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乙坂 重嘉; 鈴木 崇史; 田中 孝幸; 伊藤 集通; 小林 卓也; 川村 英之; 皆川 昌幸*; 荒巻 能史*; 千手 智晴*; 外川 織彦
JAEA-Data/Code 2009-020, 27 Pages, 2010/02
原子力機構が実施した日本海海洋調査の最終成果物のひとつとして、日本海の海洋環境パラメータと放射性核種に関するデータベース(JASPER)の第1巻が2007年に公開された。第1巻では、代表的な人工放射性核種(ストロンチウム-90,セシウム-137及びプルトニウム-239,240)について、海水及び海底土中の濃度データが収録された。今回はその第2巻として、海水中の放射性炭素同位体比データと、栄養塩濃度(ケイ酸,リン酸,硝酸及び亜硝酸)を含む海洋学的指標(塩分,水温,溶存酸素濃度)のデータが公開される。この第2巻には、現時点で20,398データレコードの登録があり、その内訳は、放射性炭素が1,660データ,水温が2,695データ,塩分が2,883データ,溶存酸素濃度が2,109データ,栄養塩濃度が11,051データである。このデータベースは、人工放射性核種による日本海の汚染状況の継続的な監視,日本海内の生物地球化学的循環,数値シミュレーションモデルの開発検証の各分野において強力なツールとなることが期待される。
荒巻 能史*; 外川 織彦; 乙坂 重嘉; 鈴木 崇史; 天野 光; 田中 孝幸; 千手 智晴*; 皆川 昌幸*
JAEA-Conf 2008-005, p.149 - 152, 2008/03
原子力機構では、1990年代後半より日本海全域における人工放射性核種濃度の現状把握、及び日本海深層の物質循環について観測研究を実施してきた。本報告では、これらの観測によって得られた、海水流動のトレーサとして有効な放射性炭素(C)の広範な分布をもとに、深層水の特性やその循環について議論した。19992002年及び2005年に実施した調査で得られた海水試料中のCを、むつ事務所の加速器質量分析装置で測定した。その結果、各海域のCは表層の+70‰程度から深度とともに指数関数的に減少する傾向にあるが、日本海盆などの水深2000m以深では-65‰前後でほぼ一定の値となった。また、日本海盆西部域やウツリョウ海盆の底層水におけるCにばらつきが顕著であるのに対して、日本海盆東部域では誤差範囲内で一定の値を示した。以上のように、日本海の各海域における底層水の特性を明らかにすることができ、その要因や底層水の循環について考察した。
高田 兵衛*; 久万 健志*; 磯田 豊*; 乙坂 重嘉; 千手 智晴*; 皆川 昌幸*
Geophysical Research Letters, 35(2), p.L02606_1 - L02606_5, 2008/01
被引用回数:18 パーセンタイル:44.36(Geosciences, Multidisciplinary)日本海の2つの海盆(大和海盆及び日本海盆)で採取した海水中の鉄(溶存鉄と可溶性鉄)濃度から、両海盆での鉄の挙動について考察した。孔径0.22mのフィルターで濾過し、緩衝液でpH=3.2に調整した海水に含まれる鉄を溶存鉄、濾過せずにpH調整のみを行った海水に含まれる鉄を可溶性鉄とした。表層(0200m深)における可溶性鉄存在量は、いずれの海域でも300350mol mで、北太平洋の外洋域に比べて59倍大きく、アジア大陸から日本海への大気経由での物質輸送が鉄の存在量に大きく影響していると推測された。日本海における溶存鉄濃度は、水深12kmで極大を示した。この結果は、表層で生物に取り込まれた鉄が、中・深層で分解され滞留したためであると考えられる。鉄は、海洋における生物生産を制限する重要な因子であることが指摘されているが、日本海における鉄濃度分布から、海洋における鉄の供給源と挙動について理解することが可能となった。
荒巻 能史*; 千手 智晴*; 外川 織彦; 乙坂 重嘉; 鈴木 崇史; 北村 敏勝; 天野 光; Volkov, Y. N.*
Radiocarbon, 49(2), p.915 - 924, 2007/10
被引用回数:8 パーセンタイル:24.1(Geochemistry & Geophysics)2002年夏季に日本海北部海域における放射性炭素を測定した。北緯45度以北の表層海水では、高水温と低塩分とともに50‰という高いCが観測された。これは、対馬暖水が北部海域まで北上していることを意味する。深層海水におけるCは海水密度とともに小さくなり、最小値は-70‰であった。この結果から、この海域における深層水の滞留時間は短いことが示唆される。北部海域で冬季に形成されると考えられる高密度水は北緯47度以北の表層海水で観測されたが、海水の深層への沈み込みを示す指標は見られなかった。
