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甲斐 健師; 樋川 智洋; 松谷 悠佑*; 平田 悠歩; 土田 秀次*; 横谷 明徳*
Journal of Chemical Physics, 162(15), p.154102_1 - 154102_11, 2025/04
被引用回数:0放射線DNA損傷を推定するには、水の放射線分解の結果生じる低エネルギー電子の科学的知見が必要となる。しかしながら、水の放射線分解の解析は非常に複雑であるため本研究では、シンプルな水の光分解に関する低エネルギー電子の実験値と、水中の電極への光照射により発生した低エネルギー電子の実験値に注目した。本研究ではモンテカルロ法と分子動力学法を組み合わせた計算コードを利用し、これらの実験値を解析した。その結果、異なる実験条件であっても実験値をよく再現することを確認した。本計算コードは低エネルギー電子とDNAの相互作用を解析する強力なツールとなり、放射線DNA損傷の形成メカニズムの解明に適用されることが期待される。
甲斐 健師; 樋川 智洋; 松谷 悠佑*; 平田 悠歩; 土田 秀次*; 伊東 佑真*; 横谷 明徳*
Communications Chemistry (Internet), 8, p.60_1 - 60_9, 2025/03
被引用回数:1 パーセンタイル:0.00(Chemistry, Multidisciplinary)放射線DNA損傷は、直接効果と間接効果から形成される。直接効果はDNAと放射線の相互作用であり、間接効果はDNAと放射線分解化学種との化学反応である。これまで、直接効果が関与すると、DNAの10塩基対以内(3.4nm程度)に複数の損傷が形成され、修復効率が低下し、生物影響が誘発されると考えられてきた。本研究では、間接効果のみにより誘発されるDNA損傷を定量的に評価した。その結果、生成される確率は1%未満であるが、DNA近傍の水に10数eVのエネルギーが付与されるだけで、複雑なDNA損傷が形成されることが分かった。つまり、放射線とDNAが直接相互作用することなく、DNAの極近傍の水にエネルギーを与えるだけで、後発の生物影響の可能性を排除できなくなる。本研究成果は、低線量放射線影響の理解に役立つ重要な知見の一つとなる。
甲斐 健師; 樋川 智洋; 松谷 悠佑*; 平田 悠歩; 手塚 智哉*; 土田 秀次*; 横谷 明徳*
Scientific Reports (Internet), 14, p.24722_1 - 24722_15, 2024/10
被引用回数:1 パーセンタイル:0.00(Multidisciplinary Sciences)放射線DNA損傷の直接・間接効果を推定するには、水の放射線分解に関する科学的知見が不可欠である。水の放射線分解により生じる二次電子は、この二つの効果に関与する。ここでは、第一原理計算コードを用いて、水への20-30eVのエネルギー付与の結果生じた二次電子のフェムト秒ダイナミクスを計算し、ナノサイズの極微小な空間領域に生成される放射線分解化学種の形成メカニズムを解析した。その結果から、水の放射線分解によって生成される化学種は、付与エネルギーが25eVを超えると数ナノメートルの極微小領域で高密度化し始めることを明らかにした。本研究成果は、細胞死のような生物学的影響を引き起こすと考えられているクラスターDNA損傷の形成について重要な科学的知見となる。
廣瀬 エリ; 横谷 明徳*; 野口 実穂*; Huart, L.*; 鈴木 啓司*
放射線生物研究, 59(2), p.134 - 156, 2024/06
細胞が放射線照射を受けた後、どのようなプロセスをたどって長期期間を経て現れる発がんなどの放射線影響につながるのか、放射線の長期影響をゲノムの構造・機能変化とエネルギー代謝の2つの視点から論じる。放射線によるゲノムへの長期影響の一つとして、ゲノム不安定性が子孫細胞に受け継がれることがわかってきた。X線照射によりX染色体上のHPRT1遺伝子座に欠失を有するヒト細胞のクローン株を樹立し、これらを用いて筆者らが子孫細胞に受け継がれた大規模なDNA欠失を調べたところ、欠失部位の両端にはっきりとした境目がなく、少なくともX染色体上の約130-137 Mbにわたって、DNA欠失部分と残存部分がパッチワーク状に混在していることが分かった。これはX線照射時における細胞核内でのDNAの収納のされ方に依存して、放射線エネルギー付与の空間密度を反映したDSBの分布を示していると考えられる。また、一般に考えられている1Gyあたり約40個/細胞に生じるDSBの頻度を考慮すると、非DSB型クラスターDNA損傷の塩基除去修復によって引き起こされる 二次的なDSBに起因する欠失も生じたと考えられる。さらに、複雑なDNA欠失パターンがゲノム全体の機能に及ぼす影響を、遺伝子発現を指標に調べたところ、遺伝子発現変動は大規模欠失領域の近傍だけでなくDNA欠失が位置するX染色体全域に及んでいた。