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門脇 正尚; 永井 晴康; 吉田 敏哉*; 寺田 宏明; 都築 克紀; 澤 宏樹*
Journal of Nuclear Science and Technology, 60(10), p.1194 - 1207, 2023/10
被引用回数:2 パーセンタイル:65.72(Nuclear Science & Technology)大気拡散シミュレーションにより原子力事故の緊急対応を支援する場合、予測結果と合わせて結果の不確実性を提供する必要がある。本研究では、予測結果のプルームの拡散方向の不確実性をベイズ機械学習に基づいて推定する手法を開発する。機械学習用のトレーニングデータおよびテストデータは、原子力施設からのセシウム137の仮想放出を考慮したシミュレーションを2015年から2020年の期間で毎日実行することで作成された。不確実性推定に対する本手法の有効性を調べたところ、36時間後の予測においても不確実性の予測可能性は50%を超えたことから、本手法の有効性が確認された。また、不確実性が大きいと判定されたプルームの拡散方向も、本手法によって極めて良好に予測された(予測期間において不確実性を妥当に判定しなかった割合は0.9%-7.9%)。一方で、本手法により不確実性が過大に予測された割合は最大で31.2%となったが、これは許容できると考えられる。これらの結果は、本研究で開発されたベイズ機械学習による不確実性推定の手法が、大気拡散シミュレーションによって予測されたプルームの方向の不確実性を効果的に推定していることを示している。
寺田 宏明; 永井 晴康; 門脇 正尚; 都築 克紀
Journal of Nuclear Science and Technology, 60(8), p.980 - 1001, 2023/08
被引用回数:4 パーセンタイル:87.43(Nuclear Science & Technology)原子力事故により大気放出された放射性核種の放出源情報と環境中時間空間分布の再構築手法の確立が緊急時対応に必要である。そこで、大気拡散シミュレーションと環境モニタリングデータを用いたベイズ推定に基づく放出源情報推定手法の様々な環境モニタリングデータの利用可能性に対する依存性を調査した。さらに、事故直後に実施するリアルタイム推定への本手法の適用性を調査した。様々な環境モニタリングデータの組み合わせに対する福島第一原子力発電所(1F)事故の放出源情報推定結果の感度解析から、正確な放出源情報推定には高い時間空間分解能のデータの利用と大気中濃度と地表沈着量の両方のデータの利用が有効であることが示された。また、1F事故時の環境モニタリングデータ取得状況に適用された仮想的なリアルタイム推定実験により、本手法は、地表汚染の概況の早期把握とおおよその事故規模の評価に必要な放出源情報を推定可能であることが明らかとなった。環境モニタリングデータの即時オンライン取得と、計算出力データベース蓄積のための大気拡散計算の運用システムが整備されれば、本手法により放出源情報の準リアルタイム推定が可能となる。
秋吉 英治*; 門脇 正尚; 山下 陽介*; 長友 利晴*
Scientific Reports (Internet), 13, p.320_1 - 320_12, 2023/01
被引用回数:2 パーセンタイル:47.50(Multidisciplinary Sciences)最新の化学-気候モデル(CCM)では、今後オゾン層破壊物質(ODS)が減少かつ温室効果ガス(GHG)が増加した場合、熱帯と南極を除くほとんどの地域でオゾン量が増加することが示されている。しかし、ODS濃度が1990年代半ばにピークを迎えたにもかかわらず、1990年代以降、約10年に1回の頻度で北極のオゾンが大きく減少した。この事象を理解するために、CCMを用いて、ODSとGHGの濃度を将来の予測値に基づいて設定した、24のシナリオ実験(各実験:500アンサンブルメンバー)を行った。北半球の中高緯度で低オゾン量の50アンサンブルメンバーでは、低温と強い西風帯状平均帯状風と関連して、ODS依存性が明確に示された。GHG濃度が高い場合でも、ODS濃度が1980-1985年の水準を上回った場合、北極の春のオゾン濃度が極端に低くなるアンサンブルがあった。したがって、北極の極渦が安定している場合には、オゾンの大幅な減少を避けるためにODS濃度を低減する必要がある。また、下位50位までの平均値は、21世紀末に向けた温室効果ガスの増加が北極のオゾン層破壊を悪化させないことを示している。
門脇 正尚; 古野 朗子; 永井 晴康; 川村 英之; 寺田 宏明; 都築 克紀; El-Asaad, H.
