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横田 裕一郎; 舟山 知夫; 和田 成一*; 長谷 純宏; 小林 泰彦; 井上 雅好*; 田中 淳; 鳴海 一成
JAEA-Review 2007-060, JAEA Takasaki Annual Report 2006, P. 69, 2008/03
葉状植物を含む多くの高等植物は、個体及び細胞レベルで高い放射線耐性を示すが、その機序は明らかにされていない。本研究では、タバコ培養細胞(BY-2)をモデル植物細胞として、この問題に取り組むために、線で照射したBY-2細胞における細胞周期チェックポイントの解析と微小核誘発率測定を行った。その結果、G/M期細胞区は照射後24時間で一過的に増加した。また、少なくとも一個の微小核を持つ細胞の割合は、照射後48時間で急勾配で増加した。これらのことから、BY-2細胞は、G2期において一過性かつ緩いDNA損傷チェックポイント機構を持ち、結果として、線照射後に微小核が高頻度で誘発されると考えられた。これは、ゲノムの不安定性を増加させるので、一見すると生物にとって良くないと思われがちだが、限られた寿命の間に、他の競合相手よりも多く太陽光を得るために、早く増殖する必要がある高等植物にとっては許容できることなのであろうと思われた。
横田 裕一郎; 井上 雅好; 鳴海 一成; 舟山 知夫; 小林 泰彦; 田中 淳
放射線生物研究, 42(4), p.402 - 415, 2007/12
双子葉植物など高等植物の多くは放射線に耐性で、個体レベルでは哺乳動物より百倍から数百倍も放射線に強いことが知られてきたが、その放射線耐性メカニズムの詳細については、ほとんど何もわかっていなかった。われわれは、タバコのBY-2培養細胞株をモデル植物細胞として放射線影響研究を進めることで、これまでに、タバコ細胞が哺乳動物細胞と比べて10倍程度も放射線耐性であること、タバコ細胞では正確な修復が困難なDNA2本鎖切断が生じにくい一方で、たくさんのDNA2本鎖切断に耐えうることを明らかにしてきた。また、最近の実験データから、タバコ細胞のDNA2本鎖切断修復能力は哺乳動物細胞とあまり変わらず、むしろ、放射線照射後に細胞内に生じる染色体異常に寛容であることがわかってきた。本総説では、これらの実験データを総合して解釈することにより、植物の放射線耐性メカニズムについての考察を進めた。
横田 裕一郎; 山田 真也*; 長谷 純宏; 鹿園 直哉; 鳴海 一成; 田中 淳; 井上 雅好
JAEA-Review 2006-042, JAEA Takasaki Annual Report 2005, P. 77, 2007/02
イオンビームは、線など低LET放射線と比べて、植物の種子あるいはプロトプラストにおける致死,染色体異常,変異誘発効果などが大きいが、そのメカニズムは現在まで明らかになっていない。本研究では、LETの異なるイオンビームを照射したタバコプロトプラストにおいて、放射線が生体内に誘発する最も致死的に損傷であるDNA2本鎖切断の初期生成状態について、バルスフィールドゲル電気泳動法を用いたDNA断片サイズ分析法で定量的に分析した。その結果、高LETの炭素及びネオンイオンビーム照射では、線照射と比べて、長さの短いDNA断片の集積が観察され、イオンビームは、植物細胞DNAに局所的なDNA2本鎖切断を効率的に誘発することが明らかになった。このことから、DNA2本鎖切断の初期生成状態の違いが、イオンビームの高い生物効果の一因であると考えられた。
横田 裕一郎; 山田 真也*; 長谷 純宏; 鹿園 直哉; 鳴海 一成; 田中 淳; 井上 雅好*
Radiation Research, 167(1), p.94 - 101, 2007/01
被引用回数:27 パーセンタイル:61.29(Biology)イオンビームが植物細胞を致死あるいは変異させる能力は線エネルギー付与(LET)に依存するが、その損傷メカニズムはよくわかっていない。本研究では、高LETイオン照射したタバコプロトプラストにおいてDNA2本鎖切断(DSB)をDNA断片サイズ分析法で定量した。植物単細胞のモデルとしてタバコBY-2プロトプラストにLETの異なるヘリウム,カーボン及びネオンイオンと線を照射した。照射後、パルスフィールドゲル電気泳動法でDNA断片を分離した。DNA断片化についての情報はゲルをSYBR Green Iで染色することにより得た。DSB初期収量(Gbp Gy)はLETに依存し、生物学的効果比は124及び241keV/mのカーボンイオンで最大となった。高LETのカーボン及びネオンイオンは線と比べて短いDNA断片を効率的に誘発した。以上の結果は植物において高LETイオンが引き起こす大きな生物効果を部分的に説明するものである。
