2003年度

Nuclear Instruments and Methods in Physics Research, B


310948
Irradiation of single mammalian cells with a precise number of energetic heavy ions; Applications of microbeams for studying cellular radiation response
小林泰彦 ; 舟山知夫 ; 和田成一* ; 田口光正 ; 渡辺宏
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 210(1-4), p.308-311(2003) ; (JAERI-J 20431)

 重イオンマイクロビームは,放射線の生物作用研究のための新しいツールとして極めて有望である.原研・高崎研では,銀河宇宙線のような極低フルエンス高LET重粒子線の生物影響の解明,特にトラック構造の局所的エネルギー付与分布による影響をダイレクトに解析することを目指して,サイクロトロンから得られる比較的高エネルギーの重イオンマイクロビームを用いて哺乳動物培養細胞を個別に照射・観察する実験系を開発した.その結果,ArやNeなどの重イオン1個のヒットで細胞の増殖が強く抑制されることを見いだした.


320108
Design of a focusing high-energy heavy ion microbeam system at the JAERI AVF cyclotron
及川将一* ; 神谷富裕 ; 福田光宏 ; 奥村進 ; 井上博光* ; 益野真一* ; 梅宮伸介* ; 押山義文* ; 平豊*
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 210(1-4), p.54-58(2003) ; (JAERI-J 20642)

 現在原研高崎TIARAでは,radio micro surgery等の生物医学への応用を目指して,AVFサイクロトロンの垂直ビームラインに設置する集束方式高エネルギー重イオンマイクロビーム装置の開発を進めている.レンズ集束における色収差の低減のため,AVFサイクロトロンは100MeV級重イオンビームのエネルギー幅を10-4以下にする必要がある.このためサイクロトロンRFシステムにフラットトップ加速技術が導入された.ビームラインは生物試料照射に適した鉛直下向きであり,オブジェクトスリットと発散制限スリットの二段のスリット,集束レンズである四連四重極電磁石により構成される.これにより空間分解能1μmの重イオンマイクロビーム形成が可能となり,薄膜を介して大気中の試料を細胞レベル以下の精度で照射することが可能となる.さらに,短時間に多数の細胞を狙い撃ちするため,高速自動照準シングルイオン照射システムとマイクロビーム二次元走査システムをリンクさせ,散在する培養細胞等の微小試料に対して毎分1000個以上の高速シングルイオン照射を実現する.このような高速シングルイオンヒットには照射位置を正確にリアルタイムで観測できる検出システムが必要になる.そのために試料直下にシンチレータプレートを設置して,単一イオンが入射した際の微弱なシンチレーション光を超高感度カメラによって観測し,照射試料の光学顕微鏡画像と合成することで,照射試料へのシングルイオン入射位置を正確に把握できるシステムを開発中である.


320049
Present status and prospect of microbeams at TIARA
渡辺宏* ; 数土幸夫
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 210, p.1-5(2003) ; (JAERI-J 20599)

 放射線高度利用研究計画に基づいて設置されたTIARAでは,計画に沿って3種のマイクロビームシステム開発が実施された.1つは半導体のシングルイベント解析用であり,ソフトエラーの機構解明に貢献している.生物用マイクロビームは,重イオンのシングルヒット照射が可能な世界で唯一のシステムであり,新知見が得られている.分析用マイクロビームは,大気中1μmφの分析を可能にし,医学・環境分野への応用を拡大している.過去のマイクロビーム利用は,分析利用を中心に発展してきたが,TIARAの特徴は,照射損傷解析用プローブとしての可能性を大きく引き出したことにある.今後は材料加工への応用や医療への応用も期待される.


320048
Observation of transient current induced in silicon carbide diodes by ion irradiation
大島武 ; Lee, K. K.* ; 小野田忍* ; 神谷富裕 ; 及川将一* ; Laird, J. S.* ; 平尾敏雄 ; 伊藤久義
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 206(1-4), p.979-983(2003) ; (JAERI-J 20598)

 炭化ケイ素(SiC)半導体のシングルイベント耐性評価の一環として,pn接合ダイオードを試作しMeV級イオン照射により発生する過渡電流測定を行った.SiCダイオードのベースはn型エピタキシャル6H-SiCであり,800℃でのAl注入後1800℃での熱処理を行うことで表面層にp型領域を形成した.12MeVニッケルイオンマイクロビームを用いてSiCダイオードの過渡イオンビーム誘起電流(TIBIC)測定を行い,過渡電流波形を取得した.これよりダイオード電極への収集電荷量を解析した結果,印加電圧が30Vでは(1.7-1.8)×10-13Q程度と見積もられた.また,この結果より収集効率を求めると85から93%が得られた.


