研究開発報告書類


JAERI-Research
1999年


27191
群分離法の開発;DIDPAによる鉄・ランタノイドの抽出挙動と第三相生成
渡邉雅之・森田泰治・久保田益充
JAERI-Research 99-001;Jan. 1999, 18p.

 現在開発中の4群群分離プロセスでは,高レベル廃液からジイソデシルリン酸(DIDPA)を用いて,超ウラン元素を溶媒抽出により分離することに成功している.本研究では,分解生成物であるモノイソデシルリン酸(MIDPA),相分離を改善するために添加されるTBPが,鉄,ランタノイドの抽出挙動,第三相生成に与える影響について検討した.その結果,精製したDIDPAを用いた場合,現在プロセスで用いられている未精製のDIDPAにTBPを添加した場合よりも,分相が非常に早いばかりか,鉄の第三相生成の限界濃度が2倍程度向上することがわかった.


27192
位置検出型核分裂計数管のソレノイド電極のパルス伝播特性
山岸秀志・鈴木勝男・角田恒巳・伊藤浩・深草伸二*・田村政和*
JAERI-Research 99-002;Jan. 1999, 18p.

 位置検出型核分裂計数管(PSFC)の開発を進めているが,それには,PSFC内で発生する極めて微小,かつ高速の電流パルスに大きな遅延を与え,しかしながら低い減衰特性を有したソレノイド電極構造(SEST)が必要不可欠である.このため,SESTを設計試作し,その性能を評価した.試験の結果,SESTにより同軸ケーブルの45倍に相当する長い遅延時間が得られることがわかった.パルスの減衰については,一般の核分裂計数管と比較して,電極間キャパシタンスの影響が極めて少なく1/4程度に相当する優れたパルス伝播特性が得られることがわかった.また高インダクタンス電極が中性子計測に障害となるような誘導ノイズを与えないこともわかった.本実験により,SESTがPSFCに十分適用できることを確認した.


27193
JT-60Uダイバータプラズマの可視スペクトル
仲野友英・久保博孝・杉江達夫・東島智・鈴木慎悟*・逆井章・伊丹潔
JAERI-Research 99-003;Jan. 1999, 16p.

 臨界プラズマ試験装置JT-60Uのダイバータプラズマにおける不純物挙動を調べるために,可視領域(300〜780nm)のスペクトルを観測した.観測の結果,D I,He I-II,B II,C II-IV,O I-IIIからのスペクトル線とCD及びC2分子のスペクトルバンドが同定された.軽元素不純物のスペクトル線は,主量子数の変化を伴わない遷移(Δn=0)によるものが多く観測され,主量子数の変化を伴う遷移(Δn≠0)では方位量子数が大きい準位間の遷移が観測された.C2分子のスペクトルバンドはSwan bandと同定された.


27194
使用済軽水炉燃料の核種組成評価
安藤良平*・高野秀機
JAERI-Research 99-004;Feb. 1999, 270p.

 消滅処理炉では,発電炉からの使用済燃料を再処理した時の高レベル廃液中に含まれるマイナーアクチニド(MA)や核分裂生成物(FP)を発電しながら消滅することを目的としている.発電炉の中心となっている軽水炉では,今後,高燃焼度化やMOXの本格利用等が計画されており,使用済燃料中のプルトニウムやMA組成も多様化すると考えられる.そこで,軽水炉(炉型:PWR及びBWR)で使用される取出燃焼度60GWd/tHMまでの高燃焼度化燃料(燃料タイプ:UO2燃料及びMOX燃料)について使用済燃料の核種組成を統合化燃焼計算コードシステムSWATで評価するとともに得られた核種組成を燃料形態(取出燃焼度・燃料タイプ・炉型)や冷却期間をパラメータにして比較検討し,種々の使用済燃料におけるMA生成量及びFP生成量について包括的な知見が得られた.本検討結果は,今後,消滅処理炉を検討する際の基礎データとして利用する.


27195
Estimation of different species of Eu(III), Th(IV), U(VI)and Am(III)extracted into nitrobenzene by N, N′-dimethyl-N, N′-dihexyl-3-thiopentanediamide and thenoyltrifluoroacetone
佐々木祐二・渡部和男
JAERI-Research 99-005;Jan. 1999, 21p.

 N,N′-ジメチル-N,N′-ジヘキシル-3-チオペンタンジアミド(DMDHTPDA)とテノイルトリフルオロアセトン(TTA)協同抽出によるニトロベンゼン中へのEu(III),Th(IV),U(VI)とAm(III)の抽出錯体種をlogDと抽出剤濃度との関係より求めた.それぞれアクチノイド陽イオンの3つの協同抽出錯体を見い出した.抽出錯体の存在割合は2つの抽出剤濃度の比に依存しそのフラクション図を作成した.EuとAmの最も高い分離比,7.2,がDMDHTPDA単独の抽出剤を用いたときに得られ,その値は抽出種にTTAが関与する数とともに減少した.


27196
相対論的平均場理論によるアイソベクター光学ポテンシャルと高密度中性子星物質におけるDirect Urca過程との関連
丸山智幸*・千葉敏
JAERI-Research 99-006;Feb. 1999, 11p.

 相対論的平均場近似を用いて,核子光学ポテンシャルのアイソベクター項と,中性子星における早い冷却過程であるDirect Urca(DU,直接過程)の有無に関わる高密度核物質の性質との関連を議論する.中性子星において,直接過程による冷却が起こるために必要な陽子混合比が1/9以上という条件が満たされるかどうかは,高密度核物質の対称エネルギーの密度依存性や核子アイソベクターポテンシャルのエネルギー依存性と強い相関がある.本研究では対称エネルギーとアイソベクターポテンシャルの関係を相対論的平均理論より統一的に導き,後者を決定することにより,中性子星の性質に関する重要な情報が得られることが示された.アイソベクター光学ポテンシャルは核反応機構の理解や核データ整備の観点からも重要であり,今後中間エネルギーにおける中性子及び陽子断面積の測定が進展することを期待する.


270262
AMSによる海水中の放射性炭素測定のための化学的前処理法
荒巻能史
JAERI-Research 99-007; Feb. 1999, 22p.

 原研むつ事業所は,平成9年4月に加速器質量分析装置(AMS)を設置した.当装置は,14C/Cの精密測定が可能である.そこで本研究室では,AMSによる海水中の14C測定のための前処理法を新たに開発した.海水中の14Cを測定するためには,(1)溶存している無機炭酸を二酸化炭素として抽出,(2)その二酸化炭素をグラファイトに還元する,の2つの行程が必要である.従来法では,作業が複雑なうえ,一試料あたり40分程度の時間を要した.新たに開発した方法では,(1)について,処理時間が2分の1以下に短縮されたうえ,回収率も向上し,(2)については,従来法の一部改良により簡便な作業が可能となった.


270263
共鳴イオン化生成プラズマから高周波電圧印加により引き出したイオンのエネルギー
柴田猛順・小倉浩一
JAERI-Research 99-008; Feb. 1999, 10p.

 共鳴イオン化により生成したネオジムプラズマに高周波電圧を印加して,イオンを引き出し,そのエネルギーを飛行時間法により測定した.回収電極に2MHz,振幅140Vの高周波電圧を印加したときのイオンエネルギーは54〜65eVで,この値は高周波平行平板放電の解析値とほぼ一致した.これにより,原子法レーザー同位体分離で,高周波電圧印加により回収時間を短くできるだけでなく,回収イオンのエネルギーも低くできることが確認できた.


270264
核分裂中性子スペクトルの共分散評価
河野俊彦*・大澤孝明*・柴田恵一・中島秀紀*
JAERI-Research 99-009; Feb. 1999, 43p.

 核データの共分散(誤差)はデータの精度をあらわすだけでなく,積分実験による炉定数の調整作業にとって不可欠なものである.本研究は,核データライブラリーJENDL-3.2に収納されている233U,235U,238Uならびに239Puの核分裂中性子スペクトルの共分散評価を行うものである.これらの核分裂中性子スペクトルは,改良型Madland-Nix模型による理論計算により求められており,その共分散は計算パラメータの誤差より算出した.本報告書では,評価手法,計算ツール及び理論計算パラメータの誤差の説明がなされている.また,得られた共分散の妥当性をみるために,235Uの核分裂中性子場で測定された平均断面積を用いたスペクトルのアジャストメントについても言及する.


270265
Neutronic studies of bare targets for JAERI 5MW pulsed spallation neutron source
勅使河原誠*・渡辺昇*・高田弘・中島宏・永尾忠司*・大山幸夫・小迫和明*
JAERI-Research 99-010; Feb. 1999, 16p.

 原研中性子科学研究計画で次世代短パルス核破砕中性子源の建設を目指しており,その第一歩として裸のターゲットから漏洩する中性子に関するニュートロニクス計算(ターゲット形状やターゲット材料等による)を行った.円筒形のターゲットに比べ扁平ターゲットは遥かに高い漏洩中性子束をモデレータに供給することができること,水銀ターゲットは鉛・ビスマスとも融体ターゲットに比べ高い漏洩中性子強度を与えることなどが明らかとなった.また,どの様なターゲットの形状が高い中性子強度を与えるのかなどに関して重要な知見を得た.しかしながら,正確に中性子性能を評価するためにターゲット・モデレータ・反射体系を含めた計算は不可避である.また,冷モデレータにおける核発熱の情報を得るために,ターゲットに近接(ターゲット表面から2cm)して置かれた軽水の核発熱分布を求めた.


270387
The Evaluation of radiation damage to the target material due to the injection of medium- and high-energy proton
高橋博*・X. Chen*・佐々敏信・滝塚貴和
JAERI-Research 99-011; Mar.1999,63p.