Journal of Environmental Radioactivity, 237, p.106704_1 - 106704_18, 2021/10
被引用回数:2 パーセンタイル:9.66(Environmental Sciences)本研究では、局所規模の大気拡散シミュレーションと観測から推定した福島第一原子力発電所(1F)事故のCsのソースタームの、大規模の大気拡散に対する妥当性を確認することを目的として、大気拡散データベースシステムWSPEEDI-DBを用いた半球スケールの大気拡散シミュレーションと海洋拡散モデルSEA-GEARN-FDMを用いた海洋拡散シミュレーションを実施した。大気拡散シミュレーションの結果は、観測値のCsの大気中濃度を一部過大評価したものの、全体として観測値を良好に再現した。また、海洋拡散シミュレーション結果は、北太平洋で観測されたCsの海水中濃度を過小評価した。本研究では、大気拡散シミュレーションから得られたCs沈着量を海洋拡散シミュレーションで用いており、Csの海水中濃度の過小評価は海洋へ沈着したCsが少なかったことが原因だと示された。大気拡散シミュレーションに用いた降水の再現性を向上させることで、Csの大気中濃度の過大評価と海水中濃度の過小評価をそれぞれ改善することができると考えられ、本研究で検証されたソースタームは、1F事故によるCsの局所規模の大気拡散シミュレーションと大規模の大気拡散シミュレーションの両方で有効であることが示された。
中山 浩成; 吉田 敏哉; 寺田 宏明; 門脇 正尚
Atmosphere (Internet), 12(7), p.899_1 - 899_16, 2021/07
被引用回数:1 パーセンタイル:4.41(Environmental Sciences)CLADS補助金事業「ガンマ線画像から大気中3次元核種分布及び放出量を逆解析する手法の開発」において、原子力機構の分担課題として実施する、大気拡散計算と放射線計測を融合して大気放出された放射性核種の濃度分布と放出量を推定する手法開発のために実施するものである。本研究では、福島第一原子力発電所の廃炉工程で発生しうる放射性物質の大気放出を想定した大気拡散予測の精度向上のために、原子力機構内にある建物を原子炉建屋と見なして、その周辺の気流の集中観測と簡易的な拡散実験を実施した。気流の集中観測としては、対象建物よりやや離れた所にドップラーライダーを設置して、上空の風速を3次元的に測定・取得した。また、建物屋根面に超音波風速計を設置して、建屋の影響で生じる非定常性の強い複雑な乱流の情報として、高周波変動風速も測定・取得した。簡易的な拡散実験としては、放射性物質の放出をミスト散布により模擬し、ミストの拡散の様子をビデオカメラで撮影した。次に、建物影響を考慮した詳細乱流計算によるデータベースと気象観測との結合による簡易拡散計算を行った。拡散シミュレーション結果とカメラ撮影したミスト拡散とを比較したところ、各時刻において良好に拡散挙動が再現できていることを確認した。これにより、本研究で提案したフレームワークの有効性を示すことができた。
門脇 正尚; 寺田 宏明; 永井 晴康
Atmospheric Environment; X (Internet), 8, p.100098_1 - 100098_17, 2020/12
大気中のIの挙動や全球収支は、観測データの時間-空間分解能の低さや、観測データに基づくモデル研究が少ないことから、完全には理解されていない。そこで本研究では、2007年から2010年の期間を対象としたIの全球収支を定量することを目的として、これまでに開発された大気I拡散モデルGEARN-FDMに新たに2つの気相化学反応、6つの光分解反応、2つのヨウ素化学を導入し、さらに核燃料再処理施設からのIの大気放出過程及び海洋と陸域からのIの揮発過程を導入することで、大気中のIをシミュレートする化学輸送モデルを開発した。本モデルを用いたシミュレーション結果から、海洋からのIの放出量は7.2GBq/yと推定され、放出量の約半分が英国海峡起源であった。一方、陸域からのIの放出量は1.7GBq/yと推定され、大規模な使用済核燃料再処理施設が稼働する/していたヨーロッパ,ロシア,北米の陸域放出が顕著であった。大気-海洋間及び大気-陸地間におけるIの正味の交換フラックスはそれぞれ18.0GBq/y及び5.3GBq/yと推定された。海洋と陸域からの放出量は本研究で考慮した使用済核燃料再処理施設の総放出量(23.3GBq/y)よりも小さく、2007年から2010年においては、稼働中の使用済核燃料再処理施設からの大気放出が大気中のIの重要なソースであることを示している。
佐藤 陽祐*; 関山 剛*; Fang, S.*; 梶野 瑞王*; Qurel, A.*; Qulo, D.*; 近藤 裕昭*; 寺田 宏明; 門脇 正尚; 滝川 雅之*; et al.
