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熊田 高之; 榊原 正博*; 長坂 敏光*; 福田 紘也*; 熊谷 純*; 宮崎 哲郎*
Journal of Chemical Physics, 116(3), p.1109 - 1119, 2002/01
被引用回数:44 パーセンタイル:77.99(Chemistry, Physical)固体水素中における水素原子の拡散速度と再結合速度をESR、ENDOR、及びESEを用いて調べた。オルソ水素濃度1%以下における水素原子の再結合速度定数は、拡散速度から予想されるより2桁以上も小さいことがわかった。この結果は固体パラ水素中において水素原子同士が隣接しても再結合しないことを示す。高純度パラ水素中において、水素原子再結合に伴い発生するエネルギーの拡散経路が存在しないために、水素原子は再結合することなく散乱されたのではないかと考えられる。
熊田 高之; 熊谷 純*; 宮崎 哲郎*
Journal of Chemical Physics, 114(22), p.10024 - 10030, 2001/06
被引用回数:14 パーセンタイル:41.27(Chemistry, Physical)固体パラ水素中に捕捉されたエチルラジカルを電子スピン共鳴法(ESR)を用いた調べた。得られたスペクトルはC-C軸を中心とした1軸異方性を持つにもかかわらず、その分解能はこれまでの最高であったFessendenらによる液相中の等方的スペクトルのそれをも数倍上回る。その高分解能によりエチルラジカルのC-C軸に対しA',E'回転対称性をもつ2種類のESR信号の分裂を観測することに成功し、またその信号強度比の温度依存性から分子内トンネル回転によるエネルギー分解幅5.8Kが求まった。この値はガス相中のそれに非常に近いことから、マトリックス中であるにもかかわらず分裂幅は結晶中の束縛ポテンシャルによるものではなく、エチルラジカルの内部回転に対するポテンシャル、及びトンネリングを反映したものであることがわかった。
熊田 高之; Shevtsov, V.*; 荒殿 保幸; 宮崎 哲郎
Journal of Chemical Physics, 113(4), p.1605 - 1608, 2000/07
被引用回数:4 パーセンタイル:12.24(Chemistry, Physical)固相における放射線分解過程は、特有の拡散、緩和機構により、気相とは異なる様相を示す。われわれはX線照射した固体水素中に生成する水素原子収量の圧力依存性を見ることで、放射線分解過程が固相中でどのように進行するかを調べた。その結果、収量は圧力とともに減少し、22MPaにおいては0MPaに比べて約半分になっていることを見いだした。以上の結果は圧力によりかご効果が強くなったため、放射線分解過程における水素原子解離反応が起きにくくなったためであると考えられる。
Shevtsov, V.*; 熊田 高之; 荒殿 保幸; 宮崎 哲郎
Chemical Physics Letters, 319(5-6), p.535 - 541, 2000/03
被引用回数:14 パーセンタイル:40.89(Chemistry, Physical)5K以上の固体水素中における粒子のトンネル拡散は固体中に熱的に生成する空孔によって引き起こされ、拡散速度は空孔の数により決定されると言われてきた。しかしながら空孔の存在を示す直接的な証拠はなかった。そこでわれわれは空孔数が圧力により定量的に制御できる点に着目し、X線照射により固体水素中に生成した水素原子の拡散に伴う再結合速度の圧力依存性をESRを用いて観測することで、再結合速度から決定される水素原子の拡散速度と空孔との関係を調べた。その結果、圧力の上昇に伴い再結合速度は減少し、22MPa下において0MPa下の約1/1000になることを見いだした。また、再結合速度の圧力依存性と空孔数のそれとが定量的に一致することから、固体水素中における水素原子の拡散が空孔を媒介して引き起こされていることを明らかにした。
熊田 高之; 野田 知克*; 熊谷 純*; 荒殿 保幸; 宮崎 哲郎
Journal of Chemical Physics, 111(24), p.10974 - 10978, 1999/12