 日本のオメガ計画では,高速未臨界炉心を用いてマイナーアクチノイドを消滅する加速器駆動消滅炉が研究されている.このシステムでは,構造材への中性子と荷電粒子による放射線損傷が既存の核分裂炉よりも深刻な問題となる.消滅炉の放射線損傷を評価することは,損傷が主として材料の寿命を決定するため,特に重要である.構造材の損傷はモンテカルロシミュレーションコードLAHET,HMCNP及びHTAPEを用いて検討した.そのため,原子の弾き出し(DPA),水素,ヘリウムの生成率及びエネルギー損失が評価された.DPA断面積の計算にはTRANSX2コードを使用した.これらの値を使用して,システムの放射線損傷と発熱密度を計算した.ターゲットやビーム窓の頻繁な交換は,システムの稼働率を低下させる可能性があるが,浅い未臨界度を選択すればこの問題は解決される.一方で小さいDPA断面積を持つ構造材の調査も必要である.


270266
プラズマ溶射アルミナ電気絶縁コーティング膜の衝撃耐久特性に及ぼす衝撃面形状効果
金成守康*・阿部哲也・丹澤貞光・清水克祐*・豊田真彦*・惣万芳人*
JAERI-Research 99-012; Feb. 1999, 21p.

 プラズマ溶射によってステンレス鋼基材上に形成されたアルミナ電気絶縁コーティング膜の電気絶縁耐久性に及ぼす種々の面形状をもった落錘の繰り返し衝撃荷重の効果を調べた.落錘試験は,3種類の直径を有する平端面,くさび形,半球形,円錐形の各試験片形状について,落錘面と固定面の双方をアルミナとした場合のアルミナ/アルミナ組合せ,落錘面もしくは固定面のいずれか一方をステンレスとした場合のアルミナ/ステンレス組合せで行われた.アルミナ膜の電気絶縁耐久性は,算出された平均衝撃圧力の増加とともに低くなった.アルミナ/ステンレス組合せにおいて,アルミナ膜の電気絶縁耐久性は,アルミナ/アルミナ組合せの時と比較して約2.7倍以上に向上し,平均衝撃圧力640MPaで最長の210,000回だった.


270267
多孔電極負イオン源におけるビームレット相互作用
藤原幸雄・花田磨砂也・河合憲一*・北川禎*・宮本賢治・奥村義和・渡邊和弘
JAERI-Research 99-013; Feb. 1999, 32p.

 多孔電極から水素負イオンを引出・加速する際のビームレット同士の相互作用を実験により調べた.その結果,周辺部のビームレットほど外側に偏向されることが明らかとなった.また,パービアンス一定条件におけるビームエネルギー依存性を86keV〜178keVの範囲で調べ相互作用の影響はビームエネルギーにほとんど依存しないこともわかった.さらに,負イオンに付随する電子の影響は極めて小さいことも確認された.反発力の重ね合わせを考慮する場合には,半径方向の反発力と距離rの関係は1/r2で近似できることを示した.得られた結果をJT-60用大型負イオン源に適用すると,両端のビームレットは,6.6mrad程度外側に偏向を受けるものと算出された.相互作用の補正法として電極のshapingを検討し,2次元ビーム軌道計算によりその有効性を示した.


270268
AC loss calculation of central solenoid model coil
A. Gilanyi*・秋場真人・奥村義和・杉本誠・高橋良和・辻博史
JAERI-Research 99-014; Mar. 1999, 71p.

 現在ITER計画の中で製造が進められているCSモデル・コイルの交流損失解析を行った.特にCSモデル・コイルの支持構造物を対象に,汎用有限要素法コードANSYSにより,その解析を行った.支持構造物中では,下部テンション・プレートと呼ばれる部材からの発熱が最も大きく,約3kWに達することが判明した.


270269
我が国における二酸化炭素削減戦略と原子力の役割
佐藤治・下田誠*・立松研二・田所啓弘
JAERI-Research 99-015; Mar. 1999, 95p.

 我が国の長期エネルギーシステムを対象に二酸化炭素の排出削減ポテンシャルと費用に関する分析を行った.分析には,国際エネルギー機関(IEA)・エネルギー技術システム解析プログラム(ETSAP)の下で共同開発したMARKALモデルを利用した.分析対象期間を1990年から2050年までとし,今後の経済成長を仮定してエネルギーサービス需要を設定した.また,化石燃料の価格と入手可能量,原子力及び自然エネルギーの利用可能量などを仮定した.これらの前提条件の下で,原子力利用の有無,二酸化炭素回収・投棄の有無,天然ガスの利用可能規模をパラメータとした複数のエネルギー需給シナリオを作成し,二酸化炭素の排出量と費用を比較検討した.その結果,原子力利用がない場合には石炭への依存が増大して二酸化炭素の排出抑制が困難である,回収・投棄は排出削減に有効であるが,原子力利用に比べて大きな費用負担を伴う,天然ガスの利用拡大のみでは二酸化炭素を十分抑制できないなどの所見を得た.


270270
試験・研究炉の性能向上に関する研究
桜井文雄
JAERI-Research 99-016; Mar. 1999, 84p.

 最近の試験・研究炉の利用ニーズは,原子力科学の発展に伴いますます高度化及び多様化してきている.また,原子炉として求められる安全性は,動力炉と同様年々厳しくなってきている.このような状況下において,試験・研究炉を先端的研究用ツールとしてより有効に活用していくためには,完全性の向上も含む性能向上を常に図る必要がある.本研究においては,中性子源としての原子炉性能向上の観点からJMTR用高性能燃料要素について,実験利用施設としての利用性能の向上の観点からJMTRにおける高速中性子照射量の評価法について及び原子炉施設の安全性の向上の観点から水冷却型試験・研究炉の冠水維持装置サイフォンブレーク弁の性能評価法について検討した.


270388
Transport studies in boundary and divertor plasmas of JT-60U
熊谷晃*
JAERI-Research 99-017; Mar.1999,151p.

 本報告は,著者が連携大学院制度の下でJT-60Uにおいて行った研究の集大成である.ダイバータ領域でのプラズマ粒子,中性子粒子及び不純物粒子の挙動を調べた.ダイバータ部は炉心プラズマと壁との相互作用を最小限に抑えることにより,炉心性能を改善する重要な役割を持つ.ダイバータ部での物理現象の理解は,次世代装置のダイバータ設置において不可欠であり重要な研究課題である.内側・外側ダイバータ部でのプラズマの非対称性とスクレイプ・オフ層を流れる電流の関係,炭素イオンのドップラー広がりによるダイバータ領域のプラズマイオン温度測定,Dα線スペクトル分布解析による詳細な中性粒子の挙動及びリサイクリング過程の理解等の研究を行い,ダイバータ領域での粒子の輸送特性に関する新しい知見を示した.本研究は今後のダイバータ研究の指針を与える.


270389
An RF input coupler for a superconducting single cell cavity
B. Fechner*・大内伸夫・F. Krawczyk*・草野譲一・水本元治・椋木健*
JAERI-Research 99-018; Mar.1999,51p.

 原研では,中性子科学研究計画用の大強度陽子加速器の開発を進めており,その高エネルギー加速部用超伝導加速空胴の設計・開発を行っている.超伝導加速空胴用のRF入力カプラの設計においては,カプラ形状やその取り付け位置に応じて結合度もしくは外部Q値(Qext)を評価することが必要である.本研究では,電磁場解析コードMAFIAを用いてQextの評価を行い,測定結果と比較して計算の妥当性の検証を行った.空胴として,β(粒子の速度と光速の比)=0.5単セル空胴を対象とし,軸対称カプラとビームパイプ取付型サイドカプラの両者について計算,測定を行った.計算値と測定値との一致は良好であり,本計算手法の妥当性が確認された.


270271
陽子蓄積リング用高周波系の概念検討
野田文章*・金正倫計
JAERI-Research 99-019; Mar. 1999, 64p.

 中性子科学研究計画用陽子蓄積リングには,出力パワーで5MWが要求されている.2台のリングで5MWを達成するとしても,平均周回ビーム電流値は50Aにも達する.このような大電流ビームを安定に蓄積するには,バンチングファクターを大きくしてピーク電流値を下げる必要がある.また運動量拡がりが過度に増大しないように制御することもビーム損失を低減するうえで重要となる.さらに本計画では速いビーム取り出しをするため,ビーム出射の段階までバンチ構造を保つ必要性がある.そこで本研究では上記の要求を満たす高周波系の概念検討を行うとともに,縦方向のビームシミュレーションコードを作成してビームダイナミクスの面からの検証も進めてきた.本報告書ではこれらの検討結果について報告する.


270390
Neutronics study on the JAERI 5MW spallation neutron source; Neutronic performance of the reference target-moderator-reflector system and the target shape/size effects
勅使河原誠*・渡辺昇*・高田弘・甲斐哲也・中島宏・永尾忠司*・大山幸夫・池田裕二郎・小迫和明*
JAERI-Research 99-020; Mar.1999,33p.

 原研中性子科学研究計画で目指す5MW短パルス核破砕中性子源で提案されている基準ターゲット・モデレータ・反射体システムの性能評価を行うため,各種モデレータから得られる冷,熱及び熱外中性子強度に関するニュートロニクス計算を行った.陽子ビーム出力(MW)当たりの中性子強度は,最も関心の高い冷中性子の場合,他の計画中(SNS及びESS)の同規模の大強度中性子源と比較して高い効率で得られることがわかった.さらに,5MWの出力では,現存するILL強力中性子源の時間積分強度で1.5倍,ピーク強度で約80倍の強度を与える結果となった.また,基準系に対するターゲット形状/サイズの中性子強度に及ぼす影響を検討した.その結果,ターゲット形状の変化は,特にモデレータのない方向の増減は,中性子強度に大きな影響を及ぼさないことが示され,ターゲットの工学的な設計上の大きな裕度を与え得ることが明らかとなった.