Atmospheric Environment; X (Internet), 7, p.100086_1 - 100086_12, 2020/10
福島第一原子力発電所(FDNPP)事故により放出されたCsの大気中の挙動を調べるため、第3回大気拡散モデル相互比較が実施された。前回のモデル比較より高い水平格子解像度(1km)が使われた。前回のモデル比較に参加したモデル中9モデルが参加し、全モデルで同一の放出源情報と気象場が使用された。解析の結果、観測された高いCs大気中濃度のほとんどが良好に再現され、いくつかのモデルの性能向上によりマルチモデルアンサンブルの性能が向上した。高解像度化によりFDNPP近傍の気象場の再現性が向上したことで、拡散モデルの性能も向上した。風速場の良好な表現によりFDNPP北西の高い沈着量の細い分布が合理的に計算され、FDNPPの南側の沈着量の過大評価が改善された。一方で、中通り地方、群馬県北部、及び首都圏のプルームの再現性能はやや低下した。
寺田 宏明; 永井 晴康; 田中 孝典*; 都築 克紀; 門脇 正尚
Journal of Nuclear Science and Technology, 57(6), p.745 - 754, 2020/06
被引用回数:10 パーセンタイル:73.46(Nuclear Science & Technology)世界版緊急時環境線量情報予測システムWSPEEDIを用いて福島第一原子力発電所事故時に放出された放射性物質の放出源情報と大気拡散過程の解析を実施してきた。この経験に基づき、原子力緊急時の様々なニーズに対応し緊急時対応計画に有用な情報を提供可能な大気拡散計算手法を開発した。この手法では、原子力施設のような放出地点が既知の場合、放出源情報を特定せず事前に作成しておいた拡散計算結果のデータベースに、提供された放出源情報を適用することで、即座に予測結果を取得することが可能である。この機能により、様々な放出源情報を適用した計算結果と測定データの容易な比較と最適な放出源情報の探索が可能である。この解析手法は、福島事故の放出源情報の推定に適用された。この計算を過去の気象解析データを用いて実施することで、様々な放出源情報と気象条件に対する拡散計算結果を即座に取得することが可能となる。このデータベースは、環境モニタリング計画の最適化や、緊急時対応計画において想定すべき事象の理解等の事前計画に活用可能である。
寺田 宏明; 永井 晴康; 都築 克紀; 古野 朗子; 門脇 正尚; 掛札 豊和*
Journal of Environmental Radioactivity, 213, p.106104_1 - 106104_13, 2020/03
被引用回数:56 パーセンタイル:92.23(Environmental Sciences)福島第一原子力発電所事故(特に測定値が利用できない事故初期)の公衆の被ばく線量評価には、大気輸送・拡散・沈着モデル(ATDM)シミュレーションによる放射性核種の環境中時間空間分布の再構築が必要である。このATDMシミュレーションに必要な放射性物質の大気中への放出源情報が多くの研究で推定されてきた。本研究では、ベイズ推定に基づく最適化手法により、これまでに推定した放出源情報とATDMシミュレーションの改善を行った。最適化では、新たに公開された大気汚染測定局で収集された浮遊粒子状物質(SPM)分析によるCs大気中濃度を含む様々な測定値(大気中濃度,地表沈着量,降下量)を使用し、拡散計算と測定の比較結果のフィードバックにより放出源情報だけでなく気象計算も改善させた。その結果、ATDMシミュレーションはSPM測定点の大気中濃度と航空機観測による地表沈着量を良く再現した。さらに、最適化放出率とATDMシミュレーションにより主要核種の大気中および地表における時間空間分布(最適化拡散データベース)を構築した。これは、避難者の行動パターンと組み合せた包括的な線量評価に活用される。
