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小林 泰彦
ソフト・ドリンク技術資料, (175), p.103 - 128, 2015/04
放射線は19世紀末に偶然発見されて以来、その透過力や照射効果が様々な目的で人間生活に利用されている。放射線は物体を透過しながら、全体の温度を上げずに、瞬時に、満遍なく、まばらに活性点を作り、ごく局所的に化学反応を起こすことができる。これが、放射線照射によるエネルギー付与と加熱によるエネルギー付与の本質的な違いである。そして、生物が一般的に放射線に弱いのは、細胞分裂のたびに超巨大分子DNAを正確にコピーしなければならないという生物側の宿命的な理由による。放射線のエネルギー付与とその生物作用の特徴を利用した放射線殺菌・滅菌は、非加熱処理で、かつ薬剤を使わないというメリットがあり、国際的に標準化された技術である。殺菌・滅菌よりも低い線量では、穀類や青果物の害虫を駆除あるいは不妊化することができ、さらに低い線量ではジャガイモやニンニクなどの芽止めができる。このように食品や農作物に放射線を照射して殺菌、殺虫、芽止めなどを行う技術を食品照射という。放射線処理された食品や農産物(照射食品)の毒性学的・微生物学的な安全性と栄養学的な健全性は、科学的な方法で繰り返し確認されてきた。今日では、公衆衛生や地球環境の保全に寄与する有効な手段として、香辛料・ハーブ類や冷凍食肉・魚介類の殺菌、熱帯果実や柑橘類の検疫処理、ニンニクの芽止めなどが世界各国で実用化されている。しかし日本では、ジャガイモの照射芽止め以外はいまだに許可されていない。欧米などでは1980年代から進められてきた「安全性評価」「消費者利益と技術的必要性、社会受容性の判断」
「法令の整備」という社会的合意形成のプロセスが、我が国では全く機能していないのが現状である。