2003年度

レーザー研究


320238
Ba(NO3)2及びCaCO3結晶の後方誘導ラマン散乱によるパルス圧縮/増幅特性
出来恭一* ; 松岡史哲* ; 鄭和翊* ; 有澤孝
レーザー研究 31(12), p.854-859(2003) ; (JAERI-J 20761)

 硝酸バリウム,カルサイトの2種の利得係数の大きく異なるラマン結晶を用いて後方ラマン光発生とそれに伴うパルス圧縮,及び増幅の基礎特性を実験的に調べた.硝酸バリウム結晶では15倍のパルス圧縮比と50%以上のストークス光の反射率を達成した.また,後方ストークス光発生時,主パルスに引き続く第2パルスが広い条件下で発生することを見いだし,かつこの第2パルスはラマン発生用結晶配置の調整により制御可能であること,またラマン増幅器においては,ポンプ光と入力光の出会いのタイミングの調節によって主パルスのみを選択的に増幅でき,第2パルスが無視できる程度にその相対強度比を低め得ることも実験的に明らかにした.以上より,複雑,高価なCPA方式を用いない,簡便な手段により小型,低価格の短パルス(数十ピコ秒)レーザーの実現が可能であることを実験的に示すことができた.


320067
超短パルス超高強度レーザーを用いた癌治療用イオン源の開発
松門宏治* ; Bulanov, S. V.* ; 大道博行
レーザー研究 31(11), p.721-729(2003) ; (JAERI-J 20617)

 近年,炭素等の重イオンビームや陽子ビームを用いた癌治療(以下,粒子線癌治療)が脚光を浴びている.この方法は,手術に依らずに癌細胞のみを消滅させるので,高齢や心臓疾患などで手術に耐える体力が無い患者にも適用できる.さらに,癌にかかった臓器を切除せずに治療するため,回復後の患者の日常生活への復帰が比較的容易である等の優れた特長を有し,その普及が期待されている.ところが,後述のように,治療には核子あたりエネルギー数百MeVのイオンビームが必要であり,現状では既存の加速器が用いられているが,装置のサイズが大きくなる事や高価である事,また加速器の専門家にしか装置を運転できない事,放射線防護の問題などから,一般の病院への導入には困難が伴う.これらの困難を打開するため,従来の加速器技術の改良による小型低価格な加速器を目指したプロジェクトが進められている.一方,近年発展の著しい超高強度レーザー技術と現状の加速器技術とを融合させ,加速器に革命を起こそうとする一連の研究開発が進められている.その一環として,最近レーザープラズマイオン源が着目されている.1018W/cm2以上のレーザーで薄膜ターゲットを照射して生じる相対論的レーザープラズマからは,指向性を持った核子あたりのエネルギーが数MeV〜数百MeVのイオンが発生する事が知られている.レーザープラズマイオン源を従来の加速器の入射器,あるいは,これで加速器自身をそっくり置き換えてしまう事ができれば,装置全体の小型化,それに伴う低コスト化が可能になる.また,レーザーそのものは放射線を発生しないので,放射線遮蔽の問題が軽減するというメリットもあり,粒子線癌治療の普及に寄与できるものと思われる.粒子線癌治療の現状と癌治療への応用を目指したレーザープラズマイオン源の研究と開発の現状について紹介する.


320066
高繰り返し高強度超短パルスレーザーを用いた実験室宇宙物理学の可能性
西内満美子 ; 大道博行 ; 高部英明* ; 松門宏治*
レーザー研究 31(11), p.711-720(2003) ; (JAERI-J 20616)

 天体物理の分野で見られるような極限状態は,近年における超高強度レーザー研究の発展により,広いパラメータにわたるプラズマが生成可能になり,地上の実験室で広い範囲の天体プラズマが生成可能になった.超高強度レーザーをターゲットに照射した時にできるプラズマは超高密度・超高温度の状態にある.このようなプラズマの内部における物理過程は,宇宙における天体現象を支配している物理過程と同様であることが期待される.これから,超高強度レーザーを用いたプラズマ実験が,宇宙における極限状態:「模擬天体」を提供でき,宇宙物理における弱点を補うことができるものと期待される.具体的には流体力学,原子物理,輻射輸送,相対論的プラズマ,核反応プラズマ,重力相互作用等の課題が,両者のオーバーラップする研究領域となっている.本論文では,これら実験室宇宙物理の観点で位置づけて具体的実験例を紹介している.


320065
超高強度レーザーと相対論工学
田島俊樹
レーザー研究 31(11), p.707-710(2003) ; (JAERI-J 20615)

 高強度レーザー中では電子の運動が相対論的になり始める.このために物質は相対論的非線形性とでもいえるような反応をレーザーに対して示す.この性質により顕著な現象やその応用が立ちあらわれる.これを巧く使えば今までの技術では到達出来なかったさまざまな利用が可能になる.コンパクトなレーザー加速はその一つである.例えば,レーザー加速の際にあらわれる航跡場を適当に制御することにより対向する第2のレーザーを極めて高強度に集光できる可能性があることを示せる.こうした超高強度場のもとで出現すると考えられる幾つかのユニークな物理現象について触れる.これは,われわれが相対論工学と呼ぼうとしている新しい技術の単に一つの例である.


