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甲斐 健師; 樋川 智洋; 鵜飼 正敏*; 藤井 健太郎*; 渡邊 立子*; 横谷 明徳*
Journal of Chemical Physics, 158(16), p.164103_1 - 164103_8, 2023/04
水の放射線分解・光分解に関する新たな科学的知見は、放射線化学・放射線生物学を含む様々な研究分野の劇的進歩に必要不可欠である。水に放射線を照射すると、その飛跡上に沿って、反応性の高い水和電子が無数に生成される。水和電子は、発生した電子と水分子の運動が動的に相関し、形成されることは知られているが、その形成に至るまでの、電子の非局在化、熱化、分極メカニズムは未だ解明していない。本研究で独自に開発したコードを利用した解析結果から、これらの過渡的現象は、水特有の水素結合ネットワークに由来する分子間振動モードと、水和を進行する水分子の回転モードの時間発展に支配されるように進行することが明らかとなった。本研究によるアプローチは、水に限らず、様々な溶媒に適用可能であり、そこから得られる科学的知見は、放射線生物影響、原子力化学、放射線計測など幅広い研究領域へ適用されることが期待できる。
甲斐 健師; 樋川 智洋; 松谷 悠佑*; 平田 悠歩; 手塚 智哉*; 土田 秀次*; 横谷 明徳*
RSC Advances (Internet), 13(11), p.7076 - 7086, 2023/03
被引用回数:3 パーセンタイル:73.63(Chemistry, Multidisciplinary)水の放射線分解に関する科学的知見は、生命科学などに幅広く利用されるが、水の分解生成物であるラジカルの生成メカニズムは未だ良く分かっていない。我々は、放射線物理の観点から、この生成メカニズムを解く計算コードの開発に挑戦し、第一原理計算により、水中の二次電子挙動は、水との衝突効果のみならず分極効果にも支配されることを明らかにした。さらに、二次電子の空間分布をもとに、電離と電子励起の割合を予測した結果、水和電子の初期収量の予測値は、放射線化学の観点から予測された初期収量を再現することに成功した。この結果は、開発した計算コードが放射線物理から放射線化学への合理的な時空間接続を実現できることを示している。本研究成果は、水の放射線分解の最初期過程を理解するための新たな科学的知見になることが期待できる。
熊谷 友多; 日下 良二; 中田 正美; 渡邉 雅之; 秋山 大輔*; 桐島 陽*; 佐藤 修彰*; 佐々木 隆之*
Journal of Nuclear Science and Technology, 59(8), p.961 - 971, 2022/08
被引用回数:2 パーセンタイル:48.47(Nuclear Science & Technology)東京電力福島第一原子力発電所事故では核燃料と被覆管,構造材料が高温で反応し、燃料デブリが形成されたと考えられる。この燃料デブリが水の放射線分解の影響により経年変化する可能性を調べるため、模擬燃料デブリを用いて過酸化水素水溶液への浸漬試験を行った。その結果、過酸化水素の反応により、ウランが溶出し、ウラニル過酸化物が析出することが分かった。また、模擬燃料デブリ試料のうちウランとジルコニウムの酸化物固溶体を主成分とする試料では、他の試料と比較してウランの溶出は遅く、ウラニル過酸化物の析出も観測されなかった。この結果から、ウランとジルコニウムの酸化物固溶体は過酸化水素に対して安定性が高いことを明らかにした。
端 邦樹
材料と環境, 70(12), p.468 - 473, 2021/12
東京電力福島第一原子力発電所の汚染水中の腐食環境の評価においては、建屋内が放射線環境下にあるため、水の放射線分解(ラジオリシス)により生成する過酸化水素(HO
)等の酸化剤の影響を考慮する必要がある。ラジオリシス過程及びそれにより発生する酸化剤の生成量は水質や放射線の線質などに依って変化する。そのため、この10年間、水の放射線分解に寄与しうる様々な要因(海水成分、酸化物の表面の作用、
核種等)を対象に研究が進められてきた。本稿では、汚染水中の腐食環境のより深い理解に繋げるため、これらの要因のラジオリシス影響について解説する。
熊谷 友多; Fidalgo, A. B.*; Jonsson, M.*
Journal of Physical Chemistry C, 123(15), p.9919 - 9925, 2019/04
