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山口 正剛; 海老原 健一; 板倉 充洋; 都留 智仁
Scripta Materialia, 255, p.116366_1 - 116366_5, 2025/01
被引用回数:0鉄鋼やアルミニウム合金の粒界破壊の原因候補の一つとして水素がもたらす粒界凝集エネルギー低下が考えられている。最近はそれに対する粒界偏析元素の影響が第一原理計算により調べられているが、粒界凝集エネルギーを定量的に評価した研究はない。本研究では、第一原理計算結果を利用した定量的評価手法について述べ、いくつかのテスト計算の例を示す。
岡田 和歩*; 柴田 曉伸*; 木村 勇次*; 山口 正剛; 海老原 健一; 辻 伸泰*
Acta Materialia, 280, p.120288_1 - 120288_14, 2024/11
被引用回数:0 パーセンタイル:0.00(Materials Science, Multidisciplinary)The present study aimed at strengthening prior austenite grain boundary (PAGB) cohesive energy using carbon segregation and investigated the effect of carbon segregation at PAGB on the microscopic crack propagation behavior of hydrogen-related intergranular fractures in high-strength martensitic steels. At the low hydrogen content (below 0.2 wt. ppm), the fracture initiation toughness () and tearing modulus (), corresponding to crack growth resistance, were significantly improved by carbon segregation. In contrast, and did not change by carbon segregation at the high hydrogen content (above 0.5 wt. ppm). Considering the non-linear relationship between the toughness properties and the PAGB cohesive energy, the experimentally evaluated toughness properties ( and ) and the GB cohesive energy previously calculated by first-principles calculations were semi-quantitatively consistent even at the high hydrogen content. The microstructure observation confirmed that the plastic deformation associated with crack propagation, such as the local ductile fracture of uncracked ligaments and the formation of dislocation cell structures/nano-voids, played an important role in the non-linear relationship between the toughness properties and PAGB cohesive energy.
比嘉 良太*; 藤原 比呂*; 戸田 裕之*; 小林 正和*; 海老原 健一; 竹内 晃久*
Materials Transactions, 65(8), p.899 - 906, 2024/08
被引用回数:0 パーセンタイル:0.00(Materials Science, Multidisciplinary)Al-Zn-Mg合金では、水素(H)によって機械的特性が著しく劣化することから、そのような合金の強度を向上させるためには、水素脆化(HE)と呼ばれるこの現象を抑制することが不可欠である。粒界破壊(IGF)は主にHE発生時に観察されるため、HEを抑制するためにはIGFの発生挙動を理解する必要がある。通常、応力、ひずみ、H濃度の不均一な分布は、多結晶材料におけるIGFの発生に影響を与える。本研究では、X線イメージング技術により得られた多結晶体の3次元微細構造データをもとに作成した3次元イメージベースモデルを用いた結晶塑性有限要素法とH拡散解析によるシミュレーションから、実際の破壊領域における応力、ひずみ、H濃度の分布を調べた。そして、シミュレーション結果とX線CTによる引張試験試料のその場観察を組み合わせ、実際のき裂発生挙動における応力、ひずみ、H濃度の分布を調べ、粒界き裂の発生条件を検討した。その結果、結晶塑性に起因する粒界垂直応力が粒界き裂の発生を支配することが明らかになった。一方、応力による内部Hの蓄積はき裂発生にほとんど影響しないことがわかった。