320064
超短パルス超高強度レーザーと物質との相互作用
大道博行
レーザー研究 31(11), p.698-706(2003) ; (JAERI-J 20614)

 現在,集光レーザー光強度1020W/cm2が達成されておりターゲット照射実験が活発に行われている.レーザーパルス幅を10フェムト秒程度にすることができれば,エネルギー1J程度で強度1020W/cm2が達成可能である.このレーザーのコヒーレントエネルギーがプラズマ中の電子の相対論的運動エネルギーに変換される過程を論文中で詳しく紹介している.この変換過程はレーザーのコヒーレンスを物質中のコヒーレントエネルギーに変換する過程とも解釈でき,電子はレーザー光伝播方向に集団加速される.発生する高エネルギーイオン,X線等にも指向性が生じる.相互作用を工夫するとエネルギー領域のスペクトルを狭くすることも可能であるとのシミュレーション結果もあり,アイデアを先鋭化させる必要がある.これらの結果は基礎科学に大きく貢献するのみならず,小型高繰り返し運転に支えられた産業利用への発展も示している.


311076
リアルタイム遠隔観測機能を有するYAGレーザー溶接用複合型光ファイバシステム
岡潔
レーザー研究 31(9), p.612-617(2003) ; (JAERI-J 20527)

 原研では,配管内という狭隘な空間において,溶接・切断加工の状況や加工前後の観察を行うことを目的に,1 系統の光ファイバとレンズ光学系で溶接・切断・観察作業を可能とする複合型光ファイバシステムの開発を行ってきた.本件では,開発した複合型光ファイバシステムを使用して高出力YAGレーザを導光する試験を行い,安定したレーザ伝送性能及び画像伝送性能が得られることを確認した.これは,カップリング装置に対して,高出力レーザを複合型光ファイバに入射する際に問題となるレーザの吸収による熱の発生を考慮し,熱が拡散しやすい構造の適用や,水冷により発生した熱を強制的に除去する等の対策を講じた結果,達成可能になったものである.なお,同ファイバにおいては,さらに高出力のレーザパワーを伝送できる可能性を秘めていると考えられる.また,本ファイバシステムを医療用レーザ治療に技術を転用した.現段階では,対物レンズに伝送ロスの問題はあるが,レンズに反射防止コーティング等を行うことで改善が可能であり,低出力な医療用レーザ治療へ適用可能であることを示した.


310616
25J green beam generation using large aperture CsLiB6O10 frequency doubler
桐山博光 ; 井上典洋* ; 山川考一
レーザー研究 31(4), p.282-285(2003) ; (JAERI-J 20151)

 極短パルス・超高ピーク出力チタンサファイアレーザーのより高出力化を目的として高エネルギーグリーン光発生のための波長変換器の開発を行った.本波長変換器は高エネルギーでかつ低い入射レーザー光強度で高い変換効率を達成するため,大型結晶の育成が容易で非線形光学定数の大きいCLBO結晶を採用した.本実験では入射レーザー光にNd:ガラスレーザー光を用い,非線形光学結晶にはタイプII位相整合の30mm×30mmと大形CLBO結晶を2つ用い,直列に配置した.34-JのNd:ガラスレーザー光に対して25-Jの高エネルギーグリーンエネルギーが得られた.370MW/cm2と低い入射レーザー光強度に対して74%の高い変換効率を達成した.また,空間プロファイルはほぼフラットトップであり,チタンサファイア結晶の励起に適していることがわかった.


311075
Optical field ionization of rare gas atoms by >1019 W/cm2, 10-Hz laser pulses
山川考一 ; 赤羽温 ; 福田祐仁* ; 青山誠* ; 井上典洋* ; 上田英樹*
レーザー研究 30(12), p.749-750(2002) ; (JAERI-J 20526)

 光量子科学研究センターでは,高強度場科学と呼ばれる新しい光量子科学分野におけるさまざまな基礎・応用研究を目的に,極短パルス・超高ピーク出力Tキューブレーザーの開発を進めてきた.われわれは,既に開発に成功したピーク出力100TW,パルス幅20fsのチタンサファイアレーザー光を希ガス原子に集光し,トンネルイオン化過程により生成する多価イオンを飛行時間分解型質量分析器によって計測することにより,相対論効果が顕著となる集光照射強度2.6×1019W/cm2において,アルゴンの16価,クリプトンの19価,キセノンの26価を観測した.こうして生成したイオンは,これまで光電界のみでイオン化した場合の最高価数である.


311074
Generation of a 0.55-PW, 33-fs laser pulse from a Ti:sapphire laser system
山川考一 ; 青山誠* ; 赤羽温 ; Ma, J.* ; 井上典洋* ; 上田英樹* ; 桐山博光
レーザー研究 30(12), p.747-748(2002) ; (JAERI-J 20525)

 われわれは,高強度場科学と呼ばれる新しい光量子科学分野におけるさまざまな基礎・応用研究を目的に,極短パルス・超高ピーク出力Tキューブレーザーの開発を進めている.本論文では新たに開発に成功したピーク出力550TW,パルス幅33fsのチタンサファイアレーザーシステムを中心に,Tキューブレーザー開発において最も重要となる極短パルス(パルス幅〜10fs)レーザー光の増幅過程におけるレーザー制御技術及び大口径チタンサファイア増幅器における寄生発振制御,高効率増幅技術について述べる.


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