270391
フーリエ変換分光法によるELM付きHモードプラズマの電子温度分布測定; 非熱的放射パルス除去
諫山明彦・伊世井宣明・石田真一・佐藤正泰・児玉武弘*・岩間尚文*
JAERI-Research 99-021; Mar.1999,34p.

 JT-60Uの電子サイクロトロン放射(ECE)測定装置ではフーリエ変換分光装置(FTS)で絶対較正を行い,他のECE測定装置ではFTSをもとに相対較正している.しかし,ELM付きHモード中には非熱的放射によるパルス状のノイズが干渉信号に入るために,FTSによるバルクプラズマの電子温度測定が困難になり他の測定装置を相対較正できなくなる.ELM付きHモード中でもFTSによる電子温度測定ができるようにするため,今回非熱的放射パルスを除去する処理ソフトを開発した.ソフト作成にあたっては,JT-60Uのショット間に自動的に行えるようにするため,簡略なアルゴリズムを用いるようにした.今回作成した処理ソフトでは,従来から用いられているものに比べて処理時間が10%長くなる程度であり,得られる電子温度は相対較正した回折格子型分光装置の結果と約±5%以内の誤差で一致した.


270392
SPring-8におけるガス制動放射線の評価
浅野芳裕
JAERI-Research 99-022; Mar.1999,28p.

 第三世代大型放射光施設SPring-8のビームライン遮蔽安全上,重要な検討項目の一つである,蓄積リング内残留ガスと蓄積電子との相互作用によって発生する制動放射線について,電磁カスケードモンテカルロコードEGS4を用いて評価した.各々ガス制動放射線スペクトルと放出角度分布について,シミュレーション計算を行ううえで重要である,エレクトロンカットオフエネルギーやガス圧力依存性を検討し,SPring-8でのガス制動放射線シミュレーション計算条件を示した.また,発生したガス制動放射線を遮蔽するために必要な鉛遮蔽体の大きさを示した.ガス制動放射線はそのエネルギーが8GeVまで存在し,鉛遮蔽体のような厚い標的にあたると光核反応中性子を発生する.この光核反応中性子についても検討を行った.


270393
中性子ラジオグラフィによるサブクール沸騰流中のボイド率分布計測技術の開発
呉田昌俊・松林政仁・秋本肇
JAERI-Research 99-023; Mar.1999,29p.

 大強度中性子源のターゲット等高出力機器の開発に関連し,高熱負荷サブクール沸騰時のボイド率を評価する必要がある.現在までに提案されているボイド率予測法は,円管流路で得られたデータをもとに提案された式が主であり,高熱負荷機器で採用される矩形流路への適用性は検討の必要性があった.しかし,狭間隙矩形流路内沸騰流のボイド率は現在まで計測が困難であったため予測法が確立されていない.そこで本研究では中性子ラジオグラフィを用いて狭間隙矩形流路内沸騰流の気泡挙動を可視化とボイド率分布を計測する技術を新たに開発し,本計測システムを用いてボイド率データベースを作成することを目的とした.本報告書は,中性子ラジオグラフィによるボイド率計測法及び片面加熱狭間隙矩形流路内サブクール沸騰時のボイド率計測結果をまとめた.


270394
Analogue studies in the alligator rivers region; In-situ measurement of uranium series nuclides with SHRIMP
永野哲志・佐藤努*・柳瀬信之・磯部博志*・大貫敏彦・I. S. Williams*・M. Zaw*・T. E. Payne*・P. L. Airey*
JAERI-Research 99-024; Mar.1999,52p.

 オーストラリア・クンガラウラン鉱床において,ウランは地下水によって流され,風化生成物である鉄鉱物に濃集し二次鉱床を形成している.本研究では,二次鉱床におけるウランの地球化学的挙動のタイムスケールを調べることを目的とし,風化生成物中におけるウラン系列核種の放射能比を高感度・高分解能イオンマイクロプローブ(SHRIMP)により測定した.その結果,鉄鉱物からは系が放射平衡に達していることを示唆する1に近い値を得た.この値は,もし鉄鉱物が閉じた系であったとすれば,ウランが保持されてから少なくともおよそ百万年程度の年月が経過したことを示すものである.


270395
ミリ波帯自由電子レーザー用ASFウイグラーの設計及びFELシミュレーション評価
鈴木孝至*・森本巌*・X. D. Zheng*・前原直・志甫諒
JAERI-Research 99-025; Mar.1999,77p.

 ミリ波帯自由電子レーザー用として,新型ウイグラー(ASFウイグラー)を研究した.このASFウイグラーは,傾斜角を持つ磁石が交互に配列された系から構成される.ASFウイグラーは,プラナーウイグラーとビーム発散を抑える収束ウイグラーの両方の機能を持ち,磁石の傾斜角度を調整することにより,ビームとの結合を改善する利点を持つ.45GHz帯のミリ波FELに対して,ASFウイグラーを設計し,そのASFウイグラーによるFEL発振について,3次元FELコードを用いて評価を行った.3.5MeVと1kAのビームパラメータに対して,ウイグラー磁場0.375Tの時,最大成長率42.5dB/mと出力550MWを得た.このレポートは,ミリ波帯FEL用ウイグラーの設計及び3次元FELコードによるそのパフォーマンスの評価について,詳細に記述されている.


270396
硝酸プルトニウム溶液の温度反応度係数の解析(受託研究)
山本俊弘・三好慶典
JAERI-Research 99-026; Mar.1999,24p.

 硝酸プルトニウム溶液の温度が上昇した場合の反応度効果の解析を行った.プルトニウム濃度が希薄になると,0.3eV付近の239Puの共鳴吸収での中性子インポータンスが高くなり,それがスペクトルシフトの効果を正にする原因となる.また,240Puを含む場合の温度反応度係数への影響も調べた.ガドリニウムを含む場合は高濃度のプルトニウム溶液でも0.3eV付近に中性子インポータンスのピークを持つことになり,正のスペクトルシフトの効果を持つことを示した.定常臨界実験装置STACYで予定されているプルトニウム溶液実験での,温度反応度係数測定のための予備的な解析を行った.STACYでの実験における温度反応度係数の解析を,中性子毒物を含む場合と含まない場合とで行った.


270397
高速炉燃料再処理溶解液への晶析法の適用に関する安全性の検討
奥野浩・藤根幸雄・朝倉俊英・村崎穣*・小山智造*・榊原哲朗*・柴田淳広*
JAERI-Research 99-027; Mar.1999,37p.

 高速増殖炉燃焼燃料の再処理に当たり,溶解液からウランのみを回収し,後段の処理量の低減化を図る考え方がある.この目的で,晶析法の適用が検討されている.この報告書では,晶析法導入に伴う安全問題について検討した.まず再処理工程全体における晶析の位置付けを明確にし,処理規模及び対象燃料を規定した.次に,安全上問題となりうる臨界,遮蔽,火災・爆発,閉じ込め機能喪失についての可能性,及び留意しておくべき起因事象を検討した.このうち臨界に関して,晶析工程の臨界安全管理例について検討した.特に晶析装置については,平常時及び事故時に分けて評価モデルを設定し,評価の参考となるデータを臨界安全ハンドブックから抽出した.評価上重要な基本データである硝酸プルトニウムの理論密度は,最新のデータに基づき独自に推算した.これらの情報に基づき,晶析装置の核的制限値を算出した.


270398
2段階レーザー誘起蛍光法によるウラン原子のゼーマン効果測定
大場正規・赤岡克昭・宮部昌文・若井田育夫
JAERI-Research 99-028; Mar.1999,12p.

 2段階で励起するレーザー誘起蛍光法を用いたウラン原子のゼーマン効果測定により,従来の測定法では測定できなかったエネルギーレベルのJ値,g因子を求めることができた.今回の測定では32000cm-1〜35000cm-1のレベル27本について測定し,その結果を報告する.


270399
ウランの電荷移行断面積
足立肇・田村浩司・岡崎哲治・小倉浩一・大場弘則・柴田猛順
JAERI-Research 99-029; Mar.1999,19p.

 ウランについて,基底状態のイオンがウラン原子と衝突する場合の対称電荷移行断面積を衝突エネルギーが100〜1200eVの範囲で測定した.共鳴光電離法によるレーザーイオン源からのイオンビームを原子ビームに直交させて入射し,電荷移行生成イオンと主ビームイオンの電流をそれぞれのファラデーカップ検出器で測定して,それらの電荷量の比及び原子密度から電荷移行断面積を導出した.その結果,衝突エネルギーが100eVでは電荷移行断面積は(1.3±0.3)×10-14cm2であり,衝突エネルギーの増加とともに増加し,1200eVでは(2.7±0.3)×10-14cm2の値が得られた.100eV以上の衝突エネルギーで断面積が増加する傾向は原子及びイオンの電子配位を考慮した理論計算結果とほぼ一致した.


270400
Stationary periodic and solitary waves induced in an isotropic plasma by a strong short laser pulse
L. N. Tsintsadze*・西川恭治*・田島俊樹*・J. T. Mendonca*
JAERI-Research 99-030; Mar.1999,16p.

