2003年度

日本原子力学会和文論文誌


320234
高温ガス炉燃料の再処理技術
角田淳弥 ; 植田祥平 ; 國富一彦 ; 吉牟田秀治* ; 沢和弘
日本原子力学会和文論文誌 2(4), p.546-554(2003) ; (JAERI-J 20757)

 1000℃近い高温の核熱が得られる高温ガス炉は,高温から低温まで,さまざまな形態で熱エネルギーの利用が可能で,例えば,ガスタービンによる高効率な発電,クリーンなエネルギー源として有望視されている水素の製造等,原子力エネルギー利用分野の拡大の可能性を秘めている.日本原子力研究所では,高温工学試験研究の中核施設としての役割を担い,高温ガス炉技術基盤の確立と高度化並びに高温工学に関する先端的基礎研究を目的としたHTTR計画を進めている.高温ガス炉では,燃料として被覆燃料粒子が用いられる.高温ガス炉燃料の再処理には,燃料核を取出す前処理が必要で,前処理技術としてジェットグラインド法を考案した.前処理後はピューレックス法を適用することにより,再処理が可能である.本論文は,高温ガス炉燃料の再処理について記述したもので,黒鉛ブロックの廃棄方法について予備検討を行った結果も併せて示した.


320233
高温ガス炉ガスタービン発電システム(GTHTR300)発電系設備の点検方法・手順
小杉山真一* ; 武井正信* ; 滝塚貴和 ; 高田昌二 ; Yan, X.* ; 國富一彦
日本原子力学会和文論文誌 2(4), p.532-545(2003) ; (JAERI-J 20756)

 GTHTR300の発電系設備に対して既に提案されている保守・点検方針に基づき,点検方法・手順の検討を行った.定期的に開放点検あるいは分解点検を行うこととしたガスタービン,圧縮機及び発電機は1次系圧力バウンダリである動力変換容器内に設置されている点,原子炉冷却材ヘリウムガス環境で使用されるため有意なFP沈着が想定される点で既存の発電プラントにおけるタービンと比べて特徴的であり,従来とは異なる点検方法が必要と考えられる.線量率評価の結果,ガスタービン及び圧縮機廻りの線量率が点検時に有意な被ばく影響を与え得る程度であることを確認した.したがって,開放点検は専用の点検エリアで一定期間の保管冷却後に行うこととした.動力変換容器からの取出し手順は,発電機収納部を切離した後にガスタービン−圧縮機一体のアセンブリとして容器内から引出し,天井クレーンで点検エリアに運ぶこととした.さらに,点検期間短縮の観点から,ガスタービン−圧縮機は予備アセンブリで入替える運用とした.ここで提案した方法・手順により設備利用率90%以上確保に見通しが得られた.なお,被ばく低減対策が今後の重要な検討課題であることを併せて確認した.


320232
HTTR水素製造システムの系統構成及び制御性
西原哲夫 ; 清水明 ; 稲垣嘉之 ; 谷平正典*
日本原子力学会和文論文誌 2(4), p.517-524(2003) ; (JAERI-J 20755)

 地球温暖化対策として燃料電池の導入が期待されており,今後,大量かつ安定に水素を供給するシステムが必要となる.原研では試験研究用の高温ガス炉HTTRを用いた水素製造システムの検討を進めている.本報告では,まず,HTTR水素製造システムの技術課題について検討を行った.そして,HTTR水素製造システムの主系統構成,並びに,本システム特有の機器である水蒸気改質器及び高温隔離弁の構造を示した.そして,定格運転時のヒート・マスバランスを設定し,起動運転時のプラント動特性解析をもとに運転制御特性について検討した結果を示した.