千手 智晴*; 磯田 豊*; 荒巻 能史*; 乙坂 重嘉; 藤尾 伸三*; 柳本 大吾*; 鈴木 崇史; 久万 健志*; 森 康輔*
Journal of Oceanography, 61(6), p.1047 - 1058, 2005/12
被引用回数:9 パーセンタイル:19.31(Oceanography)日本海,日本海盆から大和海盆にかけて底層付近の詳細な水塊構造を観測した。観測は研究船白鳳丸KH03-3次航海(2002年10月14日19日)で行った。大和海盆の底層付近では0.085度以上の、日本海盆では0.070度以下の海水が分布しており、これらの海水は両海盆間の境界付近でestuary型のフロントを形成しながら会合していた。フロントの構造から、底層での日本海盆から大和海盆への流入と、その上層での大和海盆からの流出が示唆された。また、日本海盆から流入した底層水は、大和海盆内の時計回りの循環に捕捉され、鉛直拡散,海底加熱,酸素消費の過程を通して、大和海盆底層水に変質されると推測された。ボックスモデルにより大和海盆底層水の熱収支を解析した結果、海底加熱は鉛直拡散の約70パーセントの大きさを持ち、これらによって日本海盆からの冷たい底層水の移流効果が打ち消されていることがわかった。さらに、大和海盆底層水の平均滞留時間は9.1年であると見積もられた。
伊藤 集通; 荒巻 能史*; 乙坂 重嘉; 鈴木 崇史; 外川 織彦; 小林 卓也; 川村 英之; 天野 光; 千手 智晴*; Chaykovskaya, E. L.*; et al.
Journal of Nuclear Science and Technology, 42(1), p.90 - 100, 2005/01
被引用回数:14 パーセンタイル:67.92(Nuclear Science & Technology)1996-2002年の期間、日露の研究機関の協力で人工放射性核種の広域調査プロジェクトが日露の両排他的経済水域にまたがった日本海で実施された。本プロジェクトの目的は、Sr, Cs, Pu等の核種の海洋中での移行を明らかにすることである。2001-2002年には4回の調査航海が実施された。これら調査で得られた放射性核種の濃度とその分布はこれまでに得られた知見の範囲内であったことから、現在日本海に対する新たな放射性核種源となるような事故,投棄あるいは過去の廃棄物からの漏洩等が発生していないことが確認された。また、海水中におけるインベントリは、グローバルフォールアウトで同緯度帯の海洋にもたらされた量の約2倍であり、日本海におけるそれら核種の蓄積が示された。さらに、亜表層におけるSr及びCs濃度が日本海の広い範囲で時間変動していることが明らかとなり、溶存酸素データとの比較解析により、この時間変動は日本海の上部の水塊移動と関連付けられた。
千手 智晴*; 磯田 豊*; 荒巻 能史; 乙坂 重嘉; 鈴木 崇史; 久万 健志*; 森 康輔*
Proceedings of 12th PAMS/JECSS Workshop, p.3_4_1 - 3_4_4, 2003/11
研究船白鳳丸KH03-3次航海(2002年10月14日19日)で、日本海,日本海盆から大和海盆にかけて底層付近の水塊構造を観測した。大和海盆の底層付近では、日本海盆に比べて水温,溶存酸素濃度が高いことから、両海盆間には底層フロントが形成されていたことがわかった。また、大和海盆の底層における溶存酸素と栄養塩濃度は、日本海盆の底層におけるそれに比べて低いことから、大和海盆の底層付近の海水は、日本海盆に比べて古いことがわかった。これらの結果から、大和海盆と日本海盆では海水の循環が独立しており、大和海盆-日本海盆間の底層フロントの形成によって、高温の大和海盆の海水が低温の日本海盆の海水上に流出するという、「沿岸型循環」が大和海盆北縁の底層に存在することが示唆された。日本海盆の南縁で観測された最も高濃度の溶存酸素を持つ底層水は、日本海盆の底層を西から東に海水が輸送されていたと考えることができる。
伊藤 集通; 荒巻 能史*; 乙坂 重嘉; 鈴木 崇史; 外川 織彦; 小林 卓也; 千手 智晴*; Chaykovskaya, E. L.*; Lishavskaya, T. S.*; Karasev, E. V.*; et al.
