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山口 博康*; 清水 明美*; 長谷 純宏; 出花 幸之介*; 田中 淳; 森下 敏和*
Euphytica, 165(1), p.97 - 103, 2009/01
被引用回数:29 パーセンタイル:76.38(Agronomy)われわれは、キク腋芽におけるイオンビームと線の変異誘発効果を比較し、得られた変異体のキメラ構造を解析した。腋芽に対し、2Gyの炭素イオン(平均LET 122keV/m),10Gyのヘリウムイオン(平均LET 9keV/m)及び80Gyの線を照射した。照射された腋芽から伸長したシュートの下方から5つの節を切除し、それぞれの節の腋芽から新しいシュートを伸長させた。この手順を2回繰り返した後、得られた花色変異を調査した。変異体のキメラ構造は、根から再生させた個体の花色と比較することによって解析した。花色変異体は高頻度(17.4%28.8%)で得られ、処理区間で変異頻度の有意な差はなかった。線で得られたすべての花色変異体は周縁キメラであった。一方、イオンビームで得られた変異体の幾つかは根から再生させた個体の花色と同じ花色を示した。この結果は、これらの個体がソリッドな変異体であること、つまりLIとLIII組織の両者が同じ変異細胞に由来したことを示唆している。本論文では、ソリッドな変異体がイオンビームで得られた要因について議論する。
山口 博康*; 長谷 純宏; 田中 淳; 鹿園 直哉; 出花 幸之介*; 清水 明美*; 森下 敏和*
no journal, ,
イオンビームは線と比べて高い生物効果や変異誘発効果を有することが知られている。しかし、突然変異育種のための変異原としての有用性を議論するためには変異率だけでは十分ではない。不稔などの望ましくない影響の出現に対する変異頻度の高さは「効率」と定義され、変異原の有用性の一つの指標とされる。そこで本研究では、イオンビームと線とで「効率」を比較した。生存率及び稔実率を基準とした3種のイオンビームの効率は、線と同等かそれ以上であると判断された。生存率や稔実率の低下は染色体異常によることから、効率が高いことは照射当代における染色体の障害程度に対して変異頻度が高いことを示している。このことは、照射当代をそのまま使う栄養繁殖性作物においては、障害の少ない変異体を獲得するという点で重要であり、イオンビームは線よりも優れていると考えられた。
山口 博康*; 清水 明美*; 長谷 純宏; 田中 淳; 出花 幸之介*; 森下 敏和*
no journal, ,
イオンビームは線と比較してエネルギーが高く、致死などに及ぼす生物効果が高いことが示されているが、今回、キクの側芽に対するイオンビーム及び線照射により作出された変異体において、それらのキメラ構造に差異がみられたので報告する。無菌培養により維持しているキク「大平」の腋芽を1芽ずつに切り分け、原子力機構のAVFサイクロトロンを用いて炭素イオンを2Gy、ヘリウムイオンを5及び10Gy、また、放射線育種場において線を80Gyで照射した。培養下で2回の切り分けを行い育成した植物を、順化し圃場に定植し、花色変異体を選抜した。得られた花色変異体のキメラ性を確認するため、根から植物を再生し、LIII層の細胞に由来する植物の花色を調査した。炭素イオン及びヘリウムイオンによって得られた花色変異体には、その根からの再分化植物の花色が変異体の花色と同じ、すなわちLI層とLIII層とが同じ花色変異をしていた変異体も得られた。一方、線ではこのような変異体は得られなかった。本研究において、側芽に対するイオンビーム照射によりLI層からLIII層が一つの変異細胞由来となり、細胞層を超えて変異セクターが拡大することが観察された。
山口 博康*; 清水 明美*; 長谷 純宏; 田中 淳; 出花 幸之介*; 森下 敏和*
no journal, ,
突然変異は細胞単位で起こるため、茎頂分裂組織に起きた突然変異はセクター状となる。線を照射することにより茎頂分裂組織の始原細胞が死滅し、その後、周辺の少数の細胞が再分化して新たに不定芽が形成される内部摘芽と呼ばれる現象が、変異セクターを拡大する方法として報告されている。イオンビームはエネルギーが高く、内部摘芽に有効であると考え、キクの側芽を材料としてイオンビーム及び線照射により得られた花色変異体のキメラ構造を比較した。キク"大平"の側芽にイオンビーム及び線を照射し、培養下で2回の切り分けを行った後、花色変異体を選抜した。得られた花色変異体のキメラ性を確認するために根から植物体を再生した。両者が同じ花色変異を示した場合は、L1層からL3層までがひとつの変異細胞に由来すると考えられる。イオンビームではキメラでない変異体も得られたが、線ではすべての変異体が周縁キメラであると考えられた。イオンビーム照射では茎頂分裂組織の層構造の破壊と少数の細胞からのその再構築が起こったのに対し、線では層構造が壊されるような影響はなかったために周縁キメラとなったと考えられた。
森下 敏和*; 清水 明美*; 山口 博康*; 出花 幸之介*; 六笠 裕治*; 相井 城太郎*; 長谷 純宏; 鹿園 直哉; 田中 淳; 宮沢 豊*; et al.
no journal, ,
ダッタンソバはルチン含量が高く機能性食品素材として注目されているが、育成品種は少なく、放射線育種による新品種の育成が期待される。本発表では、線やイオンビーム照射により得た耐倒伏性を有する半矮性変異体の育成経過と特性について報告する。1999年から2004年にかけてダッタンソバ品種「Rotundatum」,「Pontivy」及び「北系1号」の乾燥種子に放射線育種場の線、原子力機構のAVFサイクロトロン及び理化学研究所のリングサイクロトロンで各種イオンビームを照射し、M2世代で変異体を選抜した。その後世代を重ねて変異を固定し、7系統の耐倒伏性の半矮性変異体を得た。これらの半矮性系統の草丈と主茎長は原品種の1/3から2/3であった。一般的に草丈と収量との間には正の相関が存在するが、これらの系統は草丈の低下に伴う収量減は少なく、着粒が密であった。これらの半矮性系統の主茎は原品種より節間が短いことが主茎の強度を高め耐倒伏性をもたらしていると推測された。現在これらの栽培特性を明らかにするための栽培試験、及び半矮性遺伝子を明らかにするための交配試験や遺伝子解析を進めている。