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論文

Quantitative analysis of ionization quenching in CaF$$_2$$:Ce using PHITS track-structure simulations

平田 悠歩; 甲斐 健師; 小川 達彦; 松谷 悠佑; 佐藤 達彦; 渡辺 賢一*; 加藤 匠*; 河口 範明*; 柳田 健之*

Radiation Measurements, 193, p.107651_1 - 107651_8, 2026/04

 被引用回数:0

CaF$$_2$$:Ceは高い光刺激蛍光(OSL)強度を示すため線量計として有用であると期待されている。しかし、CaF$$_2$$:Ceなどの蛍光体に粒子線を照射すると、消光効果により蛍光体の線量当たりの発光強度が低下する。従来、蛍光体の消光効果は線エネルギー付与(LET)などを指標としたエネルギー付与密度に基づいて評価されてきた。しかし、粒子線の種類によりCaF$$_2$$:Ceにおける消光現象とLETの関係性が異なり、LETから正確に消光現象を予測することは困難であったが、放射線輸送計算コードPHITSのTrack structure機能は、放射線による相互作用を個別に追跡することが可能である。そこで、PHITSを用いて粒子線により蛍光体が発光する過程を精密に計算し、予測したCaF$$_2$$:Ceの応答を実験データと比較したところ、CaF$$_2$$:Ceの消光現象にはOSLの量子収率が重要なパラメータであることが示唆された。この成果は、蛍光体検出器のさらなる開発に貢献するものと期待される。

論文

Development of Linear Interpolation System for SMK Model parameters Evaluated from Cellular-scale simulation (LISMEC) and its application to BNCT dosimetry

重平 崇文*; 渡邉 翼*; 鈴木 実*; 平田 悠歩; 小川 達彦; 藤村 篤史*; 櫻井 良憲*; 佐藤 達彦

Journal of Radiation Research (Internet), 67(2), p.170 - 181, 2026/03

 被引用回数:1 パーセンタイル:0.00(Biology)

We developed LISMEC (Linear Interpolation System for Stochastic Microdosimetric Kinetic model parameters Evaluated from Cellular-scale simulation), a rapid estimation framework based on precomputed cellular-scale PHITS (Particle and Heavy Ion Transport code System) simulations covering various cell geometries and boron distributions. By applying a linear interpolation algorithm, LISMEC enables the retrieval of SMK model parameters without the need for computationally intensive cellular-scale simulations. The utility of LISMEC, in conjunction with PHITS, was demonstrated through simulations of various irradiation scenarios in reactor-based BNCT. The results showed that Diso E values ranged from 7.4 Gy to 32.7 Gy, even under a fixed macroscopic $$^{10}$$B concentration of 60 ppm. These findings emphasize the importance of incorporating microscopic distribution of $$^{10}$$B and cellular structures into BNCT treatment planning.

論文

An Initial $$G$$ value of hydrated electrons updated by a dynamic Monte Carlo simulation

甲斐 健師; 樋川 智洋; 松谷 悠佑*; 平田 悠歩; 土田 秀次*; 横谷 明徳*

RSC Advances (Internet), 16(15), p.13886 - 13895, 2026/03

 被引用回数:0

水は生命科学や原子力産業において最も興味深い研究対象の一つであるが、水の放射線分解における電離と電子励起の比率は未だ不明瞭である。この比率から放射線分解化学種の収量が決定されるが、現状としてこの比率はパラメータ化されている。本研究では、この積年の基礎科学的問題にコンピュータシミュレーションで挑み、従来のモデルパラメータを利用することなく、水和電子の初期収量に対する一次電子エネルギー依存性を評価することに成功した。本研究では既存の概念に反し、水の電離と電子励起の断面積を定義する必要はなく、水の放射線分解の結果生じた二次電子の動的運動計算が、電離と電子励起の最終的な比率を決定することを明らかにした。我々の新規解析手法は、一般的な液体放射線分解の新たな解析法として徐々に認知されることが期待される。

論文

Development and validation of generalized Monte Carlo track-structure simulation model applicable to arbitrary ions in arbitrary materials

小川 達彦; 平田 悠歩; 松谷 悠佑; 甲斐 健師

Computer Physics Communications, 316, p.109758_1 - 109758_15, 2025/11

 被引用回数:1 パーセンタイル:0.00(Computer Science, Interdisciplinary Applications)

