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嵯峨 涼*; 岩森 賢大*; 松谷 悠佑; 細川 洋一郎*
Computers in Biology and Medicine, 211, p.111743_1 - 111743_10, 2026/07
本研究では、前立腺がんの放射線治療効果を精密に予測するため、サイドポピュレーション(SP)を含むがん幹細胞(CSC)の特性と、腫瘍内の酸素効果(OER)を統合した生物物理モデルを開発した。DU145細胞からSPとメインポピュレーション(MP)を分離し、X線照射後のDNA二本鎖切断やコロニー形成による生存率を、低酸素環境(
0.1% O
)も含めて評価した。これらのデータをMP・SPおよび酸素濃度を考慮したIMKモデルで解析し、分割照射(2、3、7Gy/回)による臨床TCPと比較した。その結果、MP/SP割合、共通のOER、腫瘍内低酸素体積を用いることで、in vitroおよび臨床データを良好に再現できた。さらに、初期DSB生成量が細胞特性と酸素濃度に応じた放射線感受性を決定する主要因であることが示された。開発モデルは、低酸素領域への線量強化など、前立腺がん治療の最適化の貢献が期待できる。
Kyriakou, I.*; Papadopoulos, A.*; Polopetrakis, I.*; Kotroumbelou, C.*; Plante, I.*; 松谷 悠佑; 甲斐 健師; Qiu, R.*; Li, J.*; Kundr
t, P.*; et al.
Physics in Medicine & Biology, 71(8), p.085009_1 - 085009_25, 2026/04
被引用回数:0過去40年間にわたり、液体の水を対象としたモンテカルロ飛跡構造(MCTS)コードが世界中で数多く開発されてきたが、相互作用断面積は大きく異なる。本研究では、6種類の異なるMCTSコードの使用による、液相水中の低エネルギー電子輸送の物理的特性(電子阻止能、経路長、dose-point-kernel、微視的線量付与)の不確実性を評価することを目指した。コード間比較の結果により、特に100eV以下の低エネルギー領域において、MCTSコード間で大きな差異があることが明らかになり、電子線が重要な役割を果たすDNA損傷シミュレーションの精度に影響を与えることが示された。本研究は、液相水中の低エネルギー電子輸送計算に伴う不確実性を低減するために、MCTSコードで使用される物理モデルの更なる開発の必要性を浮き彫りにしている。
:Ce using PHITS track-structure simulations平田 悠歩; 甲斐 健師; 小川 達彦; 松谷 悠佑; 佐藤 達彦; 渡辺 賢一*; 加藤 匠*; 河口 範明*; 柳田 健之*
Radiation Measurements, 193, p.107651_1 - 107651_8, 2026/04
被引用回数:0 パーセンタイル:0.00(Nuclear Science & Technology)CaF
:Ceは高い光刺激蛍光(OSL)強度を示すため線量計として有用であると期待されている。しかし、CaF
:Ceなどの蛍光体に粒子線を照射すると、消光効果により蛍光体の線量当たりの発光強度が低下する。従来、蛍光体の消光効果は線エネルギー付与(LET)などを指標としたエネルギー付与密度に基づいて評価されてきた。しかし、粒子線の種類によりCaF
:Ceにおける消光現象とLETの関係性が異なり、LETから正確に消光現象を予測することは困難であったが、放射線輸送計算コードPHITSのTrack structure機能は、放射線による相互作用を個別に追跡することが可能である。そこで、PHITSを用いて粒子線により蛍光体が発光する過程を精密に計算し、予測したCaF
:Ceの応答を実験データと比較したところ、CaF
:Ceの消光現象にはOSLの量子収率が重要なパラメータであることが示唆された。この成果は、蛍光体検出器のさらなる開発に貢献するものと期待される。
value of hydrated electrons updated by a dynamic Monte Carlo simulation甲斐 健師; 樋川 智洋; 松谷 悠佑*; 平田 悠歩; 土田 秀次*; 横谷 明徳*
RSC Advances (Internet), 16(15), p.13886 - 13895, 2026/03
