2003年度

Materials Science Forum


320191
Positron annihilation methods by γ-rays produced in laser-induced compton-backscattering
平出哲也 ; 豊川弘之 * ; 大平俊行* ; 鈴木良一* ; 大垣英明*
Materials Science Forum 445-446, p.474-476(2004) ; (JAERI-J 20714)

 陽電子消滅法はとてもユニークで重要な手法であるが,陽電子は通常試料外部から入射する.そのため,試料は真空中に置くか,放射性同位元素を試料で挟み込まなくてはならない.最近,SelimらはLinacを用いて2MeVのγ線を作り,そのγ線で試料内部に陽電子を生成させることで,厚みのある試料内部を試料の破壊をせずに陽電子手法で観察することに成功した.われわれも同様の手法をレーザー誘起コンプトンバックスキャッタリングγ線(20MeVまで)により試料内部に陽電子を生成させ試みてきた.この手法ではまっすぐに進むγ線上に試料を置くだけでよく,試料は空気中,ガス中でも問題なく,例えば,高温試料,融点付近の金属などの陽電子消滅法による観察なども可能である.


320190
Observation of fast positron diffraction from a Si(111)7×7 surface
河裾厚男 ; 深谷有喜* ; 林和彦* ; 前川雅樹 ; 石本貴幸* ; 岡田漱平 ; 一宮彪彦*
Materials Science Forum 445-446, p.385-389(2004) ; (JAERI-J 20713)

 これまで,われわれは反射高速陽電子回折における全反射と一次ブラッグピークの存在を実証した.しかしながら,最構成表面に付随する分数次回折点の観測には至っていなかった.そこで,Si(111)7×7を用いて陽電子回折実験を行った.その結果,陽電子回折図形における1/7から3/7の分数次ラウエ帯の存在を発見した.さらに,鏡面反射点の入射視射角依存性(ロッキング曲線)を決定し,アドアトムによる陽電子の非弾性散乱に起因する構造を見いだした.従来の電子回折実験で決められている原子配置と吸収ポテンシャルを使用すると,実験結果が再現されないことから,これらのパラメータを変更する必要があることが判明した.


320189
Positronium formation reaction of polarized positrons and polarized electrons
平出哲也 ; 熊田高之
Materials Science Forum 445-446, p.301-303(2004) ; (JAERI-J 20712)

 高分子や分子性固体に入射した陽電子は陽電子トラックの末端に形成されるスパー近傍で熱化し,近くに存在する過剰電子などの活性種と反応し,ポジトロニウムを形成する.この形成では電子のスピンは完全にランダムである.一方,放射線等で起こるイオン化に伴って放出される電子は十分低温では浅く束縛され,暗黒中で長時間安定に存在する.自由陽電子は浅く束縛されている電子を引き抜いてポジトロニウムを形成できるが,この電子の場合,強磁場中,極低温に置くとスピンの方向は揃いはじめ,偏極させることができる.そこに偏極陽電子を入射し,形成されるポジトロニウムのスピン状態に効果が現れることを実験で確認した.


320188
Positronium formation at low temperatures; Ideas of usage of the new Ps formation
平出哲也
Materials Science Forum 445-446, p.234-238(2004) ; (JAERI-J 20711)

 浅く捕まった電子と陽電子によるポジトロニウム形成は低温域での高分子中や分子固体中の現象を矛盾なく説明し,予測された現象,可視光の効果,ポジトロニウム形成の電子濃度依存性,遅れて起こる形成,などを実験により検証した.この新しいポジトロニウム形成は浅く捕まった長寿命の電子と陽電子の反応によるため,強磁場中,極低温では浅く捕まった電子がスピン偏極する.ここにスピン偏極した陽電子を入射し,ポジトロニウム形成を起こすと,形成されたポジトロニウムのスピン状態の分布に反映され,実験で確認できる.この現象を用いることにより,陽電子のスピン偏極率の測定も可能であると考えられる.これら内容について招待講演する.