320047
Irradiation effect of different heavy ions and track section on the silkworm bombyx mori
Tu, Z.* ; 小林泰彦 ; 木口憲爾* ; 渡辺宏*
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 206(1-4), p.591-595(2003) ; (JAERI-J 20597)

 熟蚕期のカイコ幼虫にHe(50MeV), C(220MeV)及びNe(350MeV)イオンを,全身に均一に,あるいは幼虫の頭部や翅原基,生殖腺などを局部的に照射し,生育への影響を調べた.その結果,成虫での複眼や触角,翅,鱗毛などの器官の欠失,造卵・造精機能の喪失など,照射部位に限定された影響が線量に応じて誘導されることがわかった.一方,照射部位以外への影響は見られなかった.また,照射イオンのエネルギーを制御することにより,深度方向への照射損傷の分布は,イオンの飛程と一致していた.すなわち,重イオンの照射部位とエネルギーすなわち打ち込み深度を制御することにより,体内の特定部分を狙った照射によって機能破壊するラジオサージャリ実験が可能である.


320046
Dose dependence of the production yield of endohedral 133Xe-fullerene by ion implantation
渡辺智 ; 石岡典子 ; 下村晴彦* ; 村松久和* ; 関根俊明
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 206(1-4), p.399-402(2003) ; (JAERI-J 20596)

 イオン注入による133Xe内包フラーレンの生成の最適条件を調べることを目的とし,133Xe内包フラーレンの生成率のイオン注入量及び注入エネルギー依存性について調べた.Ni基盤上に蒸着したフラーレンをターゲットとし,同位体分離器により133Xeを30,34及び38keVでイオン注入した.133Xeのイオン注入量は1×1012〜1×1014個/cm2とした.照射後のターゲットをオルト・ジクロロベンゼンに溶解した後,HPLC分析により133Xe内包フラーレンの生成率を求めた.この生成率は,イオン注入量及び注入エネルギーの増加とともに減少することがわかった.これは,一度生成した133Xe内包フラーレンが,後から注入される133Xeイオンによって壊されて無定形炭素化するためと結論付けた.


320045
Characterization of metal-doped TiO2 films by RBS/channeling
山本春也 ; 八巻徹也 ; 楢本洋 ; 田中茂
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 206(1-4), p.268-271(2003) ; (JAERI-J 20595)

 光触媒材料である二酸化チタン(TiO2)は,遷移金属をドープすることにより光学的特性が変化し,光触媒性の向上も期待される.本研究では,パルスレーザー蒸着法を用いてCr, Nb, Ta, Wをドープしたルチル及びアナターゼ構造の高品質なTiO2単結晶膜の作製を試み,成膜条件や蒸着後の熱処理などの条件を明らかにした.作製した膜の構造評価は,X線回折とラザフォード後方散乱/チャネリング法を用いた.その結果,0.2〜1.5 at.%の濃度でドープした金属原子が格子位置を占めたルチル及びアナタ−ゼ型のTiO2単結晶膜の作製に成功した.また,SrTiO3(001), LaAlO3(001)基板上に成長させたアナターゼ型TiO2の熱的安定性を調べた結果,約1000℃までアナターゼ構造を保持することがわかった.


320044
Fluorine-doping in titanium dioxide by ion implantation technique
八巻徹也 ; 梅林励* ; 住田泰史* ; 山本春也 ; 前川雅樹 ; 河裾厚男 ; 伊藤久義
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 206(1-4), p.254-258(2003) ; (JAERI-J 20594)

 二酸化チタン(TiO2)単結晶に1×1016から1×1017ions cm-2の200 eV F+を注入し,1200℃までの等時アニールを各ステップ5時間ずつ行った.アニールに伴う照射損傷の回復過程については,ラザフォード後方散乱/チャネリング解析とエネルギー可変ビームを用いた陽電子消滅測定で調べた.1200℃でアニールすると,空孔型欠陥の外方拡散によって結晶性が完全に回復した.二次イオン質量分析によれば,本試料は深部から表面へ向かって増大するような不純物濃度プロファイルを有していた.密度汎関数理論に基づいたバンド構造計算を行った結果,FドープはTiO2の伝導帯の下端付近にわずかな変化を及ぼし,これによりバンドギャップ制御が可能であることを明らかにした.