被引用回数:0 パーセンタイル:0.00(Chemistry, Multidisciplinary)水は生命科学や原子力産業において最も興味深い研究対象の一つであるが、水の放射線分解における電離と電子励起の比率は未だ不明瞭である。この比率から放射線分解化学種の収量が決定されるが、現状としてこの比率はパラメータ化されている。本研究では、この積年の基礎科学的問題にコンピュータシミュレーションで挑み、従来のモデルパラメータを利用することなく、水和電子の初期収量に対する一次電子エネルギー依存性を評価することに成功した。本研究では既存の概念に反し、水の電離と電子励起の断面積を定義する必要はなく、水の放射線分解の結果生じた二次電子の動的運動計算が、電離と電子励起の最終的な比率を決定することを明らかにした。我々の新規解析手法は、一般的な液体放射線分解の新たな解析法として徐々に認知されることが期待される。
福永 久典*; 清野 良輔*; 松谷 悠佑; 高島 弘幸*; 石川 正純*; 小野寺 康仁*; 白土 博樹*; 宮田 治彦*; Prise, K. M.*
Medcomm (Internet), 7(1), p.e70568_1 - e70568_11, 2026/01
生殖毒性試験の主な目的は、医薬品、食品添加物、環境化学物質などの異物投与が生体の生殖機能に悪影響を及ぼすかを評価することである。試験による結果は、人間の生殖健康に対する潜在的リスクを評価する科学的根拠として応用可能である。そこで本研究では、生殖毒性を評価するための新しいルシフェラーゼレポーターマウスモデルを開発した。本開発により、マウスの安楽死を必要とせずに、精子に含まれるタンパク質分解酵素(アクロシン)の生体内イメージングを通じて男性の生殖能力を長期的かつ定量的に評価することに成功した。本アプローチは、生殖毒性の発現と回復の根底にあるメカニズムの理解を深めるのに役立つ。さらに本開発により、研究評価に使用する動物数を減らし、動物研究における3Rのコアコンポーネントの1つである「削減」の原則に貢献する。
Villagrasa, C.*; Baiocco, G.*; Chaoui, Z.-E.-A.*; Dingfelder, M.*; Incerti, S.*; Kundr
t, P.*; Kyriakou, I.*; 松谷 悠佑; 甲斐 健師; Parisi, A.*; et al.
PLOS ONE (Internet), 21(1), p.e0340500_1 - e0340500_22, 2026/01
被引用回数:3 パーセンタイル:97.87(Multidisciplinary Sciences)電離放射線被ばくの生物学的影響を理解するために重要なナノ線量測定は、分子スケールでの原子相互作用を再現するMonte Carlo Track Structure (MCTS)コードにより評価可能である。数十年にわたり独立して開発された様々なMCTSコードは、生物組織の主成分である液体水中の電子線の相互作用について、異なる物理モデルと断面積データセットを使用してきた。本研究では、様々なMCTSコード内の相互作用断面積の違いによって生じるナノ線量測定計算の不確実性を評価した。7つのMCTSコード(Geant4-DNA, PARTRAC, PHITS, MCwater、およびPTra)の計算結果から、平均電離数や2回以上の電離が起こる確率などの分子スケールの物理量に大きな相違があることが明らかとなった。最も大きな相違が確認されたのは低エネルギー電子で、相互作用断面積の寄与が不確実性の主要因であることがわかった。本成果より、断面積の相違が複雑なDNA損傷などの生物学的影響に無視できない影響を与えることが浮き彫りになった。
C松谷 悠佑; 吉井 勇治*; 楠本 多聞*; Wang, Y.*; 小川 達彦; 佐藤 達彦; 甲斐 健師
Scientific Reports (Internet), 24 Pages, 2026/00
水の放射線分解は、人体におけるDNA損傷や原子炉における腐食など、材料に対する放射線影響に重要な役割を果たす。従来の化学コードは主に室温付近に限定されており、原子炉環境の温度条件とは大きく異なる。本研究では、汎用モンテカルロコードParticle and Heavy Ion Transport code System (PHITS)に基づき、0
350
Cの温度範囲に適用可能な化学コード(PHITS-Chem)を開発した。拡散係数および反応速度定数の温度依存性を考慮し、低LET(0.2keV/
m)、中LET(11.9keV/