藤原 比呂*; 戸田 裕之*; 海老原 健一; 小林 正和*; 眞山 剛*; 平山 恭介*; 清水 一行*; 竹内 晃久*; 上椙 真之*
International Journal of Plasticity, 174, p.103897_1 - 103897_22, 2024/03
被引用回数:4 パーセンタイル:94.16(Engineering, Mechanical)高強度化したアルミ合金において水素脆化は、理解し解決すべき問題である。アルミ合金において、水素が析出物界面に蓄積し脆化の原因となっていると考えられている。しかし、き裂付近の水素分布と応力場の局所的な相互作用について、空間的な複雑さを考慮した定量的な知見は明らかでない。本研究では、結晶塑性有限要素法と水素拡散解析を組み合わせたマルチモーダル3次元画像ベースシミュレーションを用い、実際のき裂近傍の応力分布と、それが水素分布に及ぼす影響およびき裂発生確率に及ぼす影響を捉えることを試みた。その結果、粒界き裂は、その先端近傍の水素蓄積により、MgZn析出物の半整合界面の凝集エネルギーが低下した領域で擬へき開き裂に遷移することが分かった。この結果は、本シミュレーション手法がナノスケールの剥離とマクロスケールの脆性破壊の橋渡しに成功したことを示すものと考える。
鈴土 知明; 海老原 健一; 都留 智仁; 森 英喜*
Journal of Applied Physics, 135(7), p.075102_1 - 075102_7, 2024/02
被引用回数:0 パーセンタイル:0.00(Physics, Applied)体心立方(bcc)金属および合金では延性脆性遷移温度以下において脆性的破壊が起きる。この事象は、脆性破壊を起こすき裂先端の臨界応力拡大係数が塑性変形を起こす臨界応力拡大係数よりも小さく塑性変形よりも脆性破壊が優先的に選択されるという考え方によって理論的に説明されている。この考え方は巨視的には正しいが、このような脆性破壊は常にき裂先端近傍での小規模な塑性変形、すなわちき裂先端塑性変形を伴う。この論文では、最近開発された-Feの機械学習原子間ポテンシャルを用いて原子論的モデリングを行い、この塑性の発現メカニズムを解析した。その結果、高速なき裂進展によってき裂先端位置の原子群が動的に活性化され、それがき裂先端塑性の前駆体になっていることが判明した。
鈴土 知明; 海老原 健一; 都留 智仁; 森 英喜*
材料, 73(2), p.129 - 135, 2024/02
FeやWのようなBCC遷移金属は{100}面に沿ってへき開する。このメカニズムを明らかにするために、人工ニューラルネットワーク(ANN)技術によって作成された原子間ポテンシャルを用いて0KにおけるBCC鉄の曲線き裂先端の原子論的シミュレーションを行った。その結果、{110}クラック面に沿ったき裂先端では転位が放出されへき開が抑制されることを発見し、{100}面に沿ってのみへき開が観察される理由を説明できることがわかった。さらに、有限温度での{100}へき開シミュレーションでは、塑性変形を伴いより現実的な破壊が再現された。
Tang, J.*; Wang, Y.*; 藤原 比呂*; 清水 一行*; 平山 恭介*; 海老原 健一; 竹内 晃久*; 上椙 真之*; 戸田 裕之*
Scripta Materialia, 239, p.115804_1 - 115804_5, 2024/01
被引用回数:5 パーセンタイル:22.95(Nanoscience & Nanotechnology)Al-Zn-Mg-Cu合金の外部および内部水素(H)の組合せによって誘起される応力腐食割れ(SCC)の挙動をその場3次元評価技術を使い系統的に調べた。Al-Zn-Mg-Cu合金のSCCは水素濃度が臨界値を超える潜在的なクラック発生領域で発生・進展し、Hがナノスケール-MgZn析出物界面での原子結合を弱め巨視的な割れを引き起こしていることが分かった。さらに、水環境からき裂へ浸透した外部Hが、き裂先端近傍に勾配を持つH影響ゾーンを作ることでSCCにおいて重要な役割を果たすことや、あらかじめ存在する内部Hが、塑性変形に伴いき裂先端に向かうことでSCCにおけるき裂の発生と進展の両方に関与することも分かった。
比嘉 良太*; 藤原 比呂*; 戸田 裕之*; 小林 正和*; 海老原 健一; 竹内 晃久*