任意の物質・任意のイオン照射において、電離や励起等を個々にシミュレートしながら放射線挙動を解析できる飛跡構造解析モデルITSART Ver.2を開発した。一般のイオン輸送アルゴリズムは、数千の原子反応をまとめて1イベントとして計算するため、計算が高速ではあるが電離など原子レベルの反応を識別することはできない。また従来の飛跡構造解析モデルは水や生体分子のみにしか使えず、入射粒子も陽子線や炭素線などの医療目的の粒子線に限られていたことから、本モデルの汎用性は画期的である。本モデルを汎用的飛跡構造解析モデルとして開発するにあたり、多くの工夫が必要であることを本研究では突き止め、それらを実現した。具体的には、電離で発生する二次電子のエネルギー・角度分布、標的核への運動量移行、原子脱励起モデルとの接続であり、これらを実装したことで多くのベンチマークデータを再現することができた。特に重い元素標的に照射した場合のビーム軸外縁における線量や、二次電子スペクトルに見られる原子固有のオージェ電子ピークが再現できたことは、標的物質が水だけであった従来研究に比べて特に顕著な進歩である。こうして開発されたITSART Ver.2はPHITSの次期リリースから実装される予定であり、炉材料や半導体などの放射線影響を解析するための強力なツールとして期待される。

論文

Computational analysis of the spatial distributions of low-energy electrons generated via water photolysis and photoinjection into electrodes in water

甲斐 健師; 樋川 智洋; 松谷 悠佑*; 平田 悠歩; 土田 秀次*; 横谷 明徳*

Journal of Chemical Physics, 162(15), p.154102_1 - 154102_11, 2025/04

 被引用回数:1 パーセンタイル:0.00(Chemistry, Physical)

放射線DNA損傷を推定するには、水の放射線分解の結果生じる低エネルギー電子の科学的知見が必要となる。しかしながら、水の放射線分解の解析は非常に複雑であるため本研究では、シンプルな水の光分解に関する低エネルギー電子の実験値と、水中の電極への光照射により発生した低エネルギー電子の実験値に注目した。本研究ではモンテカルロ法と分子動力学法を組み合わせた計算コードを利用し、これらの実験値を解析した。その結果、異なる実験条件であっても実験値をよく再現することを確認した。本計算コードは低エネルギー電子とDNAの相互作用を解析する強力なツールとなり、放射線DNA損傷の形成メカニズムの解明に適用されることが期待される。

論文

Development of a chemical code applicable to ions based on the PHITS code for efficient and visual radiolysis simulations

松谷 悠佑; 吉井 勇治*; 楠本 多聞*; 小川 達彦; 大西 世紀*; 平田 悠歩; 佐藤 達彦; 甲斐 健師

Physical Chemistry Chemical Physics, 27(14), p.6887 - 6898, 2025/04

 被引用回数:3 パーセンタイル:86.40(Chemistry, Physical)

水の放射線分解により生成されるラジカルは、DNA損傷誘発、染色体異常、発がんなど、放射線による生物影響の評価において重要な役割を果たす。粒子および重イオン輸送コードシステム(PHITS)では、あらゆる荷電粒子について水中の原子相互作用を推定できる飛跡構造解析モードと、ラジカルをシミュレート可能な電子線専用の化学コード(PHITS-Chem)が先行研究にて開発された。本研究では、あらゆるイオンビームに適用可能なPHITS-Chemコードを開発すると同時に、化学種間の反応をより効率的に検出する空間分割法や化学種の4次元可視化機能を整備した。更新されたPHITS-Chemコードは、文献にて報告される陽子線、$$alpha$$粒子線、炭素イオン線のG値と比較することにより検証され、PHITSオリジナル3次元描画ソフトPHIG-3Dによりラジカルの拡散動態を直感的に評価することに成功した。また、空間分割法の導入により、計算精度を維持しながら計算時間を大幅に短縮(約28倍高速化)することにも成功した。開発したPHITS-Chemコードは、粒子線治療においてラジカルにより誘発される生物効果の正確かつ直感的な理解に貢献することが期待される。

論文

Multiple DNA damages induced by water radiolysis demonstrated using a dynamic Monte Carlo code