 相対論的高強度短パルスレーザーの等方的プラズマ中の伝播について報告する.任意の振幅のポンプ波に対して励起される電磁波のスペクトル関数に対する運動論的方程式を導いた.この方程式をプラズマに関する方程式とともに用いることにより,一般分散式を得た.短パルス超強度レーザーの場合,位相速度が光の速度より速い新しいタイプのラングミュア波及びイオンによってのみ減衰するイオン音波型波動を見いだした.さらにプラズマ密度と電子質量が「凍結」の条件を満たす場合に,新しいタイプの定常非線形イオン音波について解析した.


270535
沸騰硝酸溶液中におけるジルコニウム溶接継手の疲労き裂進展挙動; 熱影響部の評価
本岡隆文・木内清
JAERI-Research 99-031; Apr.1999,21p.

 大型再処理施設に使用されるジルコニウム製の再処理機器の長期耐久性評価の観点から,沸騰硝酸溶液中で応力腐食割れ感受性を持つジルコニウムについて,TIG溶接継手の疲労き裂進展挙動を熱影響部(HAZ)中心に評価した.疲労き裂成長速度を沸騰硝酸溶液中と室温大気中で測定したほか,走査型電子顕微鏡による破面観察も実施した.室温大気中に比べて沸騰硝酸溶液中では疲労き裂成長速度が一桁高くなった.硝酸溶液中で試験した試料の破面は,脆性ストライエーション及び擬劈開型であった.母材,溶接金属及びHAZの疲労き裂成長速度の測定結果の比較から,硝酸溶液中では大気中に比べて,いずれもき裂の成長は加速されるが,その速度は同程度であることがわかった.


270536
深海放射能測定用Geγ線検出器システムの開発
山本忠利・清水徳・小澤皓雄・美留町厚・千崎年彦・片桐政樹
JAERI-Research 99-032; Apr.1999,59p.

  深海海底に存在する人工放射性物質から放出される放射線を計測することを目的として,深海放射能測定システムとして従来のNaI検出器と同様に使用できるように耐圧容器に収納した型の小型電気冷却式Ge検出器を製作した.そして水中における冷却試験及びエネルギー分解能測定試験を行い,Ge検出器を液体窒素温度まで約5.8時間で冷却でき,60Co1.33MeVのピークに対して2.66keVのエネルギー分解能を有することが確認できた.さらに,海洋科学技術センター所有の無人探査機ドルフィン3Kへの接続を行った後の海水中における放射能測定試験を行い,海底における天然放射性物質からの放射線を計測できることを確認した.


270537
Phase diagrams for the binary systems NdCl3-LiCl and PrCl3-LiCl
I. Kim*・岡本芳浩
JAERI-Research 99-033; Apr.1999,15p.

 NdCl3-LiCl及びPrCl3-LiClの各2成分系の相状態を,200〜800℃の範囲における示差熱分析及び急冷したサンプルの室温X線回折によって調べた.NdCl3-LiCl系では,31mol%NdCl3の組成に共晶(456℃)が見られたのに加えて,包晶点(467℃)の存在が観測された.一方,PrCl3-LiCl系では同じく31mol%PrCl3の組成に共晶(464℃)が見いだされたのみで包晶の存在は確認されなかった.これらの結晶をもとに,各2成分系の状態図を作成した.


270538
群分離法の開発;炭酸ヒドラジンによるアクチノイド及びランタノイドの逆抽出
渡邉雅之・龍ヶ江良三*・高田清史*・森田泰治・久保田益充
JAERI-Research 99-034; May.1999,55p.

 本報告では,ソルトフリー試薬である炭酸ヒドラジンによりDIDPA[Diisodecylphosphoric Acid]又は,HDEHP[Di-(2-ethylhexyl)phosphoric Acid]からの金属の逆抽出挙動を系統的に調べた.その結果,HDEHPからは,アクチノイド,ランタノイド,Zr,Moの逆抽出が可能で,DIDPAからは,アクチノイド,ランタノイド,Moの逆抽出が可能であることがわかった.


270623
軽水炉モデルプラント地震PSA報告書
リスク評価解析研究室
JAERI-Research 99-035; May 1999,314p.

 本報告書は,原研で開発してきた地震に対する原子力発電所の炉心損傷頻度を評価するための確率論的安全評価(PSA)手法と軽水炉モデルプラントに適用した成果をまとめたものである.原研の地震PSA手法は,我が国の地震に関する豊富な情報の活用,応答評価の精度向上,耐震実証試験を利用した機器耐力の設定,相関性を考慮するための新たな手法の開発等の特徴がある.BWRプラントに適用した結果,炉心損傷頻度は内的事象に比べ大きくなったものの,評価精度の向上による低減の見通しと,起因事象としては外部電源喪失が,事故シーケンスとしては崩壊熱除去失敗及び全交流電源喪失シーケンスが支配的なこと,機器損傷の相関性が炉心損傷頻度に及ぼす影響は米国の先行研究で指摘されたほど大きくはないことなど,多くの知見が得られ,原研の地震PSA手法の有用性が確認された.


270624
Ni-Cr-W系超耐熱合金用溶加材の開発研究(共同研究)
斉藤貞一郎*・倉田有司・高津玉男*・辻宏和・新藤雅美・中島甫
JAERI-Research 99-036; May 1999,99p.

 1000℃での使用を目指した高温ガス炉用Ni-Cr-W合金の開発研究では,溶接用溶加材の開発が残された重要な課題である.Ni-18.5Cr-21Wを基本組成とした合金について溶加材の開発を行い,以下の結果を得た.(1)Ni-Cr-W合金では微量元素の量や熱処理条件が溶接割れ感受性に大きな影響を及ぼし,母材と同じ組成の合金では安定して良好な溶接性が得られない.(2)脱酸効果や脱硫効果のある元素の量を増加させても,耐溶接割れの改善効果はあまり認められないが,Ti,Mgの適量添加により若干の改善効果が得られる.(3)Zr,Y,Bなどの元素が溶接割れ感受性を著しく高めていることがわかり,これらの元素の量を低く抑えることにより良好な溶接性を持った溶加材を開発することができる.


270539
大強度陽子蓄積リングのラティス検討
金正倫計・野田文章*・石禎浩*・中山光一*
JAERI-Research 99-037; May.1999,75p.

 中性子科学研究計画では,短パルスで大強度の中性子を用いた中性子散乱実験が大きな柱の一つである.線形加速器のみで短パルスで最大5MWもの大強度中性子ビームを発生させることは不可能であるので,線形加速器で加速されたいくつもの短パルスビームを大強度になるまで蓄積するための蓄積リングが必要となる.今回は,この大強度陽子蓄積リングの電磁石配置すなわちラティスの検討を行ったので,その検討結果を報告する.


270540
Proton irradiation effects on optical attenuation in doped- and pure-silica fibers
坂佐井馨・H. Bueker*・F. W. Haesing*・F. Pfeiffer*
JAERI-Research 99-038; May.1999,18p.

 純粋及びドープト石英ファイバーに20MeV陽子を照射し,波長470nm,660nm及び850nmにおける光学損失を測定した.実験ではファイバーに対して一様に陽子線が照射されるようにファイバーを「一層」に配置した.ドープトファイバーの損失は照射の初期に大きく増大するが,純粋ファイバーの増大は緩やかであった.また,純粋ファイバーの前面に厚さの異なる石英の板を置いて陽子線を照射し光学損失を測定した.損失増加曲線の初期の傾きから陽子線による線量が評価可能であることがわかった.さらに陽子線に対するファイバーの感度は,ドープトファイバーが660nmで1.0×10-10(dB/m)/(protons/cm2),純粋ファイバーが470nmで5.5×10-12(dB/m)/(protons/cm2)であった.


270625
沸騰硝酸溶液中でのTi-5Ta合金の疲労き裂進展挙動
本岡隆文・木内清
JAERI-Research 99-039; May 1999,14p.

 再処理施設仕様のTi-5Ta合金の沸騰硝酸溶液中における疲労き裂進展挙動を調べた.疲労き裂成長速度の応力拡大係数範囲依存性を,沸騰硝酸溶液中と室温大気中で比較した.疲労試験後の破面について,X線回折による結晶配向性の評価及び走査型電子顕微鏡による形態観察を行い,き裂進展機構を調べた.Ti-5Ta合金の疲労き裂成長速度は,室温大気,沸騰硝酸溶液中ともほぼ同じ傾向を示した.破面解析及びX線回折の測定結果から,結晶配向性は,硝酸溶液中での疲労特性に与える影響が小さいことが明らかとなった.


270626
238U optical potential up to 100MeV incident nucleon energies
E. S. Sukhovitskii*・千葉敏・岩本修・深堀智生
JAERI-Research 99-040; Jun.1999,28p.

 飽和結合様式を用いる軸対称の硬回転体模型に基づくチャンネル結合理論によって,0.1から100MeVの領域での238Uの核子入射反応に対する光学模型ポテンシャルの推定を行った.中性子及び陽子の散乱断面積と中性子の全断面積をほぼ実験誤差内で記述できる光学ポテンシャルを得ることができた.このポテンシャルを用いて計算された,10MeV以上の中性子に対する吸収断面積は従来の計算値より10%程度大きな値となった.また,飽和結合様式を用いることにより,基底状態バンドに対する断面積だけでなく,統計模型に必要な透過係数についても高精度での予測が可能となった.


270722
中性子照射したLi-Al合金の欠陥状態とトリチウム挙動に関する研究
須貝宏行
JAERI-Research 99-041; Jul.1999,164p.