これは、二次的なDSBに伴うCTCF結合サイトの欠失が要因であることを示唆している。他方、放射線照射後に細胞周期から離脱し細胞周期を不可逆的に停止した細胞(放射線誘発早期老化細胞)の場合、放射線の長期影響がエネルギー代謝に現れる。放射線誘発早期老化細胞は、細胞周期が回転しないため、DNA合成や細胞分裂に必要なエネルギーは不要で、このため、正常細胞と比較してエネルギー代謝活性は、一見、低いと予想されがちである。しかし、ミトコンドリアの膜電位差を通じて代謝活性を調べたところ、放射線誘発早期老化細胞では、代謝活性が上昇する様子が観察され、代謝活性化に伴うATP量の増加も合わせて報告された。ミトコンドリア活性の亢進に伴い生産された活性酸素種が近傍の細胞の損傷を誘発すると考えられることから、放射線誘発早期老化細胞は長期にわたって周囲の正常細胞にも影響を与えることが予想される。本稿ではこのような、長い時間が経っても残り続ける放射線の"爪痕"について論じる。
樋川 智洋; 甲斐 健師; 熊谷 友多; 横谷 明徳*
Journal of Chemical Physics, 160(21), p.214119_1 - 214119_9, 2024/06
被引用回数:3 パーセンタイル:70.16(Chemistry, Physical)イオン化によって引き起こされる不均質反応であるスパー反応は、溶液中の放射線分解あるいは光分解反応を左右する重要な反応だが、そのスパーの形成プロセスはまだ解明されていない。その理由の1つとして、イオン化によって生成した荷電種を取り囲む溶媒和分子の誘電応答の影響がまだ明らかになっていないことが挙げられる。誘電応答は誘電率の時間変化に対応しており、スパー形成プロセスにおける反応拡散系に影響を与える可能性がある。そこで本研究では、誘電応答を考慮しながらDebye-Smoluchowski方程式を解くことにより、反応拡散系に対する誘電応答の影響を調べた。荷電種間に働くクーロン力は、誘電応答とともに徐々に減少する。本計算から、誘電応答が完了する前に荷電種間で反応が起こる条件を見積もることが出来た。これまで低LET放射線誘起によるイオン化で生成する自由電子の初期G値が静的な誘電率に依存することは報告されているが、荷電種間が密になる高LET放射線や光誘起の化学反応を扱う場合は誘電応答を考慮することが重要であることが示唆された。
甲斐 健師; 樋川 智洋; 松谷 悠佑; 平田 悠歩; 手塚 智哉*; 土田 秀次*; 横谷 明徳*
RSC Advances (Internet), 13(46), p.32371 - 32380, 2023/11
被引用回数:4 パーセンタイル:35.92(Chemistry, Multidisciplinary)水の光分解・放射線分解の科学的知見は、生命科学などに幅広く利用されるが、水へのエネルギー付与の結果生じる水和電子の空間分布(スパー)の形成メカニズムは未だ良く分かっていない。スパー内に生じる水和電子、OHラジカル及びHO
の化学反応時間は、このスパー半径に強く依存する。我々は先行研究において、特定の付与エネルギー(12.4eV)におけるスパー形成メカニズムを第一原理計算により解明した。本研究では付与エネルギーが11-19eVにおけるスパー半径を第一原理計算した。本計算のスパー半径は3-10nmであり、付与エネルギーが8-12.4eVにおける実験予測値(~4nm)と一致し、付与エネルギーの増加に伴いその半径は徐々に拡大することがわかった。本研究で得られたスパー半径は新たな科学的知見であり、放射線DNA損傷の推定などに幅広く活用されることが期待できる。
平戸 未彩紀*; 横谷 明徳*; 馬場 祐治*; 森 聖治*; 藤井 健太郎*; 和田 真一*; 泉 雄大*; 芳賀 芳範
Physical Chemistry Chemical Physics, 25(21), p.14836 - 14847, 2023/05
被引用回数:2 パーセンタイル:30.03(Chemistry, Physical)To understand the mechanism underlying the high radio-sensitization of living cells possessing brominated genomic DNA, X-ray photoelectron spectroscopy was used. It was found that the bromine atom significantly reduced the energy gap between the valence and conduction states, although the core level states were not greatly affected.