甲斐 健師; 樋川 智洋; 松谷 悠佑*; 平田 悠歩; 土田 秀次*; 伊東 佑真*; 横谷 明徳*

Communications Chemistry (Internet), 8, p.60_1 - 60_9, 2025/03

 被引用回数:3 パーセンタイル:64.02(Chemistry, Multidisciplinary)

放射線DNA損傷は、直接効果と間接効果から形成される。直接効果はDNAと放射線の相互作用であり、間接効果はDNAと放射線分解化学種との化学反応である。これまで、直接効果が関与すると、DNAの10塩基対以内(3.4nm程度)に複数の損傷が形成され、修復効率が低下し、生物影響が誘発されると考えられてきた。本研究では、間接効果のみにより誘発されるDNA損傷を定量的に評価した。その結果、生成される確率は1%未満であるが、DNA近傍の水に10数eVのエネルギーが付与されるだけで、複雑なDNA損傷が形成されることが分かった。つまり、放射線とDNAが直接相互作用することなく、DNAの極近傍の水にエネルギーを与えるだけで、後発の生物影響の可能性を排除できなくなる。本研究成果は、低線量放射線影響の理解に役立つ重要な知見の一つとなる。

論文

Overview of PHITS Ver.3.34 with particular focus on track-structure calculation

小川 達彦; 平田 悠歩; 松谷 悠佑; 甲斐 健師; 佐藤 達彦; 岩元 洋介; 橋本 慎太郎; 古田 琢哉; 安部 晋一郎; 松田 規宏; et al.

EPJ Nuclear Sciences & Technologies (Internet), 10, p.13_1 - 13_8, 2024/11

放射線挙動解析コードPHITSは、モンテカルロ法に基づいてほぼ全ての放射線の挙動を解析することができる放射線挙動解析計算コードである。その最新版であるPHITS version 3.34の、飛跡構造解析機能に焦点を置いて説明する。飛跡構造解析とは、荷電粒子が物質中を運動する挙動を計算する手法の一つで、個々の原子反応を識別することにより原子スケールでの追跡を可能にするものである。従来の飛跡構造解析モデルは生体を模擬する水だけにしか適用できず、遺伝子への放射線損傷を解析するツールとして使われてきた飛跡構造解析であるが、PHITSにおいてはPHITS-ETS、PHITS-ETS for Si、PHITS-KURBUC、ETSART、ITSARという飛跡構造解析モデルが補い合うことにより、生体の放射線影響だけでなく、半導体や材料物質など任意物質に対する適用が可能になっている。実際にこれらのモデルを使って、放射線によるDNA損傷予測、半導体のキャリア生成エネルギー計算、DPAの空間配置予測など、新しい解析研究も発表されており、飛跡構造解析を基礎とするボトムアップ型の放射線影響研究の推進に重要な役割を果たすことが期待できる。

論文

放射線検出器の応答メカニズムの解明に向けたPHITSの飛跡構造計算の開発とその応用

平田 悠歩; 甲斐 健師; 小川 達彦; 松谷 悠佑; 佐藤 達彦

放射線化学(インターネット), (118), p.21 - 28, 2024/10

放射線の安全な使用には放射線検出器による線量の正確な評価が必須である。しかし、放射線の種類によっては検出器の出力が線量に対して非線形となり、線量を正しく評価できない問題がある。このような検出器の課題を解決するためには検出器の出力が変化するメカニズムを理論的に解析することが重要である。放射線輸送計算コードPHITSには放射線の挙動を高い精度で追跡する飛跡構造解析モードが実装されており、このモードを用いれば放射線が検出されるまでの挙動を精密に模擬することが可能である。本解説論文では、検出器物質中の電子線の挙動を追跡するために開発された任意物質用電子線飛跡構造解析モード(ETSART)について紹介した。さらに、PHITSの飛跡構造解析モードを用いてイオン線を照射した際の蛍光体の消光現象を再現した応用例も紹介した。

論文

Significant role of secondary electrons in the formation of a multi-body chemical species spur produced by water radiolysis

甲斐 健師; 樋川 智洋; 松谷 悠佑*; 平田 悠歩; 手塚 智哉*; 土田 秀次*; 横谷 明徳*

Scientific Reports (Internet), 14, p.24722_1 - 24722_15, 2024/10

 被引用回数:5 パーセンタイル:49.14(Multidisciplinary Sciences)