 トリチウム製造用の6Li-Al合金は,α相(Al)とβ相(金属間化合物β-LiAl)からなり,β-LiAlは多量のLi原子空孔及び置換型の格子欠陥を含む特異な化合物である.本研究では,β-LiAl中の格子欠陥によるキャリアの散乱モデルを提案し,このモデルにより,中性子照射前及び後のβ-LiAlの電気抵抗率を矛盾なく説明した.このデータ解析の過程で,これまで明らかでなかった複合欠陥(Li原子空孔とAl格子点の置換Li原子からなる)の濃度(0.8at%)を求めた.さらに,6Li-Al合金中におけるトリチウム挙動を合金中の格子欠陥との関連で明らかにし,6Li-Al合金からのトリチウム抽出の温度条件を求め,37TBq(1,000Ci)規模のトリチウム製造に応用した.


270627
2段階励起荷電変換法(DoLUCE); 陽子ビームエネルギーの1-0.8GeVへの低減化に向けて
鈴木康夫*
JAERI-Research 99-042; Jun.1999,16p.

 原研中性子科学研究計画のための陽子蓄積リング入射に用いる新しい荷電変換法DoLUCEについて報告する.これは,さきに提唱しているLUCE法を,新しい計画に沿って入射エネルギー0.8-1.0GeVに対応させるためのものである.2台のレーザー光を用いるLUCE(Laser and Undulator Charge Exchange)法であることからDouble Lasers and Undulator Charge Exchangeの頭文字をとってDoLUCEと名づける.DoLUCEでは,遠赤外光と可視光の実績のある2つのレーザー光で2段階2波長励起を行う.しかも,アンジュレーター磁場中でH0ビームをイオン化するものである.H0ビームを磁場中で励起することによって励起される量子状態を限定し,イオン化の際のビームエミッタンスの増大を抑えることに成功した.しかも,それぞれのレーザー出力を大幅に軽減することが可能となった.この方式によって,市販のレーザーによって実用化できる見通しであり,装置の規模もかなり小型化できる.


270723
電子ビーム加熱生成したウラン原子ビームの速度
大場弘則・小倉浩一・西村昭彦・田村浩司・柴田猛順
JAERI-Research 99-043; Jul.1999,17p.

 原子法レーザーウラン濃縮における装置設計上,重要なパラメータである,電子ビーム加熱生成ウラン原子ビームの速度をレーザードップラーシフト法で測定した.ウラン原子ビームの生成には磁場偏向型電子銃あるいは斜入射直進型電子銃を用い,加熱方式の違いによる原子ビーム速度への影響を比較した.磁場偏向型電子銃で生成した原子ビームは,斜入射直進型電子銃加熱で生成したそれよりも加速されることがわかった.これは蒸発部近傍での入射電子ビームエネルギーが蒸発原子の励起やイオン化により損失し,損失エネルギーが原子間衝突時に原子ビームの並進エネルギーに転換されるとして説明できた.


270877
レーザー誘起蛍光法による回収ウランの同位体シフト測定
大場正規・赤岡克昭・宮部昌文・若井田育夫
JAERI-Research 99-044; Jul.1999,16p.

 236Uを含む回収ウランの同位体シフトをレーザー誘起蛍光法により測定した.8本の2eV付近の偶準位及び3本の4eV付近の奇準位について測定し,238U,236U,235Uの同位体シフトが得られた.4eV準位の測定ではドップラーフリー2光子吸収法を用い,235Uの超微細構造も同時に解析することができた.また,3本の遷移について234Uも観測された.


271039
作業環境下における種々の中性子標準場に関する研究
浅野芳裕
JAERI-Research 99-045; Aug.1999,105p.

 加速器施設周辺や原子力施設周辺における作業環境のような微弱放射線場での中性子挙動を調べるために,種々の微弱中性子線量標準場について議論した.ここでは,(1)微弱線量中性子測定の基礎となる標準熱中性子場,(2)数MeVの中性子が種々の遮蔽材(鉄,パラフィン,コンクリート)によって減速された中性子場,(3)数百MeVまでの中性子を含む加速器施設周辺の環境中性子場,の3標準中性子場について,整備した測定器も含めて議論した.特に減速場は3種類の中性子線量(Effective dose equivalent, ambient dose equivalent, effective dose)について,まったく異なった2種類の方法(アンフォールディング法,ED2M法)で場の線量を導出し,各線量間及び2種類の方法によって得られた線量値に近い一致を得た.整備された技術を用いて,大型放射光施設SPring-8サイトでの宇宙線による環境中性子線スペクトルを測定するとともに東海研究所研究棟の建屋床面におけるスペクトルと比較した.


270878
我が国の長期エネルギーシステムのモデル化
後藤純孝*・佐藤治・田所啓弘
JAERI-Research 99-046; Jul.1999,167p.

 二酸化炭素の将来的な排出削減ポテンシャルを分析するために,MARKALモデルの枠組みを利用して我が国の長期エネルギーシステムのモデル化を行うとともに,エネルギー技術特性のデータベースを作成した.まず,2050年までに利用可能な主要エネルギー源とエネルギー技術を組み込んだ基準エネルギーシステムを構築した.このシステムは,25種類の一次エネルギー源,33種類の発電・熱供給技術,97種類のエネルギー変換・貯蔵・送配技術,及び170種類の最終消費技術等で構成されている.次に,システムに含まれる個別エネルギー技術の特性に関するデータベースを作成した.特性データはエネルギーキャリアの入出力量,効率,設備利用率,耐用年数,建設費,運転維持費,CO2排出係数,そのほかである.システムには多数のエネルギー技術が含まれるため,本報告書では供給サイドのモデル化に焦点を当てるとともに,最終消費技術を除くエネルギー技術のデータベースを収録した.


271040
Analysis of americium, plutonium and technetium solubility in groundwater
武田聖司
JAERI-Research 99-047; Aug.1999,71p.

 放射性廃棄物の地層処分に対する安全評価において,放射性元素の溶解度はその廃棄体からの溶解を制限するためのパラメータとして用いられている.本研究では,処分場で予想される地下水組成の変化に対するAm,Pu,Tcの溶解度を,地球化学モデルEQ3/6を用いて算定した.現在原研で元素の熱力学データのデータベース化が行われており,そのデータベースを解析に使用した.Eh-pH条件と放射性元素との錯形成に関与する配位子の濃度変化を把握するため,緩衝材(ベントナイト及びセメント)中の間隙水及び地下水の組成データを調査した.地下水組成の変化に対する溶解度解析から,組成条件の変化がAm,Pu,Tcの溶解度及び化学種の生成に及ぼす影響を予測した.また,地下水組成の調査より推定された現実的な組成の変動範囲を考慮し,Am,Pu,Tcの溶解度と化学形を推定した.


271041
Review of JT-60U experimental results in 1998
JT-60チーム
JAERI-Research 99-048; Sep.1999,126p.

 1998年におけるJT-60U実験の結果をレビューする.負磁気シアプラズマによる世界最高のDT等価エネルギー増倍率1.25の達成や高βpHモードによる高規格化β値の定常維持等,先進運転方式の性能が大きく進歩した.これは,内部及び周辺輸送障壁にかかわる輸送及び安定性研究の進展による.負イオン源中性粒子ビーム入射により,電子加熱,電流駆動,高エネルギーイオン挙動物理に関して新しい放電領域を開拓することができ,ITERに対して外挿性の高いデータを得た.W型排気ダイバータによる熱・粒子制御研究の展開により,主プラズマからスクレイプオフプラズマ,ダイバータプラズマにわたる熱と粒子の流れの理解が進んだ.ディスラプションの回避及び緩和技術も向上した.これらにより,高い総合性能を持つプラズマの定常維持へ向けた研究が着実に進展した.


271042
HIP法によるプラズマ対向機器用W-Cu合金接合技術の開発,1; タングステンと無酸素銅の接合
斎藤滋・深谷清・石山新太郎・衛藤基邦・秋場真人
JAERI-Research 99-049; Aug.1999,36p.

 現在,ITER/EDAをはじめJT-60SU等の大型トカマク炉の設計において,ダイバータ装置のアーマー材として高融点タングステン合金の適用が検討されており,冷却構造体である銅合金との接合技術を開発する必要がある.そこでわれわれは,高い信頼性や強度を得られる接合法として注目されている熱間等方加圧(Hot Isostatic Pressing:HIP)法を用いたタングステンと銅合金の接合技術の開発に着手した.本研究ではHIP法を用いたタングステンと無酸素銅の接合試験を行い,硬さ試験,組織観察及びSEM/EPMA分析や曲げ試験等による最適なHIP条件の選択と,引張り試験等による接合強度の評価を行った.その結果,最適接合条件は1000℃・2時間・147MPaで,接合強度はHIP処理した無酸素銅とほぼ等しいことがわかった.


271043
原子炉用黒鉛材料の酸化挙動とSiC傾斜組成化による耐酸化性及び耐熱衝撃性の改良研究
藤井貴美夫
JAERI-Research 99-050; Aug.1999,99p.

 多孔質材料である黒鉛・炭素材料の水蒸気あるいは空気による酸化腐食に起因する特性変化は腐食量が同じであっても,黒鉛・炭素材料内部への腐食の進行状況が,その銘柄によって異なるため単純に評価することはできない.特に低温域における腐食反応では,黒鉛材料に形状変化が生じていなくても腐食は材料内部まで均一に進行する.また,バインダー部分が選択的に腐食されるため粒子間がバラバラになり,結果として機械的・熱的特性を急速に失うことになる.本研究では,(1)原子炉用黒鉛材料の腐食特性と銘柄間に共通な腐食特性長さLBを用いて腐食量と腐食侵入深さの関係を明確にした,(2)全腐食量と試験片の全表面積の関係を検討した,(3)黒鉛材料の腐食特性を利用したSiC傾斜組成材料の創製と,耐酸化性及び耐熱衝撃性について検討した結果を報告する.