甲斐 健師; 樋川 智洋; 鵜飼 正敏*; 藤井 健太郎*; 渡邊 立子*; 横谷 明徳*
Journal of Chemical Physics, 158(16), p.164103_1 - 164103_8, 2023/04
被引用回数:6 パーセンタイル:65.84(Chemistry, Physical)水の放射線分解・光分解に関する新たな科学的知見は、放射線化学・放射線生物学を含む様々な研究分野の劇的進歩に必要不可欠である。水に放射線を照射すると、その飛跡上に沿って、反応性の高い水和電子が無数に生成される。水和電子は、発生した電子と水分子の運動が動的に相関し、形成されることは知られているが、その形成に至るまでの、電子の非局在化、熱化、分極メカニズムは未だ解明していない。本研究で独自に開発したコードを利用した解析結果から、これらの過渡的現象は、水特有の水素結合ネットワークに由来する分子間振動モードと、水和を進行する水分子の回転モードの時間発展に支配されるように進行することが明らかとなった。本研究によるアプローチは、水に限らず、様々な溶媒に適用可能であり、そこから得られる科学的知見は、放射線生物影響、原子力化学、放射線計測など幅広い研究領域へ適用されることが期待できる。
甲斐 健師; 樋川 智洋; 松谷 悠佑*; 平田 悠歩; 手塚 智哉*; 土田 秀次*; 横谷 明徳*
RSC Advances (Internet), 13(11), p.7076 - 7086, 2023/03
被引用回数:9 パーセンタイル:69.89(Chemistry, Multidisciplinary)水の放射線分解に関する科学的知見は、生命科学などに幅広く利用されるが、水の分解生成物であるラジカルの生成メカニズムは未だ良く分かっていない。我々は、放射線物理の観点から、この生成メカニズムを解く計算コードの開発に挑戦し、第一原理計算により、水中の二次電子挙動は、水との衝突効果のみならず分極効果にも支配されることを明らかにした。さらに、二次電子の空間分布をもとに、電離と電子励起の割合を予測した結果、水和電子の初期収量の予測値は、放射線化学の観点から予測された初期収量を再現することに成功した。この結果は、開発した計算コードが放射線物理から放射線化学への合理的な時空間接続を実現できることを示している。本研究成果は、水の放射線分解の最初期過程を理解するための新たな科学的知見になることが期待できる。
平戸 未彩紀*; 鬼澤 美智*; 馬場 祐治*; 芳賀 芳範; 藤井 健太郎*; 和田 真一*; 横谷 明徳*
International Journal of Radiation Biology, 99(1), p.82 - 88, 2023/01
被引用回数:2 パーセンタイル:18.14(Biology)The electronic properties of DNA-related molecules containing Br were investigated by X-ray spectroscopy and specific heat measurement. Our results suggest that the Br atom may not contribute substantially to the LUMO and core-level electronic states of the molecule, but rather to the microscopic states related to the excitation of lattice vibrations, which may be involved in valence electronic states.
中川 清子*; 岡 壽崇; 藤井 健太郎*; 横谷 明徳*
Radiation Physics and Chemistry, 192, p.109884_1 - 109884_5, 2022/03
被引用回数:3 パーセンタイル:44.16(Chemistry, Physical)L-alanine-3,3,3-d3およびL-alanine-d4の結晶中に生成したラジカルを、1.5keVの軟X線照射中に電子スピン共鳴(ESR)法で観測した。L-アラニン-3,3,3-d3では、水素交換反応によるCHCD3COOHから
CDCD3COOHへのスペクトル変化が直接観測された。軟X線を照射して得られたESRスペクトルの線幅は、硬X線を照射した場合の線幅の1.5倍であり、ラジカル密度が高いとわかった。一方、ラジカル収量の効率は
線照射による収量に対して10
と低かった。軟X線照射では、低エネルギー光子の高LET性のため、重イオンによる高LET照射と同様にラジカルの密度が高く、その結果、効率的なラジカル-ラジカル再結合によって多くのラジカルが失われたとわかった。
甲斐 健師; 横谷 明徳*; 藤井 健太郎*; 渡邊 立子*
放射線化学(インターネット), (106), p.21 - 29, 2018/11
放射線によりDNAの数nm以内に複数の損傷部位が生成されると、細胞死や染色体異常のような生物影響が誘発されると考えられている。本稿では、電子線トラックエンドにおいて生成されるDNA損傷が関与する生物影響の誘発について、われわれが進めたシミュレーション研究の成果を解説する。その結果から、1次電子線照射によりDNA鎖切断を含む複数の塩基損傷が1nm以内に密に生成され、その複雑損傷部位から数nm離れた位置に2次電子により塩基損傷が誘発されることが示された。この孤立塩基損傷部位は損傷除去修復が可能であり、結果として鎖切断に変換されるため、1次電子線により生成された鎖切断と合わせ、最終的にDNAの2本鎖切断が生成され得る。この2本鎖切断末端は塩基損傷を含むために修復効率が低下し、未修復・誤修復により染色体異常のような生物影響が誘発されることが推測された。本シミュレーション研究の成果はDNA損傷の推定のみならず放射線物理化学過程が関与する現象の解明にも有益となる。