m)、高LET(63.4keV/
m)放射線に対する既報の実験および理論G値と比較することで検証した。本コードにより、広い温度範囲での放射線分解生成種の反応動力学を高精度に評価でき、炉内材料劣化やシビアアクシデント対策の検討への応用が期待される。
小川 達彦; 平田 悠歩; 松谷 悠佑; 甲斐 健師
Computer Physics Communications, 316, p.109758_1 - 109758_15, 2025/11
被引用回数:1 パーセンタイル:51.60(Computer Science, Interdisciplinary Applications)任意の物質・任意のイオン照射において、電離や励起等を個々にシミュレートしながら放射線挙動を解析できる飛跡構造解析モデルITSART Ver.2を開発した。一般のイオン輸送アルゴリズムは、数千の原子反応をまとめて1イベントとして計算するため、計算が高速ではあるが電離など原子レベルの反応を識別することはできない。また従来の飛跡構造解析モデルは水や生体分子のみにしか使えず、入射粒子も陽子線や炭素線などの医療目的の粒子線に限られていたことから、本モデルの汎用性は画期的である。本モデルを汎用的飛跡構造解析モデルとして開発するにあたり、多くの工夫が必要であることを本研究では突き止め、それらを実現した。具体的には、電離で発生する二次電子のエネルギー・角度分布、標的核への運動量移行、原子脱励起モデルとの接続であり、これらを実装したことで多くのベンチマークデータを再現することができた。特に重い元素標的に照射した場合のビーム軸外縁における線量や、二次電子スペクトルに見られる原子固有のオージェ電子ピークが再現できたことは、標的物質が水だけであった従来研究に比べて特に顕著な進歩である。こうして開発されたITSART Ver.2はPHITSの次期リリースから実装される予定であり、炉材料や半導体などの放射線影響を解析するための強力なツールとして期待される。
松谷 悠佑; 嵯峨 涼*; Wang, Y.*; 佐藤 達彦
Medical Physics, 52(10), p.e70040_1 - e70040_14, 2025/09
被引用回数:0 パーセンタイル:0.00(Radiology, Nuclear Medicine & Medical Imaging)放射線誘発微小核(micronuclei, MN)は染色体断片であり、近年、比較的早期に検出可能な染色体異常の定量的指標として使用されている。近年、MN形成を評価する技術は注目を集めているものの、MNの意義とそれに伴う細胞応答は未だ解明されていない。本研究では、被ばく後の細胞生存率を予測可能なintegrated microdosimetric-kinetic(IMK)モデルを拡張し、MN頻度を推定する生物物理学的モデルを提示し、MN形成に伴う細胞応答を理論的に検討した。本モデルは、修復不全による致死損傷からのMN形成確率を導入することで、線エネルギー付与や線量率に依存したMN形成頻度の予測に成功した。また、同モデルを使用した解析により、同一照射条件下では、細胞生存率とMN頻度に対する生物学的効果比は同等であることが確認された。本成果は、MNが放射線治療と放射線防護の双方において、被ばく後早期における治療効果と組織学的損傷を定量的に評価するために有用であることを示唆している。
甲斐 健師; 樋川 智洋; 松谷 悠佑*; 平田 悠歩; 土田 秀次*; 横谷 明徳*
Journal of Chemical Physics, 162(15), p.154102_1 - 154102_11, 2025/04
被引用回数:1 パーセンタイル:41.78(Chemistry, Physical)放射線DNA損傷を推定するには、水の放射線分解の結果生じる低エネルギー電子の科学的知見が必要となる。しかしながら、水の放射線分解の解析は非常に複雑であるため本研究では、シンプルな水の光分解に関する低エネルギー電子の実験値と、水中の電極への光照射により発生した低エネルギー電子の実験値に注目した。本研究ではモンテカルロ法と分子動力学法を組み合わせた計算コードを利用し、これらの実験値を解析した。その結果、異なる実験条件であっても実験値をよく再現することを確認した。本計算コードは低エネルギー電子とDNAの相互作用を解析する強力なツールとなり、放射線DNA損傷の形成メカニズムの解明に適用されることが期待される。
松谷 悠佑; 吉井 勇治*; 楠本 多聞*; 小川 達彦; 大西 世紀*; 平田 悠歩; 佐藤 達彦; 甲斐 健師