軽金属, 73(11), p.530 - 536, 2023/11
Al-Zn-Mg合金において、その強度向上には水素脆化の抑制が必要である。本研究では、X線CTから得られた3次元多結晶微細構造データに基づくモデルによる結晶塑性有限要素法及び水素拡散解析を用いて、実際の破断領域における応力、ひずみ及び水素濃度の分布を調べた。さらに、引張試験のX線CTによるその場観察とシミュレーションを組み合わせて、応力、ひずみ、水素濃度の分布と実際のき裂発生挙動を比較した。その結果、結晶塑性に起因する粒界に垂直な応力負荷が主に粒界き裂発生を支配することが明らかになった。また、結晶塑性に起因する内部水素の蓄積は、き裂発生にほとんど影響しないことがわかった。
山口 正剛; 海老原 健一; 都留 智仁; 板倉 充洋
Materials Transactions, 64(11), p.2553 - 2559, 2023/11
被引用回数:4 パーセンタイル:42.11(Materials Science, Multidisciplinary)アルミニウム合金中のMgZn析出物とMgSi晶出物の非整合界面における水素トラップエネルギーを第一原理計算から計算することを試みた。非整合界面を含む単位胞は周期境界条件を満たさず、結晶ブロックが不連続になるため、不連続領域(真空領域)から離れた領域で水素トラップエネルギーを計算した。その結果、この原子論的配置を仮定した非整合界面では、水素原子のトラップエネルギーがかなり大きいことがわかった。また、アルミニウム母相中のMgSiの非整合界面における水素トラップによる凝集エネルギーの減少についても予備的計算を行った。
海老原 健一; 関根 大貴*; 崎山 裕嗣*; 高橋 淳*; 高井 健一*; 大村 朋彦*
International Journal of Hydrogen Energy, 48(79), p.30949 - 30962, 2023/09
被引用回数:0 パーセンタイル:0.00(Chemistry, Physical)鉄鋼材料の応力腐食割れの1つである水素脆化を理解するには、鋼材中の水素分布を知る必要があり、それには昇温脱離スペクトルの数値シミュレーションによる解釈が有効である。溶接金属やTRIP鋼において残留オーステナイト(RA)は昇温脱離スペクトルに顕著な影響を与えるが、明確な水素分布についてはこれまでよく知られていない。本研究では、高炭素フェライト-オーステナイト二相鋼の既報の水素昇温脱離スペクトルを、独自にコード化した二次元モデルによって数値シミュレーションし、水素は、その鋼材に含まれる量が少ないときは炭化物表面に、その量が多くなると二相界面に、主にトラップされることを明らかとした。また、界面トラップの水素の脱離ピークの試料厚さ依存性が、従来とは異なる理由で発現することも明らかとなった。
都留 智仁; 西村 克彦*; 松田 健二*; 布村 紀男*; 並木 孝洋*; Lee, S.*; 髭本 亘; 松崎 禎市郎*; 山口 正剛; 海老原 健一; et al.
Metallurgical and Materials Transactions A, 54(6), p.2374 - 2383, 2023/06
被引用回数:1 パーセンタイル:22.95(Materials Science, Multidisciplinary)高強度Al合金の水素脆化感受性は、Al合金の実用化において重要な課題として認識されているが、水素のトラップまたは分布の特定は困難であった。本研究では、実験とシミュレーションに基づいた効果的なアプローチにより、Al合金中の潜在的なトラップサイトを探索することを提案する。Al-0.5%Mg, Al-0.2%Cu, Al-0.15%Ti, Al-0.011%Ti, Al-0.28%V, Al-0.015%V (at.%)に対して、5から300Kの温度範囲でゼロフィールドミュオンスピン緩和実験が行われた。双極子場の幅の温度変化から、Al-0.5%Mgに3つのピーク、Al-0.2%Cuに4つのピーク、Al-0.011%TiとAl-0.015%Vに3つのピークがあることが明らかにされた。観測されたピークに対応するミュオントラップサイトの原子配置は、溶質及び溶質-空孔ペア周りの水素のトラップエネルギーに対する第一原理計算を用いてよく同定された。ミュオンピーク温度とトラップエネルギーの間に線形関係が抽出されたことにより、Al合金において水素と強い結合エネルギーを持つ合金元素とその複合体の可能性を探ることができる。
鈴土 知明; 海老原 健一; 都留 智仁; 森 英喜*
Scientific Reports (Internet), 12, p.19701_1 - 19701_10, 2022/11
