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樋川 智洋; 甲斐 健師; 熊谷 友多; 横谷 明徳*
Journal of Chemical Physics, 160(21), p.214119_1 - 214119_9, 2024/06
イオン化によって引き起こされる不均質反応であるスパー反応は、溶液中の放射線分解あるいは光分解反応を左右する重要な反応だが、そのスパーの形成プロセスはまだ解明されていない。その理由の1つとして、イオン化によって生成した荷電種を取り囲む溶媒和分子の誘電応答の影響がまだ明らかになっていないことが挙げられる。誘電応答は誘電率の時間変化に対応しており、スパー形成プロセスにおける反応拡散系に影響を与える可能性がある。そこで本研究では、誘電応答を考慮しながらDebye-Smoluchowski方程式を解くことにより、反応拡散系に対する誘電応答の影響を調べた。荷電種間に働くクーロン力は、誘電応答とともに徐々に減少する。本計算から、誘電応答が完了する前に荷電種間で反応が起こる条件を見積もることが出来た。これまで低LET放射線誘起によるイオン化で生成する自由電子の初期G値が静的な誘電率に依存することは報告されているが、荷電種間が密になる高LET放射線や光誘起の化学反応を扱う場合は誘電応答を考慮することが重要であることが示唆された。
甲斐 健師; 樋川 智洋; 松谷 悠佑; 平田 悠歩; 手塚 智哉*; 土田 秀次*; 横谷 明徳*
RSC Advances (Internet), 13(46), p.32371 - 32380, 2023/11
被引用回数:0 パーセンタイル:0.00(Chemistry, Multidisciplinary)水の光分解・放射線分解の科学的知見は、生命科学などに幅広く利用されるが、水へのエネルギー付与の結果生じる水和電子の空間分布(スパー)の形成メカニズムは未だ良く分かっていない。スパー内に生じる水和電子、OHラジカル及びHOの化学反応時間は、このスパー半径に強く依存する。我々は先行研究において、特定の付与エネルギー(12.4eV)におけるスパー形成メカニズムを第一原理計算により解明した。本研究では付与エネルギーが11-19eVにおけるスパー半径を第一原理計算した。本計算のスパー半径は3-10nmであり、付与エネルギーが8-12.4eVにおける実験予測値(~4nm)と一致し、付与エネルギーの増加に伴いその半径は徐々に拡大することがわかった。本研究で得られたスパー半径は新たな科学的知見であり、放射線DNA損傷の推定などに幅広く活用されることが期待できる。
甲斐 健師; 樋川 智洋; 鵜飼 正敏*; 藤井 健太郎*; 渡邊 立子*; 横谷 明徳*
Journal of Chemical Physics, 158(16), p.164103_1 - 164103_8, 2023/04
水の放射線分解・光分解に関する新たな科学的知見は、放射線化学・放射線生物学を含む様々な研究分野の劇的進歩に必要不可欠である。水に放射線を照射すると、その飛跡上に沿って、反応性の高い水和電子が無数に生成される。水和電子は、発生した電子と水分子の運動が動的に相関し、形成されることは知られているが、その形成に至るまでの、電子の非局在化、熱化、分極メカニズムは未だ解明していない。本研究で独自に開発したコードを利用した解析結果から、これらの過渡的現象は、水特有の水素結合ネットワークに由来する分子間振動モードと、水和を進行する水分子の回転モードの時間発展に支配されるように進行することが明らかとなった。本研究によるアプローチは、水に限らず、様々な溶媒に適用可能であり、そこから得られる科学的知見は、放射線生物影響、原子力化学、放射線計測など幅広い研究領域へ適用されることが期待できる。
甲斐 健師; 樋川 智洋; 松谷 悠佑*; 平田 悠歩; 手塚 智哉*; 土田 秀次*; 横谷 明徳*
RSC Advances (Internet), 13(11), p.7076 - 7086, 2023/03
被引用回数:3 パーセンタイル:73.63(Chemistry, Multidisciplinary)水の放射線分解に関する科学的知見は、生命科学などに幅広く利用されるが、水の分解生成物であるラジカルの生成メカニズムは未だ良く分かっていない。我々は、放射線物理の観点から、この生成メカニズムを解く計算コードの開発に挑戦し、第一原理計算により、水中の二次電子挙動は、水との衝突効果のみならず分極効果にも支配されることを明らかにした。さらに、二次電子の空間分布をもとに、電離と電子励起の割合を予測した結果、水和電子の初期収量の予測値は、放射線化学の観点から予測された初期収量を再現することに成功した。この結果は、開発した計算コードが放射線物理から放射線化学への合理的な時空間接続を実現できることを示している。本研究成果は、水の放射線分解の最初期過程を理解するための新たな科学的知見になることが期待できる。
樋川 智洋; 熊谷 友多; 山下 真一*; 伴 康俊; 松村 達郎
UTNL-R-0502 (インターネット), 2 Pages, 2022/04
東京大学大学院工学系研究科が有するライナック研究施設を利用して2020年度に得られた成果をまとめたものである。マイナーアクチノイドの分離プロセスで利用が見込まれるヘキサオクチルニトリロトリアセトアミド抽出剤(HONTA)について、ドデカン中における放射線分解過程をパルスラジオリシスにより調べた。ナノ秒時間領域において、HONTAが分解に至る反応中間体であるHONTAのラジカルカチオンと三重項励起状態が観測された。また電子捕捉剤を添加すると、ラジカルカチオンからと三重項励起状態への移行が鈍化し、さらに3重項励起状態の失活が抑制される結果が得られた。
樋川 智洋; Peterman, D. R.*; Meeker, D. S.*; Grimes, T. S.*; Zalupski, P. R.*; Mezyk, S. P.*; Cook, A. R.*; 山下 真一*; 熊谷 友多; 松村 達郎; et al.