Physical Chemistry Chemical Physics, 27(14), p.6887 - 6898, 2025/04
被引用回数:3 パーセンタイル:79.67(Chemistry, Physical)水の放射線分解により生成されるラジカルは、DNA損傷誘発、染色体異常、発がんなど、放射線による生物影響の評価において重要な役割を果たす。粒子および重イオン輸送コードシステム(PHITS)では、あらゆる荷電粒子について水中の原子相互作用を推定できる飛跡構造解析モードと、ラジカルをシミュレート可能な電子線専用の化学コード(PHITS-Chem)が先行研究にて開発された。本研究では、あらゆるイオンビームに適用可能なPHITS-Chemコードを開発すると同時に、化学種間の反応をより効率的に検出する空間分割法や化学種の4次元可視化機能を整備した。更新されたPHITS-Chemコードは、文献にて報告される陽子線、
粒子線、炭素イオン線のG値と比較することにより検証され、PHITSオリジナル3次元描画ソフトPHIG-3Dによりラジカルの拡散動態を直感的に評価することに成功した。また、空間分割法の導入により、計算精度を維持しながら計算時間を大幅に短縮(約28倍高速化)することにも成功した。開発したPHITS-Chemコードは、粒子線治療においてラジカルにより誘発される生物効果の正確かつ直感的な理解に貢献することが期待される。
甲斐 健師; 樋川 智洋; 松谷 悠佑*; 平田 悠歩; 土田 秀次*; 伊東 佑真*; 横谷 明徳*
Communications Chemistry (Internet), 8, p.60_1 - 60_9, 2025/03
被引用回数:4 パーセンタイル:65.29(Chemistry, Multidisciplinary)放射線DNA損傷は、直接効果と間接効果から形成される。直接効果はDNAと放射線の相互作用であり、間接効果はDNAと放射線分解化学種との化学反応である。これまで、直接効果が関与すると、DNAの10塩基対以内(3.4nm程度)に複数の損傷が形成され、修復効率が低下し、生物影響が誘発されると考えられてきた。本研究では、間接効果のみにより誘発されるDNA損傷を定量的に評価した。その結果、生成される確率は1%未満であるが、DNA近傍の水に10数eVのエネルギーが付与されるだけで、複雑なDNA損傷が形成されることが分かった。つまり、放射線とDNAが直接相互作用することなく、DNAの極近傍の水にエネルギーを与えるだけで、後発の生物影響の可能性を排除できなくなる。本研究成果は、低線量放射線影響の理解に役立つ重要な知見の一つとなる。
Papadopoulos, A.*; Kyriakou, I.*; 松谷 悠佑; Cort
s-Giraldo, M. A.*; Galocha-Oliva, M.*; Plante, I.*; Steward, R. D.*; Tran, N. H.*; Li, W.*; Daglis, I. A.*; et al.
Radiation and Environmental Biophysics, 64(1), p.117 - 135, 2025/03
被引用回数:2 パーセンタイル:71.89(Biology)生物学的影響を決定する放射線の線質は、一般的に微視的線量付与(特に線量平均線エネルギーy
)に関連付けられる。y
値の計算には、洗練されたモンテカルロ飛跡構造シミュレーション(MCTS)コードや経験的な解析モデルの使用が有効であるが、MCTSコードや解析モデルの種類により、y
推定値は変化する。本研究では、放射線防護、宇宙応用、放射線治療などで重要とされる1MeVから1GeV陽子線を対象とし、様々なMCTSコード(PHITS, RITRACK, Geant4-DNA)や解析モデル(改良Xapsosモデル)等により計算される液相水中のy
値と、その値により計算される放射線防護品質係数Q値を比較した。その結果、各MCTSコードや改良Xapsosモデルにより推定されたy
値は10から20%未満のレベルで良い一致を示し、改良Xapsosモデルにより推定されるQ値もMCTSに基づく予測値と良い一致を示した。これらの知見により、解析モデルは膨大な時間とCPUを必要とするMCTSの代替として使用され、実用的かつ高精度に線質係数とリスク評価を進めることができることがわかった。
浜田 信行*; 松谷 悠佑; Zablotska, L. B.*; Little, M. P.*