320043
Influence of carbon-ion irradiation and hydrogen-plasma treatment on photocatalytic properties of titanium dioxide films
Choi, Y.* ; 山本春也 ; 齊藤宏* ; 住田泰史* ; 伊藤久義
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 206(1-4), p.241-244(2003) ; (JAERI-J 20593)

 二酸化チタン薄膜に対する炭素イオン照射とプラズマ処理による光触媒活性への影響を調べた.陽極酸化によって作製したアナターゼ薄膜はイオン照射でもプラズマ処理でも活性が落ちた.この試料は酸素欠陥と結晶粒界が多く含まれるため元々強度が弱く,イオン照射とプラズマ処理によって,活性点と考えられる表面の酸素欠損がこわれすぎて活性が落ちたと考えている.しかし,レーザー蒸着によってサファイア上にエピタキシャル成長させたアナターゼ薄膜はプラズマ処理によって活性が増大することがわかった.この試料は,陽極酸化によって作製した試料より強度が高く,丈夫であるためプラズマ処理をすると酸素欠損が表面上に生成され活性が増大したと考えている.これらの結果からイオン照射とプラズマ処理の制御により活性点のコントロールができ,光触媒活性の向上が期待される.


320042
Structure and optical properties of germanium implanted with carbon ions
Wei, P.* ; Xu, Y.* ; 永田晋二* ; 鳴海一雅 ; 楢本洋
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 206(1-4), p.233-236(2003) ; (JAERI-J 20592)

 互いに固溶しない組合せとして,炭素イオンを注入により非晶質化したGe単結晶((100)と(110))について,その熱処理による結晶化過程を,イオンビーム解析法(ラザフォード後方散乱分光法,イオンチャネリング法,及び核反応法),ラマン分後法及び原子間力顕微鏡法により調べた.いずれの注入条件でも非晶質になるものの,その回復挙動は,イオン注入時の入射角に敏感であることを見出した.すなわち,斜入射の条件でCイオン注入したGeでは,450度までの熱処理により結晶化するとともに,注入された炭素原子は表面に拡散・析出してナノ黒鉛を形成した.一方垂直入射の場合には熱回復の挙動は異なり,注入された炭素と照射欠陥の分布変化及び回復は観測されなかった.これらの結果は,イオン注入時に生ずる欠陥密度と拡散に影響する歪勾配が関係している. 


320041
Improvement of hydrogen absorption rate of Pd by ion irradiation
阿部浩之 ; 内田裕久* ; 東順人* ; 上殿明良* ; Chen, Z. Q.* ; 伊藤久義
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 206(1-4), p.224-227(2003) ; (JAERI-J 20591)

 パラジウム(Pd)は水素の吸放出反応により超高純度水素精製として利用されてきた.本研究ではこのPdの水素吸放出過程について,従来よりその応答性が良くなるように,イオン照射による表面改質についての研究を行った.イオン照射技術は表面改質としては良く知られている技術であり,Pdに対してその水素吸収能の向上を試みた.照射イオンは H+,He+, Ar+を用い,イオンビームエネルギー30〜350keV,照射量は0〜1×1017/cm2まで行った.その結果,イオン照射したPdは未照射に比べ,数倍吸収速度が向上した.この効果は,イオン入射エネルギーに依存することから,イオン照射により生成される欠陥の深さ方向の欠陥密度との関係によるものと考えられる.Pd表面層に生成された欠陥層は水素化物の核形成や成長に寄与し,水素吸収速度を高めていると推測できる.


320040
Fabrication and stability of binary clusters by reactive molecular ion irradiation
山本博之 ; 斉藤健*
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 206(1-4), p.42-46(2003) ; (JAERI-J 20590)

 分子イオンを固体表面に照射すると1μA/cm2程度の電流密度においても単原子イオンを照射した場合に比べてクラスター生成効率が非常に高くなることが従来までのわれわれの成果により明らかとなっている.本研究においてはこの現象を応用し,C6F5+等の分子イオンをSi(100),B等の表面に照射することによりSinCm,BnCm等の二成分クラスターの生成に成功した.得られたクラスターの中でも,SinCmについてはいずれの原子数からなるクラスターについてもC原子を2個以上含むものはほとんど観測されなかった.これはC原子が2個以上クラスター内に含まれる場合,その構造が大きく歪むためと考えられる.一方BnCmではこのような傾向は見られずほぼ任意の組成比でクラスターが得られた.以上の結果からクラスター生成において構造の安定性が大きく影響することを明らかにした.