甲斐 健師; 横谷 明徳*; 鵜飼 正敏*; 藤井 健太郎*; 樋川 智洋; 渡邊 立子*
Physical Chemistry Chemical Physics, 20(4), p.2838 - 2844, 2018/01
被引用回数:27 パーセンタイル:77.37(Chemistry, Physical)放射線生物影響を誘発する複雑DNA損傷はエネルギー付与率の高い放射線トラックエンドで生成されやすいと考えられている。そのDNA損傷を推定するために、電子線トラックエンドにおける水の放射線分解最初期過程について、計算シミュレーションに基づいた理論的研究を実施した結果から、1次電子線照射によりDNA鎖切断を含む複数の塩基損傷が1nm以内に密に生成され得ることが示された。この複雑DNA損傷は損傷除去修復が困難である。更に、その複雑損傷部位から数nm離れた位置に2次電子により塩基損傷が誘発されることが示された。この孤立塩基損傷部位は損傷除去修復が可能であり、結果として鎖切断に変換されるため、1次電子線により生成された鎖切断と合わせ、最終的にDNAの2本鎖切断が生成され得る。この2本鎖切断末端は塩基損傷を含むために修復効率が低下し、未修復・誤修復により染色体異常のような生物影響が誘発されることが推測された。
端 邦樹; Lin, M.*; 横谷 明徳*; 藤井 健太郎*; 山下 真一*; 室屋 裕佐*; 勝村 庸介*
放射線化学(インターネット), (103), p.29 - 34, 2017/04
エダラボン(3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン)は高い抗酸化作用を示す物質である。本研究では、OHやN
等の酸化性ラジカルとエダラボンとの反応をパルスラジオリシス法によって測定し、発生するエダラボンラジカルの生成挙動を観察した。その結果、
OH以外の酸化性ラジカルとの反応は電子移動反応であるが、
OHとは付加体を形成することが分かった。また、DNAのモノマーであるdeoxyguanosine monophosphate(dGMP)の一電子酸化型のラジカルとの反応についても調べたところ、電子移動反応によって非常に効率よくdGMPラジカルを還元することが示された。エダラボンを添加したプラスミドDNA水溶液への
線照射実験によって、実際のDNA上に発生したラジカルの除去効果を調べたところ、塩基損傷の前駆体に対してエダラボンが作用することが示された。これらの結果は、生体内においてエダラボンが酸化性ラジカルの捕捉作用だけでなく、ラジカルによって酸化されたDNAを化学的に修復する作用も示すことを示唆するものである。
甲斐 健師; 横谷 明徳*; 藤井 健太郎*; 渡邊 立子*
陽電子科学, (8), p.11 - 17, 2017/03
放射線により、DNAの数nm以内に複数の損傷部位が生成されると、細胞死や染色体異常のような生物影響が誘発されると考えられている。著者らは、DNA損傷生成の機構に関係すると考えられる細胞内の放射線作用の解析として、細胞と組成の近い水中で高エネルギーの1次電子線・陽電子線により生成される2次電子の動的挙動を計算した。その結果、2次電子は、親イオン近傍で電離・電子的励起を誘発しやすく、減速した電子の約10%は、クーロン引力により親イオン付近に分布することが分かった。続いて、これらの計算結果から、以下のように複雑なDNA損傷の生成機構を推定した。DNA内部から電離した2次電子は、DNA外部に飛び出す前に、DNA内部で電離・電子的励起を誘発可能である。さらに、クーロン力により引き戻された電子は、DNAの水和層で水和前電子になり、解離性電子移行によりDNA損傷を誘発可能である。結果として、1次電子線・陽電子線のみならず2次電子の作用により、1nm以内に複雑DNA損傷が生成され得る。
甲斐 健師; 横谷 明徳; 鵜飼 正敏; 藤井 健太郎; 渡辺 立子
International Journal of Radiation Biology, 92(11), p.654 - 659, 2016/11
被引用回数:13 パーセンタイル:70.69(Biology)We performed a fundamental study of deceleration of low-energy electron ejected from water to predict clustered DNA damage formation involved in the decelerating electrons in water using a dynamic Monte Carlo code included Coulombic force between ejected electron and its parent cation. The decelerating electron in water was recaptured by the Coulombic force within hundreds of femtosecond. We suggested that the return electron contribute to modification of DNA damage because the electron will recombine to electric excited states of the parent cation, or will be prehydrated in water layer near the parent cation in DNA. Thus effect of the Coulombic force plays a significant role in evaluation of DNA damage involved in the electron deceleration in water.