Physical Chemistry Chemical Physics, 23(2), p.1343 - 1351, 2021/01
被引用回数:14 パーセンタイル:81.66(Chemistry, Physical)An(III)/Ln(III)分離用抽出剤であるヘキサニトリロトリアセトアミド(HONTA)の、SELECT (Solvent Extraction from Liquid waste using Extractants of CHON-type for Transmutation)プロセス条件下における放射線影響を、米国INLが有する溶媒テストループを用いて調べた。HPLC-ESI-MS/MS分析の結果、放射線照射により、HONTAが線量に対して指数関数的に減衰し、ジオクチルアミンをはじめとする多様な分解物が生じることがわかった。またHONTAの減衰及び分解物の生成により、アメリシウム及びユーロピウムの抽出及び逆抽出挙動が低下する結果が得られた。パルスラジオリシス実験からは、このHONTAの減衰は、溶媒であるドデカンのラジカルカチオンとの反応((HONTA + R) = (7.61 0.82) 10 M s)によることがわかった。一方、アメリシウムやユーロピウムとの錯形成により、反応速度定数は増加した。この反応速度の増加は、錯形成によって異なる経路の分解反応が生じた可能性を示唆している。最後にナノ秒の時間分解測定からHONTAの直接効果,間接効果共に100ns以下の短い寿命を持つHONTAラジカルカチオンとマイクロ秒以上の長い寿命を持つHONTA励起三重項状態が生じることを明らかにした。これらの活性種はHONTAの分解における重要な前駆体となると考えられる。
樋川 智洋; 津幡 靖宏; 甲斐 健師; 古田 琢哉; 熊谷 友多; 松村 達郎
Solvent Extraction and Ion Exchange, 39(1), p.74 - 89, 2021/00
被引用回数:2 パーセンタイル:9.60(Chemistry, Multidisciplinary)マイナーアクチノイド分離プロセスの放射線に対する成立性を評価するうえで、抽出溶媒の吸収線量の予測は不可欠である。本論文では、溶媒抽出時に現れるエマルションなどの構造を考慮した吸収線量評価手法を提案する。モンテカルロ法に基づいた放射線輸送コードであるPHITSを活用し、高レベル放射性廃液からのマイナーアクチノイド一括回収するプロセスを対象として、抽出溶媒への放射線エネルギー付与シミュレーションを行った。シミュレーションの結果、アルファ線によるエネルギー付与量はエマルション構造に、ベータ線及びガンマ線については抽出に用いる装置サイズに依存することを示した。さらにこれまでの線量評価では評価されてこなかった透過力の高いガンマ線によるエネルギー付与がマイナーアクチノイドの大量処理を考えるうえで重要になることを示唆した。
樋川 智洋; 村山 琳*; 熊谷 友多; 山下 真一*; 鈴木 英哉; 伴 康俊; 松村 達郎
UTNL-R-0501, p.24 - 25, 2020/12
東京大学大学院工学系研究科が有するライナック研究施設を利用して平成31年度に得られた成果をまとめたものである。マイナーアクチノイド(MA)の分離プロセスで利用が見込まれるジグリコールアミド抽出剤について、ドデカン及びオクタノール溶液中における放射線分解過程をパルスラジオリシスにより調べた。その結果、アルコールを添加することにより、ジグリコールアミド抽出剤の放射線分解過程は、これまで考えられてきたラジカルカチオンを経由するドデカン単一溶媒中での分解過程とは異なることが示唆された。
甲斐 健師; 横谷 明徳*; 鵜飼 正敏*; 藤井 健太郎*; 樋川 智洋; 渡邊 立子*
Physical Chemistry Chemical Physics, 20(4), p.2838 - 2844, 2018/01