271137
Burnup characteristics of PuO2+ZrO2,PuO2+ThO2 and MOX fueled LWRs
Shelley, A.*・秋江拓志・高野秀機・関本博*
JAERI-Research 99-051; Sep.1999,51p.

 PuO2+ZrO2(岩石型酸化物燃料:ROX),PuO2+ThO2(トリウム酸化物燃料:TOX)及びMOX燃料を装荷した軽水炉における,Pu消滅,マイナーアクチニド(MA)及び長寿命FPの生成,使用済燃料中の放射能の毒性,燃料温度及びボイド反応度係数等の特性を検討した.例えば,減速材/燃料体積比が2.0の場合,ROX燃料中で兵器級Puの初装荷量の90%が消滅し,そのうち初装荷Puの2.5%はMAに変換されることがわかった.原子炉級Puの場合は80%が消滅し,6.7%がMAに変換する.TOX燃料もPu消滅特性は良いが,消滅した核分裂性Puの半分程度の233Uが生成する.MAと長寿命FPの使用済燃料中の生成量から放射能の毒性を評価すると,ROX燃料がほかの燃料より低い.ROXの主な欠点は反応度係数であるが,これが改善されればPuワンススルー燃焼用の燃料として優れた特性をもつ.


271138
燃料体内の反応度調整材位置を考慮した反応度価値評価手法のVHTRC実験データによる検討
藤本望・山下清信・秋濃藤義
JAERI-Research 99-052; Sep.1999,51p.

 VHTRC炉心に複数本の反応度調整材(BP)棒を装荷した実験結果について,BP反応度価値の解析精度を評価した.その結果,HTTRの核設計に用いている,ブロック内を均質としたモデルではBP反応度を20%程度過小評価することが明らかとなった.この結果は,BP反応度を系統的に過小評価しているため,過剰反応度を高めに評価するという観点からは保守的であり安全上問題ない.しかしながら,高温ガス炉の設計の合理化,将来炉の設計,HTTRの運転管理等のためには評価精度の向上が必要である.そこで,BP位置をモデル化し炉心内のインポータンス分布をより詳細に考慮すれば精度が向上すると考え,燃料体内でのBP棒の位置を考慮できるよう燃料体のメッシュ分割数を増やしたモデルを作成した.このモデルとともに,炉心計算のBP棒領域に対応する範囲で均質化することにより作成した実効断面積を用いることにより,10%以下の誤差でBP反応度を評価できることが明らかとなった.


271139
大気から土壌へのHT沈着速度の新しい測定方法
小嵐淳*・天野光・安藤麻里子・駒知孝*
JAERI-Research 99-053; Sep.1999,21p.

 自然環境においては,土壌中の微生物によるHTのHTOへの酸化が重要なプロセスである.HTの土壌への沈着量を予測する場合,一般にはHT沈着速度を用いて評価するために,この値を測定することはモデル化などの目的に対して特に役立つ.HTフラックスを,アクリル製のチェンバーとトリチウムサンプラーを用いて野外で測定する方法を開発した.本手法を用いて,東海研究所における土壌へのHT沈着速度を推定し,7.3×10-6−1.4×10-5m・s-1の値を得た.これによって,本測定法の有効性を確認した.本測定法を用いることによって,トリチウムソースを使用することなしにHT沈着速度を測定することが可能である.HT放出実験のような大規模な実験を行わなくても,どのような場所でも,比較的容易にHT沈着速度を得ることができる.


271140
高温工学試験研究炉における1次上部遮へい体用材料中の水分量検討
角田淳弥・沢和弘・茂木春義・板橋秀治・北見俊幸・圷陽一・渕田安浩*・川口徹*・守屋正裕*
JAERI-Research 99-054; Sep.1999,41p.

 高温工学試験研究炉の1次上部遮へい体は,鉄枠中に遮へい体であるコンクリート(グラウト)を封入したものである.1次上部遮へい体の主な機能は,燃料取扱フロア,スタンドパイプ室の線量当量率が遮へい区分の制限値を満足するように炉心からの中性子及びγ線を減衰させることである.温度が上昇した場合に特に重要になるもののひとつに,中性子遮へいに大きな影響を与えるコンクリート中の水の含有量(含水量)がある.そこでコンクリート温度と含水量の関係を把握するために,炉外試験を行った.本試験結果に基づき,コンクリートからの水の散逸挙動のモデルを作成した.そのモデルを1次上部遮へい体に適用した結果,1次上部遮へい体の温度が110℃以下であれば,遮へい評価に用いている含水量が保持されるという結論を得た.


271141
Decay heat experiment and validation of calculation code systems for fusion reactor
前川藤夫・和田政行*・池田裕二郎
JAERI-Research 99-055; Oct.1999,188p.

 核融合炉の冷却材喪失事故時等の安全性解析において,崩壊熱量の正確な評価は極めて重要である.そこで,ITER/EDAのタスク(T-339)として崩壊熱測定実験を行い,その妥当性を検証した.まず,崩壊熱を高精度かつ効率的に測定できる検出器,全エネルギー吸収スペクトロメータを開発し,原研FNSの14-MeV中性子で照射した32種の試料から発生する崩壊熱を1分〜400日の冷却時間範囲にわたって測定した.実験解析により崩壊熱計算コード(ACT4,CINAC-V4),放射化断面積ライブラリー(FENDL/A-2.0,JENDL放射化ファイル等),及び崩壊データの妥当性を検証した結果,コードやデータに修正すべき問題点が見つかった.これらに対処した結果,多くの試料について計算値は実験値と良い一致を示した.特にITERで重要なステンレス鋼316及び銅については,崩壊熱を10%以内の精度で予測できることがわかった.


271142
アスファルト固化処理施設火災・爆発事故の原因究明試験と環境影響評価
藤根幸雄・村田幹生・阿部仁・高田準一・塚本導雄・宮田定次郎*・井田正明*・渡辺眞樹男・内山軍蔵・朝倉俊英・杉川進・岡崎修二*・宮内正勝・冨樫喜博・茅野政道・永井晴康・加藤正平・中山真一・梅田幹・前田充・井澤直樹*・西尾軍治*・鴻坂厚夫*
JAERI-Research 99-056; Sep.1999,278p.

 東海再処理施設アスファルト固化処理施設における火災爆発事故について,原研の調査検討会が行った原因究明にかかわる試験及び環境影響評価の結果を報告する.原因究明にかかわる試験においては,実廃液サンプルの化学分析,アスファルト塩混合物の熱分析,暴走的発熱反応試験,発煙時の可燃性ガス分析などを行った.環境影響評価では,環境モニタリングデータと大気拡散シミュレーションコードSPEEDIによる解析結果より,環境へ放出されたCs量を推定した.また,一般住民の被ばく線量評価を行った.


271143
高燃焼度フルMOX PWR炉心の核的検討,2
久語輝彦・大久保努・島田昭一郎*
JAERI-Research 99-057; Sep.1999,29p.

 将来型軽水炉の一つのオプションとして,既存軽水炉技術を用いて,平均取り出し燃焼度100GWd/tでサイクル長3年の高燃焼度フルMOX PWRの炉心概念の検討を進めている.本報告では,燃料棒の細径化によって減速材対燃料体積比(Vm/Vf)を増加させて,核的及び熱的性能の向上を試みることを目的として,燃料ピン間隔を現行炉心と同様の12.6mmとし,燃料棒を現行の9.5mmから8.3mmに細径化することによりVm/Vfを3.0に増加させた炉心を提案し,炉心核特性を評価し,炉心成立性を確認した.また,燃料棒径を現行と同様とし,かつ燃料ピン間隔を拡張したVm/Vf=2.6の炉心核特性と比較した結果,サイクル長が約9%減少することを除けば,核分裂性プルトニウム富化度を約0.3wt%節約でき,また減速材温度係数に余裕が増加するなど,むしろ良好な炉心特性を持つことが判明した.


271239
低減速スペクトル炉の研究
岩村公道・大久保努・嶋田昭一郎*・碓井修二*・白川利久*・中塚亨・久語輝彦・秋江拓志・中野佳洋・和田茂行*
JAERI-Research 99-058; Nov.1999,61p.

 低減速スペクトル炉は,中性子エネルギーを現行軽水炉よりも高くすることで転換比を増大させ,ウラン資源の有効利用,高燃焼度・長期サイクル運転,及びプルトニウム多重リサイクル等を目指した将来型水冷却炉である.炉心設計では,転換比の増大とともにボイド反応度係数を負とするため,燃料格子の稠密化,炉心の扁平化,ブランケットの活用,ストリーミング効果等の基本的な炉心設計上のアイデアを組み合わせた.これまでBWR型炉として,高転換比炉心,長期サイクル炉心,ブランケットなしの炉心を,PWR型炉として,高転換比炉心,プルトニウム多重リサイクル炉心の概念を創出した.本報告書は,研究目的,国内外の動向,原理及び特徴,炉心概念設計の現状,及び今後の研究開発計画等,低減速スペクトル炉の研究成果をまとめたものである.


271240
高温工学試験研究炉炉心解析モデルの改良; 過剰反応度に関する検討
藤本望・山下清信
JAERI-Research 99-059; Nov.1999,43p.