320231
運転監視システムのための分散コンピューティングの枠組み; TTYベースプログラム結合とオブジェクト指向プログラミング
鈴土知明 ; 鍋島邦彦 ; 滝澤寛*
日本原子力学会和文論文誌 2(4), p.500-509(2003) ; (JAERI-J 20754)

 原子炉運転監視システムを目的とした分散コンピューティング構築の新しい方法を提案する.この枠組みにおいて,運転監視システムは複数のモジュールとそれを管理する1つのクライアントから構成される.それぞれのモジュールはTTYベースプログラムとして設計されるため,その開発は容易である.クライアントは遠隔ホスト上のモジュールのインターフェースとして働く仮想モジュールを保持する.これらの仮想モジュールはオブジェクト指向プログラミングの意味でのクラスとして定義されるため,システム全体を容易に構造化することができる.プロトタイプとして,ニューラルネットワークを用いた監視システムを構築したところ,この方法の有用性を確認された.


320230
高温ガス炉ガスタービン発電システム(GTHTR300)使用済燃料再処理
武井正信* ; 片西昌司 ; 國富一彦 ; 泉谷徹*
日本原子力学会和文論文誌 2(4), p.490-499(2003) ; (JAERI-J 20753)

 我が国では,使用済燃料を再処理し,回収されたプルトニウムなどを有効利用する核燃料サイクルを原子力政策の基本としており,高温ガス炉についても使用済燃料のリサイクルを検討する必要がある.そこで,前処理後のウランを六ヶ所再処理施設で処理することを想定し,GTHTR300使用済燃料の再処理について,技術的成立性及び経済性を検討した.その結果,前処理工程については,燃焼法により被覆燃料粒子を取り出し,回転ディスク式粒子破壊機によりSiC層を破壊し焙焼することによりウランを取出せることが示された.さらに,劣化ウランにより希釈することにより六ヶ所村再処理施設で処理できる見通しを得た.経済性については,前処理施設の概略設計を行いGTHTR300使用済燃料の再処理単価を評価した.その結果,GTHTR300の廃棄物処理・処分単価を軽水炉と同等と仮定して燃料サイクルコストを評価すると約1.32円/kWh,再処理コストは約0.18円/kWhと評価でき,軽水炉と同等以上の経済性の見通しが得られた.


320229
高温ガス炉ガスタービン発電システム(GTHTR300)の核熱流動設計
中田哲夫* ; 片西昌司 ; 高田昌二 ; Yan, X.* ; 國富一彦
日本原子力学会和文論文誌 2(4), p.478-489(2003) ; (JAERI-J 20752)

 GTHTR300は,熱出力600MWtの安全性の高いブロック型高温ガス炉と約46%の高い熱効率を持つガスタービンシステムを組み合わせた簡素で経済性に優れた発電システムである.本報告では,核熱流動設計の特長と最新の成果を報告する.GTHTR300の炉心は,高性能燃料の適用とサンドイッチシャッフリング燃料交換方式の採用を通じて,わずか1種類の燃料のみで,(1)取り出し平均燃焼度12万MWd/t,(2)燃料炉内滞在時間1460日で稼働率90%以上,など厳しい所期の目標をすべて満足できた.これにより高性能で経済性の高い炉心を構成できることが確認できた.さらに制御棒操作方法を改善して,同一スタンドパイプ内にある制御棒1対の引き抜き価値を0.2%Δk以下に抑え,最高出力密度をほぼ13W/cm3以下,燃料最高温度1400℃以下として安全裕度の増加に寄与できることを確認した.


320228
潜熱蓄熱を用いた核熱利用システムの熱負荷変動吸収
椎名保顕 ; 西原哲夫
日本原子力学会和文論文誌 2(4), p.418-427(2003) ; (JAERI-J 20751)

 環状流路の内管と外管の間に相変化媒体(PCM)を配すると,PCMの相変化潜熱により内管を流れる伝熱流体温度の変動を低減化することができる.そこで,入口流体温度が周期的に変動する場合の伝熱流体温度変動の低減効果を,近似解析及び数値解析により求めた.その結果,ステップ状温度変化に対する近似解を得るとともに,PCMの熱伝導率を高くすると,低減効果が高くなることがわかった.この結果を用いて,核熱利用システムが,カスケード式に高温ガス炉に接続された場合の上流側システムの熱負荷変動を吸収する装置の実現可能性について検討した.10MWの熱を利用するシステムで,最大±100Kの温度変動が発生した場合に,それに対処できる時間を3時間とすると,その間の熱負荷吸収に必要なPCMの量は約15m3程であり,IHXと同じ寸法の伝熱管を用いると配管長さが約7mあれば温度変動を±5K以内に低減化できることから,十分実現可能であることが示された.