Proceedings of International Symposium on Radioecology and Environmental Dosimetry, p.396 - 401, 2003/10
人工放射性核種の空間分布と時間変動を調べそれらの輸送・蓄積の過程を理解するための6か年の調査が、1997-2002の期間、日本とロシアの排他的経済水域内(EEZ)で実施された。本プロジェクトでは11回の調査が行われ、各測点で得られた海水と海底土についてSr-90, Cs-137, Pu-239+240の3核種の濃度が計測された。本発表では、2001-2002の期間に日露双方のEEZ内で行われた4回の調査で得られた調査結果を示す。Sr-90濃度は海面から海洋深層に向けて指数関数的に減少しており、海面で1.1-2.0mBq/L、約2000mで0.7mBq/L以下であった。Cs-137の鉛直分布もSr-90に類似しており、濃度は海面で1.6-2.6mBq/L、約2000mで0.9mBq/L以下であった。Pu-239+240の鉛直分布は海面で最小(0.004-0.019mBq/L)、約1000mで最大(0.030-0.046mBq/L)となっており、それ以深は深度とともに減少する。さらに、亜表層におけるSr-90とCs-137の濃度が比較的大きな経時変化を示すことが複数の測点の再調査で明らかとなった。そして、本プロジェクトの結果を総合することで、各核種のインベントリのマッピングを行うことができた。
伊藤 集通; 荒巻 能史; 北村 敏勝; 乙坂 重嘉; 鈴木 崇史; 外川 織彦; 小林 卓也; 千手 智晴*; Chaykovskaya, E. L.*; Karasev, E. V.*; et al.
Journal of Environmental Radioactivity, 68(3), p.249 - 267, 2003/07
被引用回数:39 パーセンタイル:62.95(Environmental Sciences)1997-2000年の期間、日本海の海水中におけるSr,Cs並びにPuが計測された。放射性核種濃度の鉛直分布は、SrとCsでは表層から深度方向に指数関数的減衰を示し、Puでは表層最小,中層最大となっていて、それぞれ典型的分布を示した。過去の測定例と比較しても本質的な差異は検出されなかった。また、日本海における緯度帯別平均濃度及びインベントリは北西太平洋に比べ高くなっていた。さらに空間分布では、高インベントリ域が日本海盆側から大和海盆へ貫入している様子が描かれた。このことは、日本海盆で鉛直輸送された放射性核種が大和堆を迂回後に大和海盆に入り、日本海の深層水中に放射性核種が蓄積されていることを示唆するものである。
千手 智晴*; 荒巻 能史; 乙坂 重嘉; 外川 織彦; Danchenkov, M. A.*; Karasev, E.*; Volkov, Y. N.*
Geophysical Research Letters, 29(7), p.53_1 - 53_4, 2002/04
2001年夏、われわれは、例年に比べ厳しい寒さであった2000-2001年の冬季後に日本海底層水が新たに形成されていることを世界で初めて観測した。この日本海北西部海域で観測された新しい底層水は、従来から存在する底層水に比べて低温,高塩,高酸素及び低栄養塩を示した。さらにこの新しい底層水の分布状況は、日本海における海水の深層への沈み込みが日本海北部海域ではなく、ロシア・ウラジオストック南方沿岸で起こっていること,形成した底層水が沈み込んだ海域から今回観測された海域深層へ移流していることを示唆した。底層水が観測された海域に2000年夏から1年間係留した流速計の記録は、2001年2月中旬に急に10cm/secを超えるような下層への強い流れを示しており、2001年1月下旬から2月初旬に海水が表層から深層への沈み込んだことを示唆しているものと思われる。2000-2001年冬季の底層水形成イベントは、日本海における底層水の酸化傾向の抑制,さらには温度躍層循環のスピンアップに寄与する可能性がある。