 これまで,HTTRの炉心解析モデルについて,VHTRCの実験結果を用いて検証が行われてきた.またモンテカルロコードとの比較に基づき,ゼブラ型反応度調整材の形状及び位置の効果,中性子ストリーミング効果を考慮できるようモデルの改良が進められてきた.さらにこの改良モデルを用いて臨界試験の予備解析が行われてきた.しかしながら臨界試験の結果から,予備解析に用いたモデルでも過剰反応度を過大に評価することが明らかとなった.検討の結果,燃料セルの外径が過大で実際より減速材の黒鉛が多いため柔らかい中性子スペクトルとなり,235Uの核分裂断面積を大きく評価していることが原因であると考えられた.そこで,燃料セルの外径をこれまでより小さい,燃料棒のピッチによる値とすることにより,臨界試験結果とよく一致する結果を得ることができた.


280141
反応度事故条件下における照射済ATR/MOX燃料の挙動(共同研究)
笹島栄夫・更田豊志・中村武彦・中村仁一・上塚寛・菊池圭一*・安部智之*
JAERI-Research 99-060; Mar.2000,62p.

 反応度事故条件下における照射済MOX燃料の挙動,特にFPガス放出や破損機構をウラン燃料と比較し把握するために,原研のNSRRにおいて燃料燃焼約20MWd/kgHMまで新型転換炉「ふげん」においてベース照射したATR/MOX燃料を用いたパラメータ照射実験を行った.これまでに4回のパルス照射実験をピーク燃料エンタルピ335J/gから586J/gの範囲で実施したが,燃料の破損は観察されなかった.500J/g以上のピーク燃料エンタルピを与えた実験では,PCMIによる比較的大きな燃料棒の変形が生じた.パルス後のガスパンクチャ試験により,約20%のFPガス放出が観察された.Puスポット位置では,FPガスがたまっていると思われる直径数十ミクロンの大きな気孔が見られた.ペレット外周部のPuスポットの周りでは結晶粒の微細化が観察された.またペレット外周部でのマイクロクラックの生成,Puスポットを起点としたクラックの生成,マトリックス部の結晶粒界分離が観察された.このようにパルス照射によるペレットミクロ組織の変化がパルス照射時の燃料スエリングに寄与したと考えられる.また相対的に高いピーク燃料エンタルピのパルス照射時に見られた,燃料棒の大きな変形及び高いFPガス放出率は,このようなミクロ組織の変化によって生じたものと思われる.


280001
JT-60Uにおける110GHz局所加熱/電流駆動システムの高周波入射系の基本設計
池田佳隆
JAERI-Research 99-061; Dec.1999,46p.

 JT-60Uにおいては,高周波加熱装置の周波数を110GHzとすることで,電子サイクロトロン(EC)波による局所加熱/電流駆動が可能である.本研究では,その局所加熱/電流駆動システムの入射系の設計検討を行い,110GHzのEC波を局所的に吸収させるためのプラズマ入射条件を明らかにした.またray-traceとFokker-Plant ckの数値計算コードにより,中心電子温度が8keVの高βプラズマにおいて,1MW入射時に,幅10cm程度にブートストラップ電流と同程度の電流密度の局所電流駆動が可能であることを示した.これらの結果をもとに,JT-60Uにおいて,プラズマ中心部から周辺部までの加熱/電流分布制御が可能なRFビームの入射系の基本設計を行った.


280002
The JT-60U 2.45MeV neutron time-of-flight spectrometer
M. Hoek*・西谷健夫・高橋浩之*・中沢正治*・T. Elevant*・柴田泰成*
JAERI-Research 99-062; Nov.1999,28p.

 JT-60Uにおける中性子エネルギースペクトル測定を目的として,2.45MeV中性子用の飛行時間スペクトロメータを設計・製作した.2つの高速プラスチックシンチレータ検出器を等飛行時間球面に沿って配置することにより,幾何学的な飛行時間誤差を最小にした.ここでは等飛行時間球面の半径を1mとした.本報告では,スペクトロメータの原理,プラスチックシンチレータ検出器のエネルギー較正法,大面積プラスチックシンチレータ検出器のタイミングテストについて紹介する.また14MeV中性子を用いて本スペクトロメータシステムの試験を行い,応答関数がガウス型であること,及び検出効率とエネルギー分解能がモンテカルロ計算とよく一致することを確認した.


280003
Analysis of internal transport barrier heat diffusivity from heat pulse propagation created by abrupt variation of diffusivity in JT-60U reverse shear plasmas
S. V. Neudatchin*・滝塚知典・白井浩・藤田隆明・諫山明彦・小出芳彦・鎌田裕
JAERI-Research 99-063; Nov.1999,38p.

 JT-60U中の負磁気シアプラズマにおいて,熱パルス伝搬の新しい発生源を発見した.熱拡散係数の急激な変動(事象)が熱パルス伝搬を引き起こす.この事象により急激な電子温度上昇(〜20keV/s)が局所的(〜4cm)に発生すると,その後時間が進むに従って,上昇した温度の変動が内部輸送障壁領域をゆっくりと拡散的に拡がっていく.この熱パルス伝搬を解析的・数値的に研究した.約8cm幅の領域において,電子の熱拡散係数は,約0.1m2/sと小さくなっていることがわかった.この領域は磁気シアが正になっているところまで含んでいる.イオンの熱パルス伝搬も解析し,イオン熱拡散係数も電子と同様に小さくなっていることを示した.さらに,内部輸送障壁領域中には電子もイオンもともに熱ピンチは存在しないことを明らかにした.


280004
レーザー共鳴電離プラズマからのイオン回収における電子温度の効果
田村浩司・大場弘則・柴田猛順
JAERI-Research 99-064; Dec.1999,12p.

 ジスプロシウムのレーザー共鳴イオン化で電子温度が0.024eV及び0.23eVと1桁異なるプラズマを作り,プラズマからのイオン回収実験を行った.電子温度が高いプラズマの場合,プラズマ膨張速度が大きいため回収電極へのイオン電流密度が高く,イオン回収時間は短かった.また,プラズマ膨張に伴う電子温度の低下を考慮した簡易1次元モデルで計算した回収時間は,実験で得られた結果をよく再現することができた.


280005
Magnetic field effect on nuclear shell structure and implications to physics of neutron stars
V. N. Kondratyev*・丸山敏毅・千葉敏
JAERI-Research 99-065; Dec.1999,51p.

 殻補正の方法を用いて,原子核の殻構造に対する磁場の影響を調べた.磁場の効果は,主として殻補正エネルギーにおける振動パターンの位相のずれとして現れることが判明した.この位相変化は,スピンの向きが異なる核子に対するエネルギー準位の相対的なシフトに伴うPauli型の常磁性効果によるものである.中性子に対する殻補正エネルギーは,磁場の変化とともにほぼ周期的に変化し,強磁場の場合にわずかに増大することがわかった.また,殻補正エネルギーの符号が変わる周期は,隣り合う準位のエネルギー差によって決まることが示された.一方,陽子の殻補正エネルギーは,磁場に対して不規則な依存性を有することがわかった.陽子の軌道運動に起因する磁場の効果は,スピン軌道結合の大きさと匹敵する場合に殻補正エネルギーの振動を増幅する.これらの結果,中性子星や超新星爆発に伴う磁場強度であるB〜1016から1017ガウス程度の大きさの場合に,原子核の魔法数が磁場強度に依存することが示された.


280006
VEGA実験計画の概要及びCsIを用いた装置の性能確認実験
日高昭秀・工藤保・中村武彦・林田烈*・大友隆・中村仁一・上塚寛
JAERI-Research 99-066; Dec.1999,38p.

 原研では,シビアアクシデント条件下の照射済燃料からのFP放出挙動を調べるため,VEGA計画を進めている.同計画では,これまでの類似実験では得られなかった,3000℃の高温条件及び加圧雰囲気(1.0MPa)下における照射済燃料からの中・難揮発性FPや超ウラン元素の放出挙動を調べる予定である.特に,雰囲気圧力の影響を調べる試験は世界で初めてであり,本試験の最大の特徴と言える.第1回目のホット実験の前に,非放射性の揮発性CsI粉末を装置内で蒸発させ,装置の基本性能を確認するための実験を行った.その結果,エアロゾルフィルターの補修効率は約98%であること,設計通りにフィルターの下流側に到達するCsI量は微量であること,しかしながら,わずかに形成されたI2ガスはフィルターを通過し,コンデンサー前の低温配管へ凝縮することを明らかにした.


280007
Evaluation of steam generator U-tube integrity during PWR station blackout with secondary system depressurization
日高昭秀・浅香英明・上野信吾*・吉野丈人*・杉本純
JAERI-Research 99-067; Dec.1999,55p.

 2次系減圧を伴うPWR電源喪失事故時に炉心が昇温すると,温度上昇に起因して蒸気発生器伝熱管が破損する可能性がある.米国NRCの解析は,その場合でも,サージラインが先に破損することを示したが,沈着したFPからの崩壊熱を考慮していない.そこで,その影響を調べるため,まず,米国NRCの解析で使用したホットレグ水平対向流モデルを原研のLSTF実験で検証した後,Surry炉を対象としてSCDAP/RELAP5コードを用いた解析を行った.FP沈着量と崩壊熱は原研のARTコードを用いて別途計算した.その崩壊熱を熱応答計算で考慮した場合,伝熱管の健全性はかろうじて確保された.しかしながら,種々の不確実性を考慮すると,伝熱管が最初に破損する可能性を排除できない.このことは,2次系減圧に関するアクシデントマネジメント方策の得失を評価するうえで考慮しておく必要がある.


280008
Molecular dynamics of formation of TD lesioned DNA complexed with repair enzyme; Onset of the enzymatic repair process
M. Pinak*
JAERI-Research 99-068; Dec.1999,32p.