310755
Chemical effects of heavy ion beams on organic materials
小泉均* ; 市川恒樹* ; 田口光正 ; 小林泰彦 ; 南波秀樹
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 206, p.1124-1127(2003) ; (JAERI-J 20268)

 アラニン,アジピン酸及びポリジメチルシロキサンについて重イオン照射効果を調べた.アラニン及びアジピン酸にγ線,220MeV C,350MeV Ne,及び175Mev Arイオンを照射したところ,生成したラジカルのG値は,この順で減少した.γ線照射の場合,これらラジカルのG値は高線量照射で減少する.トラック内の局所的な高線量領域が,重イオン照射でのG値の減少の原因と考えられる.一方,ポリジメチルシロキサンにおいては,この高線量領域においてゲル化が起こり,重イオン飛跡に沿った細線ができることが確認された.


310754
Effects of implantation conditions on the luminescence properties of Eu-doped GaN
中西康夫* ; 若原昭浩* ; 岡田浩* ; 吉田明* ; 大島武 ; 伊藤久義 ; 中尾節男* ; 斎藤和雄* ; Kim, Y. T.*
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 206, p.1033-1036(2003) ; (JAERI-J 20267)

 サファイア基板上にエピタキシャル成長した窒化ガリウム(GaN)(0001)へEuイオンを注入し,フォトルミネッセンス発光特性を調べた.室温でEuイオンを多段階のエネルギーで注入することで2.8×1019から2.8×1020/cm3のEu濃度層を形成した.注入後,NH3,N2雰囲気中で900から1050℃の温度範囲で5から30分間熱処理することで結晶を回復させた.その結果,621nm付近にEu3+の4f-4f遷移に起因する鋭い発光ピークが観測された.このピーク強度はEu濃度の増加とともに増加したが2.8×1020/cm3では飽和した.


310753
ESR characterization of activation of implanted phosphorus ions in silicon carbide
磯谷順一* ; 大島武 ; 大井暁彦* ; 森下憲雄 ; 伊藤久義
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 206, p.965-968(2003) ; (JAERI-J 20266)

 イオン注入により炭化ケイ素(SiC)半導体に導入したリン(P)ドナー不純物の電気的活性化に伴うP原子の格子間位置への置換や注入欠陥除去などの微視的構造変化を明らかにするため,9〜21MeV(9段階)または340keVのエネルギーでP注入を行ったn型六方晶SiC(6H-SiC)のESR測定を実施した.P注入は室温,800℃または1200℃で行い,注入後にアルゴン中で最高温度1650℃まで熱処理を行った.注入後熱処理を行うことでP原子がSiC格子点に配置してドナーとなり,ドナー電子と31Pの超微細相互作用により2本に分裂したESRスペクトルが出現することを見出した.現在,スペクトル解析によりPドナーの構造対称性や電子スピン状態の検討を進めている.本会議ではPドナーの微視的構造の解析結果に加え,照射欠陥のアニール挙動についても報告する.


310666
Wide variety of flower-color and -shape mutants regenerated from leaf cultures irradiated with ion beams
岡村正愛* ; 安野紀子* ; 大塚雅子* ; 田中淳 ; 鹿園直哉 ; 長谷純宏
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 206, p.574-578(2003) ; (JAERI-J 20180)

 近年,イオンビームの突然変異率がγ線等に比べて高いことが植物でも報告されているが,変異のスペクトルについては不明である.本研究ではイオン照射と組織培養を組み合わせる方法を使って,花色及び花弁の形態変異を誘発する効率について調査した.カーネーション(品種ビタル,チェリーピンク,フリル花弁)から採取した葉にカーボンイオンもしくはX線を照射し,シュートが再生されるまで培地上で培養した.カーボンイオン照射では,705個体の再生植物体から16個体の変異体が得られた.これらの変異体は非常にバラエティーに富んでおり,ピンク,濃ピンク,淡ピンク,サーモン,レッドの花色に加え,複色やストライプの花色,丸弁やダイアンサスタイプの花弁を持つ個体が得られた.それに対してγ線では,556個体の再生植物体から7個体の変異体が得られたが,それらはピンク,濃ピンク,淡ピンクの3種類だけであった.これらの結果は,イオンビームがX線に比べて花色及び花弁の形態変異において広い変異スペクトルを有すること,ならびに,イオン照射と組織培養を組み合わせた方法によって短期間で実用品種を育成できることを示している.