被引用回数:10 パーセンタイル:31.1(Chemistry, Physical)固体HD及びD中におけるH及びD原子の捕捉サイトを電子スピンエコー法を用いて調べた。解析の結果、すべてのH及びD原子は置換型サイトに捕捉されること、またH原子周囲のHD及びD分子は0.15程度外側に押し出されていることを見いだした。置換型サイトに捕捉されるのは水素原子-分子間の相互作用と水素分子間の相互作用がほぼ等しく、最初に挿入型サイトに捕捉された水素原子もゼロ点運動によって容易に平衡距離に緩和するためと考えられる。H原子の周囲のHD及びD分子が押し出されるのはそのゼロ点運動の振幅がH原子の場合特に大きいためであると考えられる。これらの捕捉サイトに関する実験結果は、固体水素中におけるトンネル反応D+DH→D+Hにおいて実験的に観察した気相論で説明できない反応速度定数の温度依存性が、固体HD中におけるH原子周囲ひずみによって引き起こされている可能性によることを示唆している。
熊田 高之; 北川 尚紀*; 森 昇治*; 熊谷 純*; 荒殿 保幸; 宮崎 哲郎*
Journal of Low Temperature Physics, 114(5-6), p.413 - 429, 1999/00
固体パラ水素中に生成したHアニオンは、固体水素の量子性を反映した非古典的減衰挙動を示す。本論文において、その減衰機構とそれに伴うHアニオンの量子拡散挙動を解明した。実験の結果、減衰速度が(1)Hやカチオンの濃度ではなくHDのそれに比例する、(2)添加したNeの量にも比例する、(3)3K以下では温度とともに正比例的に増加、3-5Kにおいては逆に減少、5K以上では指数関数的に増加することを新たに見いだした。これらはそれぞれ、(1)Hの減衰がカチオンとの中和やH原子への電子移行反応:H+HH+Hではなく、HDとの反応によること、(2)拡散種はHDではなくHであること、(3)3K以下、3-5Kの結果はそれぞれ、one-phonon relaxation,two-phonon assistを伴った量子拡散過程によりHが固体中を拡散していることを示している。特に3-5Kの温度依存性の逆転は、Meyerovich等が提唱するBiased Diffusionによるものであると思われる。
熊田 高之; 森 昇治*; 熊谷 純*; 荒殿 保幸; 宮崎 哲郎*
Journal of Physical Chemistry A, 103(45), p.8966 - 8968, 1999/00
被引用回数:13 パーセンタイル:39(Chemistry, Physical)固体パラ水素(p-H)中に捕捉されたラジカル種のESRスペクトルは、マトリックス中の核スピンによる局所的な磁気摂動がないために、高感度、高分解能で測定される。われわれはこのような特徴を生かして、線照射した固体para-H-D(HD)混合系中に、高感度、高分解能のエレクトロンバブルのESRスペクトルを得ることに成功した。このエレクトロンバブルは、para-H中のD(HD)の濃度が大きいほど多くの収量が得られ、逆にこれらの同位体不純物を含まない純粋なpara-H中では観測されない。以上のことから、エレクトロンバブルは固体中のD(HD)が作るひずみにトラップされていると考えられる。また、減衰速度が温度にほとんど依存しないことから、量子力学的トンネリングにより拡散、消滅していることが示唆される。
宮崎 哲郎*; 荒殿 保幸; 市川 恒樹*; 塩谷 優*
JAERI-Conf 98-014, 99 Pages, 1998/10
1998年8月3,4日に開催した、先端基礎研究センター主催の第4回低温化学セミナーのプロシーディングスである。トンネル反応の理論を中心に11件の講演がまとめられている。
宮崎 哲郎*; 荒殿 保幸; 市川 恒樹*; 塩谷 優*
JAERI-Conf 98-002, 101 Pages, 1998/02
1997年10月13,14日に開催した第3回低温化学セミナーのプロシーディングスである。今回の主題は「トンネル反応と量子媒体」であり、物理、化学分野からの14件の講演がまとめられている。
熊田 高之; 北川 尚紀*; 野田 知克*; 熊谷 純*; 荒殿 保幸; 宮崎 哲郎*
Chemical Physics Letters, 288(5-6), p.755 - 759, 1998/00