310743
Modelling of radiation response of p-Channel SiC MOSFETs
Lee, K.* ; 大島武 ; 伊藤久義
Materials Science Forum 433-436, p.761-764(2003) ; (JAERI-J 20256)

 pチャンネル炭化ケイ素(SiC)金属−酸化膜−半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)のγ線線量計への応用の可能性を調べた.SiC MOSFETは,n型エピ基板へ800℃でアルミニウム(Al)イオンを注入後,アルゴン(Ar)中で1800℃,1分間熱処理することでソース,ドレイン領域を形成し,1100℃での水素燃焼酸化によりゲート酸化膜を作製した.ソース,ドレインのAl電極は蒸着後にAr中で850℃,5分間熱処理することでオーミック化した.γ線照射は室温で1MR/hの線量率で行った.照射によるしきい値電圧(VT)の変化と線量(D)の関係を解析した結果,VTの変化はK×Dn,K=-6.4,n=0.39で表せることを見出した.


310742
Annealing of vacancy-type defect and diffusion of implanted boron in 6H-SiC
大島武 ; 上殿明良* ; 江龍修* ; Lee, K.* ; 安部功二* ; 伊藤久義 ; 中嶋賢志郎*
Materials Science Forum 433-436, p.633-636(2003) ; (JAERI-J 20255)

 6方晶炭化ケイ素(6H-SiC)へボロンの注入を行い,注入後熱処理による結晶性の回復とボロンの拡散の関係を調べた.結晶性に関しては陽電子消滅法を用い空孔型欠陥を,ボロン拡散については二次イオン質量分析法(SIMS)を用いて調べた.その結果,800℃から1000℃の熱処理により空孔型欠陥がクラスター化すること,1100℃以上の熱処理により空孔クラスターのサイズの減少が生じること,1500℃以上の熱処理で空孔型欠陥は観測限界以下になり結晶性が回復することが分かった.一方,ボロン拡散に関しては,1300℃以下では観測されず,1400℃以上の熱処理で,表面拡散が観測された.このことより,ボロン拡散は空孔型欠陥の拡散や移動とは直接関係ないことが見い出された.陽電子消滅の詳細な解析を行ったところ,1500℃で空孔型欠陥は観測されないが,陽電子の拡散長は未注入試料に比べ短いことが分かった.この結果は,空孔型欠陥はないものの,格子間元素等の散乱体が依然存在することを意味する.このことより,ボロン拡散は,格子間元素とボロンの交換によるkick-out機構で発生することが示唆される.


310741
Polytype-dependent vacancy annealing studied by positron annihilation
河裾厚男 ; 吉川正人 ; 前川雅樹 ; 伊藤久義 ; 千葉利信* ; Redmann, F.* ; Rehberg, R. K.* ; Weidner, M.* ; Frank, T.* ; Pensl, G.*
Materials Science Forum 433-436, p.477-480(2003) ; (JAERI-J 20254)

 これまでの研究では,放射線照射によってSiC中に生成する原子空孔の熱アニールに対する挙動が,多形とともにどのように変化するかは,不明であった.そこで,電子線照射及びヘリウムイオン照射した4H,6H及び3C SiCの原子空孔型欠陥を陽電子消滅で捉え,アニール挙動を調べた.また,消滅γ線の二次元角相関を測定し,六方晶と立方晶SiC中の主要な原子空孔の幾何学的知見を得た.その結果,電子線照射,ヘリウムイオン照射のいずれであっても3C SiC中の原子空孔は,1000℃以下のアニールで消失するが,4H,6H SiC中のそれは,1500℃まで残留することが明らかになった.即ち,3C SiC中の放射線照射損は,4H,6H SiCのそれに比べ,低温のアニールで除去できる.原子空孔の残留量は,3C<6H<4Hの順に増加することがわかり,Hexagonalityが原子空孔を安定化させる要因となることが示唆された.また,3C-SiC中の原子空孔は,単純な四面体対称をもつのに対し,六方晶中のそれは,C軸配向性をもつことが明らかになり,上の推察を裏付けた.


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