320227
VHTRCにおけるデジタル非線形H推定器による反応度推定実験
鈴木勝男 ; 鍋島邦彦 ; 山根剛 ; 藤井義雄*
日本原子力学会和文論文誌 2(4), p.408-417(2003) ; (JAERI-J 20750)

 原子炉の安全運転や反応度異常の早期検知のためには,オンライン連続的な炉心反応度の監視が必要である.日本原子力研究所の高温ガス炉臨界実験装置(VHTRC)において,デジタル非線形H∞推定器を用いた反応度推定実験を行った.実験方法について,反応度の投入方法,サンプリング周期とアンチエリアシングフィルタ仕様,実験回路やデジタル非線形H∞反応度推定器の設計を述べた.次に,種々の反応度投入に対する出力応答試験の核計装信号のサンプリングデータを入力とするデジタル非線形H∞推定器の反応度推定結果について議論した.その結果,VHTRCの高出力運転及び低出力運転における動的反応度が,真値からほとんど遅れることなく,精度0.05¢〜0.1¢の範囲で良好に推定された.また,デジタル非線形H∞推定器により,周期Ts=10msのデータサンプリングの実時間推定が実現できることを確認した.本実験の結果から,実機のオンライン実時間反応度計として,デジタル非線形H∞反応度推定器が適用可能である見通しを得た.


310969
潜熱蓄熱用高温溶融塩と金属材料の共存性試験
椎名保顕 ; 栗木良郎*
日本原子力学会和文論文誌 2(3), p.375-378(2003) ; (JAERI-J 20452)

 高温ガス炉の熱利用システムの高温熱負荷変動を低減化するには溶融塩の潜熱を利用することが有効である.その場合には,溶融塩と金属材料の共存性が問題となるため,溶融塩の融点付近における溶融塩と金属材料の共存性試験を行った.用いた溶融塩はCaCl2+NaCl(融点490℃),LiCl(610℃),Li2CO3(723℃),NaCl(800℃),金属材料は炭素鋼,SUS316,310S,インコネル625,インコロイ825,アロイ600,ハステロイB2,ハステロイC276,ニッケルである.試験は窒素雰囲気で融点+10℃に100時間保持して行った.その結果,純ニッケルは非常に優れた耐食性を示したが,インコネル625等のニッケル基合金の耐食性は必ずしも良くないことが示された.また,ある程度の腐食を許容すれば高温強度も含めてSUS310Sも構造材料の候補になりうると考えられる.


310968
モンテカルロ法による原子炉線量評価の現状
桜井淳
日本原子力学会和文論文誌 2(3), p.368-374(2003) ; (JAERI-J 20451)

 この論文は,JMTR,常陽,PWR及びBWRのモンテカルロ法による原子炉線量評価の典型的な問題を引用し,モンテカルロ法の有用性と効果性を論じている.JMTRのような照射専用炉では,ユーザーに提供する中性子にかかわる照射データは,モンテカルロ計算で対応できるレベルに対しており,実測はモンテカルロ法の精度確認のためのベンチマーク実験問題の作成のためのものに制限する必要がある.


320226
TRU核種に関する野外核種移行試験,5; 浅地中処分安全評価コードシステムGSA-GCLの妥当性検証
宗像雅広 ; 木村英雄 ; 田中忠夫 ; 向井雅之 ; 前田敏克 ; 小川弘道
日本原子力学会和文論文誌 2(3), p.361-367(2003) ; (JAERI-J 20749)

 中国輻射防護研究院で実施された実験データを用いて,浅地中処分安全評価コードシステムGSA-GCLの妥当性検証を実施した.野外環境調査,人工バリア試験,通気層試験,帯水層試験で得られた核種移行評価用パラメータを選定し,多孔質媒体中地下水流・核種移行モデルによる解析結果を実験結果と比較した.解析結果は実験結果と概ね一致しており,地層中核種移行現象を合理的に説明できた.