北村 智; 田中 淳; 井上 雅好*
Genes and Genetic Systems, 80(4), p.251 - 260, 2005/08
被引用回数:10 パーセンタイル:20.11(Biochemistry & Molecular Biology)タバコ属植物における倍数化の経緯を探るため、4倍体野生タバコ種において、高等生物に必須の遺伝子である5S rDNAのスペーサー領域を単離しシーケンス解析した。既に解析済みであった2倍体タバコ種におけるスペーサー配列と比較することにより、2倍体種と4倍体種からなる複数のグループが形成された。また5S rDNAの座乗染色体を調べたところ、グループ内の種は類似した染色体に5S rDNAが位置することがわかった。これらの結果から、同一グループに分類された倍数性の異なる種は、5S rDNAを基準にすると、非常に系統学的に近い関係にあると言える。この結果が、5S rDNAという一つの遺伝子だけでなくゲノム全体に関しても言えるかどうかを調査するために、GISHによるゲノムレベルの解析を行った。その結果、シーケンス解析で認められたグループは、ゲノムレベルでも非常に近縁関係にあることがわかった。
横田 裕一郎; 鹿園 直哉; 田中 淳; 長谷 純宏; 舟山 知夫; 和田 成一; 井上 雅好*
Radiation Research, 163(5), p.520 - 525, 2005/05
被引用回数:20 パーセンタイル:48.84(Biology)一般的に高等植物は哺乳動物よりも放射線に強い。高等植物の放射線耐性機構を探索するために、タバコBY-2細胞及びその対照としてチャイニーズハムスターCHO-K1細胞に線を照射し、パルスフィールドゲル電気泳動法によりDNA2本鎖切断(DSB)を定量した。タバコBY-2細胞におけるDSB生成量(2.00.1DSBs GbpGy)はCHO-K1細胞のわずか1/3であり、一方で、平均致死線量の線照射による細胞あたりのDSB生成量は、タバコBY-2細胞(263.213.2)ではCHO-K1細胞より5倍多かった。これらの結果は、タバコBY-2細胞で認められた放射線耐性の原因として、DNA損傷が少ないばかりでなく、DNA損傷が効果的に修復されることを示唆している。
横田 裕一郎; 長谷 純宏; 鹿園 直哉; 田中 淳; 井上 雅好*
International Journal of Radiation Biology, 79(8), p.681 - 685, 2003/08
被引用回数:21 パーセンタイル:78.49(Biology)イオンビーム照射した植物単細胞での放射線感受性と生物学的効果比(RBE)の線エネルギー付与(LET)依存性を調査するために、タバコ(BY-2)単細胞にカーボンイオン(78.6-309keV/m)及び線(0.2keV/m)を照射した。照射2週間後、16細胞以上からなるコロニーを形成した照射細胞を生存細胞として計数した。生存割合を単一ヒット多標的理論を用いて近似した。生存割合を0.1に減少させる線量(D)は線で47.2Gy、カーボンイオンで10.5から12.6Gyであった。ほ乳類細胞に比べてタバコ単細胞の放射線感受性は5から10倍低かったが、放射線感受性と高い相関を持つパラメータである染色体当たりのDNAサイズは両者の間でほぼ同じであった。Dに基づくRBEは247keV/mでピークに達した。タバコ単細胞におけるカーボンイオンのDに基づくRBEピークは他の生物において認められているよりも高LETで認められた。
北村 智; 井上 雅好*; 近江戸 伸子*; 福井 希一*; 田中 淳
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B, 206, p.548 - 552, 2003/05
被引用回数:8 パーセンタイル:50.24(Instruments & Instrumentation)栽培タバコ L.と野生タバコ Dominとの間には強い交雑不親和性が存在するため、通常の交雑では種間雑種を得ることは極めて困難である。にも関わらず、われわれは、ヘリウムイオンビームあるいは線を照射した花粉を交雑に用いることにより、交雑不親和性を打破し、との種間雑種を得ることにすでに成功している。今回、親種のゲノムDNAを用いた蛍光in situハイブリダイゼーション法により、これらの種間雑種の染色体構成を調査した。ヘリウムイオンビーム照射花粉を用いて得た雑種では、多くの根端細胞は、18本の染色体と24本のからなっていることが明らかとなり、このことは、両親の染色体数から期待される雑種の染色体構成と一致する。しかし、これらの雑種の幾つかの細胞では、両親ゲノム間の転座や挿入といった大きな染色体再編成が起こっていることが示された。再編成の起こった染色体における両親ゲノムの境界点は、主に、動原体近傍あるいは二次狭窄領域であった。一方、線照射花粉を用いて得た雑種では、両親ゲノム間の染色体組み換えは検出されなかったが、全ての細胞が41本の染色体を保持しており、それらのうちに由来する染色体が19本であることが示された。