 チミンダイマー(TD)損傷部分をDNAから除去する修復酵素の一部分(活性中心のArg-22,Glu-23,Arg-26,Thr-2を含む)に関する500psの間の分子動力学シミュレーションを行った.TDは紫外線によりDNAに生成される損傷で,T4 Endonuclease Vはこの損傷に特異の修復酵素である.TDとT4 Endonuclease Vの一部を同じシミュレーションセルの中に配置し,相対的な動きを調べた.最初の100psの間に酵素の一部がDNAのTD損傷部分に近づき,さらに静電力とファンデアワールス力を介して作用し複合体を形成し,500psの間安定な状態を持続した.最初の段階では正の静電作用エネルギーが酵素をDNAに向けて動かした.水分子を仲介とした水素結合が複合体を安定に保つのを助けた.


280009
On the development of LWR fuel analysis code,1; Analysis of FEMAXI code and proposal of a new model
S. Lemehov*・鈴木元衛
JAERI-Research 99-069; Jan.2000,43p.

 本報告では,FEMAXI-Vコードのモデルの特徴のレビュー,及び被覆管クリープの,照射誘起微細組織変化に基づく新しい理論的モデルの提案をまとめた.高燃焼度における燃料マトリックスへのPu蓄積及び半径方向出力プロファイルの不均一性は,被覆管の照射誘起クリープ,FPガス放出,燃料熱伝導率低下,リム層ポーラスバンド生成,それと関連したスエリングなどの現象と相互に関連することにより燃料ふるまいに大きく影響することを指摘した.また,被覆管のクリープに関して提案した新モデルは,一般的な形に定式化されているので,炉外試験で得られた機械的性質を用いて,定常状態及び過渡変化時のZrベースの被覆管のふるまいの解析に対して柔軟に適用可能となる.本モデルは,実験データにより評価されたが,今後特に出力変動時及び過渡時について検証が必要である.


280010
炭素繊維の加熱処理にともなう引張特性とX線パラメータの変化
斎藤保・馬場信一・衛藤基邦
JAERI-Research 99-070; Jan.2000,21p.

 次世代の高性能材料の一つとしてC/C複合材料は原子力の分野でも注目されている.この材料のもつ軽量で機械的強度が高く,優れた熱特性を示すという利点は主原料となる炭素繊維の特性を生かしたもので,繊維を改良することによりC/C材の機能性をさらに高めることができる.本研究は炭素繊維の高性能化に必要な基礎データを得ることを目的としたもので,繊維の引張特性に及ぼす加熱処理温度の影響を検討した.最高2800℃までの所定の温度で加熱処理したPAN系繊維について引張強度とヤング率の変化を測定し,同繊維の熱処理に伴う結晶構造の変化との関係を検討した.その結果,炭素繊維のヤング率の増加を結晶子の配向性の変化と関連づける既存のモデルを改良したほか,繊維の破断強度の低下に及ぼす結晶成長の影響について論じた.


280011
Experimental study on the influence of radiation on high-voltage insulation gases
藤原幸雄・井上多加志・宮本賢治・宮本直樹*・小原祥裕・奥村義和・渡邊和弘
JAERI-Research 99-071; Dec.1999,33p.

 国際熱核融合実験炉(ITER)用中性子入射装置(NBI)の工学設計を行うため,60Coγ線を用いた各種絶縁ガス(空気,SF6,C2F6,CO2,空気とSF6の混合ガス)に対する照射実験を行った.実験から,飽和電流はギャップ長,ガス圧,吸収線量率並びにガス分子量に比例することが明らかとなった.耐電圧性能は,γ線照射により10%程度低下するものの,その程度は吸収線量率に依存しなかった.質量分析器を用いてSF6ガスの分解生成物を調べたところ,未照射の場合には存在しなかったピークが,m/e=48,64,67,83,86,102,105のところに確認された.また,分解生成物量は吸収線量が高くなるにつれて飽和する傾向があることがわかった.


280012
Vacuum discharge as a possible source of γ-ray bursts
G. Mao*・千葉敏・W. Greiner*・親松和浩*
JAERI-Research 99-072; Dec.1999,15p.

 高密度物質中での強い相互作用によって起こる真空(Dirac海)からの自発的な粒子・反粒子生成によってγ線バーストのエネルギーが説明できることを示す.われわれのモデルでは,生成された反粒子が周囲に存在する物質中で対応する同種粒子と対消滅し非常に大きなエネルギーを放出し,それがγ線バーストのエネルギー源となる.このような粒子・反粒子対生成を起こすのに必要な臨界密度以上の高密度物質を作る候補としては,二つの中性子星の衝突,またはブラックホールと中性子星の合体が考えられる.そこで,二つの中性子星の衝突の場合に起こる陽子・反陽子生成と引き続き起こる対消滅によるエネルギー放出量を推定し,約1051から1053erg(衝突係数によって異なる)という値を得た.この値は,最もエネルギーの大きいγ線バーストの初期エネルギーとして観測されている値と一致する.本研究においてわれわれが提案したシナリオを検証するために,γ線バースト源からの反陽子スペクトルを測定することを提案する.


280071
リモートモニタリング技術の開発; 高繰り返しレーザーによるヨウ素の検出特性
丸山庸一郎・加藤政明・大図章・馬場恒孝
JAERI-Research 99-073; Jan.2000,11p.

 レーザーを使って大気中を時々刻々拡散する極微量有害物質のその場観察が可能なリモート(遠隔)モニタリング技術開発の第一段階として,原子力施設の事故で問題となることの多いヨウ素を取り上げ,その検出予備実験を高繰り返し波長可変レーザーを用いて行った.実験では,波長可変レーザー光をレーザー装置から15m先のヨウ素に照射し,その時の蛍光スペクトル,励起特性,検出感度特性などを測定した.高繰り返しレーザーを利用することでS/Nは改善され,数秒のレーザー照射で精度の高いデータを得ることができた.さらに実験結果をもとに,ヨウ素が1km先にある場合を仮定して簡単な評価を行った.この結果,本モニタリング手法によりサブppbの濃度のヨウ素検出の目途が得られた.


280072
階層型核変換システムにおけるMAの蓄積と核変換のマスバランス
西原健司・安藤良平*・高野秀機
JAERI-Research 99-074; Jan.2000,24p.

 日本原子力研究所が提案している階層型核変換システムのマスバランスを解析し,併せてその導入効果を検討した.このために,まず,現行の軽水炉,プルサーマル軽水炉及び金属冷却高速炉からのマイナーアクチノイド(MA)生成を炉型,燃焼度,燃料毎にまとめた.核変換システム本体として,熱出力800MWのMA専焼炉を設定した.これはMA窒化物燃料を使用した鉛−ビスマス液体金属冷却の加速器駆動炉で,核変換効率は一基あたり250kg/年である.商業炉が単一の炉型によって構成されている場合について専焼炉内と炉外再処理工程のマスフローを見積もった.最後に,この核変換システムを2030年からいくつかの商業発電シナリオに沿って導入し,必要基数と核変換効果を検討した.


280073
TRAC-PF1コードによるICE事象解析
小瀬裕男*・高瀬和之・秋本肇
JAERI-Research 99-075; Jan.2000,95p.

 核融合実験炉における熱流動に関連する異常事象としては,真空容器内冷却材侵入事象(ICE: Ingress-of-Coolant Event)と真空境界破断事象(LOVA: Loss-of-Vacuum Event)が考えられる.これらICE及びLOVA事象下における熱流動特性を定量的に評価するためにICE/LOVA統合試験装置が計画されている.本研究は,ICE/LOVA統合試験装置の建設前に,ICE事象下における伝熱流動特性を軽水炉の熱流動安全性評価解析のために開発されたTRAC-PF1コードを使って数値予測した.


280074
変動磁場中の強制冷却超電導体の電流偏流現象に関する研究
小泉徳潔
JAERI-Research 99-076; Feb.2000,198p.

 大電流強制冷却超電導導体は,交流損失低減のために,素線間に絶縁層あるいは高抵抗層を設ける.これらの導体の実証試験で,それぞれが臨界電流値の1/20,1/5でクエンチする不安定現象を観測した.この原因を実験・解析の両面から研究して,電流偏流によってクエンチが起こることを論証した.これらの導体では,わずかな撚線の乱れのために,もれ磁束が零とならないループが存在する.これまでの中規模のコイルでは,このループに誘起される循環電流は小さく問題とならなかった.一方,コイルが大型化して,磁場が高くなったために,もれ磁束が大きくなって,大きな循環電流が発生するようになった.このために,大きな電流偏流が発生して,大幅なクエンチ電流値の低下を引き起した.一方,電流偏流による不安定現象の解消方法も本研究のなかで考案し,その技術を実証した.


280075
Computational study of hydration at the TD damaged site of DNA in complex with repair enzyme T4 Endonuclease V
M. Pinak*
JAERI-Research 99-077; Feb.2000,31p.

 チミンダイマー(TD)損傷部分を修復酵素T4 Endonuclease Vが適切に認識する過程で,DNA周辺の水分子の分布が果たす役割に関する解析を行った.損傷のない12塩基対DNA,TDを持つ12塩基対DNA,並びにDNAとT4 Endonuclease Vの一部との複合体を対象として,500psの間の分子動力学計算を実施した.DNA原子に隣接した水の数及び滞留時間を調べた.TD損傷がある場合,損傷のないDNAに比べ,TD付近の水分子の数の増加が観察された.TDの周囲の水分子が密集した領域は,修復酵素によるTD認識要因の一つになると考えられる.複合体付近では水の滞留時間が長いことがわかった.また,TDと活性中心との間の安定位置を6つの水分子が占めていることを発見した.修復過程の開始に必要な複合体の安定性維持に,これらの水分子が介在した水素結合ネットワークが貢献していると考えられる.


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