310967
TRU核種に関する野外核種移行試験,4; 帯水層土壌における核種移行試験
田中忠夫 ; 向井雅之 ; 宗像雅広 ; 前田敏克 ; 小川弘道 ; Wang, Z.* ; Li, S.* ; Yang, Y.* ; Zhao, Y.*
日本原子力学会和文論文誌 2(3), p.350-360(2003) ; (JAERI-J 20450)

 地表下約30mに位置する帯水層中において,90Sr,237Np及び238Puなどの移行試験を実施し,自然地下環境にある帯水層土壌中で放射性核種の移行データを取得した.また,試験結果を解析評価するために必要な移行パラメータをカラム試験,バッチ試験等室内試験などから取得した.分散係数は,カラム試験から得た水流速と分散長との相関関係に基づき,実流速に対応する値を選定した.分配係数は,データの信頼性,試験条件,環境条件など考慮して選定した.取得した移行パラメータを用いて計算した一次元核種移行挙動は,野外核種移行試験結果とおおむね一致した.したがって,アルファ核種の移行挙動は,室内試験等から取得した移行パラメータと従来の移行評価式で解析評価可能であることが確認できた.


310966
TRU核種に関する野外核種移行試験,3; 通気層土壌中における核種移行試験
向井雅之 ; 田中忠夫 ; 前田敏克 ; 小川弘道 ; 松本潤子 ; 宗像雅広 ; Zhao, Y.* ; Guo, Z.* ; Ni, S.* ; Li, S.*
日本原子力学会和文論文誌 2(3), p.342-349(2003) ; (JAERI-J 20449)

 地質媒体中における核種移行の評価は野外試験に基づくデータが十分でない点で特にTRU核種の浅地層中処分における安全評価で重要である.日本原子力研究所と中国輻射防護研究院間の共同研究として,自然条件下でSr-90,Np-237,Pu-238を用いた野外移行試験を行い,実際の通気層における核種移行データを取得した.既存の移行評価式に入力するパラメータの値を,実験室実験及び野外調査により決定した.取得した値を使用して計算した核種移行分布は野外試験の実測データとおおむね一致し,核種移行評価式の適用性が確認できた.


320060
TRU核種に関する野外核種移行試験,2; 通気層土壌中に埋設した人工バリア材における核種移行試験
前田敏克 ; 田中忠夫 ; 向井雅之 ; 小川弘道 ; 山口徹治 ; 宗像雅広 ; 松本潤子 ; 香西直文 ; 馬場恒孝 ; Fan, Z.* ; Cui, A.* ; Gu, C.* ; Zhao, Y.* ; Sun, Q.*
日本原子力学会和文論文誌 2(3), p.336-341(2003) ; (JAERI-J 20610)

 野外の通気層土壌中に埋設したベントナイト材及びセメント材中における90Sr,237Np及び238Puの移行試験を人工降雨による湿潤条件下及び自然降雨による乾燥条件下でおこなった.いずれの試験結果も,予測される水理条件やこれまでに明らかにされている現象と定性的に一致した.さらに,ベントナイト材については室内試験結果やこれまでに提案されている核種移行メカニズム等から分布を定量的に計算した.野外試験結果と計算結果とを比較することにより,野外における核種移行挙動は室内試験を始めとする既往の知見等からほぼ評価可能であることが分かった.


310965
TRU核種に関する野外核種移行試験,1; 総論
小川弘道 ; 田中忠夫 ; 向井雅之 ; 前田敏克 ; 宗像雅広 ; 松本潤子 ; 馬場恒孝 ; Li, S.* ; Wang, Z.* ; Li, Z.* ; Zhao, Y.* ; Guo, Z.* ; Guo, L.*
日本原子力学会和文論文誌 2(3), p.332-335(2003) ; (JAERI-J 20448)

 原研と中国輻射防護研究院(CIRP;China Institute for Radiation Protection)との共同研究として実施したTRU核種に関する野外核種移行試験の概要とともに,本特集「TRU核種に関する野外核種移行試験」の構成と主要な成果を記述した.