長谷 純宏; 山口 樹紀*; 井上 雅好*; 田中 淳
International Journal of Radiation Biology, 78(9), p.799 - 806, 2002/09
被引用回数:35 パーセンタイル:88.28(Biology)植物におけるイオンビームの生物学的効果比(RBE)と線エネルギー付与(LET)との関係を調査するため、タバコ種子に92260keV/mのLETを持つカーボンイオンを照射し、生存率並びに根端細胞での染色体異常を調査した。線に対するRBEは、生存抑制効果についてはD37,染色体異常誘起効果については50%の染色体異常頻度を誘発するために必要な線量の比よりそれぞれ求めた。RBEはLETの増加に伴って増加し、230keV/mのLETでピークに達した。線に対するRBEの最大値は生存抑制効果については65.0,染色体異常誘起効果については52.5であった。LET-RBEの関係は両指標についてよく似たパターンを示した。発芽直後の根端分裂組織で観察される染色体異常のタイプは放射線の種類によって差がみられなかった。根が伸長するにしたがって染色体異常頻度は序々に低下した。また、染色体断片は染色体橋に比べて速く減少した。カーボンイオンを照射した根では線を照射したものに比べて染色体異常の消失の速度が遅いようであった。
北村 智; 井上 雅好*; 鹿園 直哉; 田中 淳
Theoretical and Applied Genetics, 103(5), p.678 - 686, 2001/10
被引用回数:46 パーセンタイル:80.85(Agronomy)タバコ属には染色体数の異なる多くの種が存在するため、その系統関係は極めて複雑であると考えられている。本研究では、18,20,24及び48本の染色体をもつタバコ野生種の系統類縁関係を明らかにするために、5SリボソームRNA遺伝子(5S rDNA)のスペーサー領域の塩基配列を解析した。18,20及び24本の染色体をもつ種においては、一種類の5S rDNAユニットが検出された。一方、48本の染色体をもつ種においては、二種類の5S rDNAユニットが検出され、その塩基配列から、これらの種が雑種由来の複二倍体であることがわかった。それぞれの種から単離した5S rDNA配列を比較することにより、塩基置換の頻度に基づいて3つの領域に分けることができた。5S rDNAのスペーサー領域の塩基置換パターンに基づいて系統分類学的解析を行った。幾つかの異なる理論法を適用することにより系統樹を作製し、すべてにおいて類似した結果が得られた。本研究で示された系統関係は、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)により明らかにした5S rDNAの染色体上の分布パターンと一致していただけでなく、植物の外部形態などに基づいた現行のタバコ属植物の分類と矛盾のないものであった。
下野 和彦*; 鹿園 直哉; 井上 雅好*; 田中 淳; 渡辺 宏
Radiation and Environmental Biophysics, 40(3), p.221 - 225, 2001/09
被引用回数:8 パーセンタイル:28.36(Biology)タバコ根端細胞に対するカーボンイオン分割照射効果について調べた。2MeV電子線に対する220MeVカーボンイオンの単一照射の生物学的効果比(RBE)は、分裂指数が15,染色体異常頻度が10であった。カーボンイオン0.5Gyを二回,1時間,2時間,6時間間隔で照射しても1Gyの単一照射と染色体異常頻度に差がみられなかった。しかしながら、電子線においては、5Gyを2時間間隔で照射した場合、10Gy単一照射に比べて染色体異常頻度が低下することが見いだされた。このことは、一回目の照射によって「正確な」修復が誘導・活性化されたことを示唆している。染色体異常のスペクトルが単一照射と分割照射で変わらなかったことから、この電子線における染色体異常頻度の低下はある特定の型の異常が原因ではないと考えられる。カーボンイオンの分割照射によって染色体異常頻度が下がらないことは一回目の照射によって「正確な」修復が誘導・活性化されない、もしくはカーボンイオンによる損傷が効率的に修復されないことが原因と考えられる。