放射線DNA損傷の直接・間接効果を推定するには、水の放射線分解に関する科学的知見が不可欠である。水の放射線分解により生じる二次電子は、この二つの効果に関与する。ここでは、第一原理計算コードを用いて、水への20-30eVのエネルギー付与の結果生じた二次電子のフェムト秒ダイナミクスを計算し、ナノサイズの極微小な空間領域に生成される放射線分解化学種の形成メカニズムを解析した。その結果から、水の放射線分解によって生成される化学種は、付与エネルギーが25eVを超えると数ナノメートルの極微小領域で高密度化し始めることを明らかにした。本研究成果は、細胞死のような生物学的影響を引き起こすと考えられているクラスターDNA損傷の形成について重要な科学的知見となる。

論文

Evaluation of quenching characteristics of Li-containing scintillators

渡辺 賢一*; 大島 裕也*; 執行 信寛*; 平田 悠歩

Japanese Journal of Applied Physics, 63(5), p.056001_1 - 056001_5, 2024/05

 被引用回数:1 パーセンタイル:13.00(Physics, Applied)

Liを含むシンチレータ材料は中性子検出に使用されている。Li含有シンチレータは中性子によって生成されたトリトンとアルファ線を検出しており、これらの粒子はガンマ線に比べて高いエネルギーを付与するため、Li含有シンチレータはガンマ線と中性子を分別して測定できる。しかし、シンチレータの発光効率は消光効果と呼ばれる現象により粒子線に対して低下する。正確に中性子とガンマ線を分別するためには消光効果の評価が必要となる。消光効果によるシンチレーション効率変化予測にはBirksの式が用いられるが、Birksの式に含まれる消光係数を決定する必要がある。そこで、本研究ではPHITSを使用し、消光係数をフリーパラメータとしたBirksの式に基づき消光効果を考慮したLi含有シンチレータの発光量を計算した。そして、シミュレーション結果と実験により得られた発光量を比較することで、Liガラス、Ce:LiCaAlF$$_{6}$$、Eu:LiCaAlF$$_{6}$$シンチレータの消光係数を決定した。

論文

Development of a model for evaluating the luminescence intensity of phosphors based on the PHITS track-structure simulation

平田 悠歩; 甲斐 健師; 小川 達彦; 松谷 悠佑; 佐藤 達彦

Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B, 547, p.165183_1 - 165183_7, 2024/02

 被引用回数:3 パーセンタイル:32.62(Instruments & Instrumentation)

蛍光体の粒子線に対する発光効率は消光効果により低下することが知られている。蛍光体検出器を用いて正確な線量分布を得るためには、消光効果のメカニズムを理解することが不可欠である。本研究では、PHITSに実装された任意の物質に対する飛跡構造解析モードに基づいて蛍光体の発光強度を推定する新しいモデルを開発した。開発したモデルにより、BaFBr検出器の消光効果のシミュレーションが可能となり、その結果を対応する測定データと比較することにより検証した。このモデルは、様々なの蛍光体検出器の開発に貢献することが期待される。

論文

A Step-by-step simulation code for estimating yields of water radiolysis species based on electron track-structure mode in the PHITS code

松谷 悠佑; 吉井 勇治*; 楠本 多聞*; 赤松 憲*; 平田 悠歩; 佐藤 達彦; 甲斐 健師

Physics in Medicine & Biology, 69(3), p.035005_1 - 035005_12, 2024/02

 被引用回数:6 パーセンタイル:73.58(Engineering, Biomedical)

水の放射線分解における化学生成物の時間依存性は、電離放射線へ被ばくした後のDNA損傷応答を評価する際に重要な役割を果たす。粒子および重イオン輸送コードシステム(PHITS)は、放射線輸送のための汎用モンテカルロシミュレーションコードであり、物理過程であるイオン化や電子励起などの原子相互作用を計算することができる。しかし、水の放射線分解生成物をシミュレートするための化学コードはPHITSパッケージには存在しない。本研究では、電子線による水の放射線分解生成物(OHラジカル、e$$_{aq}$$$$^{-}$$、H$$_{2}$$、H$$_{2}$$O$$_{2}$$など)のG値を計算できるPHITS専用の化学シミュレーションコード(PHITS-Chemコード)を開発した。その結果、開発したPHITS-Chemコードは1 $$mu$$sまでのG値の測定値や他のシミュレーション値と一致することが確認できた。また、このコードは、OHラジカルスカベンジャー存在下での様々な化学生成物のシミュレーションや、DNA損傷誘発に対する直接的および間接的な影響の寄与を分析にも役立つ。このコードは原子力機構が主となり開発を進めるPHITSパッケージに内包され、8000名以上のユーザーに提供される予定である。