320225
高温ガス炉ガスタービン発電システム(GTHTR300)発電系設備の保守・点検の基本方針
小杉山真一* ; 滝塚貴和 ; 國富一彦 ; Yan, X.* ; 片西昌司 ; 高田昌二
日本原子力学会和文論文誌 2(3), p.319-331(2003) ; (JAERI-J 20748)

 GTHTR300の発電系設備に対する保守・点検の基本方針について検討し,提案を行った.検討に際しては,機器ごとに運転時の使用環境,構造,材料等を考慮し,機能の維持に支障を来す可能性のある劣化・損傷事象を予測した.特に留意すべき事象は,ガスタービンの動翼・静翼に対する高温クリープ及び熱疲労による割れ及び変形等であり,定期的な開放点検により健全性を確認することとした.なお,動翼・静翼には寿命評価による管理が必要であり,劣化傾向を把握し計画的に取り替えることとした.開放点検の周期は設計上の寿命も考慮すると,技術的には最長6年程度までなら妥当であるとの見通しを得た.そのほか,腐食・浸食が予測される前置冷却器及び発電機冷却ガス冷却器の伝熱管をはじめ,圧力バウンダリ機器には軽水炉の相当の検査を行うこととした.また,プラント運転時には巡視点検は行わず,モニタリングにより機器状態を確認することとした.


310964
高温ガス炉ガスタービン発電システム(GTHTR300)用ヘリウムガス圧縮機モデルの空力性能試験計画
高田昌二 ; 滝塚貴和 ; 國富一彦 ; Yan, X.* ; 谷平正典* ; 伊高英彦* ; 森英二*
日本原子力学会和文論文誌 2(3), p.291-300(2003) ; (JAERI-J 20447)

 GTHTR300用ヘリウムガス圧縮機は,3次元空力設計により,高いサージマージン30%を保持しつつ高いポリトロープ効果90%を達成できた.ヘリウムガス圧縮機は,高ボス比のために翼高さに対してチップクリアランスが相対的に大きく,多段型となるので,性能とサージマージンが低下しやすい.本圧縮機は既存の産業用空気圧縮機の空力設計手法及びデータをもとに設計した.本設計手法のヘリウムガス圧縮機への適用の妥当性を評価するために,実機の1/3で4段の圧縮機モデルによる性能試験を計画した.作動流体をヘリウムガス,入口設計圧力を0.88PMaとして十分高いレイノルズ数範囲でデータを取得する.本件は,文部科学省から原研への委託により実施している電源特会「核熱利用システム技術開発」の「高温発電システム」の内容に関するものである.


310787
国内大型原子力施設へのモンテカルロ計算適用の現状
桜井淳 ; 山本俊弘
日本原子力学会和文論文誌 2(2), p.202-214(2003) ; (JAERI-J 20300)

 原研原子力コード研究委員会原子力コード評価専門部モンテカルロシミュレーションワーキンググループは,主にここ10年間の国内大型原子力施設のモンテカルロ計算例について,調査・検討した.調査した対象のうち,大部分は測定値との比較がなされておらず,厳密な確度・精度評価は,これからの課題であることがわかった.いまの状況からすれば,加圧水型原子炉や使用済み燃料輸送船,使用済み燃料中間貯蔵施設に対しては,意図すればいつでも測定値は得られる.高速増殖原型炉ではこれまでの炉物理特性試験で得られたデータからでも部分的に議論できる.ITERや核変換炉については,近い将来,測定値が得られ,計算値との比較も可能になる.モンテカルロ計算は,ベンチマーク実験解析の段階から,大型実施設の解析の段階に移行しており,一部の大型施設で測定値との厳密な比較がなされているものの,多くの大型施設ではこれからの課題である.これから測定値を得るための提案や計算値との比較評価を実施する研究プロジェクトを発足させる必要がある.そして将来的には実施設の解析においてモンテカルロ法を標準的な解析手法に位置付けられるようなデータベースの作成が必要である.