浜田 健太郎*; 井上 雅好*; 田中 淳; 渡辺 宏
Plant Biotechnology, 18(4), p.251 - 257, 2001/04
イオンビーム照射とタバコ花粉の培養系利用によって得られたポテトウィルスYの耐病性半数体の染色体倍化を行うため、髄組織の培養を試みた。その結果、35個体の植物を得ることができ、順化を行った。それらの染色体数は22から96本まで変化していたが、16個体では、正常な48本の染色体を保持していた。また、これらの植物体は自家受粉により稔性種子を作り出せることができた。さらに、後代でポテトウィルスYの接種試験を行ったところ、耐性と感受性の植物体が混在していたものの、半数体で耐病性であった約50%が倍化植物体でも耐性であることがわかった。
長谷 純宏; 下野 和彦*; 井上 雅好*; 田中 淳; 渡辺 宏
Radiation and Environmental Biophysics, 38(2), p.111 - 115, 1999/07
被引用回数:35 パーセンタイル:73.28(Biology)タバコにおけるイオンビームの生物効果、得に染色体異常の誘起について調査した。1~111keV/mのLET効果を持つC,He及びHビームを乾燥種子に照射した。発芽後の根端分裂細胞では、染色体橋、染色体断片及び遅延染色体などの異常が認められ、それらの頻度は線量に対応して直線的に増加した。半致死線量及び10%の染色体異常誘起に必要な線量から算出したRBE値はCで14.3-17.5、Heで7.0-8.3、Hで7.8であった。また、イオンビームでは染色体断片が、線では染色体橋が相対的に高い割合で観察された。このことから、イオンビームによる損傷の修復過程は線によるものとは異なると考えられた。
田中 淳; 渡辺 宏; 清水 隆志*; 井上 雅好*; 菊地 正博; 小林 泰彦; 田野 茂光*
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B, 129(1), p.42 - 48, 1997/00
被引用回数:17 パーセンタイル:77.48(Instruments & Instrumentation)イオンビームを用いた細胞への深度制御照射技術を確立した。タンデム加速器に接続した深度制御細胞照射装置を用いて、照射窓からの距離を変化させてイオンの打ち込み深度を制御した。RCDフィルムとCR-39フィルムを用いた実験から、照射窓からの距離を変化させることにより、細胞中のイオン打ち込み深度を1m~30mまで直線的に制御できることを明らかにした。次にこの深度制御照射技術を用い、タバコ花粉への打ち込み深度を変化させて、花粉外殻の開裂によって生じる漏出花粉頻度を調べた。その結果、イオンビームが停止する直前の、花粉への打ち込み深度の浅い(約4m)照射で漏出花粉頻度のピークが観測された。このことは、停止直前のイオンビームには生体物質への特徴的な効果があり、その結果局所的に花粉外殻の開裂が誘発されることを示唆している。
横田 裕一郎; 和田 成一*; 鹿園 直哉; 長谷 純宏; 井上 雅好*; 田中 淳; 鳴海 一成
no journal, ,
植物の放射線耐性メカニズムを明らかにするため、DNA2本鎖切断(DSB)の生成及び修復を定量的に分析した。タバコBY-2プロトプラスト及びチャイニーズハムスターCHO-K1細胞に氷温下で線を照射した。パルスフィールドゲル電気泳動によるDNA断片化パターンの解析から、照射直後あるいは修復後のDSBを定量した。照射直後のDSB生成量(Gbp DNAGy)は、タバコで2個,チャイニーズハムスターで6.6個であった。細胞の放射線感受性及びゲノムサイズを考慮した場合、平均致死線量を照射した細胞に生じるDSBは、タバコで263個,チャイニーズハムスターで55個であった。以上の結果から、タバコではDSBが生じにくいうえ、多くのDSBに耐えられることがわかった。他方で、タバコとチャイニーズハムスターとの間でDSBの修復効率に差は認められなかった。タバコが多くのDSBに耐えられる原因として、DSBを正確に修復できる可能性と、DSBが誤って修復される際に生じる遺伝情報の変化やゲノム不安定性に寛容である可能性が考えられた。
横田 裕一郎; 山田 真也*; 長谷 純宏; 鹿園 直哉; 鳴海 一成; 田中 淳; 井上 雅好*
no journal, ,