被引用回数:7 パーセンタイル:56.17(Multidisciplinary Sciences)体心立方(bcc)遷移金属である-FeやWは、{110}面の表面エネルギーが最も低いにもかかわらず、{100}面に沿ってへき開割れが起きる。この奇妙な現象のメカニズムを解明するため、人工ニューラルネットワークの手法で作成した原子間ポテンシャルを用いて-Feの曲線のへき開き裂先端の大規模原子シミュレーションと直線のき裂先端の応力拡大係数解析を実施した。その結果、以下の新しい知見が得られた。{110}に沿ったへき開面のき裂先端から転位放出が観測され、そのことは{100}面が実際に起こるへき開面であることを示唆した。しかしながら、単純な直線状のき裂先端解析では、同じ結論は得られなかった。よって、機械的な強度を正しく予測するためには、高精度なポテンシャルを用いて、材料固有の複雑さを十分に捉えた原子論的なモデリングが必要であることが示唆された。本研究で採用した方法は、bcc遷移金属・合金のへき開問題に一般的に適用可能である。
海老原 健一
材料, 71(5), p.481 - 487, 2022/05
日本材料学会誌「材料」における「水素ぜい化の評価・解析法」講座の一部として、水素の昇温脱離分析(TDA)法に関して解説している。TDAでは、水素を含む金属材料の一定割合の加熱によって脱離する水素を測定し、得られる材料温度に対する水素放出割合の関係である昇温脱離曲線から、材料中の水素の存在状態を推定する方法であり、水素ぜい化研究において欠くことのできない測定手法である。内容は、TDAによる水素存在状態の推定に関する実験の概要、及び昇温脱離曲線の数値シミュレーションによる解釈についてである。数値シミュレーションに関しては、TDAにおける水素脱離の原子レベルでの機構、及び数値モデルを詳細に説明し、さらに、純鉄及びアルミニウムの昇温脱離曲線の解釈に関する最近の報告を紹介している。本稿によってTDAの原理や最近の動向について広く理解が進むと思われる。
海老原 健一; 鈴土 知明
Metals, 12(4), p.662_1 - 662_10, 2022/04
被引用回数:3 パーセンタイル:31.34(Materials Science, Multidisciplinary)鉄鋼中のリン原子は、熱や照射の効果によって粒界に集まり粒界脆化を引き起こす。そのため、さまざまな温度及び照射条件での粒界におけるリン偏析の数値的予測は、脆化の防止に対して重要である。鉄における粒界リン偏析のモデルを開発するため、本研究では、2種類の対称傾角粒界(3[1-10](111), 5[100](0-13)粒界)におけるリン原子の移動を分子動力学シミュレーションを使って考察した。その結果、3[1-10](111)粒界では、リン原子は主に格子間原子状態で三次元的に移動し、5[100](0-13)粒界では、主に空孔との位置交換で一次元的に移動することが分かった。さらに、リン原子及び空孔の粒界からのデトラップについても調査した。
山口 正剛; 板倉 充洋; 都留 智仁; 海老原 健一
Materials Transactions, 62(5), p.582 - 589, 2021/05
被引用回数:16 パーセンタイル:69.73(Materials Science, Multidisciplinary)アルミニウム結晶中のらせん転位および刃状転位の水素トラップエネルギーを第一原理から計算した。詳細な計算条件を記述した。トラップ可能なあらゆるサイトを調べ尽くすことは計算時間の制約上困難であるが、計算した範囲内においてはらせん転位は最大で0.11eV/atom、刃状転位では最大で0.18eV/atomというトラップエネルギーが得られた。実験値との際について議論した。
齋藤 慎平*; De Rosis, A.*; Fei, L.*; Luo, K. H.*; 海老原 健一; 金子 暁子*; 阿部 豊*
Physics of Fluids, 33(2), p.023307_1 - 023307_21, 2021/02
被引用回数:40 パーセンタイル:98.33(Mechanics)流れ場で沸騰が発生する現象は強制対流沸騰として知られている。今回、飽和条件の流れ場中の円柱上での沸騰システムを数値的に調査した。複雑な気液相変化現象に対処するために、擬ポテンシャル格子ボルツマン法(LBM)に基づく数値スキームを開発した。高いレイノルズ数の数値安定性を高めるため、衝突項を中心モーメント(CM)の空間で解いた。CMベースのLBMに適した力場スキームを採用することで簡潔でありながら堅牢なアルゴリズムとなっている。さらに、熱力学的一貫性を確保するために必要な追加項をCMの枠組みにおいて導出した。現在のスキームの有効性は、核形成,成長、および30-30000の間で変化するレイノルズ数の蒸気泡の離脱を含む一連の沸騰プロセスに対してテストされた。開発したCMベースのLBMは、初期気相などの人工的な入力なしに、核沸騰,遷移沸騰、および膜沸騰の沸騰様式を再現できる。結果からプール沸騰ではなく強制対流システムでも抜山曲線として知られる典型的な沸騰曲線が現れることが分かった。また、今回のシミュレーションは膜沸騰領域でも断続的な直接固液接触の実験的観察を支持することが分かった。