論文

Recent improvements of the Particle and Heavy Ion Transport code System; PHITS version 3.33

佐藤 達彦; 岩元 洋介; 橋本 慎太郎; 小川 達彦; 古田 琢哉; 安部 晋一郎; 甲斐 健師; 松谷 悠佑; 松田 規宏; 平田 悠歩; et al.

Journal of Nuclear Science and Technology, 61(1), p.127 - 135, 2024/01

 被引用回数:284 パーセンタイル:99.98(Nuclear Science & Technology)

放射線挙動解析コードPHITSは、モンテカルロ法に基づいてほぼ全ての放射線の挙動を解析することができる。その最新版であるPHITS version 3.31を開発し公開した。最新版では、高エネルギー核データに対する親和性や飛跡構造解析アルゴリズムなどが改良されている。また、PHIG-3DやRT-PHITSなど、パッケージに組み込まれた外部ソフトウェアも充実している。本論文では、2017年にリリースされたPHITS3.02以降に導入された新しい機能について説明する。

論文

First-principles simulation of an ejected electron produced by monochromatic deposition energy to water at the femtosecond order

甲斐 健師; 樋川 智洋; 松谷 悠佑; 平田 悠歩; 手塚 智哉*; 土田 秀次*; 横谷 明徳*

RSC Advances (Internet), 13(46), p.32371 - 32380, 2023/11

 被引用回数:6 パーセンタイル:34.93(Chemistry, Multidisciplinary)

水の光分解・放射線分解の科学的知見は、生命科学などに幅広く利用されるが、水へのエネルギー付与の結果生じる水和電子の空間分布(スパー)の形成メカニズムは未だ良く分かっていない。スパー内に生じる水和電子、OHラジカル及びH$$_{3}$$O$$^{+}$$の化学反応時間は、このスパー半径に強く依存する。我々は先行研究において、特定の付与エネルギー(12.4eV)におけるスパー形成メカニズムを第一原理計算により解明した。本研究では付与エネルギーが11-19eVにおけるスパー半径を第一原理計算した。本計算のスパー半径は3-10nmであり、付与エネルギーが8-12.4eVにおける実験予測値(~4nm)と一致し、付与エネルギーの増加に伴いその半径は徐々に拡大することがわかった。本研究で得られたスパー半径は新たな科学的知見であり、放射線DNA損傷の推定などに幅広く活用されることが期待できる。

論文

Development of an electron track-structure mode for arbitrary semiconductor materials in PHITS

平田 悠歩; 甲斐 健師; 小川 達彦; 松谷 悠佑*; 佐藤 達彦

Japanese Journal of Applied Physics, 62(10), p.106001_1 - 106001_6, 2023/10

 被引用回数:7 パーセンタイル:41.26(Physics, Applied)

半導体検出器の設計を最適化するには、半導体物質内において放射線がキャリア(励起電子)に変換されるまでの過程を理論的に解析する必要がある。本研究では、任意の半導体物質に対し、放射線により生じる二次電子の挙動を極低エネルギー(数eV)まで追跡し、励起電子が生成される過程を模擬できる機能(ETSART)を開発し、PHITSに実装した。具体的には、ETSARTを用いて計算した電子の飛程はICRU37で推奨されたデータ別の計算結果と一致することを確認した。さらに、半導体検出器の特性を表す重要な指標である、一つの励起電子の生成に必要な平均エネルギー($$varepsilon$$値)について検討し、これまで$$varepsilon$$値とバンドギャップエネルギーの関係は単純な直線モデルで考えられていたが、その関係は非線形関数であることを明らかにした。ETSARTは半導体検出器の最適化設計や応答解析に留まらず、新しい半導体物質の特性評価への応用も期待できる。

論文

Improvement of the hybrid approach between Monte Carlo simulation and analytical function for calculating microdosimetric probability densities in macroscopic matter

