2003年度

Journal of Chemical Physics


320022
Ab initio molecular dynamics study of polarization effects on ionic hydration in aqueous AlCl3 solution
池田隆司 ; 平田勝 ; 木村貴海
Journal of Chemical Physics 119(23), p.12386-12392(2003) ; (JAERI-J 20572)

 第一原理分子動力学法を用いて,常温常圧下での0.8M AlCl3水溶液中のAl3+及びCl-の水和構造とそのダイナミクスを調べた.第一原理シミュレーションから得られたAl3+及びCl-の水和構造はどちらも実験とよく一致した.水和水の分子構造及び構成分子とイオンの双極子モーメントを詳細に検討したところ,カチオン,アニオンのどちらに対してもその水和構造とダイナミクスに分極効果が重要な役割を演じていることがわかった.Al3+の加水分解についても言及した.


311032
Global ab initio potential energy surfaces for the lowest three doublet states (12A', 22A', and 12A") of the BrH2 system
黒崎譲 ; 高柳敏幸
Journal of Chemical Physics 119(15), p.7838-7856(2003) ; (JAERI-J 20483)

 BrH2系の三つの最低二重項状態(12A', 22A', 12A") についての断熱ポテンシャルエネルギー面を,Breit-Pauliハミルトニアンに基づくスピン−軌道相互作用による補正を加えてMRCI/aug-cc-pVTZ法により計算し,得られた断熱エネルギーを解析的な多体関数にフィットした.基底状態のポテンシャル面上での水素引抜き及び水素交換の反応障壁は,MRCI+Q/aug-cc-pVTZレベルでそれぞれ1.28 and 11.71 kcal mol-1と計算された.ポテンシャル面のフィットの精度は0.1 kcal mol-1以内であった.フィットした基底状態のポテンシャル面を用いて,水素引抜き及び水素交換並びに同位体置換した反応の反応速度定数を,変分的遷移状態理論に基づくICVT/LAG法により計算した.その結果,水素引抜きについては実験との一致はおおむね良好であったが,水素交換については計算値は実験値を大幅に下回った.この不一致は,実験データの不足が主な原因と考えられる.


320100
Actively controlled oxidation of Cu{001} with hyperthermal O2 molecular beam
岡田美智雄* ; 盛谷浩右* ; 後藤征士郎* ; 笠井俊夫* ; 吉越章隆 ; 寺岡有殿
Journal of Chemical Physics 119(14), p.6994-6997(2003) ; (JAERI-J 20634)

 超熱エネルギーの酸素分子ビームを用いたCu(001)の酸化反応が放射光によるX線光電子分光法で研究された.酸化の効率は酸素ガスを用いた場合よりも大きい.2.3eVの酸素ビームを用いると0.5MLよりもさらに酸化は進むが,その効率は非常に小さい.そのような遅い酸化は表面と分子の衝突によって誘起される吸着機構によって起こる.その解離吸着反応の反応速度はラングミュア型吸着における一次の速度論で記述される.


311031
Structural transformation of methane hydrate from cage clathrate to filled ice
池田隆司 ; 寺倉清之*
Journal of Chemical Physics 119(13), p.6784-6788(2003) ; (JAERI-J 20482)

 室温・高圧下におけるメタンハイドレートの構造,ダイナミクス及び電子状態を第一原理定圧分子動力学法を用いて調べた.I型クラスレートのかご構造は4.5GPaで壊れた.かご構造が消失した後,MH-III構造に特徴的な2つの構造が現れた.また,われわれの得たMH-III構造ではCD伸縮振動モードが一つ存在し,加圧とともにブルーシフトを示す.これらはLovedayらが提案したフィルドアイスの存在を支持する結果である.