秋吉 英治*; 門脇 正尚; 中村 東奈*; 杉田 孝史*; 廣岡 俊彦*; 原田 やよい*; 水野 亮*
Journal of Geophysical Research; Atmospheres, 123(22), p.12523 - 12542, 2018/11
被引用回数:1 パーセンタイル:2.54(Meteorology & Atmospheric Sciences)2009年11月に南米大陸南端で3週間続くオゾン全量の減少が生じた。オゾン監視装置(Ozone Monitoring Instrument)によって観測されたオゾン全量及びERA-interim再解析データの解析から、極渦崩壊時に極渦が南米大陸側へ移動したことによって、このオゾン全量の減少が生じたことが示された。極渦の移動は、西経120-150度及び南緯50-60度の対流圏から南米大陸西及び南米大陸南端上空の成層圏への波フラックスの増加と関連しており、この波活動によって下部成層圏に大規模なジオポテンシャル高度の負偏差が生じた。また、2009年11月に南米大陸西の500hPaのジオポテンシャル高度からブロッキングが診断された。これらの結果は、2009年11月のブロッキング領域からの波の伝搬を介した南半球対流圏のブロッキングと、2009年11月の南米大陸南端で見られた数週間のオゾン全量の減少との関連を示唆している。さらに、1979-2015年の各年11月の南米大陸南端の南緯50-60度と西経65-75度を対象としたオゾン全量偏差及び力学場の解析から、2009年11月のオゾン全量の負偏差は1979-2015年の37年間で最大規模の負偏差であり、下部成層圏の大規模なジオポテンシャル高度の負偏差と関連付けられた。
門脇 正尚; 堅田 元喜*; 寺田 宏明; 鈴木 崇史; 長谷川 英尚*; 赤田 尚史*; 柿内 秀樹*
Atmospheric Environment, 184, p.278 - 291, 2018/07
被引用回数:18 パーセンタイル:54.55(Environmental Sciences)長寿命放射性ヨウ素(I)は、大気環境における放射性核種の有用な地球化学トレーサである。本研究では、Iの大気濃度および沈着の観測を実施し、観測データから大気濃度および沈着の明瞭な季節変動を得た。さらに、大気中のI循環を支配する要因を明らかにすることを目的として、得られた観測データを用いて、移流、乱流拡散、大気沈着、光化学、ガス粒子変換、核燃料再処理工場からのIの排出、海洋および陸域からのIの揮発の各物理・化学過程を考慮した全球ヨウ素輸送モデルを開発した。全球ヨウ素輸送モデルは、我々が観測したIの大気濃度および沈着の季節変動、そして既往文献のIの降水中濃度の全球分布を良好に再現した。開発した全球ヨウ素輸送モデルを用いて人為起源と自然起源のIインベントリの強度を変化させる数値実験を実施し、地球全体のI循環に対する人為起源のIの影響を評価した。その結果、冬季においては、人為起源のIが主にユーラシアの北部に沈着する可能性があることが示された。一方で、夏季においては、自然起源のIが北半球中高緯度の沈着に支配的であった。これらの結果は、地球表面からのIの再飛散過程が全球規模でのI循環に重要であることを示唆している。さらに、冬季のユーラシア北部や北極域においては局所的に乾性沈着が寄与しており、乾性沈着が環境中のIの季節変化に重要な影響を及ぼすことが示唆された。
寺田 宏明; 都築 克紀; 門脇 正尚; 永井 晴康; 田中 孝典*