端 邦樹; 高見澤 悠; 北條 智博*; 海老原 健一; 西山 裕孝; 永井 康介*
Journal of Nuclear Materials, 543, p.152564_1 - 152564_10, 2021/01
被引用回数:16 パーセンタイル:90.82(Materials Science, Multidisciplinary)加圧水型軽水炉(PWR)または試験炉において0.3-1.210 n/cm (E1MeV)の範囲で中性子照射された原子炉圧力容器鋼(リン含有量: 0.007-0.012wt.%)について、粒界リン偏析量をオージェ電子分光分析により測定した。粒界リン偏析量は照射量に依存して増加した。速度論に基づくシミュレーションでも同様の粒界リン偏析量の増加を確認した。また、リン含有量が0.015wt.%(現在の国内原子炉圧力容器鋼の最大値相当)の材料では、1.010 n/cmまで照射した場合、粒界に偏析するリンの割合は10%程度増加することが予測された。PWR及び試験炉での照射材の結果を比較したところ、明確な照射速度効果は確認されなかった。文献データも含めたリン含有量0.026wt.%(海外炉のA533B鋼の中でも比較的高いリン含有量)までの材料に対して、粒界リン偏析量、照射硬化、延性脆性遷移温度(DBTT)シフトの各関係について調べたところ、照射硬化とDBTTシフトの間に直線関係が確認された。この直線関係は、このようなリン含有量の高い材料においてもDBTTの上昇は照射硬化で説明することができること、すなわち非硬化型脆化である粒界脆化の顕在化の可能性が低いことを示している。
海老原 健一; 杉山 優理*; 松本 龍介*; 高井 健一*; 鈴土 知明
Metallurgical and Materials Transactions A, 52(1), p.257 - 269, 2021/01
被引用回数:9 パーセンタイル:45.14(Materials Science, Multidisciplinary)応力腐食割れの原因の1つと考えられている水素脆化に関し、近年、材料の変形時に水素により過剰生成した空孔が直接の原因と考える水素助長ひずみ誘起空孔モデルが提案されている。しかし、その定量的考察はあまりなされておらず、誘起空孔の挙動の定量的評価が必要である。このことから、本研究では、水素添加と同時にひずみを与えた純鉄の薄膜試料の水素熱脱離スペクトルを、空孔及び空孔クラスターの挙動を考慮したモデルでシミュレーションした。モデルでは、9個の空孔からなる空孔クラスター()までを考慮し、空孔及び空孔クラスターの水素トラップエネルギーとして、分子静力学で見積もった値を用いた。また、拡散に関するパラメータも原子レベル計算で評価した値を用いた。結果として、モデルは、全体としてスペクトルを再現し、時効処理の温度に対するスペクトルの変化も再現した。一方、実験との2つの特徴的な違いも現れ、その考察から、及びの拡散はモデルより遅いこと、また、水素と共にひずみを与える際に、空孔クラスターも生成されることの可能性が見出された。本モデルは、照射で生成した空孔の挙動の考察にも応用可能と考える。
鈴土 知明; 海老原 健一; 都留 智仁
AIP Advances (Internet), 10(11), p.115209_1 - 115209_8, 2020/11
被引用回数:13 パーセンタイル:58.14(Nanoscience & Nanotechnology)BCC金属の脆性破壊のメカニズムはまだ明確には理解されているとは言えない。本研究では、鉄のへき開破壊の解析のため一連の3次元分子動力学シミュレーションを行った。特に、湾曲したき裂フロントから始まるモードI変形に焦点を当てた。シミュレーション結果、{100}面でへき開による脆性破壊が観察されたが、他の面では転位の放出によりき裂が鈍化した。この結果は{100}がbcc遷移金属で優先的に観測されるへ開面あるという一般的な実験的観察を再現した。
山口 正剛; 都留 智仁; 海老原 健一; 板倉 充洋; 松田 健二*; 清水 一行*; 戸田 裕之*
Materials Transactions, 61(10), p.1907 - 1911, 2020/10
被引用回数:17 パーセンタイル:64.27(Materials Science, Multidisciplinary)アルミニウム合金中の金属間化合物MgSi及びAlFeCuの水素トラップエネルギーを第一原理から計算した。MgSiは水素をトラップしないが、AlFeCuはその結晶内部に水素原子を0.56eV/atomという強いトラップエネルギーでトラップすることが分かった。このことは、合金の製造過程でAlFeCu化合物の生成を適切に制御できれば、水素脆化の防止に役立つことを意味している。