被引用回数:22 パーセンタイル:76.00(Chemistry, Physical)放射線生物影響を誘発する複雑DNA損傷はエネルギー付与率の高い放射線トラックエンドで生成されやすいと考えられている。そのDNA損傷を推定するために、電子線トラックエンドにおける水の放射線分解最初期過程について、計算シミュレーションに基づいた理論的研究を実施した結果から、1次電子線照射によりDNA鎖切断を含む複数の塩基損傷が1nm以内に密に生成され得ることが示された。この複雑DNA損傷は損傷除去修復が困難である。更に、その複雑損傷部位から数nm離れた位置に2次電子により塩基損傷が誘発されることが示された。この孤立塩基損傷部位は損傷除去修復が可能であり、結果として鎖切断に変換されるため、1次電子線により生成された鎖切断と合わせ、最終的にDNAの2本鎖切断が生成され得る。この2本鎖切断末端は塩基損傷を含むために修復効率が低下し、未修復・誤修復により染色体異常のような生物影響が誘発されることが推測された。
鈴木 英哉; 津幡 靖宏; 樋川 智洋; 松村 達郎
no journal, ,
分離変換技術の開発において、高レベル放射性廃液(HLLW)中からのマイナーアクチノイド(MA)の分離回収は非常に重要な研究課題である。HLLW中からMAを分離した後、さらにAmとCmの相互分離が必要である。高い実用性を持つ抽出剤ADAAMによって、AmとCmとの分離係数5.5が得られた。ADAAMを抽出剤に用い、多段向流式ミキサセトラによる連続抽出試験を実施し、AmとCmとの相互分離に成功した。
樋川 智洋; 鈴木 英哉; 伴 康俊; 石井 翔*; 松村 達郎
no journal, ,
マイナーアクチノイド(MA)に対する優れた抽出分離能を持つ新規抽出剤、ヘキサオクチルニトリロトリアセトアミド(HONTA)の耐放射線性能評価の一環として、ドデカン溶媒中での線照射によるランタノイド元素(Ln)の抽出能変化を調べた。その結果、HONTAの線分解生成物による新たな元素抽出能の出現は認められず、また分配比の減少は線照射に伴うHONTAの分解による濃度変化に起因することがわかった。
樋川 智洋; 津幡 靖宏; 甲斐 健師; 木村 崇弘; 伴 康俊; 鈴木 英哉; 筒井 菜緒; 宝徳 忍; 松村 達郎
no journal, ,
マイナーアクチノイド分離プロセスで用いられる抽出剤の耐放射線性能評価に向け、抽出溶媒へのエネルギー付与過程をPHITSコードを用いてシミュレーションした。その結果、低LET部によるエネルギー付与が高LET部より大きいことがわかった。また実験的に得られるG値を用いることで、プロセス中での抽出剤の分解量を評価できることを示唆した。
松村 達郎; 伴 康俊; 鈴木 英哉; 津幡 靖宏; 宝徳 忍; 筒井 菜緒; 鈴木 明日香; 樋川 智洋; 黒澤 達也*; 柴田 光敦*; et al.
no journal, ,
PUREXプロセスは工業規模の再処理工場として確立しており、TRUEX法及び4群群分離法は、高レベル廃液からのマイナーアクチノイド(MA)の分離プロセスとして開発され、既に実高レベル廃液を用いた連続抽出試験によって実証されている。これらの再処理及びMA分離プロセスで用いられている抽出剤であるTBP, CMPO、DIDPAは、U, Pu, MAの分離回収に高い性能を発揮するが、その分子構造にリンを含んでおり固体の二次廃棄物の発生源となることが課題である。そこで、核燃料サイクルからの放射性廃棄物の低減化を目的として、分子中に炭素(C), 水素(H), 酸素(O), 窒素(N)のみを含む(CHON)新規な抽出剤を用いた新しい再処理及びMA分離プロセスの研究開発を進めている。本発表では、抽出剤の選定から分離プロセス構築、実高レベル廃液試験の結果まで述べる。
樋川 智洋; 鈴木 英哉; 石井 翔*; 筒井 菜緒; 伴 康俊; 松村 達郎
no journal, ,
ヘキサオクチルニトリロトリアセトアミド(HONTA)等のマイナーアクチノイド(MA)に対する優れた抽出分離能を持つ抽出剤を対象に、ドデカン溶媒中での線照射を行い、ランタノイド元素(Ln)の抽出能変化を調べた。HONTAについて、線分解に伴う濃度変化と比較した結果、照射初期にみられたHONTAの減少量に対応する分配比の減衰は観測されず、また照射に伴う分配比の減少は濃度変化から予測されたものより速いことがわかった。
樋川 智洋; 鈴木 英哉; 伴 康俊; 石井 翔*; 松村 達郎
no journal, ,