JAEA-Data/Code 2017-013, 31 Pages, 2018/01
原子力緊急時の様々な大気拡散予測のニーズに対応するとともに、事前の環境モニタリング等の事故対応計画の策定に有効な情報をデータベースとして整備することが可能な大気拡散計算手法の開発を行った。本手法では、放出源情報のうち放出点以外の放射性核種、放出率、及び放出期間を特定することなく拡散計算を実施してデータベース化しておき、放出源情報を与えた際にその条件に基づく予測結果を即座に得ることが可能である。この計算を気象解析・予報データの更新に合わせて定常的に実行し、過去から数日先までの連続的なデータベースを整備することで、過去解析から短期の将来予測まで任意の期間及び放出源情報に対する計算結果を即座に作成可能である。この機能は、過去の様々な気象条件に対する拡散解析結果の分析により、モニタリング計画の最適化等の事前計画の立案に利用できる。また、様々な仮想放出源情報を用いた拡散解析により、緊急時対策を検討する上で想定すべき事象の把握が可能である。さらに、本手法に基づきモニタリング結果から放出源情報を逆推定して放射性物質の時空間分布を再現することで、モニタリングの補完として活用可能である。
門脇 正尚; 永井 晴康; 寺田 宏明; 堅田 元喜*; 朱里 秀作*
Energy Procedia, 131, p.208 - 215, 2017/12
被引用回数:6 パーセンタイル:94.69(Energy & Fuels)原子力施設事故によって大気中に放射性物質が放出された際に、放射性物質の時空間分布を再現可能な大気拡散シミュレーションは、緊急時対応や被ばく評価に対して有効である。本研究では、データ同化手法及び最新の領域気象モデルを用いて大気拡散シミュレーションを改良し、福島第一原子力発電所事故由来の放射性物質の時空間分布を再構築する。大気拡散シミュレーションは原子力機構が開発した大気拡散モデルGEARNによって行われた。大気拡散シミュレーションのための気象場は、4次元変分法を用いた気象データ同化解析手法と領域気象モデルWRFで計算された。シミュレーションの再現性は、放射性核種の沈着量及び大気濃度の計算値と実測値の比較から評価した。福島第一原子力発電所の付近において、観測されたCs-137とI-131の沈着量の空間分布をシミュレーションは良好に再現した。特に、発電所から北西方向及び南方向で観測されたCs-137の高い沈着量分布の再現性の向上が顕著であった。東日本の広域においても、モデル過大評価であったCs-137の沈着量の再現性が向上した。これらは、4次元変分法を用いた気象データ同化解析手法によって、再現性の高い風速場が得られたことに起因すると考えられる。本研究で再構築された大気拡散過程は、福島第一原子力発電所事故の線量影響評価の見直しや、日本国内の原子力施設における緊急時対応に対して有効な情報となる。
門脇 正尚; 堅田 元喜; 寺田 宏明; 永井 晴康
Atmospheric Pollution Research, 8(2), p.394 - 402, 2017/03
被引用回数:3 パーセンタイル:6.43(Environmental Sciences)世界版緊急時環境線量情報予測システム(WSPEEDI)は、粒子法による大気拡散モデルGEARNを用いている。総観規模より大きな計算対象領域においては粒子法のもつ統計誤差や計算機資源の確保が問題となる。本研究では、WSPEEDIの長距離の大気拡散シミュレーションにおける性能向上のために、有限差分法に基づく大気拡散モデルGEARN-FDMを開発した。移流拡散方程式は質量保存を満たす移流スキームとクランクニコルソン法で解かれる。水平拡散を計算するために、サブグリッドスケールの水平拡散の効果をパラメタリゼーションとして導入した。モデルの妥当性を欧州大気拡散実験データを用いて検証した結果、濃度分布や最大濃度の観測時刻、プリューム到達時刻は良好に再現された。計算による測定値の再現度を評価する統計値も、従来モデル同等以上の結果が得られ、モデルの妥当性を確認した。シミュレートされた水平拡散係数は沿岸や山岳で大きく、それらの場所をプリュームが通過するときに強い拡散が生じていた。水平拡散による輸送を正確にモデル化することは、放射性核種輸送計算をするうえで重要であることが示唆される。
