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前橋 仁治*; 関口 護*
PNC TJ199 79-24, 98 Pages, 1979/10
当調査は堅硬緻密な岩盤の地下深部につくられた坑道,採掘場に対する地下水の挙動を明らかにするもので,愛媛県東部のS鉱山地域において行われた。地質は古生代の三波川系変成岩帯で,岩石は緑色片岩,黒色片岩と石英片岩を主とする互層で,岩層の走向は地域の西から東にかけて,N50゜W,E-W,N60゜Eと変化し,傾斜は南へ35゜60゜を示す。鉱床は緑色片岩を母岩として層理に整合的に胚胎された層状含銅硫化鉄鉱床(いわゆるキースラーガー)である。緑色片岩の上下盤には黒色片岩がある。緑色片岩体の広がりは,地下深くなるにつれ大きく,通洞レベル下約600m(山頂からは約1,000m)では水平巾750m,厚みで570mを示している。地形は約1,000m1,400mの山に囲まれた典型的山間地で,山容は急峻,植生は杉を主として雑木が密生している。通洞口および坑外設備の標高は約560mで,最も深いレベルは通洞より下約1,400m(海面下850m)である。地域の集水面積は約10km2,年間降水量は1,900mm,渇水量は0.62m3/ c/km2である。2.調査結果坑内地下水量は本年5月の測定で,約0.13m3/mmであるが,これは地表近くにある採掘跡の影響を受けての結果で,単なる坑道だけであれば,極めて少なくなるものとみられる。地下水流路は,採掘跡や切上り等を除けば岩石の片理,節理,断層が主なものである。降雨の地下水量への影響は,通洞下400m(山頂下900m)までは認められるが,それ以下では恒常的な流量であった。岩石の透水性については黒色片岩が高く,緑色片岩は一般的には低い。緑色片岩中から黒色片岩に着くまで掘さくした試錐孔の殆んどに地下水がまわっていた。坑道は開さくされてから300年10年を経たものであるが,山嶺から1,000m以上の岩盤かぶりのあるところでも,その量は微少ではあるが,滲透している。その滲透経路の多くは黒色片岩と見られる。地下空洞構造物に対する地震波の影響については,堅硬緻密な岩盤体の地下空洞の場合は,軟質地盤上の構造物とは全く異り,地震による致命的災害はこれまで無かった。建設に当って,地域的に地震帯を避け,安定した岩石地区を選び,相当の深さのところに掘さくし,確実な施工を行うならば,直接的震害の恐れは先ずないと思われる。