被引用回数:20 パーセンタイル:64.95(Chemistry, Physical)ウランの酸化還元による化学的な変化は環境中のウランの動態を支配する重要な反応であり、特に4価の二酸化ウランが6価のウラニルイオンに酸化され水に溶けだす反応は使用済燃料等の環境中における化学的な安定性を評価する上で重要な反応である。この酸化による二酸化ウランの水への溶出について、二酸化ウランの過定比性の影響を調べるため、過酸化水素および線照射による反応を調べ、定比のUO
と過定比のUO
との間で反応挙動を比較した。その結果、定比のUO
は酸化還元反応に高い活性を示し、表面の酸化反応は速やかに進み、酸化反応の進展とともに徐々にウランの溶出が加速されることが観測された。一方で、過定比のUO
は反応性は低いものの、酸化反応が生じると速やかにウランが溶出することが分かった。また、過酸化水素による反応と
線照射による反応を比較した結果、ウランの溶出ダイナミクスは酸化剤の濃度に依存して変化することが分かった。そのため、使用済燃料等で想定される放射線による酸化反応を検討する場合、高濃度の酸化剤を用いた試験では、ウランの溶出反応を過小評価する可能性があることを明らかにした。
渡邊 立子*; 甲斐 健師; 服部 佑哉*
Radioisotopes, 66(11), p.525 - 530, 2017/11
放射線による生物影響のメカニズムの解明には、モデルやシミュレーションを用いた研究は重要な役割を持つ。特に、生物影響メカニズムに関するモデル化や、DNA分子と細胞のような生体の異なる空間スケールから得られた実験データの関係を評価するためにはミュレーションは有効な手段である。本稿では、DNAと細胞への放射線影響のシミュレーションによる研究の概要について述べる。この中で、従来のDNA損傷推定法に加えDNA損傷生成に関わる物理化学過程の詳細を推定する新たな理論的アプローチと、DNA損傷と細胞応答のダイナミクスを推定する数理モデルも紹介する。
永石 隆二
Radioisotopes, 66(11), p.601 - 610, 2017/11
冷却水喪失事故を代表とするシビアアクシデント(過酷事故)において水の放射線分解は事故時及びその後の廃止措置、廃棄物処理・処分等で、爆発源となる水素の発生、並びに腐食等の接水材料の劣化の要因となる。さらに、福島第一原子力発電所(1F)事故では平常時には到底考えられない海水が投入されたことで、これらの現象がより複雑となった。本記事では特集「最新放射線化学」の応用編において原子力に関連した放射線化学の最新の成果として、1F事故以降進めてきた研究について、海水塩分、固体共存、工学的条件をキーワードに紹介・解説する。
永石 隆二; 井上 将男; 日野 竜太郎; 小川 徹
Proceedings of 2014 Nuclear Plant Chemistry Conference (NPC 2014) (USB Flash Drive), 9 Pages, 2014/10
福島第一原子力発電所事故では破損した原子炉施設の冷却のために海水を使ったため、スリーマイル島原子力発電所の冷却水喪失事故とは異なり、事故後に発生した汚染水に海水成分が含まれた。これに伴い、腐食や水素発生と密接に関係する、海水の放射線分解の反応計算がいくつかのグループによって行われたが、それらは1次収量や放射線誘起反応の塩濃度依存性(塩効果)を考慮していないため、広範囲の塩濃度に対して適用できない。そこで、本研究では、1次収量の塩効果を示す定常照射実験の結果、並びに反応の塩効果を示すパルス照射実験(パルスラジオリシス)の結果をもとに、海水の希釈及び濃厚系での放射線分解挙動に関する考察を試みた。
永石 隆二; 森田 圭介; 山岸 功; 日野 竜太郎; 小川 徹
Proceedings of 2014 Nuclear Plant Chemistry Conference (NPC 2014) (USB Flash Drive), 9 Pages, 2014/10
スリーマイル島原子力発電所(TMI-2)の冷却水喪失事故で発生した汚染水を処理した吸着塔(SDSベッセル)に対しては、残水量、放射線分解による水素の発生、ゼオライトに吸着したCsの分布等が実際の吸着塔を用いて大規模に測定され、その結果は吸着塔のサイズや構造の情報とともに公開されている。本研究ではTMI-2事故で使用した吸着材を用いて、水蒸気吸着挙動等の表面構造の測定、並びに
線照射による水素発生の測定といった小規模な試験を行い、そこで得た最新の結果と公開情報をもとに、TMI-2事故での吸着塔内の吸収線量率及び水素発生率の再評価を試みた。本研究で行った評価の手順及び結果は、福島第一原子力発電所事故の汚染水処理で発生する廃吸着塔の内部で起こる水素発生の挙動を把握する上でも重要である。