310752
Chromosomal rearrangements in interspecific hybrids between Nicotiana gossei Domin and N. tabacum L., obtained by crossing with pollen exposed to helium ion beams or γ-rays
北村智* ; 井上雅好* ; 近江戸伸子* ; 福井希一* ; 田中淳
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 206, p.548-552(2003) ; (JAERI-J 20265)

 栽培タバコNicotiana tabacum L.と野生タバコN. gossei Dominとの間には強い交雑不親和性が存在するため,通常の交雑では種間雑種を得ることは極めて困難である.にも関わらず,われわれは,ヘリウムイオンビームあるいはγ線を照射したN. tabacum花粉を交雑に用いることにより,交雑不親和性を打破し,N. gosseiとの種間雑種を得ることにすでに成功している.今回,親種のゲノムDNAを用いた蛍光in situハイブリダイゼーション法により,これらの種間雑種の染色体構成を調査した.ヘリウムイオンビーム照射花粉を用いて得た雑種では,多くの根端細胞は,18本のN. gossei染色体と24本のN. tabacumからなっていることが明らかとなり,このことは,両親の染色体数から期待される雑種の染色体構成と一致する.しかし,これらの雑種の幾つかの細胞では,両親ゲノム間の転座や挿入といった大きな染色体再編成が起こっていることが示された.再編成の起こった染色体における両親ゲノムの境界点は,主に,動原体近傍あるいは二次狭窄領域であった.一方,γ線照射花粉を用いて得た雑種では,両親ゲノム間の染色体組み換えは検出されなかったが,全ての細胞が41本の染色体を保持しており,それらのうちN. gosseiに由来する染色体が19本であることが示された.


310751
Proton radiation analysis of multi-junction space solar cells
住田泰史* ; 今泉充* ; 松田純夫* ; 大島武 ; 大井暁彦* ; 伊藤久義
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 206, p.448-451(2003) ; (JAERI-J 20264)

 宇宙用に開発された三接合型(InGaP/GaAs/Ge)太陽電池の陽子線照射効果を明らかにするため,20keVから10MeVのエネルギー範囲の陽子線を照射し,電気的・光学的特性の変化を調べた.モンテカルロシュミレーションより見積もった陽子線の侵入長を考慮して特性劣化を解析した結果,ミドルセルであるGaAsセルの接合付近が陽子線の侵入長にあたる場合に最も特性の劣化が大きいことを見出した.このことより耐放射線性のさらなる向上にはGaAsミドルセルの耐放射線性向上が重要であると結論できた.


310947
Characterization of air-exposed surface β-FeSi2 fabricated by ion beam sputter deposition method
斉藤健* ; 山本博之 ; 山口憲司 ; 仲野谷孝充 ; 北條喜一 ; 原口雅晴* ; 今村元泰* ; 松林信行* ; 田中智章* ; 島田広道*
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 206, p.321-325(2003) ; (JAERI-J 20430)

 放射光を利用したX線光電子分光法(XPS)を用い,β-FeSi2の表面酸化過程を解析した.Si(111)基板表面にβ-FeSi2を生成後,約2日間大気曝露を行い,表面酸化を試みた.XPSによりシリサイド表面の非破壊深さ方向分析を行った結果,シリサイドはアイランド状の構造をとっており,基板のSi表面も一部露出した構造をとっていることが明らかとなった.シリサイド精製時のアニール温度や初期膜厚の違いにより,表面組成が異なることが明らかとなった.シリサイド表面がSiリッチな状態の試料に関し表面酸化を行った場合には,表面に非常に薄いSiO2薄膜が生成し,シリサイドがほとんど酸化されなかった.しかしながら,Feリッチな試料の場合にはシリサイドが著しく酸化されることが確認された.このことから,表面付近に生成するSiO2酸化物相がシリサイド薄膜の酸化保護膜として機能していることが推測された.


310843
Effect of surface treatment of Si substrate on the crystal structure of FeSi2 thin film formed by ion beam sputter deposition method
原口雅晴* ; 山本博之 ; 山口憲司 ; 仲野谷孝充 ; 斉藤健* ; 笹瀬雅人* ; 北條喜一
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 206, p.313-316(2003) ; (JAERI-J 20336)

 環境半導体,β-FeSi2は環境に配慮した元素から構成され,受発光素子・熱電変換素子などへの応用が期待される材料である.本研究ではSi基板の表面処理法が成膜したβ-FeSi2の結晶性に及ぼす影響を検討することを目的として,高温加熱処理,スパッタ処理,化学処理の3種の異なる方法で処理した基板を用いてそれぞれFeをスパッタ蒸着し成膜を試みた.得られたX線回折スペクトルから,高温加熱処理した基板を用いた場合は成膜温度973Kにおいてβ相ではあるものの種々の結晶方位が混在する膜となった.一方スパッタ処理,化学処理による基板の場合ではいずれも比較的良好な結晶性を持つβ-FeSi2膜が得られた.透過型電子顕微鏡による薄膜断面の像からもそれぞれの基板処理法によって基板表面の構造とともに膜の結晶性が変化することを示すとともに,簡易な処理法であるスパッタ処理においても結晶性が良好であることを明らかにすることができた.なおホール効果測定によるキャリア密度との関係についても併せて議論を行った.