被引用回数:27 パーセンタイル:64.55(Chemistry, Physical)固体水素中におけるH原子の捕捉の研究は、固体水素の量子固体としての物性を研究する上のみならず、固相中における原子引き抜きトンネル反応:H+HH+Hを理解する上でも大変興味深い。今回、我々は新たにENDOR(電子、核二重共鳴)法を用い、線照射した4.2K固体水素中に生成したH原子の捕捉状態を調べた。ENDORスペクトルの解析結果から、H原子は固体水素中の置換型サイトのみに存在すること、また、その最近接のオルソ水素分子はパラ水素に変換されることが確かめられた。前者はH-H間の分子間力がH-H間のものと同等であること、後者は近接のオルソ水素がH原子の不対電子により禁制がやぶられパラ水素に変換されたことを示したものである。ENDOR法を用いることでこのように固体水素中の微視的情報が直接的に得られた。
熊田 高之; 荒殿 保幸; 宮崎 哲郎*
Journal of Low Temperature Physics, 111(3-4), p.509 - 514, 1998/00
この論文はHアニオンの今までの成果をまとめたオートレビューである。一般の固定水素と比べ、パラ水素をアイソレーションマトリックスとして用いると、捕捉されたラジカルのESRスペクトルの分解能が大幅に改善される。われわれはこのパラ水素マトリックス中を用いHアニオンの観測に初めて成功した。またH分子とは逆に、このHは極低温でパラオルソ変換が起きていることが確認された。この逆方向の変換はH分子とHアニオン中のプロトンの交換に対する波動関数の対称性から説明される。
黒崎 譲*; 高柳 敏幸; 宮崎 哲郎*
Journal of Molecular Structure; THEOCHEM, 452, p.209 - 218, 1998/00
2,3-ジメチルブタンカチオン((CH)CHCH(CH),h-DMB)からのH脱離反応に対し、非経験的分子軌道計算を行った。構造最適化はUMP2/6-31G(d)レベルで行い、1点エネルギー計算をUMP3/6-31G(d)及びUMP4(SDTQ)/6-31G(d)レベルで行った。その結果、この反応は障壁が22-24kcal/molで26-29kcal/mol発熱的であることが予測された。非経験的分子軌道計算から得られたデータを用い、遷移状態理論に基づいて量子力学的(トンネル)効果を考慮した熱反応速度定数を求めると、h-DMBの反応の速度定数は77Kで約10sと予測された。h-DMBにおいて、脱離するHをDで置換したカチオン(d-DMB)の反応の速度定数は77Kで約10sと計算された。このことから、h-DMBからのH脱離反応にはトンネル効果が重要であることが示唆される。一方、h-DMBの反応速度定数に対する実測値は約12桁も大きい。これは量子化学計算のレベルがまだ低いことを示唆する。
荒殿 保幸; 松本 拓郎*; 高柳 敏幸; 熊田 高之; 駒口 健治*; 宮崎 哲郎*
Journal of Physical Chemistry A, 102(9), p.1501 - 1506, 1998/00
被引用回数:13 パーセンタイル:40.55(Chemistry, Physical)超・常流動He-He媒体中でのトリチウム原子と水素同位体分子とのトンネル引抜反応、T+HD(DH)HT(DT)+D(H)及びT+H(D)HT(DT)+H(D)、を実験(1.3K)・理論の両面から検討した。実験から得たH,D系での大きい同位体効果(~150)やHD系からの~200同位体効果及びこれらと理論計算との比較を行い、反応過程としてファンデルワールスコンプレックス形成を伴うトンネル引抜反応機構を提案した。
駒口 健治*; 熊田 高之; 荒殿 保幸; 宮崎 哲郎*
Chemical Physics Letters, 268(5-6), p.493 - 497, 1997/00
被引用回数:15 パーセンタイル:47.5(Chemistry, Physical)低温固体アルゴンマトリックス中で、トンネル反応(HD+DH+D)に直接関与する水素原子-水素分子対をESR観測することに成功した。20Kにおける水素原子のESRスペクトルとは、分離幅約0.06mTの等方的な9本線からなる極超微細構造が現れた。このスペクトル線形は、H原子-水素分子対(H-HDまたはH-D)で説明可能である。この極超微細構造から、トンネル反応が起こるときの水素原子-水素分子間距離として、0.173nmが評価できた。
熊田 高之; 稲垣 裕久*; 北川 尚紀*; 駒口 健治*; 荒殿 保幸; 宮崎 哲郎*
Journal of Physical Chemistry B, 101(7), p.1198 - 1201, 1997/00