Mutation Research; Reviews in Mutation Research, 795, p.108530_1 - 108530_23, 2025/01
被引用回数:5 パーセンタイル:91.92(Biotechnology & Applied Microbiology)電離放射線の生物学的影響は、放射線の質を意味する線エネルギー付与(LET)により異なる。高LET放射線による急性照射の場合、一般に低LET放射線よりも生物学的効果が大きいが、線量遷延による効果についてはわかっていない。本稿では、高LET放射線の逆線量遷延効果に関する現在の知識を解説する。我々の知る限りでは、1967年以来、中性子、重陽子、
粒子、軽イオン、または重イオンなどの高LET放射線に対して、79件の生物学または疫学論文が報告されていることを確認した。これら報告の中には、細胞外高分子の生化学的変化、腫瘍性形質転換、細胞死、哺乳類細胞培養におけるDNA損傷反応および遺伝子発現変化、遺伝子変異、細胞遺伝学的変化、がん、非がん疾患(精巣への影響、白内障、心血管疾患など)、非ヒト哺乳類における寿命短縮、およびヒトにおける肺がんおよび骨腫瘍の誘発を含むが、その報告数(79編)は低LET放射線に関する論文数(154編)の約半数であることも分かった。高LET放射線の逆線量遷延効果の発生とそのメカニズムは、低LET放射線に比べてはるかに理解が進んでおらず、放射線防護への影響を評価する上で今後更なる研究が不可欠である。
浜田 信行*; 松谷 悠佑; Zablotska, L. B.*; Little, M. P.*
Mutation Research; Reviews in Mutation Research, 795, p.108531_1 - 108531_38, 2025/01
被引用回数:6 パーセンタイル:91.92(Biotechnology & Applied Microbiology)電離放射線の生物学的影響は、総線量だけでなく、時間的な線量分布によっても異なる。線量遷延が放射線の影響を軽減する線量遷延効果は、放射線防護において広く受け入れられる一方、線量遷延が放射線の影響を高める逆線量遷延効果は十分に認識されておらず、包括的な検討もない。本稿では、低LET放射線の逆線量遷延効果に関する現在の知識を解説する。1952年以来、136件の生物学、疫学、または臨床論文が存在し、細胞遊離高分子(DNA、タンパク質、脂質)、哺乳類の培養細胞、昆虫、動物、ヒトを対象として、低LET照射後(光子、
線、電子、陽子、またはヘリウムイオン)を使用して逆線量遷延効果が報告されてきた。逆線量遷延効果の発現に関する現象学的証拠は増えつつある一方、そのメカニズムの基礎知識は限られていることがわかった。本解説は、メカニズム解明のための継続的な研究や、放射線防護に対する科学的証拠の意味についての議論に貢献が期待できる。
白石 裕太*; 松谷 悠佑; 福永 久典*
Physics in Medicine & Biology, 69(24), p.248002_1 - 248002_5, 2024/12
被引用回数:0 パーセンタイル:0.00(Engineering, Biomedical)2024年に、我々は、超高線量率照射後の生体細胞における生存率を予測する数学モデルを開発した(Shiraishi et al. 2024, Phys. Med. Biol. 69, 015017)。その後、2024年にLiewとMairaniにより、酸素濃度をモデルに考慮する必要性とベンチマークテストに使用したデータの問題点をについてコメントを受け、返答論文(Shiraishi et al. 2024, Phys. Med. Biol. 69, 108002)を発表した。この返答に対し、LiewとMairaniは、予測モデルへ酸素濃度を考慮する必要性やベンチマークテストに使用したデータ選択プロセスの潜在的な問題点を再度提案した。そこで、本返答では、現状の開発モデルにおける限界点や、細胞死予測に必要なモデルパラメータの決定法(利用可能なフィッティングデータ数)について追加で議論する。本返答により、常酸素条件で超高線量率照射された信頼性の高いDNA損傷データのみを用いた場合でも、様々な種類の細胞株に対して細胞死の実測データを再現できることを再実証した。
小川 達彦; 平田 悠歩; 松谷 悠佑; 甲斐 健師; 佐藤 達彦; 岩元 洋介; 橋本 慎太郎; 古田 琢哉; 安部 晋一郎; 松田 規宏; et al.