佐藤 達彦; 松谷 悠佑*; 小川 達彦; 甲斐 健師; 平田 悠歩; 津田 修一; Parisi, A.*

Physics in Medicine & Biology, 68(15), p.155005_1 - 155005_15, 2023/07

 被引用回数:15 パーセンタイル:87.94(Engineering, Biomedical)

PHITSには、マイクロドジメトリ機能と呼ばれるモンテカルロ法と解析関数を組み合わせて巨視的な空間内における微視的な領域の線量分布を計算する機能が備わっている。本論文では、そのマイクロドジメトリ機能を同じくPHITSに組み込まれた最新の飛跡構造解析モードを使って改良した結果について報告する。

論文

Initial yield of hydrated electron production from water radiolysis based on first-principles calculation

甲斐 健師; 樋川 智洋; 松谷 悠佑*; 平田 悠歩; 手塚 智哉*; 土田 秀次*; 横谷 明徳*

RSC Advances (Internet), 13(11), p.7076 - 7086, 2023/03

 被引用回数:11 パーセンタイル:59.63(Chemistry, Multidisciplinary)

水の放射線分解に関する科学的知見は、生命科学などに幅広く利用されるが、水の分解生成物であるラジカルの生成メカニズムは未だ良く分かっていない。我々は、放射線物理の観点から、この生成メカニズムを解く計算コードの開発に挑戦し、第一原理計算により、水中の二次電子挙動は、水との衝突効果のみならず分極効果にも支配されることを明らかにした。さらに、二次電子の空間分布をもとに、電離と電子励起の割合を予測した結果、水和電子の初期収量の予測値は、放射線化学の観点から予測された初期収量を再現することに成功した。この結果は、開発した計算コードが放射線物理から放射線化学への合理的な時空間接続を実現できることを示している。本研究成果は、水の放射線分解の最初期過程を理解するための新たな科学的知見になることが期待できる。

論文

放射線の挙動を原子サイズで計算できるPHITSの新機能

小川 達彦; 平田 悠歩; 松谷 悠佑; 甲斐 健師

Isotope News, (784), p.13 - 16, 2022/12

入射荷電粒子が二次電子を生じる過程を原子サイズで明示的に計算する飛跡構造解析計算は、放射線生物影響,材料照射効果,放射線検出などの研究にとって重要な技術であり、近年主著者らの研究で新しい飛跡構造解析計算コードが開発された。従来の飛跡構造解析計算は標的物質の誘電関数を基に断面積を計算するため、誘電関数が良く測定されている水以外に、適用できるモデルは限られていた。本研究では誘電関数を使うことなく、二次電子エネルギー分布の系統式と阻止能を基に飛跡構造解析計算を行う手法により、誘電関数の測定値の有無にかかわらず、任意の物質で飛跡構造解析計算を実行することを可能とした。こうして開発したモデルで、陽子による水中の動径線量分布や二次電子生成量を計算したところ、従来のコードや実験値とよく一致した。このモデルは原子力機構の放射線輸送計算コードであるPHITS Ver3.25以降に実装され、任意物質に適用できる世界初の汎用飛跡構造解析コードとしてユーザーに提供されている。

論文

Implementation of the electron track-structure mode for silicon into PHITS for investigating the radiation effects in semiconductor devices

平田 悠歩; 甲斐 健師; 小川 達彦; 松谷 悠佑; 佐藤 達彦

Japanese Journal of Applied Physics, 61(10), p.106004_1 - 106004_6, 2022/10

 被引用回数:7 パーセンタイル:44.16(Physics, Applied)

検出器や半導体メモリなどのSiデバイスにおいて、パルス波高欠損やソフトエラーなどの放射線影響が問題となっている。このような放射線影響のメカニズムを解明するためには、放射線による精密なエネルギー付与情報が必要である。そこで、Siにおける電子線のエネルギー付与をナノスケールで計算できる電子線飛跡構造解析機能を開発しPHITSに実装した。開発した機能の検証として電子の飛程や付与エネルギー分布を計算したところ、既報のモデルと一致することを確認した。また、一つのキャリア生成に必要なエネルギー($$varepsilon$$値)について、実験値を再現する二次電子生成のエネルギー閾値は2.75eVであることを見出すとともに、このエネルギー閾値は解析的に計算された結果および実験値と一致することがわかった。本研究で開発した電子線飛跡構造解析機能はSiデバイスに対する放射線影響の調査に応用することが期待される。

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