310750
Disordering in Li2TiO3 irradiated with high energy ions
中沢哲也 ; Grismanovs, V.* ; 八巻大樹 ; 片野吉男* ; 有賀武夫
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 206, p.166-170(2003) ; (JAERI-J 20263)

 高エネルギー酸素イオン照射したLi2TiO3の結晶構造及び化学状態等の変化をラマン分,X線回折及び走査型電子顕微鏡(SEM)で調べた.ラマン分光分析からは化学構造の際だった変化は観察されなかった.一方,X線回折からは1.2E+19 ions/m2までの照射で(002)の回折ピークの減少が他のピークと比較して著しいことが観察された.この結果はLi原子とTi原子の部分的なミキシングが照射によって引き起こされていることを示している.このような照射によるミキシングに起因した無秩序化への移行が表面層での粒構造の消失としてSEMによっても観察された.


320107
Total cross sections for charge transfer by multiply charged neon and argon ions colliding with various hydrocarbons at keV energies
日下部俊男* ; 宮本吉晴* ; 石田力也* ; 伊藤浩二朗* ; 畔柳信洋* ; 中井洋太* ; 白井稔三
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 205, p.600-604(2003) ; (JAERI-J 20641)

 Neq+(q=2-6)及びArq+(q=2-9)とCH4, C2H2, C2H4, C2H6, C3H4, C3H6, (CH2)3, C3H8の衝突による一電荷及び多電荷の移動断面積を測定した.電荷移動の全断面積は ,一電荷及び多電荷の移動断面積の和によって求めた.ここで扱った多原子分子に対しては,イオンの電荷数と分子の第一電離ポテンシャルを関数として,原子と簡単な分子に対する古典的なオーバー・バリア・モデルでスケーリングできることがわかった.また,電荷移動の全断面積は炭化水素分子の全電子数と結合の数に依存することを見いだした.


310842
Ejected electron spectra from highly excited states in high-energy collisions of Oq+ with He
川面澄* ; 高広克巳* ; 今井誠* ; 左高正雄 ; 小牧研一郎* ; 柴田裕実*
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 205, p.528-532(2003) ; (JAERI-J 20335)

 東海研タンデム加速器を利用し高エネルギー領域における0度電子分光法により,ヘリウム原子との衝突による,酸素多価イオン(電荷3+から5+)からの放出電子スペクトルを測定し,オージェ電子とコスタークロニッヒ電子を同定した.低エネルギー領域においては励起状態は電子捕獲によって励起が起こりやすいが,高エネルギー領域では高励起状態は電子励起で起こりやすい.われわれは低エネルギー衝突による励起と比較し,オージェ電子スペクトルは低エネルギー衝突の場合とは異なっている.コスタークロニッヒ電子スペクトルでも低エネルギーの場合とは異なり,高エネルギー領域では励起状態は比較的低角運動量状態にあることを見いだした.


310665
Short wavelength X-ray emission generated by high intensity laser irradiation on Xe clusters
森林健悟
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 205, p.346-349(2003) ; (JAERI-J 20179)

 高強度レーザーをゼノンやクリプトンクラスターに照射すると,高温高密度状態が発生し,電子衝突電離過程により多価イオン及びその内殻励起状態,多重内殻励起状態が生成され,短波長X線が発生することが観測されている.ここでは,高強度レーザーをゼノンクラスターに照射したときの多価イオン生成過程,及びX線発生過程に関するシミュレーション研究を行った.電子密度を1022/cm3〜5×1025/cm3,電子温度を1〜40keVとして,X線発生量の密度・温度依存性を調べた.その結果,1023cm-3以上の密度,5keV以上の温度のとき,実験で観測されているようにXe35+という高電荷イオンからのX線発生量が大きくなることがわかった.また,イオンの電荷が大きくなるにつれて,電子衝突電離断面積が小さくなり,それに伴って内殻励起状態の寿命が長くなり,その結果,X線量が増えることを明らかにした.X線量から評価した密度は,プラズマシミュレーションで算出される値よりも非常に大きい.今後,さらに,原子過程モデルを高精度にするために,電子衝突励起過程など他の高速原子過程を考慮する必要がある.