渡辺 立子; 斎藤 公明
Radiation Physics and Chemistry, 62(2-3), p.217 - 228, 2001/09
被引用回数:36 パーセンタイル:90.68(Chemistry, Physical)電子線照射による水の放射線分解過程の系統的な理解のために、シミュレーションによる研究を行った。さまざまなエネルギー(100eVから1MeV)の電子を水に照射した場合について、電子によるエネルギー付与の分布、ラジカルの分布、酵素存在下でのラジカルの化学反応過程をモンテカルロ法によりシミュレートした。この結果を解析したところ、数10nmの領域内でのエネルギー付与構造やラジカルの初期分布が、拡散後のラジカル収率や化学反応過程と強い関連性があることがわかった。また、線量が化学反応やラジカルの収率に与える影響についても解析したところ、照射電子のエネルギーにより、線量が化学反応やラジカル収率に与える影響が異なることがわかった。さらに、OHラジカルスカベンジャー存在下での化学反応についても調べた。
団野 晧文
高分子, 10(111), p.526 - 530, 1961/00
放射線の有するエネルギーを直接物質に与えて、いろいろの化学反応を起させ、新しい物質をつくるような研究は、放射線化学とよばれ、この十数年間にめざましい発展を遂げた。この新分野て得られた成果は、特に高分子の領域で有望な化学反応がたくさん発見されている。たとえば、放射線による橋かけ反応はポリエチレンを耐熱性、耐溶解性のすぐれた物質に変え、放射線重合は触媒を加えなくても容易にモノマーを重合させ、また放射線グラフト重合は高分子の表面に他のモノマーを共重合させることに成功している。高分子の固体照射では、一般に大線量の照射を必要とするので、いかに良いものができても、工業化は望み薄である。そこでわずかな線量で最大の効果をあげる方向に研究が進められている。グラフト重合、放射線重合、高分子溶液の橋かけなどは、わずかな線量で放射線処理ができるので有望である。
西村 優基; 島田 太郎; 武田 聖司
no journal, ,
福島第一原子力発電所事故により発生した燃料デブリをHLWと同様の地層処分概念で直接処分することを想定した場合に懸念される、金属腐食と水の放射線分解で発生するガスの影響に着目し、ガス発生速度及び発生量の予察的評価を行った。オーバーパック(OP)が閉じ込め機能を失うまでは、OP内側で残存水の放射線分解によるガス発生が支配的となり、その累積ガス発生量は約1.9mと試算された。この場合、ガス蓄積圧力はOP設計圧を下回ることからガスによるOP早期破損シナリオは生じないと想定される。一方、OP外側でのガス発生速度と溶存水素ガスの拡散移行速度との比較を行ったところ、閉鎖後の長期にわたりOPと緩衝材の界面にガスが蓄積し、その圧力は想定される地圧を超える可能性を示唆する結果となった。これらの結果から、燃料デブリの処分においては、緩衝材中でのガス移行の検討の必要性が示唆された。
内田 俊介; 端 邦樹; 塙 悟史; 知見 康弘
no journal, ,
前回の発表(副題2)では、PWR一次冷却系では、水素の酸化電流が水素注入によるECP低減に大きな影響を与えることを示した。PWRでは、BWRに比べ、水素濃度のほかに、pH, 照射線量率などECPに影響を及ぼす因子に大きな違いがある。本発表では、特にpHに注目し、ラジオリシス,表面性状,金属イオン溶解度などpHがECPに及ぼす直接及び間接影響について議論した。この結果、PWR1次系とBWRを含む広いpH範囲の腐食環境を同一のラジオリシスおよびECP解析コードを用いて、pH依存性を考慮した定数を適用するだけで一元的に評価できることを示した。
熊谷 友多; 日下 良二; 渡邉 雅之
no journal, ,
原子力発電所の過酷事故では、高温で燃料と炉心材料とが反応した燃料デブリが形成される。燃料デブリに特徴的な相として、被覆管材のジルコニウムと核燃料の二酸化ウランとの反応により、ウランとジルコニウムとの酸化物固溶体(U, Zr)Oが形成されることが知られている。本研究では、燃料デブリの長期的な劣化挙動を把握する基礎として、水の放射線分解で生成する過酸化水素と(U, Zr)O
との反応を調べた。過酸化水素と(U, Zr)O
との反応を実験により調べた結果、ウランとジルコニウムの溶出が起きるが、ウランの溶出量はジルコニウムよりも1桁以上高いことが分かった。また過酸化水素の反応を繰り返し行うと、ウランの溶出量が顕著に減少することが分かった。これらの結果から、過酸化水素の反応では、(U, Zr)O
表面にジルコニウムの含有量の高い層が形成され、さらなるウランの溶出が抑制されたと考えられる。