中山 浩成; 門脇 正尚; 吉田 敏哉
no journal, ,
CLADS補助金事業「ガンマ線画像から大気中3次元核種分布及び流出量を逆解析する手法の開発」において、原子炉建屋の影響に加え森林分布構造の影響を受けた気流場および拡散・沈着過程を詳細に再現できる計算手法の高度化を目指している。一般に、広域を対象とした気象モデルでは、数十種類に類型化された土地利用形態に基づいて各計算格子の乾性沈着量を予測する。しかしながら、実空間における森林はしばしばパッチ状に広がっており、サブグリッドスケールの森林分布の非一様性は土地利用形態には十分に考慮されていない。森林分布の影響を考慮して詳細に乾性沈着を調べる手法として、観測と計算流体力学(CFD)モデルが挙げられる。観測は信頼性の高いデータを得る合理的な手法であるが、時間や費用などが膨大にかかり、空間分布の詳細な把握も難しい。一方で、CFDは近年の計算機能力の発達により有効なツールとして認識されている。特に、非定常現象解析に優れたlarge-eddy simulation (LES)を基本とするCFDモデルは、乱流と拡散の正確なデータを提供できる有効なモデルである。そこで本研究では、LESモデルを用いて、水平の森林面積一定の条件下で2次元の森林の水平配置パターンを変えた乱流・拡散・沈着計算を行い、森林構造が乾性沈着量に与える影響を調べた。その結果、同じ森林面積であっても、森林が疎らになり森林端の総面積が大きくなるにしたがい、沈着量も大きくなる傾向を示した。本研究成果から、気象モデルで広域スケールでの乾性沈着計算を行う際、サブグリッドスケールの森林分布構造を考慮することで計算精度の向上が期待できることが示唆された。
山澤 弘実*; 佐藤 陽祐*; 関山 剛*; 梶野 瑞王*; 五藤 大輔*; 森野 悠*; 近藤 裕昭*; Qurel, A.*; Fang, S.*; 滝川 雅之*; et al.
no journal, ,
前回の大気輸送モデル相互比較(MIP2)に参加した12モデルのうち9モデルの参加により新たなモデル比較(MIP3)が実施されている。MIP3の主な目的は、改善された1km水平分解能の気象データ利用の影響を調べることである。本発表ではMIP3の予備解析結果の概要を述べる。モデルによって計算された本州東部におけるCs-137沈着量の水平分布が航空機サーベイ結果との比較では、9モデルの単純なアンサンブル平均は、MIP2の12モデルのアンサンブルより少し統計的スコアが低い結果となった。しかしながら、沈着量の高い事故サイト北西域においては、MIP3のアンサンブルによる沈着分布はMIP2に比べて観測結果と良い対応を示した。大気中濃度に関しては、広範囲に拡散したプルームの再現性はMIP2よりMIP3で少し低いが、浜通りの近傍域に影響したプルームについては、MIP3アンサンブルは概して良い性能を示した。このMIP3における良好な性能は、気象計算における地形のより精緻な表現に起因すると考えられる。
佐藤 陽祐*; 関山 剛*; Sheng, F.*; 梶野 瑞王*; Qulo, D.*; Qurel, A.*; 近藤 裕昭*; 寺田 宏明; 門脇 正尚; 滝川 雅之*; et al.