310664
X-ray emission from inner-shell ionization of Ne-like ions
森林健悟 ; 香川貴司* ; Kim, D. E.*
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 205, p.334-336(2003) ; (JAERI-J 20178)

 イオンの内殻励起電離過程にかかわる原子データとその応用に関する研究を行っているが,今回は,X線天文学への応用に関して考察を行う.2005年に衛星「Astro-E2」が打ち上げられるが,「あすか」など今までの衛星よりも分解能の良いX線検出器が搭載される予定である.これにより,今まで以上に高精度な原子データを用いれば,宇宙をより深く理解できることが予想される.ここでは,イオンの内殻励起電離過程にかかわる原子データがX線連星から発生するX線スペクトル解析に重要であることを示した.SイオンとFeイオンが黒体輻射場にあるときの内殻励起状態からのX線量を計算した.黒体輻射の温度が低いとき内殻励起状態から発生するX線量はHeαよりも非常に少ないが,温度が3keVを超えると両者は,ほぼ同じになる.これを種々の元素に対してX線量を評価することにより,光の温度を推測できる可能性があることを明らかにした.


310549
A Laser ion source with a thin ohmic-heating ionizer for the TIARA-ISOL
小泉光生 ; 長明彦 ; 大島真澄 ; 関根俊明 ; 涌井崇志* ; Jin, W.* ; 桂川秀嗣* ; 宮武宇也* ; 石田佳久*
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 204(1-4), p.359-362(2003) ; (JAERI-J 20103)

 原研高崎オンライン同位体分離器(TIARA-ISOL)用に抵抗加熱型レーザーイオン源を製作した.本イオン源では,30μmの金属膜でできたイオン化室を用いた.その結果,イオン化室に抵抗加熱で生成される電場勾配を4-5V/cmまで増やすことができた.オフライン実験において,イオン源から引き出される27Al(安定核)パルスイオンビームの時間広がりを調べた結果,半値幅が4μmまで狭くなったことを確認した.オンライン実験において,25Al(半減期7.2秒)を16O(12C, p 2n)反応で生成し,イオン化効率を調べた結果,約0.1%を得た.


310663
Ion source development for the JAERI on-line isotope separator
市川進一 ; 長明彦 ; 松田誠 ; 塚田和明 ; 浅井雅人 ; 永目諭一郎 ; Jeong, S. C.* ; 片山一郎*
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 204, p.372-376(2003) ; (JAERI-J 20177)

 原研タンデム加速器と高エネルギー加速器研究機構の短寿命核分離加速実験装置を用いた,RNB加速実験計画と,核反応で合成された短寿命核のイオン化に用いる低圧アーク放電型イオン源の製作と開発について述べた.またRNB計画で最初に予定されている物質中の拡散挙動の研究に用いるプローブ核,8Li,18F,20Fイオンビームの開発状況についてまとめた.


310461
Time-resolved photoelectron spectroscopy of oxidation on the Ti(0001) surface
高桑雄二* ; 石塚眞治* ; 吉越章隆 ; 寺岡有殿 ; 水野善之* ; 頓田英樹* ; 本間禎一*
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 200, p.376-381(2003) ; (JAERI-J 20027)

 Tiは耐食性,耐熱性に優れた性質から今日広く使われている.Ti表面は活性であるため酸化による不動態化が必要であるが,Ti酸化膜の形成過程についてはよく理解されていない.本研究では極薄膜のTi酸化膜の形成過程における化学結合状態を調べることを目的としてTi(0001)表面の初期酸化過程を放射光を用いた時間分解光電子分光でその場観察した.実験には原研ビームラインBL23SUの表面反応分析装置を用いた.Ti-2p,O-1sの光電子スペクトルをそれぞれ40eV,10eVの広い範囲にわたって短時間で計測して時間発展を観察することに成功した.酸化の初期においては最表面Tiの酸化に伴い内殻準位のエネルギーがシフトしたTiの成分が減少し,酸化の進行に伴って再び最表面にTi層が出現するとともに酸化が再び進行することがわかった.


310841
Active control of site specificity in ion desorption by core excitation
和田眞一* ; 佐古恵理香* ; 隅井良平* ; 輪木覚* ; 漁剛志* ; 関口哲弘 ; 関谷徹司* ; 田中健一郎*
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 199, p.361-365(2003) ; (JAERI-J 20334)

 内殻軌道電子が特定原子に局在しているため放射光エネルギーを共鳴励起準位に合わせることにより励起された原子近傍の結合解裂(「サイト選択光分解」)が促進されると予想される.ポリマー(ポリメチルメタクレート,PMMA)薄膜,PMMAの類似モノマーであるメチルイソブチル酸エステルの凝集薄膜及びPMMAに類似した自己組織化単分子(SAM)薄膜(HS(CH2)2COOCH3)の放射光照射を行い分子環境の変化及び光偏光角度の変化が及ぼす分解反応の選択性への影響を調べた.ポリマー薄膜と単分子薄膜はサイト選択分解が起こるのに対し凝集薄膜では選択分解は起こらない.またSAM膜では顕著な偏光角度依存性が観測された.分子環境が反応選択性に大きく影響することが見いだされた.