EPJ Nuclear Sciences & Technologies (Internet), 10, p.13_1 - 13_8, 2024/11
放射線挙動解析コードPHITSは、モンテカルロ法に基づいてほぼ全ての放射線の挙動を解析することができる放射線挙動解析計算コードである。その最新版であるPHITS version 3.34の、飛跡構造解析機能に焦点を置いて説明する。飛跡構造解析とは、荷電粒子が物質中を運動する挙動を計算する手法の一つで、個々の原子反応を識別することにより原子スケールでの追跡を可能にするものである。従来の飛跡構造解析モデルは生体を模擬する水だけにしか適用できず、遺伝子への放射線損傷を解析するツールとして使われてきた飛跡構造解析であるが、PHITSにおいてはPHITS-ETS、PHITS-ETS for Si、PHITS-KURBUC、ETSART、ITSARという飛跡構造解析モデルが補い合うことにより、生体の放射線影響だけでなく、半導体や材料物質など任意物質に対する適用が可能になっている。実際にこれらのモデルを使って、放射線によるDNA損傷予測、半導体のキャリア生成エネルギー計算、DPAの空間配置予測など、新しい解析研究も発表されており、飛跡構造解析を基礎とするボトムアップ型の放射線影響研究の推進に重要な役割を果たすことが期待できる。
松谷 悠佑; 甲斐 健師; 佐藤 達彦
しょうとつ, 21(3), p.R008_1 - R008_8, 2024/11
粒子・重イオン輸送計算コードPHITSは、放射線の挙動をコンピュータで模擬するモンテカルロコードであり、2018年以降、生体の主成分である水中において個々の原子との反応を模擬できる飛跡構造解析モードが開発された。この開発により、DNAスケールにおける高空間分解能な放射線の飛跡構造解析が可能となった。一方、飛跡構造解析モードで計算される原子衝突の空間情報を活用し、様々なタイプのDNA損傷数を効率的かつ高精度に推定する解析コードの開発にも成功している。本稿では、最新版PHITSに搭載されている飛跡構造解析モード及びDNA損傷推定手法について概説し、PHITSの生命科学分野への応用例を紹介する。
平田 悠歩; 甲斐 健師; 小川 達彦; 松谷 悠佑; 佐藤 達彦
放射線化学(インターネット), (118), p.21 - 28, 2024/10
放射線の安全な使用には放射線検出器による線量の正確な評価が必須である。しかし、放射線の種類によっては検出器の出力が線量に対して非線形となり、線量を正しく評価できない問題がある。このような検出器の課題を解決するためには検出器の出力が変化するメカニズムを理論的に解析することが重要である。放射線輸送計算コードPHITSには放射線の挙動を高い精度で追跡する飛跡構造解析モードが実装されており、このモードを用いれば放射線が検出されるまでの挙動を精密に模擬することが可能である。本解説論文では、検出器物質中の電子線の挙動を追跡するために開発された任意物質用電子線飛跡構造解析モード(ETSART)について紹介した。さらに、PHITSの飛跡構造解析モードを用いてイオン線を照射した際の蛍光体の消光現象を再現した応用例も紹介した。
甲斐 健師; 樋川 智洋; 松谷 悠佑*; 平田 悠歩; 手塚 智哉*; 土田 秀次*; 横谷 明徳*
Scientific Reports (Internet), 14, p.24722_1 - 24722_15, 2024/10
被引用回数:5 パーセンタイル:38.08(Multidisciplinary Sciences)放射線DNA損傷の直接・間接効果を推定するには、水の放射線分解に関する科学的知見が不可欠である。水の放射線分解により生じる二次電子は、この二つの効果に関与する。ここでは、第一原理計算コードを用いて、水への20-30eVのエネルギー付与の結果生じた二次電子のフェムト秒ダイナミクスを計算し、ナノサイズの極微小な空間領域に生成される放射線分解化学種の形成メカニズムを解析した。その結果から、水の放射線分解によって生成される化学種は、付与エネルギーが25eVを超えると数ナノメートルの極微小領域で高密度化し始めることを明らかにした。本研究成果は、細胞死のような生物学的影響を引き起こすと考えられているクラスターDNA損傷の形成について重要な科学的知見となる。