no journal, ,
東京電力福島第一原子力発電所事故によって大気中に放出された放射性物質を対象として、世界の複数機関の数値モデルが参加したモデル間比較が過去2回行われた。本研究では、これまで3-10kmであった空間解像度を1kmに上げて第3回のモデル間比較を行い、発電所近傍で観測された高濃度イベントに対するモデルの再現性を評価した。本モデル間比較には国内外の9モデルが参加し、Csを対象とした計算を行った。実験に用いる気象場には1km解像度のNHM-LETKFによって計算された1時間間隔の出力を、放出源情報にはKatata et al.(2015)による推定結果を全モデルが用い、水平解像度は全モデルで1km相当とした。実験は2011年3月11日00UTCから3月24日00UTC間で行い、航空機観測によるCsの沈着量とSuspended Particle Matter (SPM)測定器によって捕集されたCsの大気濃度との比較を行いモデルの評価を行った。発表では2011年3月に観測された高濃度イベントや第2回MIPとの比較結果について示す。
佐藤 陽祐*; 滝川 雅之*; 関山 剛*; 梶野 瑞王*; 寺田 宏明; 永井 晴康; 門脇 正尚; 近藤 裕昭*; 打田 純也*; 五藤 大輔*; et al.
no journal, ,
2011年3月の福島第一原子力発電所事故で放出されたCsを対象として2つの大気拡散モデル相互比較(MIP)が実施された。各MIPにおいて、共通の放出源情報,気象場、および水平格子解像度(3kmと1km)がこれらに起因する不確さを排除するため使用された。解析の結果、ほとんどのモデルは浮遊粒子状物質観測ネットワークのエアロゾル採取による大気中Csを良好に再現していた。また、気象場が大気中Csのイベントを再現するのに最も重要であり、気象場が合理的に再現された場合には水平拡散と沈着プロセスが重要因子であることが示された。両MIPの結果の比較から、高い格子解像度が原発近傍の大気中Csの再現には必要であるが、必ずしもモデル性能を向上させるわけではない(特に原発の遠方域)ことが明らかとなった。また、数モデルの高い再現性がモデルアンサンブルの再現性を向上させていることとともに、マルチモデルアンサンブルの利用の利点が示された。
寺田 宏明; 永井 晴康; 都築 克紀; 門脇 正尚
no journal, ,
To evaluate the environmental impacts and radiological doses to the public due to the Fukushima Daiichi nuclear power station accident, the source term of radioactive materials discharged into the atmosphere has been estimated and updated by Japan Atomic Energy Agency. The source term was reversely estimated by environmental monitoring data and atmospheric dispersion simulations mainly using the Worldwide version of System for Prediction of Environmental Emergency Dose Information. In the latest estimation in Terada et al. (2020), we refined the source term and improved the dispersion simulation with an optimization method based on Bayesian inference. This optimization improved not only the source term but also the wind field in meteorological calculation by feeding back comparison results between the dispersion calculations and measurements of radionuclides. By expanding this optimization method for more wide range of spatial scale, we have enabled to estimate the source term by comprehensively comparing multi-scale dispersion calculations for local to hemispheric regions and various environmental monitoring data acquired over a wide area from the vicinity of a site to the hemisphere.
門脇 正尚; 永井 晴康; 吉田 敏哉*; 寺田 宏明; 都築 克紀
no journal, ,
大気拡散予測における放射性物質のプルーム拡散方向の不確実性を、長期間の予測計算結果を蓄積したデータベースにベイズ機械学習を適用して得られた解析モデルにより定量的に推定する手法を開発している。本手法では、気象場の解析値を用いた大気拡散計算(解析値計算)を真値と定義し、予測値を用いた大気拡散計算(予測値計算)のプルーム拡散方向の不確実性を、解析値計算と予測値計算によるプルーム中心の差とベイズ機械学習に基づいて評価した。本手法の試験を行うために、原子力機構で開発した大気拡散データベースシステムWSPEEDI-DBを用いて、茨城県の原子力科学研究所から仮想的にセシウム137を大気放出した大気拡散計算を実施し、計算結果を用いた解析により本手法が大気拡散モデルにより予測されたプルーム拡散方向の不確実性を有効に推定にできることを示した。