荒巻 能史*; 外川 織彦; 乙坂 重嘉; 鈴木 崇史; 千手 智晴*; 皆川 昌幸*
no journal, ,
原子力機構では、1990年代後半より日本海全域における人工放射性核種濃度の現状把握、及び日本海深層の物質循環について観測研究を実施してきた。本報告では、これらの観測によって得られた海水流動のトレーサとして有効な放射性炭素(C)の広範な分布をもとに、深層水の特性やその循環について議論した。19992002年及び2005年に実施した調査で得られた海水試料中のCを、むつ事業所の加速器質量分析装置で測定した。その結果、各海域のCは表層の+70‰程度から深度とともに指数関数的に減少する傾向にあるが、日本海盆及び大和海盆の水深2000m以深では-50-70‰でほぼ一定の値となった。また、大和海盆と日本海盆西部の底層水におけるCにばらつきが顕著であるのに対して、日本海盆東部では水深2500m以深において、誤差範囲内で一定の値を示した。以上のように、日本海の各海域における底層水の特性を明らかにすることができた。
田中 孝幸; 乙坂 重嘉; 天野 光; 外川 織彦; 千手 智晴*; 磯田 豊*; 久万 健志*
no journal, ,
海水中溶存有機物(DOC)の挙動解明は海洋の炭素循環や地球温暖化の影響を紐解くうえで重要な因子である。DOC動態の時間スケールや供給源情報を与えうる放射性炭素同位体比(C)の測定は測定の困難さによりデータが非常に少ない。本研究では溶存態有機物中放射性炭素測定システムを確立し、日本海での鉛直分布を得ることとした。日本海大和海盆での鉛直分布を得ることができ、これは日本近海の西部北太平洋域では世界で初めてである。DOCのC鉛直分布は、表面で高く(-226‰)、深さとともに減少し、1,000m以深では-337‰で一定となった。DOCのCは、表面,深層ともに、ほぼ同海域における無機炭酸のC値に比べ約300‰程度低かった。このことより、DOCのCは海水の循環(海水年齢)に関係することが明らかとなった。
荒巻 能史*; 乙坂 重嘉; 高畑 直人*; 磯田 豊*; 久万 健志*; 千手 智晴*
no journal, ,
日本海の深層(2000m以深)は、水温・塩分がほぼ均一に分布することから、これらの特性のみから詳細な海水流動経路を解明することは困難であった。1997年から2002年にかけて原子力機構が実施した日本海調査では、海水中の放射性炭素同位体比を広域で測定し、日本海の深層には複数の経路で海水が供給されていることと、その供給経路の一つは北西部海域を起源としていることが示唆された。本講演では、新たにトリチウム濃度やヘリウム同位体比のデータを追加し、特に南部海域における深層水の循環過程について考察した。日本海のほぼ中央に位置する大和堆周辺の海底付近では、深層水の一様性から大きくずれる高い放射性炭素同位体比とトリチウム濃度が見られ、その海水の起源は南部表層であると推測された。時系列観測の結果を併せて考慮した結果、日本海南部海域の表層水が、間欠的ながら比較的速やかに同海域の深層に輸送されていると考えられた。