electronic structure from a mixed-valent to Kondo-lattice systems
岡根哲夫 ; 藤森伸一 ; 井野明洋* ; 藤森淳* ; Dhar, S. K.* ; Mitra, C.* ; Manfrinetti, P.* ; Palenzona, A.* ; 酒井治*
Physical Review B 65(12), p.125102_1-125102_7(2002) ; (JAERI-J 19433)

 Yb2Co3X9(X=Ga, Al)は,同じ結晶構造を有し,X=Gaでは価数揺動系,X=Alでは反強磁性秩序を見せる近藤格子系の物性を示す.このXリガンドの違いに応じた物性の起源を明らかにするため,本研究はこれらの化合物の電子状態を高エネルギー分解能の光電子分光実験により調べた.X=AlではX=Gaに比べてYb4fエネルギーレベルが上昇していることが観測された.このエネルギーレーザーの上昇をYb4F-リガンドSP電子の混成の減少が,X=AlとX=Gaでの物性の違いの起源と考えられる.またX=Gaでは結合エネルギー26meVに近藤ピークを観測した.この近藤ピークのエネルギー位置と幅は不純物アンダーソンモデルから予想される値と近い値を持つが,顕著な非対称形状を示した.この非対称形状の起源として,電子−正孔体の形成を提案した.


310138
Orbital angular momentum and interpretation of core-absorption magnetic circular dichroism on the band picture in Co-based Heusler alloys Co2YSn (Y=Ti, Zr, and Nb)
山崎篤志* ; 今田真* ; 新井龍志* ; 宇都宮裕* ; 菅滋正* ; 室隆桂之* ; 斎藤祐児 ; 鹿又武* ; 石田尚治*
Physical Review B 65(10), p.104410_1-104410_6(2002) ; (JAERI-J 19782)

 強磁性ホイスラー合金であるCo2TiSn,Co2ZrSn及びCo2NbSnに対して,軟X線領域の内殻吸収磁気円二色性(XAS-MCD)を測定した.Coの2p-3d XAS-MCDスペクトルで観測された多くのピーク構造は,原子多重項計算よりも,バンド計算によって予想されたCoの3d非占有状態によってうまく説明することができる.MCDスペクトルは,軌道モーメントが磁気モーメントに寄与していることを示している.MCDスペクトル解析から得られた軌道モーメントとスピンモーメントの比は,これらの物質間で二倍以上の違いが有る.この変化のメカニズムを,バンド計算の結果と比較して議論した.


300665
Magnetic excitations in the spin-gap system TlCuCl3
大沢明* ; 加藤徹也* ; 田中秀数* ; 加倉井和久 ; Muller, M.* ; Mikeska, H.-J.*
Physical Review B 65(9), p.094426_1-094426_7(2002) ; (JAERI-J 19160)

 TlCuCl3は基底一重項を持ち0.65MeVの励起ギャップを示す系である.中性子非弾性散乱によりTlCuCl3における磁気励起を研究した.4方向の分散関係が決定され,そこから各々の相互作用が見積もられ,TlCuCl3が比較的強くカップルしたスピン・ダイマー系であることを明らかにした.


300986
Crystal structure of NiO under high pressure
江藤徹二郎* ; 遠藤将一* ; 今井基晴* ; 片山芳則 ; 亀掛川卓美*
Physical Review B 61(22), p.14984-14988(2000) ; (JAERI-J 19432)

 放射光,イメージングプレートとダイヤモンドアンビルセルを用いた角度分散X線回折その場観察によって,B1構造から菱面体晶系に歪んだNiOの格子定数に対する圧力効果を調べた.六方晶系格子で表した格子定数aとbは圧力の増加と伴に単調に減少した.軸比c/aも加圧によって単調に減少しており,これは,菱面体[111]方向の歪みが増加することを示している.最近の理論計算によって示唆されていた60GPa以上でのc/aの大きな変化は観測されなかった.


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