2002年度

Radiation and Environmental Biophysics


310147
Applicability of radiosurgery with heavy ion beams to inactivate specific organs in living organisms
Tu, Z.* ; 小林泰彦 ; 木口憲爾* ; 渡辺宏*
Radiation and Environmental Biophysics 41(3), p.231-234(2002) ; (JAERI-J 19791)

 カイコ幼虫への重イオンの全体照射では,線量に比例して,結繭率,蛹化率,羽化率及び繭の形質に影響が認められた.それに対して,局部照射では,全体照射と比較し,生存率などへの影響は少なく,照射部位に限定してその器官の欠失が観察された.次に,カイコ幼虫の造血器官を狙って局部照射し,体内の特定の器官の機能だけを選択的に破壊できるかどうかを調べたところ,照射後に血液中の血球密度の明らかな抑制が観察され,また造血器官の機能障害が認められた.さらにイオン照射後には血中から消失し,ほとんど検出できなくなる血液タンパク質成分を発見した.このタンパク質は血球の生理機能と何らかの関連があると予想される.したがって,重イオン局部照射を用いたラジオサージャリー技術で特定の細胞・組織だけを破壊することにより,カイコのような小動物の生体機能を解析することが可能である.


310146
Monte Carlo simulation of strand-break induction on plasmid DNA in aqueous solution by monoenergetic electrons
渡辺立子 ; 斎藤公明
Radiation and Environmental Biophysics 41(3), p.207-215(2002) ; (JAERI-J 19790)

 100eVから1MeVまでの単一エネルギーの電子線による水溶液中でのプラスミドDNAの鎖切断の誘発について,モンテカルロシミュレーションによって研究を行った.鎖切断生成のメカニズムとして水ラジカルによる間接作用のみに注目し,モデル化を行った.このモデルに基づき,DNAの一本鎖切断(SSB)と二本鎖切断(DSB)の線量効果関係をシミュレートし,それぞれの生成収率を計算した.この結果,SSBは線形,DSBは線形−二次の線量効果関係が得られた.DSBについては,線量効果関係が電子のエネルギーに大きく依存し, 1keVの電子によるDSBの大部分は線形成分,すなわち単一事象によって生じることがわかった.また,SSBとDSBはそれぞれ1keVで最小値と最大値をとる逆のエネルギー依存性がみられ,1keVの電子のような放射線飛跡末端での間接作用による重篤なDNA損傷の生成しやすさが示唆された.これらの結果は,実験値をよく再現しており,本研究での鎖切断生成のメカニズムのモデルの妥当性を示すもので,生体への放射線作用に重要な役割を示すラジカルによる間接作用のDNA切断機構に関する理解が深まった.


301250
LET dependence of lethality in Arabidopsis thaliana irradiated by heavy ions
鹿園直哉 ; 田中淳 ; 北山滋* ; 渡辺宏* ; 田野茂光*
Radiation and Environmental Biophysics 41(2), p.159-162(2002) ; (JAERI-J 19664)

 植物における重イオン照射効果を調べるため,シロイヌナズナの乾燥種子に炭素イオン,ネオンイオン,アルゴンイオンを照射した.ネオンイオン,アルゴンイオンによる致死の生物効果比(RBE)は350keV/μmを超える線エネルギー付与(LET)の値でピークを示した.この値は100-200keV/μmでピークを示すほ乳類細胞等の値に比べ高いものである.さらに,不稔率を調べると,LETが354keV/μmのネオンイオンのほうが113keV/μmの炭素イオンより高いRBEを示した.これらの結果はシロイヌナズナ種子における致死のRBEピークは単細胞系に比べて高いLETで生じることを示している.致死及び不稔はDNA損傷によって引き起こされることが知られている.このLETのシフトは種子中の化合物組成やDNAの水和状態の違いに主に起因すると推察される.


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