310925
Theoretical simulations on photoexcitation dynamics of the silver atom embedded in helium clusters
和田晃* ; 高柳敏幸 ; 志賀基之
Journal of Chemical Physics 119(11), p.5478-5486(2003) ; (JAERI-J 20408)

 サイズ選別したヘリウムクラスター中に溶かした銀原子の光励起ダイナミックスについての理論的シミュレーションを行った.銀原子のp電子の運動を量子波束法によって取り扱い,銀原子及びヘリウム原子の原子核の運動はすべて半古典経路積分セントロイド分子動力学法によって記述した.光励起前のクラスター構造を温度一定の経路積分分子動力学法によって求め,いくつかの初期構造について光によって励起状態に励起し,その後の時間発展を追いかけた.その結果,励起状態間での電子的な非断熱遷移が極めて効率的に起こることを見いだし,これが主としてヘリウム原子の量子性に起因することを突き止めた.ダイナミクスについては,ほとんどのクラスターは光励起後に,孤立銀原子とヘリウム原子に分解するが,一部は,銀の励起状態と数個のヘリウムが結合したエキシマーを生成することがわかった.


310598
On the electronic structure of CmFn(n=1-4) by all-electron Dirac-Hartree-Fock calculations
望月祐志* ; 舘脇洋*
Journal of Chemical Physics 118(20), p.9201-9207(2003) ; (JAERI-J 20133)

 弗化物はアクチニドのポピュラーな化合物であるが,原子力エネルギー分野の主役であるUとPuの弗化物を例外として他の元素についてはほとんど知見が得られていない.しかし,ランタニドと比較すると後期のアクチニドでも+4価と取れるなど化学的な差異は知られており,計算によってこうした側面に切り込むことが出来れば,原子力工学・基礎無機化学にとって大きな意味が期待される.本研究では,CmとGdを例に取って,4弗化物までをDirac-Hartree-Fock計算によって系統的に調べた.本結果から,「CmF4が合成可能なのに,GdF4が不可能な理由」,中心金属の実効電子配置などの知見が世界で初めて明らかにされた.大規模並列計算としても,当該分野で過去最大のものである.


310360
Photodissociation of highly vibrationally excited NH3 in the 5νN-H region; Initial vibrational state dipendence of N-H bond dissociation cross section
赤木浩* ; 横山啓一 ; 横山淳
Journal of Chemical Physics 118(8), p.3600-3611(2003) ; (JAERI-J 19938)

 N-H伸縮高振動励起したNH3(5νN-H)の紫外光分解の実験を行った.実験はジェット条件下で行い,生成したH原子を共鳴(2+1)光子イオン化により検出した.5νN-H領域のアクションスペクトを測定することで,N-H結合解離断面積の相互比を求めた結果,4νi3振動状態が5ν1状態よりも1.23±0.06倍,断面積の大きいことがわかった.この結果に対して,波束計算を用いて理論的に解釈することを試みた.


310359
Rotation of O2 molecules in solid D2 and HD; An Electron spin resonance study
熊田高之
Journal of Chemical Physics 117(22), p.10133-10138(2002) ; (JAERI-J 19937)

 本研究室の所有する極低温高圧用電子スピン共鳴分光法を用いて,固体D2,HD中における酸素分子の束縛回転とその圧力依存性を調べた.モル体積が減少するにもかかわらず,O2分子はHDからD2への同位体置換及びD2中でも圧力が高くなるほど回転しづらくなることが判明した.これらの圧力及び同位体置換効果はD2及びHD中におけるO2分子の捕捉サイトが歪んでいるためであると考えられる.より質量の大きい水素に置換,または圧力が高くなるにつれて固体水素の圧縮率は減少し,捕捉サイトの歪みも小さくなり,結果として回転しづらくなったと解釈される.


310729
Tuning surface morphologies of ion-assisted diamondlike carbon film on the nanometer scale
Zhu, X. D.* ; 楢本洋 ; Xu, Y.* ; 鳴海一雅 ; 宮下喜好*
Journal of Chemical Physics 116(23), p.10458-10461(2002) ; (JAERI-J 20242)

 基板温度をパラメータにして,C60蒸着と同時に1.5keVNeイオン照射を行い,得られた炭素薄膜の結合状態をラマン分光法で,表面形態の特徴を原子間力顕微鏡で評価した.その結果,以下の結論を得た.表面形態の変化は,イオンスパッタリングとC60の同素体変換過程による蒸着との競合過程で特徴付けられ,ナノメートルサイズでの微細構造の制御が可能になるを示した. 


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