310786
プレートフィン型熱交換器の強度解析
松井真吾* ; 武藤康* ; 椎名保顕
日本原子力学会和文論文誌 2(2), p.175-186(2003) ; (JAERI-J 20299)

 高温ガス炉ガスタービン発電システムでは細密フィン型プレートフィン再生熱交換器が用いられる.本熱交換器では数億個にも及ぶ微細なフィンとプレートが積層されており,その解析手法は未だ確立されていない.本解析では,内圧,定常熱荷重及び非定常熱荷重の各荷重ごとに,それぞれ適切な解析を行い,得られた応力を重ね合わせることにより求める応力を算出することとした.内圧による解析では,フィンに生ずる応力機構が2種類考えられることを明らかにした.定常熱解析では,フィンプレート要素より等価な弾性定数を求めて全体モデルの解析を行い,最大応力を生じた要素のひずみを境界条件として部分モデルの応力を求めた.非定常解析では4段階モデルにより解析を行った.以上の方法により,実用的な計算時間で複雑なモデルの解析を行えることを明らかにした.


310687
JT-60U第一壁におけるトリチウム分布
正木圭 ; 杉山一慶* ; 田辺哲朗* ; 後藤純孝* ; 飛田健次 ; 三代康彦 ; 神永敦嗣 ; 児玉幸三 ; 新井貴 ; 宮直之
日本原子力学会和文論文誌 2(2), p.130-139(2003) ; (JAERI-J 20201)

 JT-60UのW型ダイバータ及び第一壁タイル内に残留したトリチウムをイメージングプレート法及び燃焼法により測定した.両者の測定結果は良い一致を示し,ドーム頂部で最もトリチウム濃度が高く,運転時の表面温度が高いダイバ−タ部では低い値を示した.タイル表面の堆積層の厚さを,走査型電子顕微鏡による断面観察により測定した結果,トリチウム分布と堆積層との相関は認められなかった.DD反応で生成される高エネルギートリトンの軌道損失を,軌道追跡モンテカルロコードで計算した結果,計算結果とイメージングプレート法及び燃焼法によるトリチウム分布の測定結果はよく一致した.また,計算結果と燃焼法測定結果との比較から,ダイバータターゲットタイルに取込まれたトリチウムは,タイル表面の温度上昇により放出されたことがわかった.これらのことから,JT-60Uのダイバ−タ及び第一壁タイルのトリチウム分布は,DD反応で生成される高エネルギートリトンのトロイダル磁場リップルによる損失を反映し,生成時のエネルギーが損失されずに壁に深く入射されていることがわかった.さらに,ダイバ−タタ−ゲットにおいては,タイル表面温度上昇の影響を受け,トリチウムが放出されていることがわかった.


310480
高温ガス炉ガスタービン発電システム(GTHTR300)の安全設計方針
片西昌司 ; 國富一彦
日本原子力学会和文論文誌 2(1), p.55-67(2003) ; (JAERI-J 20046)

 高温ガス炉は,セラミック被覆の燃料粒子や黒鉛の炉心構造物を用いることから,高温に耐えることができ,かつ,異常時の過渡挙動が緩慢であるといった固有の安全性を有している.最も特徴的な事項は,受動的冷却設備のみにより,事故時の炉心の残留熱除去が可能であることであり,これによりシビアアクシデントフリーのシステムとすることが可能となる.原研では,高温ガス炉ガスタービン発電システム(GTHTR300)の設計を進めており,高温ガス炉の固有の安全性を活かした安全設計方針を策定した.また,格納容器を設置しなくても,減圧事故やスタンドパイプ破損事故において周辺住民の安全が確保されるとの見通しを得た.本報では,安全設計方針及び安全上の成立性に対する検討結果について報告する.


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