甲斐 健師; 横谷 明徳*; 鵜飼 正敏*; 藤井 健太郎*; 渡邊 立子*
Journal of Physical Chemistry A, 120(42), p.8228 - 8233, 2016/10
被引用回数:24 パーセンタイル:68.27(Chemistry, Physical)放射線照射により細胞中で生成された低エネルギー2次電子は、生物影響を誘発する複雑なDNA損傷生成に関与すると考えられている。本研究では、DNA損傷の推定を行うために、水中における低エネルギー2次電子の動力学的挙動の数値計算による理論的研究を実施した。計算結果から、水中で減速した電子は、親イオンのクーロン場に徐々に引きつけられ、数百fs程度になると親イオンから半径2nm以内の領域に12.6%の電子が分布することが示された。更に、親イオンから半径1nm以内において、電離と電子的励起が主に誘発され、その衝突数は全体の約40%となる。これらの解析結果から、もしDNA内部から低エネルギー2次電子が放出されると、複雑なDNA損傷が、電離や電子的励起に加え、解離性電子移行により生成され得ることを提案した。このような複雑なDNA損傷は、最終的に細胞死や染色体異常のような生物影響の誘発に関与する可能性がある。
甲斐 健師; 横谷 明徳; 藤井 健太郎; 渡辺 立子
放射線化学(インターネット), (101), p.3 - 11, 2016/04
水中における低エネルギー電子の挙動解析は、放射線化学に関する基礎研究や放射線によるDNA損傷の推定の解析等で重要となる。われわれは、これまで低エネルギー2次電子の果たすDNA損傷の役割を解明するため、不確定要素を未だ多く含む放射線物理化学過程の研究を進めてきた。また、これらの研究成果に基づき、DNA内部から電離した2次電子が関与する修復され難いDNA損傷生成過程を新たに理論予測した。本稿は、著者らのこれまでの研究成果について、放射線化学の専門誌で、前・中・後編の3部構成で「放射線物理化学過程に関する最近の進展」と題して解説するものである。前編では、3部にわたって報告する放射線によるDNA損傷研究、放射線物理化学過程研究の現状について、冒頭で概説する。また、トピックスとして、これまでの成果の中から、電子の減速過程を研究する上で必要不可欠となる液相の衝突断面積の計算法に関する研究を紹介し、水中における電子の熱化について、従来予測と異なる点について議論した結果を解説する。
泉 雄大; 山本 悟史*; 藤井 健太郎; 横谷 明徳
放射線生物研究, 51(1), p.91 - 106, 2016/03
放射線などのストレス応答に対する細胞内のタンパク質反応ネットワークの調整機構の解明に大きな威力を発揮すると考えられる円二色性(CD)スペクトル測定の実験、解析方法の解説を行うと共に、われわれがCDスペクトル測定により同定したヒストンタンパク質H2A, H2BのDNA損傷誘起二次構造変化について紹介した。
福永 久典*; 横谷 明徳
Journal of Radiation Research, 57(1), p.98 - 100, 2016/01
被引用回数:10 パーセンタイル:87.79(Biology)After the Fukushima Nuclear Power Plant accident in 2011 March, radiation doses have been measured for the residents by personal dosimeters and whole-body counters. In the current dose range, the potential radiation-induced risk could be small at the population level, however, should not be ignored. As suggested by NASA's reports on astronauts, the radiation sensitivity substantially varies depending on the individual genetic background. From the viewpoint of precision medicine, we note a possible issue: there might be the residents, including young children, with greater than average sensitivity because of their genetic background. Patients with DNA-damage-response defective disorders and the heterozygous carriers can be associated with the sensitivity as well as with cancer predisposition. We hereby propose that additional medical checkups for cancer, such as ultrasonography, gastrointestinal endoscopy, measurements of tumor markers in blood and urine, and genetic testing, should be combined in a balanced fashion to minimize their potential cancer risk in the future.