310397
X-ray absorption near edge structure of DNA bases around oxygen and nitrogen K-edge
藤井健太郎* ; 赤松憲* ; 村松康司 ; 横谷明徳
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 199, p.249-254(2003) ; (JAERI-J 19975)

 DNAを構成している分子の軟X線光化学反応の知見を得ることは,細胞内の複雑なDNA損傷とその修復反応を解き明かすための第一歩となる.DNA構成要素の電子状態を調べることは,放射線によるDNAの鎖切断や塩基損傷のメカニズムを知るうえで重要な知見を与える.本研究では,DNA構成分子のそれぞれのX線吸収微細構造(XANES)スペクトルを測定し,分子軌道法(DV-Xα法)を用いてその帰属を行った.DNA及びその構成ユニットの窒素・酸素のK吸収端近傍のXANESスペクトルは蒸着試料の全電子収量を測定することによって得られた.実験は大型放射光施設SPring-8の日本原子力研究所軟X線ビームライン(BL23SU)で行った.XANESスペクトルの帰属は,DV-Xα法を用いた分子軌道計算の結果を元に行った.DNAのXANESスペクトルは大きく分けて,低エネルギー(π*)領域と高エネルギー(σ*)領域に分けることができ,π*領域のスペクトル構造は主に塩基の電子状態に由来していることがわかった.また,π*領域内は各々の塩基によってスペクトル構造が顕著に異なり,照射する単色軟X線の光のエネルギーを選択することで,特定の塩基を選択的に励起することが可能となる.


310608
Se-scaling of lattice parameter change in high ion-velocity region (v≧2.6×109cm/s) in ion-irradiated EuBa2Cu3Oy
石川法人 ; 岩瀬彰宏 ; 知見康弘 ; 道上修* ; 若菜裕紀* ; 橋本健男* ; 神原正* ; Muller, C.* ; Neumann, R.*
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 193(1-4), p.278-282(2002) ; (JAERI-J 20143)

 広い範囲のエネルギー(80MeV-3.84GeV)の重イオンを酸化物超伝導体EuBa2Cu3Oyに照射し,電子励起効果による格子定数変化を測定した.その結果,高速イオン速度のときにのみ,照射による格子定数変化は,電子的阻止能の4乗則に従い,低速になると,その法則からずれてくることがわかった.さらに,初期イオン化率を用いて解析すると,そのずれが解消され,全てのイオン速度において初期イオン化率のみに依存する,いわゆるクーロン爆発モデルを示唆する振る舞いが観測された.


310607
Lattice parameter change due to electronic excitation in insulating EuBa2Cu3Oy
石川法人 ; 岩瀬彰宏 ; 知見康弘 ; 道上修* ; 若菜裕紀* ; 橋本健男*
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 191(1-4), p.606-609(2002) ; (JAERI-J 20142)

 EuBa2Cu3Oyは,熱処理により酸素量を変化させることができ,δ=0のときは伝導性をもち,δ=1のときは絶縁体となる.酸素量変化によって電気抵抗を大きく変化させたにもかかわらず,高エネルギーイオン照射による電子励起効果は,酸素量に依らず同じであることがわかった.


320109
Electron paramagnetic resonance induced by K-shell resonance excitation in DNA bases in solid state
横谷明徳 ; 赤松憲* ; 藤井健太郎*
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 99, p.366-369(2003) ; (JAERI-J 20643)

 これまでの放射光を用いた生体分子損傷研究では,おもにエンドポイントである反応生成物に主眼が置かれてきた.一方軟X線光反応を起こした直後の反応中間体の一つとして推測されるラジカル分子種については,ほとんど知見がない.この理由は,放射光ビームラインにラジカル分子種をその場"in situ"測定するための装置がなかったためである.不対電子を有するラジカル分子種はイオンと中性の両方の場合があり,また照射試料表面から脱離せずにバルク中に残る場合も多いと考えられる.このため通常のイオン分光等の測定のみでは,その全貌を追跡することが困難である.このような状況を踏まえ,われわれはラジカル測定のための電子常磁性共鳴装置を備えた実験ステーションを,これまでSPring-8に立ち上げてきた.本講演では,DNA構成塩基を試料として試験的に試みた幾つかのラジカル測定に成功したので,これを報告する.


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