内田 俊介; 端 邦樹; 塙 悟史; 知見 康弘; 佐藤 智徳
no journal, ,
ラジオリシスと腐食電位の結合解析コードWRAC-JAEAは、当初、JMTRのインパイルループ実験解析用に開発されたものである。中性のBWR条件から高pHのPWR条件まで広いpH範囲で使用可能であることを示した。BWRでは沸騰の影響が顕著であるが、PWRでもサブクール沸騰の影響への配慮が必要である。炉心部での燃料体に沿った沸騰に伴う分解生成種の液相から気相への移行を解析した。この結果、これまでのBWRの沸騰条件下のみでなく、PWRのサブクール沸騰下でも、本結合解析が適用可能であることを示し、in-pile loop実験解析のみでなく原子力発電プラントの腐食環境評価にも適用可能であることを示した。
永石 隆二; 伊藤 辰也; DiPrete, D.*; Fellinger, A.*
no journal, ,
福島第一原子力発電所(1F)事故から10年以上経過した燃料デブリの保管ではアルファ線による水の分解の重要性が増しているが、アルファ放出核種が固体材料中に存在していると、核種から放出したアルファ線は材料中で減速して、材料から逃れたアルファ線エネルギーはより低く連続となる。このエネルギースペクトルは材料の種類やサイズによって異なり、これは水の分解G値のパターンや大きさに影響を及ぼすため、アルファ線分解を研究するには、このスペクトルを測定・評価する必要がある。本研究では、Pu-239を含む固体材料の粉末を用いて、この粉末からのアルファ線のスペクトルを測定した。そのスペクトルからアルファ線の線エネルギー付与(LET)を評価して、これを核種が水中の溶存種である場合の値と比較した。
阿部 侑馬*; 熊谷 友多; 樋川 智洋; 宝徳 忍; 深谷 洋行; 渡邉 雅之; 小山 幹一*; 長谷川 聡*; 中野 正直*; 玉内 義一*
no journal, ,
高レベル廃液における水素発生G値の温度上昇等に伴う変化について評価するため,放射線透過計算により水素発生量の測定試験に用いた溶液の吸収線量を評価し,G値を算出した。
中野 純一; 塚田 隆; 上野 文義; 山縣 諒平
no journal, ,
東京電力福島第一原子力発電所では、炉心への海水注入および炉心損傷による放射線量の増加により、原子炉格納容器鋼および原子炉圧力容器鋼が腐食されることが懸念されている。一般に、気相と液相の界面近傍において鋼材の腐食量が増加することが知られている。それゆえ、線照射下、50
Cにおいて、試験片の下半分を希釈人工海水中に浸漬させた状態で腐食試験を行った。気相部は大気またはN
雰囲気とした。試験後、酸化皮膜を除去し、3Dマクロスコープにより試験片表面の3Dデータを測定した。気相部を大気雰囲気とした場合、試験時間及び線量率に依存して最大断面積高さが増加した。
線照射500時間後、N
雰囲気での最大断面積高さは大気雰囲気のそれよりも低下した。気相中のO
分圧の減少による液相中のO
濃度が減少し、局部腐食が抑制されたとみられる。
甲斐 健師
no journal, ,
PHITS等の放射線輸送計算コードは低速電子の微視的挙動を模擬できないため、ナノスケールの放射線作用が解析困難である。そこで、それらを計算可能にする動的モンテカルロコードを開発している。本講演では、本計算コードで利用している水の電子衝突断面積の計算法や電子の動的挙動計算法について説明する。本計算コードを利用した結果として、水中における1次電子線輸送計算及び低速2次電子の減速過程についての結果を示す。その計算結果を基にDNA損傷推定を実施したところ、細胞死や染色体異常のような放射線生物影響が誘発されると考えられる新たな複雑DNA損傷機構が見出された。これらの研究成果の他、本計算コードのPHITSへの実装、今後の拡張計画を報告する。
甲斐 健師
no journal, ,
PHITS等の放射線輸送計算コードは生体中のエネルギー付与が計算できるが、低エネルギー電子の微視的挙動を模擬できないため、ナノスケールの放射線作用の解析が困難である。そこで、1keV未満の電子の水中における衝突断面積の計算法や電子の動的挙動計算法を導入し、ナノスケールの放射線作用を計算できるコードの開発を進めた。このコードを利用することで、水中における1次電子線輸送計算及び低エネルギー2次電子の減速過程をナノスケールで計算することができた。さらに、この計算結果に基づき、DNA損傷を推定し、細胞死や染色体異常のような放射線生物影響が誘発されると考えられる新たな複雑DNA損傷機構を見出した。本コードはPHITSへ実装され、今後も機能を拡張していく予定である。