イオンビームは、線など低LET放射線と比べて、植物の種子あるいはプロトプラストにおける致死,染色体異常,変異誘発効果などが大きいが、そのメカニズムは現在まで明らかになっていない。本研究では、LETの異なるイオンビームを照射したタバコプロトプラストにおいて、放射線が生体内に誘発する最も致死的にDNA損傷であるDNA2本鎖切断の初期生成状態をバルスフィールドゲル電気泳動法を用いて定量的に分析した。その結果、DNA2本鎖切断の初期生成状態の違いがイオンビームの高い生物効果の一因であると考えられた。
横田 裕一郎; 山田 真也*; 長谷 純宏; 鹿園 直哉; 鳴海 一成; 田中 淳; 井上 雅好*
no journal, ,
高LET重イオンが植物に大きな影響を及ぼすメカニズムを明らかにするため、高LET重イオン照射した植物細胞に誘発されるDNA2本鎖切断(DSB)の定量的な分析を行った。タバコBY-2プロトプラストにLETの異なるヘリウム,カーボン及びネオンイオンを氷温下で照射した。ゲノムDNAをパルスフィールドゲル電気泳動法によりサイズに従って分離し、DNAの断片化パターンからDSB生成数及び隣接するDSBの間隔を評価した。DSB生成量はイオン種及びLETに依存し、調査範囲では124及び241keV/mのカーボンイオンで最大となった。0.2keV/m線,9.4及び17.7keV/mのヘリウムイオンはDSBをほぼランダムに誘発するのに対して、94.8から431keV/mのカーボンイオン及び440keV/mのネオンイオンではDSBをゲノムDNA上に集中して誘発した。高LET重イオンが植物細胞にDSBを効率よく・集中的に誘発することは、重イオンが有する高い生物効果の一因であると考えられた。
横田 裕一郎; 長谷 純宏; 舟山 知夫; 小林 泰彦; 田中 淳; 鳴海 一成; 和田 成一*; 井上 雅好*
no journal, ,
本研究では、重イオンビームの予備実験として、タバコプロトプラスト及びチャイニーズハムスター細胞に線を照射し、パルスフィールドゲル電気泳動によりDNA2本鎖切断(DSB)の生成及び修復の定量解析を行うとともに、線照射がタバコ細胞にHLS(熱処理によりDSBに転換される熱惰弱部位)を誘発するかどうか調べた。50Cで細胞溶解を行った場合、タバコ細胞とチャイニーズハムスター細胞との間でDSB修復効率に差はなかった。HLSのDSB転換の有無を確認するために、あらかじめ細胞溶解しておいたタバコゲノムDNAに線を照射後、50Cで24時間インキュベートした。その結果、DNAの断片化が進んだことから、線照射したタバコDNAにもHLSが生じることが明らかになった。また、生じたHLSは2時間後には完全に修復されていることが明らかになった。
横田 裕一郎; 長谷 純宏; 井上 雅好; 鳴海 一成; 舟山 知夫; 小林 泰彦; 田中 淳
no journal, ,
環境放射線には、線エネルギー付与(LET)が高く、生物効果が大きいアルファ線が含まれており、環境生物への影響を明らかにするためには、LET効果を考慮する必要がある。そこでわれわれは、地球上に存在する生物量及び種数が多く、環境生物として重要な地位を占める植物の培養細胞(タバコBY-2株)由来のプロトプラストに高LETの重イオンビームを照射し、細胞致死効果やDNA2本鎖切断(DSB)生成効果を解析した。その結果、線量あたりの効果は、細胞致死で247keV/mの、DSB生成で124-241keV/mの炭素イオンで、それぞれ最大となった。これは、哺乳動物細胞や酵母を用いて明らかにされてきた放射線生物効果のLET依存性とは異なるものであり、環境生物への放射線影響を考えるためには、哺乳動物や酵母で蓄積されてきたデータだけでは不足であることを強く示唆する。
横田 裕一郎; 長谷 純宏; 鹿園 直哉; 舟山 知夫; 小林 泰彦; 鳴海 一成; 井上 雅好*; 田中 淳
no journal, ,
イオンビーム照射した植物細胞におけるDNA損傷とその修復機構については不明な点が多い。そこで本研究では、タバコ培養細胞BY-2株とチャイニーズハムスター培養細胞CHO-K1株に氷温下で線, He, C及びNeイオンを照射した後、パルスフィールドゲル電気泳動法により、照射直後あるいは修復後のDNA2本鎖切断を定量した。その結果、イオンビームは線より多くの2本鎖切断をゲノムDNA上の近接した位置に誘発することがわかった。このことは、イオンビームが線と異なるタイプの変異を高頻度に誘発するメカニズムの一部と考えられる。また、タバコ細胞はハムスター細胞と比べて2本鎖切断が生じにくい反面、多くの2本鎖切断が生じないと致死しないが、2本鎖切断の修復効率は両細胞間でほぼ同じであることがわかった。このように、タバコ細胞と動物細胞ではDNA2本鎖切断の生成量や修復効率に相違点と類似点があることから、イオンビーム照射した植物細胞内で起こっている現象を動物細胞での実験結果だけから理解することは難しそうだ。