被引用回数:12 パーセンタイル:40.52(Chemistry, Physical)固体パラ水素に線照射することによって生成した、Hアニオンの減衰に、核スピン状態による違いがみられた。これは減衰過程においてパラHからオルソHへ核スピン状態の変換が同時に起きていることを示唆する。またこの変換は、等核2分子中での波動関数の反対称性の要請によって説明できることがわかった。他に、Hアニオンの減衰機構、また固体水素中での拡散についても同時に論じる。
宮崎 哲郎*; 熊田 高之; 駒口 健治*; 荒殿 保幸
Radiation Physics and Chemistry, 50(6), p.523 - 526, 1997/00
被引用回数:5 パーセンタイル:42.84(Chemistry, Physical)最近、固体HD中におけるトンネル反応HD+DH+Dの反応速度定数は、反応障壁を持たないトンネル反応系であるにもかかわらず、5K以上で急速に増加することがわかった。この温度依存性は、反応系の局所的運動のしやすさを表すパラメーターである、固体中の空孔生成エネルギーを視野に入れ解析することでうまく説明されることがわかった。同様に、固体中のアルカン系及びエタノール系についても、反応系の局所的運動を視野に入れることで固相特有の温度依存性が説明できる。このモデルは気相・液相論と異なる固相反応特有の反応論を展開するうえで、反応系の局所的運動がひとつの重要な要素となることを示唆するものである。
宮崎 哲郎*; 荒殿 保幸
JAERI-Conf 96-015, 74 Pages, 1996/11
1996年8月22日、23日に開催した第2回低温化学セミナーのプロシーディングスである。今回の主題は、「トンネル反応と生物効果」であり、理学、医学、薬学分野からの12件の講演がまとめられている。
熊田 高之; 稲垣 裕久*; 長澤 孝郎*; 荒殿 保幸; 宮崎 哲郎*
Chemical Physics Letters, 251(3-4), p.219 - 222, 1996/03
被引用回数:22 パーセンタイル:59.87(Chemistry, Physical)ESRを用いてラジカルを測定するにあたり、核スピンの存在しないパラ水素を媒質として用いると、高分解能のスペクトルを得ることができる。今回極低温固体パラ水素中で初めてHアニオンの観測に成功した。またパラ水素から生成したHアニオンのパラ-オルソ比が1:3であることから、アニオン生成過程において、本来禁制であるはずのオルソ-パラ遷移がおきていることもあわせて確認された。
熊田 高之; 荒殿 保幸; 宮崎 哲郎*
Chemical Physics, 212(1), p.177 - 182, 1996/00
被引用回数:4 パーセンタイル:17.31(Chemistry, Physical)線照射後の4.2K固体D(H-1mol%)中のD及びHラジカル量の時間依存性を、ESRを用いて190分にわたり測定した。この実験結果に反応速度式から求まる理論値をフィッティングしたところ、トンネル引き抜き反応:H+DH+HDに反応速度が100倍以上異なる、2種類の反応の存在を確認した。これは今までの気相モデルの理論計算では説明の及ばない新しい実験結果であり、固相反応特有の現象として説明した。
宮崎 哲郎*; 藤谷 善照*; 柴田 真佐男*; 笛木 賢二*; 正木 信行; 荒殿 保幸; 佐伯 正克; 立川 圓造
Bulletin of the Chemical Society of Japan, 65, p.735 - 738, 1992/03
被引用回数:4 パーセンタイル:34.61(Chemistry, Multidisciplinary)反跳トリチウム原子(T)の反応を、77Kと4.2KのXe-H-O混合系において研究した。T原子の反応が、77Kにおいて線線量率が非常に低い中性子照射により起きるとき、HTとDTの生成率において大きな同位体効果(k/k~7)を観測した。T原子の反応が、77K線線量率の高い中性子照射により起きるときは、HTとDTの生成率に同位体効果はなかった。(k/k~1)Xe-H-D混合系の線照射によるHおよびD原子生成を4.2Kで電子スピン共鳴分光により研究した。HTとDT生成に対する線線量率の重要な効果は、熱化したT原子のH(D)とのトンネル効果による引き抜き反応と線分解により生成したH(D)原子との結合反応の競争により説明される。