放射性廃棄物処分の大幅な負担軽減を目指し、高レベル放射性廃液(HLLW)中からマイナーアクチノイド(MA)を回収するための分離プロセスの研究開発が現在進められている。本研究では、マイナーアクチノイド(MA)とレアアース(Ln)の分離抽出剤として優れた抽出分離能と高い実用性を併せ持つヘキサオクチルニトリロトリアセトアミド(HONTA)を対象に、Co-60から放出される線を用いて、HONTAの放射線分解量および分解生成物の定性・定量分析を行った。その結果、放射線によるHONTA中の切断部位を特定し、またその切断メカニズムが線量によって異なることを示唆した。
樋川 智洋; 津幡 靖宏; 甲斐 健師; 木村 崇弘; 松村 達郎
no journal, ,
マイナーアクチノイド分離プロセスの成立性の評価に向け、抽出溶媒への吸収線量をPHITSコードを用いて計算した。LETに注目した結果、溶媒へのエネルギー付与は低LET放射線による寄与が支配的になることを明らかにした。実験的に得られるG値を用いることで、プロセス中での抽出剤の分解量および分解生成物の生成量を評価できることを示した。
甲斐 健師; 樋川 智洋; 鵜飼 正敏*; 藤井 健太郎*; 渡邊 立子*; 横谷 明徳*
no journal, ,
放射線やレーザー照射による水の放射線分解の基礎研究は、原子力産業に関与した研究分野に適用され、更に、細胞内における放射線DNA損傷を理解する上でも非常に役立つ基礎知見を与える。そこで、水中で発生した電子の動的挙動をシミュレートするコードを開発し、これを用いた理論的研究を実施した。電子の空間確率分布を計算した結果、電子の空間確率分布の関数型は付与されるエネルギーに依存し、指数関数型とガウス型で概ね再現されることを示した。エネルギー確率分布の時間発展にも注目すると、100meV以下の成分はMaxwell分布に漸近する一方、それ以上のエネルギー成分は親カチオンのクーロン場の影響により時間にあまり依存しないことを示した。これらの成果は放射線物理と放射線化学を結ぶ重要な知見となる。
樋川 智洋; 熊谷 友多; 山下 真一*; 鈴木 英哉; 松村 達郎
no journal, ,
マイナーアクチノイド分離プロセスでの利用が見込まれるアミド系抽出剤の放射線分解過程を、東京大学パルスラジオリシスシステムを利用して、時間分解観測した。ナノ秒からマイクロ秒領域にかけて存在する過渡種が抽出剤の直接イオン化のみでなく、溶媒抽出時に希釈剤として用いられるドデカンのイオン化によっても間接的に生成することを明らかにした。
松村 達郎; 伴 康俊; 鈴木 英哉; 津幡 靖宏; 宝徳 忍; 筒井 菜緒; 鈴木 明日香; 樋川 智洋; 黒澤 達也*; 柴田 光敦*; et al.
no journal, ,
原子力エネルギーを継続して利用していくためには、高レベル廃棄物の放射能毒性の低減化と減容化は重要な課題である。分離変換技術はこれらを解決する有効な方策であると期待されている。原子力機構では、高レベル廃液からマイナーアクチノイド(MA)を分離回収し、核変換システムに供給するためのMA分離プロセスの開発を進めている。このMA分離プロセスは3つの分離ステップから構成されている。An(III)・RE一括回収プロセスでは、高レベル廃液から高い効率でMAを回収可能なTDdDGA抽出剤を開発し、An(III)/RE相互分離プロセス及びAm/Cm分離プロセスでは、抽出剤としてそれぞれHONTAとADAAMを開発した。これらの抽出剤は、すべてCHON原則に合った構造で、プロセスから発生する廃棄物の低減化に寄与している。このMA分離プロセスは、高レベル廃液の模擬液及び実液による連続抽出試験によって、その分離性能を評価した。
樋川 智洋; 鈴木 英哉; 伴 康俊; 石井 翔; 松村 達郎
no journal, ,
マイナーアクチノイド抽出過程では、放射線により抽出剤が分解することと放射線分解生成物が蓄積することが長期的なプロセスの運用における問題としてこれまで指摘されてきた。そこで本研究では、マイナーアクチノイド(MA)とランタノイド(Ln)の分離抽出剤として注目されているヘキサオクチルニトリロトリアセトアミド(HONTA)を対象に、Co-60から放出される線を用いて、HONTAの放射線分解量および分解生成物の定性・定量分析を行った。その結果、放射線によるHONTA中の切断部位を特定し、またその切断メカニズムが線量によって異なることを示唆した。